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美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい

平山安芸

そういうことを言いたいんじゃなくて



「…………やっ……やったああああああああああああああっっっっ!!!!」
「愛莉ちゃああぁぁぁぁんっっ!!」


 倒れ込んだ長瀬に駆け寄る瑞希と、倉畑に負けないほどの歓声が、コートに轟いた。


 サッカー部のゴレイロは、膝を付いたまま一歩も動けず。
 あの林すら、その場から微動だにせず呆然としていた。


 いや、分かる。俺だってあんなの決めたことねえよ。ホントに女かアイツ。




「とんでもねーの決めやがってっ、このっ、この!」
「凄いよ愛莉ちゃんッ! 何が何だか全然分かんないけどっ、とにかくすごいよっ!」
「……どんなもんよっっ!! トラップからシュートまで、もう完璧ったらカンペキっ!! 私の人生ベスト3に入るわよこれっ!」


 立ち上がるや否や、感情をそのまま身体に持っていくというか。
 足を揃えその場でピョンピョンと飛び跳ねる。
 三人は塊になって抱き合い、喜びを分かち合った。




「……彼女は本当に、私と同じ性別なのでしょうか」
「言ってやるな」


 唯一呆れ顔だった楠美だが、その表情は安心感に満ちていた。
 お前のセーブから始まった、スーパーゴールだ。大したもんだよ。




「……俺らも行くか」
「……はいっ」


 歓喜の渦に混ざろうと、二人して駆け寄る。
 もう、痛みは感じなかった。麻痺しているだけだろうが。




「ハルトッ! わたし決めたっ! ちゃんと決めたよっ!」
「おうっ……良かったな」
「え、ちょっ、それだけ!? もっと褒めなさいよっ!」
「褒めるつったって……あ、じゃあ」




 口を尖らせ不満そうに漏らすので、俺は両腕を広げ。




「ふぁっ!?」
「最高。お前、最高だわ」




 力強く抱き締める。


 抱き締めたんだけど。




「なっっ……なにしゅんのよッッッッ!?」
「えっ……いや、褒めろって言ったから」
「なにもだっ、だ、だだっ、だ、だだだ抱き締めなくても、いっ、いいいいいでしょぉぉ!?」


 身体をガタガタと震わせる長瀬。
 見えないけど、多分顔は真っ赤になっているのだろう。


 なんだ。不満なのか。
 サッカーとかだとよくある、ゴール後のセレブレーションじゃないか。




「……ハルー。いちおーみんな見てるしー」
「……えっ」
「ほらっ、やっぱり男の子と女の子だから……ねっ?」
「訴えられたら貴方、負けますよ。この状況」
「……あぁ、そっか」




 こういうの、異性ではやらん方がいいのか。
 まぁぱっと見セクハラだし。そりゃそうか。




「悪い悪い。汗臭いしな。そういうの嫌だろ」
「えっ、あっ…………いや、そ、そういうことを言いたいんじゃなくてっ……!」


 他にも申し上げたいことでもありそうだったが、その真意は伝わらない。
 涙目の彼女は、倉畑に「よしよし」と背中を支えられ、こちらをジッと見つめるのであった。


 まぁとにかく、これで俺たちの勝利は決まった。


 かのように、思えたのだが。




「まだだっ! 終わってねえッ!! あと何秒だッッ!?」
「えっ……あ、はいっ! あと15秒くらいで止まってます!」




 鬼の形相で、林が声を荒げた。


 そうか。終わってないのだ。


 フットサルはインプレー中。
 ボールがコート内で動いていない限り、時計が止まるというルールになっている。


 というか、今までちゃんとそのルール、厳守してたんだな。やたら長い試合だと思ったわ。




「追いつくぞッッッッ!!!! 延長っ、延長戦だッッ!! 絶対に勝ち越すぞッッ!!」




 完全に戦意を喪失したと思っていたが、そうでもなさそうだ。
 再びコートのサッカー部員たちは、声を上げ話し合いを始めた。


 この調子だと……今の浮かれ気分では、押し切られる可能性も、無くもない。




「……まっ、もうちょいやりますか」
「15秒でしょ? 楽勝ラクショー」
「馬鹿が。そういう気の緩みが失点に繋がんだよ」
「ぶー。分かってるって! じゃあ、どうするっ?」


 15秒。15秒か。
 長くはないが、決して短くもない。微妙な時間だ。


 林がロングボールを強引に蹴り込んでくるのは間違いない。
 問題は、それに対処できるか。
 フットサル部の平均身長は決して高くないし、ハイボールでの勝負はあまりに分が悪い。




「おいっ、お前も上がれっ! 俺が一番後ろだッ!」
「わ、分かった!」


 ゴレイロもグローブを放り投げ、前に上がってくる。
 なるほど。所謂パワープレーって奴ね。まさか初めての試合でお目に掛かるとは。




「……倉畑」
「うん? なにっ?」
「お前、守備しなくていいから。向こうのゴール前で待ってろ」
「えっ……でもっ」
「いいから。作戦だよ」
「うーん……でもなんか、みんなに申し訳ないっていうか」


 彼女の言い分は最もである。
 パワープレーで来る相手に、守備を一人減らす。
 これはつまり、5人に対し3人で守らなければならないということだ。
 これだけ聞くと、あまりにリスキーな対応に思えなくもないが。




「楠美っ」
「……はい、なんでしょう」
「もしボール取ったら、全力で前に投げろ。なるべく高く上げろよ」
「は、はぁ……分かりました」
「なになにっ? どういうこと?」


 不思議そうに顔をひょっこりと出す瑞希。


 いや、違うな。
 だって、その表情。もう完全に分かり切っている顔だろ。




「……このまま試合が終われば最高や。けどっ」
「それ以上を求めるってわけね」


 なんだ、お前も分かってんじゃねえか、長瀬。


 まぁ綺麗に俺、瑞希、そして長瀬が2点と揃って決めてきたわけだが。
 まだ、ゴールの喜びを味わっていない奴が、フィールドプレーヤーにいるだろ。


 機会があるかは分からないけどな。




「試合、再開します!」


 審判の掛け声に誘われ、俺たちは幾らかの言葉を交わし、自陣に戻る。


 立ち位置は、俺が中央。そのすぐ脇に倉畑。
 後方を残る二人と、楠美が固める。




 ホイッスルと同時に、甘栗が最後方の林がバックパス。
 その勢いのまま、残る四人が一気に前線へ駆け上がる!




「来るぞッッ!!」




 林は、ループ気味のふんわりとしたボールを前線に送り込んできた。


 競り合うのは、甘栗と、長瀬。




「おりゃあっ!!」




 ここに来て、長瀬の体格の良さが心底頼りになる。
 甘栗より背が高いだけでも大きなアドバンテージだが、何よりその、フィジカルの強さ。
 男子相手でも簡単にはグラつかない、鍛えられた体幹こそ、彼女の強みである。


 セカンドボールこそ回収されるが、俺と瑞希の素早い寄せに遭い、パスコースを見失う。


 いくらかパスを交換し、名も知らぬサッカー部がシュートを放つが。




「あっぶなアァァッッ!!」


 瑞希が完璧にブロック。


 しかし、まだ終わらない。


 再びシュートを放とうと、今度は甘栗が反応。
 またも俺と交錯。


 ボールは両足にぶつかった勢いで、頭の辺りまでふわりと浮いてしまう。




(そうそう。これだ。これをっ、待ってたんだよッッ!!)




 そのままヘディング。押し出したその先には。




「楠美、キャッチだっっ!!」




 突然のご指名に驚いた様子だったが、慌てながらもしっかりボールを掴み取る。
 普通のボールをキャッチする練習もしておいて、本当に良かった。


 だから、最後に。もうひと働き頼むわ。




「ブッ飛ばせッッッッ!!!!」




 意を決した彼女は、少し助走を取り、両手でボールを大きく振りかぶる。
 分かりやすい、スポーツ初心者の下手投げ。


 それでも、十分だった。
 掬い上げるように放たれたボールは、大きな放物線を描き、相手ゴール前へ。


 いや、違うか。そんなには飛んで行かない。精々、ハーフラインくらいか。




 構いやしない。既に最後方の林の頭の上は、とうに通り越した。




 その先に居るのは――――倉畑だけだ!!






「やあっっ!」






 ボールは、彼女の頭部。ほぼ頂点のところに、ドンっ、と当たる。


 再びそれは、美しい放物線となり。
 いくらかのバウンドを得て。ゆっくりと。


 それはもう、コロコロと。
 だが確実に。




 ゴールネットに吸い込まれるのであった。








【後半9分58秒 倉畑比奈


フットサル部5-3サッカー部】



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