暗黒騎士物語

根崎タケル

図書館事変

「カタカケ殿! しっかりしてください!」

 クロキは図書館の受付前で倒れているカタカケに駆け寄る。
 抱き起こしてみると気を失っているだけで特に命に別状はないみたいであった。

「強制的に眠らされているだけかも……。私が魔法で覚醒させてみましょうか?」

 一緒にいたミツアミが名乗りでる。
 眠りとその覚醒の魔法は心霊系である。
 ミツアミは錬金術を専攻しているが、少しは心霊術の心得があるのかもしれない。
 
「いえ、ここは自分がやります」

 クロキは首を振る。
 死霊術は死に関する魔術が使えるのは当然だが、眠りや夢に関する魔術に長じている。
 中には特殊な手段を使わなければ永遠に目覚めない魔法もあるのだ。
 クロキは以前悪夢の魔法を使い、対象が悪夢から覚めなくなり後悔したことがある。
 そのため覚醒の魔法を頑張って習得した。
 今こそ使うべきであった。

「えっ!? 魔法が使えるのですか……? あっ、そうか、勇者様の御仲間だから使えて当然ですよね」

 ミツアミは驚いた表情でクロキを見る。
 どうやらクロキは魔法が使えないと思っていたようだ。
 魔術師らしくない恰好をしているので仕方がないとも言える。
 魔法を使うと強力な眠りの魔法ではなかったのでカタカケが目を覚ます。
 
「えっ、あれ……? そうだチヂレゲは!?」

 カタカケは目を覚ますと周囲を見る。
 そこでクロキ達と目が合う。

「えっ、あれ!? クロキ殿? それにキョウカ様にミツアミさんも……?」
「はあ、どうやら何かあったようですわね。カタカケ殿、何がありましたの?」

 キョウカは呆れた表情でカタカケを見る。
 その視線は冷たく、昨夜と別人のようであった。
 冷たい視線を向けられたカタカケが縮こまる。
 
「ええと、ゆっくりでいいから教えていただけますか?」

 クロキは背中でキョウカの視線を遮ると、優しくカタカケに問う。
 
「えっ、はい。急にチヂレゲが小さな女の子と黒い服の者達を連れて来て……。後ろの者達が誰かと聞くと、その急に眠気が襲ってきて……」

 カタカケは静かに喋り始める。
 
「小さな女の子? 変ですわね」

 キョウカは首を傾げる。
 確かに気になる。
 小さな女の子以外の者の事はあまり印象に残っていない所からも、かなりの存在感のある少女だったのかもしれない。
 
「あの……。その者達はなぜ図書館に来たのでしょうか?」
 
 ミツアミが疑問に思っている事を言う。
 考えられる理由は1つしかなかった。

「自分は禁書庫の様子を見に行きます。キョウカさん、急ぎこの事をマギウス殿に伝えに行って下さい。カタカケ殿はミツアミ殿と共にここにいてください」

 クロキは指示を出す。
 チヂレゲは禁書庫に入りたがっていた。だから、目的は禁書庫の可能性が高い。
 そして、一緒にいた者は死の教団の者達の可能性が高い。
 何をしようとしているのかわからないが、良くない事は間違いない。

「ええ、わたくしもご一緒に行きたいですわ。伝えるだけならミツアミさんだけでよろしいのでは?」

 キョウカは一緒に行きたそうにする。

「いいえ、キョウカさんじゃなければ取り次いでもらえないでしょう。これはキョウカさんじゃなければ無理なんです。お願いです、キョウカさん」

 クロキはキョウカの手を取り、その瞳を見つめて言う。
 現在マギウス達は賢人会議の最中だ。
 結界に遮られているはずなので、通信の魔法は届かない。
 直接言いに行くしかない。
 一介の魔術師でしかないカタカケとミツアミでは取り次いでもらえないだろう。
 チユキの仲間であり、勇者の妹であるキョウカならば取り次いでもらえる可能性が高い。
 事態は緊急であり、早く伝える必要があった。

「クロキさんがそうおっしゃるのなら、仕方がありませんわね」

 手を握られたキョウカは少し頬を赤くして言う。

(ちょっと、ズルい事をしているなあ……。レイジなら慣れているのかもしれないけど)

 クロキはキョウカの様子を見て罪悪感を抱く。

「カタカケ殿達はここで待機して図書館になるだけ人が入らないようにしてください」

 侵入者は図書館で良からぬ事をしようとしている。
 なるべく図書館から人を遠ざけなければならない。
 クロキがそう言うとカタカケとミツアミは頷く。
 クロキが魔法を使った事でミツアミの見る目が変わったようだ。

「それでは行きます」

 キョウカ達と別れクロキは禁書庫へと向かう。
 禁書庫は非公開書庫のさらに下の階にある。
 階段を下りて禁書庫の入口へと行く。

「えっ!? これは!?」

 地下2階、禁書庫への入り口を見てクロキは驚く。
 入り口の扉は破壊され中が丸見えである。
 しかし、問題は入り口の扉が壊された事ではない。
 中の様子が以前入った時と全く違うのだ。

(そう言えばトトナとマギウス殿が言っていたな。許可なき者が立ち入れば禁書庫の防衛機能が動き出すと……)

 禁書庫を作ったのは鍛冶神ヘイボスである。
 彼は禁書庫に特別な機能をもたせたようだ。
 今禁書庫がどのような状態になっているのかわからない。

「だけど、入るしかないな……」

 クロキは禁書庫に足を踏み入れるのだった。





 クロキが地下へ向かうのをカタカケは見送る。
 
(何だったんだ? あれは……)

 カタカケはチヂレゲが入って来た時の事を思い出す。
 チヂレゲを先頭に彼女達は入って来た。
 先頭にいたのは幼女と言っても良い少女であった。
 その目を思い出す。
 金色に光る梟のような瞳。
 あれは人間ではなかった。
 後ろにいた者達はフードで顔を隠していたから何者かわからないが、人ならざる者のような気がした。
 チヂレゲが何か良くない者達と関りがあるのは間違いないだろう。
 
(チヂレゲ。どうしてこうなったんだよ……)

 カタカケがチヂレゲと出会ったのはサリアに来て間もない頃。
 チヂレゲもサリアに来たばかりであった。
 2人とも偉大なる賢者マギウスと同じ名前であり、互いに親の期待を背負っていた。
 似たような境遇であり友人になったのである。
 しかし、魔術の勉強は難しく、互いに魔力も弱く、弟子にしてくれる導師も中々見つからず、泣きたい日々が続いた。
 それでも互いに励まし合って魔術の学ぼうとした。
 やがて、チヂレゲは副会長であるタラボスの弟子である導師の下で学ぶことが出来るようになり、カタカケも誘い、何とかサリアでやっていけるようになったのだ。
 もっとも、それはタラボスの追放で台なしになったのだが。
 カタカケは今でもチヂレゲを友人だと思っている。
 チヂレゲはカタカケを眠らせる時に謝っていた。
 本人もこんな事をしたくないのだ。殺さなかったのもその現れだ。
 カタカケも追い込まれているようにチヂレゲも追い込まれている。
 そして、チヂレゲはやってはいけない事に手を染めてしまった。
 カタカケの心が痛くなる。

「さて、わたくしもチユキさんを呼びに行かないといけませんわね。ミツアミさん、ここは任せましたわよ」

 そう言ってキョウカは図書館から出ていく。
 後に残されたのはカタカケとミツアミのみ。
 カタカケはミツアミを見る。
 彼女はカタカケやチヂレゲと違い優等生であり、苦手であった。
 カタカケの方が少し年上であるが、図書館での立場は彼女が上なのである。
 いつも彼女に叱られてばかりであった。
 そのため、カタカケは居心地の悪さを感じる。
 
「はあ、ここで誰かが入って来たら止めなきゃいけないね。ねえミツアミさん。座らない立ったままだと疲れるだろ」

 カタカケはミツアミに声を掛ける。
 しかし、ミツアミはクロキが向かった地下への方向をじっと見ている。

「えっ、ええ……。そうね、でもそういえばどうして私はここにいるのかしら……?」

 ミツアミは頭を押さえて言う。
 
「えっ? 何を言っているの? ミツアミさん? 禁書庫で大変な事が起ころうとしているんだよ! 大丈夫!?」

 カタカケはミツアミを良く見る。
 普段しっかりしている彼女らしくない。

「禁書庫……? あれ、そうだ行かなきゃ……? あの御方のために」

 ミツアミはそう言うと歩き始める。
 心霊術に詳しくないクロキやキョウカでは気付かなかったがまだミツアミにかけられた魔法はまだ解けていないのである。
 キョウカに叩かれた事で一時的に正気を取り戻したが、再び魔法が発動したのだ。

「ちょ、ちょっとミツアミさん!? どこへ!?」
「邪魔をしないで」
「ぐえっ!?」

 ミツアミが何かを唱えるとカタカケは吹き飛ばされる。
 弱い空気弾である。
 
「痛てて、どうなっているの?」

 カタカケは上体を起こしてミツアミを見る。
 ミツアミは地下へと向かっている。

「駄目だ、止めないと……。痛たた……」

 カタカケは痛めた足に力を込めて立ち上がるとミツアミを追うのであった。
 
  
 


 
 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

更新です。
そして、反省です。
レヴューで指摘されて気付いたのですが、どうやら後書きが愚痴っぽくなっていました。
自分で自分の作品を汚している行為ですね。
これからはお知らせ程度に留めます。
でも誤字報告はできればお願いします。


コメント

  • 根崎タケル

    何とか更新です。
    後書きが愚痴っぽくなってしまっていました。
    申し訳なく思います。

    4
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