暗黒騎士物語

根崎タケル

ストレガの夜

「何とか戻って来れた……」

 図書館1階へと戻ってきたカタカケは安心する。

「はあ、帰りは何もなくて助かったわ。サビーナ様がいたおかげかしら」

 ミツアミは振り返る
 最後を走っていたサビーナがそこにいる。

「別に私は何もしてないわ。さあ、降ろしても良いわよ」

 サビーナはミツアミに答えると下僕のインプにチヂレゲを降ろすように命令する。
 
「わかりましたぜ、お嬢様。ふう、重たかった。やっぱ運ぶなら女だな」

 インプはミツアミを見ていやらしい笑みを浮かべる。

「まったく、こいつは……。用は終わったのだから、さっさと小瓶に戻りなさい!」

 サビーナはインプの首を掴むと小さな壺を取り出す。

「いや、できればその小瓶はちょっとせっかく出られたのですから、少しは息抜きを……」
「駄目よ……。お前みたいのを野放しにできないでしょうが!」
「いや~。やめて~。折角出られたのに~」

 インプは悲しそうな声を上げながら小壺に戻される。

「さあ、これで御終い。チヂレゲだったかしら? そいつが目覚めたら私のところに来なさい。薬をあげるから……。あれ、何だか騒がしいわね?」

 サビーナはそう言って外にでようとして急に足を止める。
 確かに何か話声が聞こえる。
 この先には受付があり、そこに何人かいるようだ。

「どうしたのかしら? 何か様子が変」

 ミツアミも首を傾げる。
 チヂレゲを残してカタカケとサビーナとミツアミは受付まで行く。
 するとそこには7名の魔術師がいて何かを言い合っている。
 よく見ると図書館の入口に多くの物を置いて外から入れないようにしている。

「何をしているのかしら? 貴方達?」

 サビーナが声をかけると魔術師達は一斉にこちらを見る。

「貴方は? サビーナ様!?」
「サビーナ様がいるぞ!」

 サビーナを見て魔術師達は嬉しそうな顔をする。
 全員どこか憔悴している。
 極限状態になっているようだ。

「何か大変な事が起こっているみたいね。何があったか話をしてくれないかしら? さっきまで下の書庫にいたので事情がわからないわ」

 サビーナがそう言うと魔術師達は顔を見合わせる。

「実はサビーナ様。急に街中にアンデッドの群れが現れたのです。それで皆で図書館に避難を……」
「ここは頑丈ですから……」
「外にいる奴らは無事なのだろうか?」
「どうして、こんな事に……」

 魔術師達は俯いて言う。

「なるほど……。おそらく、地下にいるストリガの女王の影響ね。腕が梟の翼になっている女あ空を飛んでいるでしょう」
「は、はい! そのとおりです!」

 魔術師達は全員首を縦に振る。
 
「まあ、しばらくすれば落ち着くでしょう。それまではここにいるのが正解ね。ここってかなり頑丈に作られているはずだから」

 確かにその通りであった。
 知の集積場であるサリアの図書館はかなり頑丈に作られている。
 また、魔法に対する守りもかなり強いので霊体は入ってこれない。
 実態をもたない幽霊や死霊の心配をする必要はないだろう。

「あのサビーナ様は外に出られないのでしょうか?」
「無理ね。生きてないものに私の得意とする魔法は効きにくいの。まあある程度アンデッドに対抗できるけど……。そこまで頼りにはならないわ。きっとケプラー殿が動いているはずだから任せましょう」

 そう言うとサビーナは受付にある椅子に座り、くつろぐ。
 動くのが面倒くさそうであった。
 そんな時だった図書館の扉が激しく叩かれる。
 
「ひい!! また来た!!」

 魔術師の1人が怖がる。

「どうしてだよ! 霊除けの香は焚かれているはずなのに!」

 別の魔術師が叫ぶ。
 よく見ると扉や窓際に霊除けの香が焚かれている。
 それにもかかわらず、アンデッドはこの場に来ているのだ。

「霊除けの香は生者の気配を消して下位レッサーアンデッドに認識されなくだけよ。おそらく、この図書館自体を目標にして来ているのでしょうね。よく考えたらここが一番危ないかも……」 

 サビーナがそう言った時だった。
 突然、図書館の扉が開かれる。
 外にいたのは腕が梟の翼の女性が5名、さらにその周りには武器を持った骸骨が沢山いる。
 骸骨の戦士達の武器からは強力な瘴気が立ち込めていて、触れるだけで病気になりそうだ。
 おそらく、スケルトン戦士ウォーリアというアンデッドだ。
 他のスケルトンに比べて動きが早く、戦士として能力を持つ。
 そのスケルトン戦士ウォーリアが扉の向こう側に沢山見える。
 
「ストリゲスに……、スケルトン戦士ウォーリア……」

 何名かの魔術師が崩れおちるように座り込む。

「サ、サビーナ様! 助けて下さい!」
「お願いです! 何とかしてください!」

 何名かの魔術師がサビーナの後ろに隠れる。

「ちょっと! 押さないでよ! ストリゲスであの数を相手にするのはさすがに難しいわよ!」

 前に押されてサビーナは抗議をする。

「お前がここの長か? 我らの女王をお迎えせねばならぬ。邪魔をするな。するのなら、その血を女王に捧げてやるぞ」

 中心にいたストリゲスが舌を出して唇を舐める。
 ストリゲスは吸血種族だ。
 人間の血を吸う事もある。
 カタカケ達は後ろに下がる。

「えーっとね。貴方の女王は復活できないと思うわよ……。おそらく、今頃あの方に泣かされているんじゃないかしら。帰った方が良いわよ」

 サビーナは残念そうに言う。
 するとストリゲス達は呆れた顔をする。
 当然だろう。
 事情を知らなければ何を言っているのかわからないのが普通だ。

「何を言っているのだお前は我らの女王を愚弄する気か、誰に泣かされるというの……」

 ストリゲスが言い終わらないうちだった。

「びええええええええええええええええええん!!!!!!!」

 図書館の奥から大きな泣き声が聞こえてくる。

「来るわ! 急いで避けなさい!」

 そう言ってサビーナはその場にいた魔術師達を脇に弾き自身は伏せる。
 もちろんカタカケもミツアミの手を引き扉から離れ道を作る。
 何となくだが、地下で何が起きたのかわかったのだ。
 そして、カタカケ達が避けたその瞬間だった。
 泣き声と共に巨大な何かが図書館の奥から飛んでくる。
 それは目の前のストリゲス達よりも一回りも小さい。
 小さいにストリゲスは泣きながら図書館の扉から外へと出て飛んで行く。
 ストリゲス達はそんな小さなストリゲスを呆けた顔を見送る。

「えっと……、今のは」
「女王様……。どうしたというの?」
「何か泣いていたような?」
「わからぬ。しかし、追うぞ!」

 ストリゲス達は少し相談すると飛び上がり小さなストリゲスを追う。

「何が……。うん?」

 魔術師の1人が何かに気付き振り返る。
 カタカケも同じように振り返る。
 強い圧力が図書館の奥から来ているのを感じたからだ。
 そして、出て来たのは黒い炎を纏った暗黒騎士。
 暗黒騎士は赤い紋様の入った大きな剣を持ち、こちらに来る。

「ひい! また出た!」

 暗黒騎士を見た魔術師達が恐怖の表情を浮かべる。
 中には暗黒騎士を見て気絶している者もいる。
 地下でも見たが、カタカケはその時よりもさらに圧力を感じる。
 恐怖のオーラでも纏っているかのようであった。
 暗黒騎士はそのままカタカケ達には目もくれず図書館の入り口から外に出ると剣を横に振り、そのまま上空へと飛ぶ。
 見るとその場に残っていたスケルトン戦士ウォーリアの姿が無くなっている。
 一瞬で破壊されたようであった。

「ふふ、この私までも震えさせるなんて……。さすがあの御方だわ」

 サビーナはうっとりした表情で暗黒騎士が出て行った入り口を見る。
 そしてカタカケは隣を見るミツアミもがカタカケの裾を掴んで同じように震えている。
 カタカケはそっとミツアミの手を握るのだった。

 


 禁書庫の中、クロキはラーサを追う。
 キョウカとチユキは置いて来た。
 服がボロボロであり、ある程度見えないようにしてから地上に上がるようだ。
 ラーサがいない今、彼女達に危険はない。クロキだけで十分であった。
 またラーサが去った事で、ダンタリアスも力を取り戻しつつあり、禁書庫の魔物達の統制も取れ始めている。
 そんな禁書庫の中をクロキとラーサは追いかけっこする。
 ダンタリアスは本調子ではないが映像でラーサがどこにいるのかという情報を教えてくれるので探すのは楽だ。
 ラーサは飛びながら、地上へと向かっているが、曲がり角になる度に頭をぶつけて半泣きになるのを見ていると、本当に万死の女王と呼ばれる程の女神なのかわからなくなる。
 そして、後少しで追いつくというところでラーサは禁書庫から抜け出して、図書館の1階と出たのであった。
 クロキもラーサを追いかけて図書館の1階へと出る。
 途中の受付でサビーナ達が無事なのを確認する。
 また、なぜか図書館の入り口の前にはなぜかスケルトン戦士ウォーリアがいる

(スケルトン戦士ウォーリア? 何でここに? 地上で何が起こっているんだ?)

 クロキは剣を横に振り、その場のスケルトン戦士ウォーリアを壊し、外に出ると空を飛ぶ。
 月明かりの中、多くのストリゲス達が空を飛んでいる。
 よくわからないが、ストリゲス達がサリアに集まっていたようだ。
 その中心にラーサがいるのを確認する。

「くぬううううう! もう追ってきおったか! お前達! 力をよこせ! 妾達の力を見せてやるぞ!」

 ラーサが叫ぶとストリゲス達が歌い出し、月夜の晩に梟の歌声が響き渡る。
 すると夜空に突然2つの巨大な何かが現れる。
 それは巨大な梟の双眸。

「喰らうが良いぞ! 暗黒騎士! 貴様の中の魔力を暴走させてやる!」

 巨大な梟の双眸は金色に輝きクロキを睨む。

(何だこの感覚。だけど、これぐら……、あれ? 中の竜達が……)

 睨まれた時にクロキは内で血液が少しだけ沸騰するような感じがする。
 クロキ自身には特に大した影響はない。
 しかし、クロキの中にいる竜の力は別であった。
 ラーサの瞳の魔力を感じた事で竜達が騒ぎ始めたのである。

(あっ、これは不味い!? あの瞳を消さないと!)

 クロキは竜達を抑えながら、黒い炎を出して魔剣を構えて振る。
 
「こなくそがー!!!!!!」

 ラーサの叫び声と共に梟の瞳がさらに輝く。
 黒い炎と金色と瞳の魔力が夜空でぶつかる。
 夜空に魔力の風が吹き荒れ嵐を引き起こし、ラーサ達を吹き飛ばす。。

「ふぎゃあああああああああああああああああああああ! お~の~れ~!!!!」

 ラーサは悔しそうに叫びながら飛ばされ、遠ざかっていく。
 しかし、クロキは追う事ができない。
 ラーサがいなくなった事で夜空の瞳は消えたが、体の中の竜達が騒いでいる。
 
(ぐっ! 落ち着いてくれ!)

 クロキは竜達を鎮めようとするが上手くいかない。
 クロキから黒い炎が溢れ、サリアの上空を覆う。
 黒い炎は恐怖の波動を放ち、街へと降り注ぐ。
 いたるところで住民達の悲鳴が響く。
 この夜、サリアは恐怖の闇に包まれたのであった。



 




★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

更新です。
次回エピローグ。
ノベルバでの更新も次で最後です。
カクヨムの新規事業は成功して欲しく、出来ればノベルバで読まれている方達はぜひカクヨムに来て欲しいです。

また、4月になり新しい生活を始める方もいるのではないでしょうか?
自分も違う所に行かねばならず、憂鬱だったりします。

次のカクヨムの限定近況ノートに何を書くのか決めていません。何が良いでしょうか?


コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。

    脱字の報告です。

    霊除けの香は生者の気配を消して下位レッサーアンデッドに認識されなくだけよ。

    霊除けの香は生者の気配を消して下位レッサーアンデッドに認識されなくなっているだけよ。

    ところで、下位とレッサーって同じ意味だったような……
    だとしたら、ルビ振りの失敗もですかね……

    0
  • 根崎タケル

    更新です。
    ノベルバで読まれている方はカクヨムに来て欲しいです。

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