暗黒騎士物語
妖艶の賢者
魔術師協会が出来る前から魔術はあり、魔術師はいた。
魔術師はそれぞれの地で個別に行動して、弟子を取り、魔術を伝えていた。
そんな中、大賢者マギウスとその弟子達は魔術師協会を設立し、各地の魔術師と交流して互いの魔術の技を教え合う事で魔術はより洗練された者になった。
そんな魔術は複数の体系に分けられていて、大別すると3つある。
それが錬金術、心霊術、占星術だ。
これらの体系はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに補う事もあったりもする。
そして、食堂で出会った妖艶の賢者サビーナは心霊術の達人であった。
チユキとマギウスとガドフェス。そして、食堂で出会ったサビーナは同じ卓へと座る。
一緒に来た者達はその卓の周辺の卓へと座り、賢者達がどんな話をするのか興味深く見ている。
チユキ達の卓にお茶が運ばれて来る。
食堂は食事時でない時はお茶も提供してくれる。
お茶といっても緑茶ではないので、フェンネル草のハーブ茶である。
味は良くないが、香りが良く、チユキも愛飲している。
サリアのあるナーラン盆地はハーブの産地でもあった。
魔術師は思考を鈍らせる酒よりも、茶を好む。
そのためサリア周辺ではハーブ栽培が盛んなのである。
運んできた給仕の女性は魔術師ではない。
そもそも、サリアに住む半数以上が魔術師ではない。
一般人は魔術の勉強に忙しい魔術師に代わり、サリアの経済を動かしているのである。
給仕の女性は滅多に集まらない4名の賢者に応対して少し緊張している。
彼女は頭を下げると、急いで卓を離れる。
チユキは出されたハーブ茶を少し啜ると目の前に座るサビーナを見る。
サビーナから強い香りが漂ってくるのでハーブの香りが楽しめない。
(これは魔法の香? 魅惑の香かしら? 吸いすぎると私でも危険かもしれないわね)
チユキは魔法で香の煙が来ないようにする。
最初は彼女が吸っている煙管からの香りかと思ったが、良く見るとサビーナの腰に小さな香炉があり、香はそこから漂ってくるようであった。
心霊術は精神や精霊、そして死霊等の形のないものに作用する事に特化した魔術だ。
そして、魔術を使う時にその補助として魔法の香を使う。
魔法の香には眠りを誘うものや、情欲を高めるもの、精霊を呼びよせたり、死霊を寄せ付けないものもある。
その心霊術には死霊術も含まれていて、心霊術を学ぶ者の中には死霊術に手を染める者もいる。
タラボスも心霊術を学ぶ過程で死霊術を知ったのだろう。
「久しぶりね。黒髪の賢者チユキ殿」
「はい、久しぶりですね、サビーナ殿」
チユキはサビーナに答える。
前にも会ったがサビーナが何を考えているかわからない。
タラボスは彼女の弟子のはずだが、何も関わっていないらしい。
サビーナは心霊術師だが、死霊術は使わないと聞いている。
しかし、その話を鵜呑みにするわけにはいかない。
魔法の香には瘴気を隠す物もあり、強い香りで隠しているかもしれなかった。
それに、どこか敵意を向けている感じがするのだ。
最初はタラボスの事かと思ったがそういうわけでもないようである。
そのためチユキは疑問に思うのだった。
「ガドフェス師も、久しぶりですわ」
「はは、久ぶりじゃな。サビーナ。相変わらずエロいのう」
「ふふ、そうですか。師ならいつでも相手をして差し上げますわ」
「そりゃ、ありがたい。じゃが、お主の若い弟子に恨まれてわかなわん。遠慮しておくよ。他の子を誘うとしよう。がははははは」
サビーナとガドフェスは挨拶代わりの軽いやり取りをする。
どちらも本気ではないのだろう。
サビーナの外見は20代前半美しい女性であり、胸は大きい。
手を加えた魔術師のローブの前をはだけさせていて、谷間を見せつけている。
数多くいる取り巻きの若い魔術師の男と寝所を共にすることもあるらしい。
「相変わらずじゃな、ガドフェスよ。何度も言うが、そんな調子で後任を決めるでないぞ」
マギウスがガドフェスを窘める。
「後任と言うのは会長と副会長のですか? マギウス殿?」
「そうじゃよ、チユキ殿。そろそろ決めねばならん。会長のペンドスが今期でやめたいと言いおったからな。タラボスの件で疲れたようじゃ。タラボスは中々得難い者だと思うとったが、あのような事をしでかしておるとはな……。おかげで周囲の国から釘を刺されたよ。人選に苦労するわい」
マギウスは溜息を吐く。
魔術師は自身の研究に時間をかけたいためか、協会の仕事をやりたがらず、役員になりたがる者は少ない。
そんな中で協会の仕事に積極的なタラボスは有難い存在だったのである。
もっとも、それは自身の不正を隠すためでもあった。
協会には会計等を担当する魔術師でない職員もいるが、魔術師のための組織である以上、重要な役職はまかせられない。
かといって、よこしまな者を役員にするわけにはいかない。
タラボスは副会長の地位を利用して、周辺諸国の市民に隠れて死神ザルキシスの信徒を増やす等の事もしていたのである。
チユキ達の活躍で判明して、その弁明のために現会長のペンドスは大変な思いをした。
会長を止めたくなるのも仕方がないだろう。
「タラボスねえ。もっと、上手くやれば良いのに、馬鹿な奴ねえ」
サビーナも溜息を吐く。
その言葉はもっと上手く隠せと言っているようであった。
雑談は続く賢人会議まで、まだ時間はあるのであった。
◆
ミツアミはクロキと呼ばれる男性を見る。
その腕にはキョウカが抱き着いている。
図書館の受付でクロキと出会ったキョウカが飛びついたのだ。
ミツアミは改めてクロキが何者だろうかと考える。
この男性はマギウスに認められて、禁書庫に入る許可をもらった。
しかも、あの光の勇者の妹と知り合い。
只者であるはずがない。
しかし、抱き着かれて、慌てている様子を見ると特別な存在に見えない。
チユキやキョウカのように存在感があるわけではなく、黙って隅に座っていると目に留まる事もないだろう。
つまり、大した事なさそうに見えるのである。
そのため、特に付き合いたいとは思わなかったのである。
「あの、ミツアミさん。このとてつもない美女はどちら様で?」
キョウカを見たチヂレゲが目を瞬かせて聞く。
「こちらはキョウカ様。あの光の勇者レイジ様の妹君よ。黒髪の賢者チユキ様と共に来られたの」
「あっ! そうか賢人会議!? そうだよな、チユキ様も来られるよな……」
カタカケがなるほどと声を出す。
彼は過去に迷惑をかけた。
その事を悔いているみたいであった。
「ところでキョウカ様。そちらの……ええと、クロキさんと知り合いなのですか? 勇者様の御仲間に男性はいなかった気がしますが」
「レイジの? いえ、仲間じゃ……」
「ええ! もちろん大切な仲間ですわよ!」
「えっ!? あの!? 胸がその!」
クロキの言葉を遮り、キョウカがさらに胸を体に押し付けたのでクロキは慌てふためく。
その言葉を聞いてミツアミはクロキの正体に納得する。
要は知られていない勇者の仲間がいたのだ。
活躍し、目立つ仲間を影で支える者。それがクロキなのだ。
つまり、クロキは勇者の引き立て役なのだ。
目立たないのも納得である。
「そういえば、貴方達。何の話しをしていたの?」
ミツアミはもう1つの気になる事を聞く。
「ええーと、それは……」
「ええ、まあ……」
カタカケとチヂレゲは言いにくそうにする。
「ああ、そうだ。その事なんだけど……。禁書庫にはマギウス殿の許可がないと連れていけないよ」
クロキは首を振る。
「まあ、やっぱり駄目だよな……」
「まてまて、カタカケ! なあ、あんた。そこを何とかなんねえかな?」
こりないチヂレゲはしつこくお願いする。
「ちょっと! あんた達! また危ない橋を渡ろうとして! 禁書庫には危ない本だってあるのよ! そもそも、何で入りたいのよ! どうせ、良くない理由でしょ!」
ミツアミが問い詰めるとカタカケとチヂレゲは困った顔をする。
「えーと、それは。どうやら、導師様の中で禁書庫にある本を求めている方がいて、それを持って来たらね……。ミツアミさんも知っているだろう。俺達の状況が……」
カタカケは視線を反らして言う。
ミツアミは呆れた顔をする。
魔術を探求する導師ならば禁書庫にある魔導書を欲しがるのも当然である。
しかし、それなら大賢者マギウスに直接許可を求めれば良いのである。
それをしないのは良くない理由に違いなかった。
実はタラボスは自身の弟子の何人かを死霊術の実験体にしていた。
これは魔術師達が動揺しないようにと一般公開はされていない。
ミツアミは師であるゴトクの仕事を手伝った時に偶然知ったのである。
「確かに知っているわ。だけど、禁書庫に入るなら大賢者様に頼むべきだわ。クロキさんに頼むのはおかしいわ。何という導師様なの?」
「えっと、それは……。誰なんだ、チヂレゲ?」
カタカケが横を見るとチヂレゲはそっぽを向く。
「あっ、悪い。用事を思い出した。じゃ、じゃあな! カタカケ!」
チヂレゲはそう言うと早歩きで図書館を出ていく。
余りの速さにミツアミは止める事ができず、見送ってしまう。
「逃げたわね……。全く、後ろ暗い所があるに違いないわ。ところで、貴方は本当に何もしらないの?」
「い、いや。知らないよ。チヂレゲから導師様の名までは聞いてないよ」
カタカケは慌てて首を振る。
「ちょっと、気になったのですが、禁書庫って何ですの?」
クロキの腕に抱き着いたままのキョウカが聞く。
「キョウカ様。禁書庫は特に危険な魔導書を封印している場所です。そんな魔導書が持ち出されたら大変ですので大賢者様の許可なしにははいれないのです。そうですよね?」
ミツアミはそう言ってクロキを見る。
「えっと、ちょっと理由が違うんだけど……。まあ、確かに勝手に持ち出したらいけないと思うよ。でもそれならここの書物全部がそうだしなあ」
クロキは顎に手を置いて唸る。
(えっ、どういう事なの? 危険な魔導書を封印しているのではないの?)
ミツアミは首を傾げる。
「良くわからないのですけど、ようは面白い本が置いてあるって事ですわよね。私、本を読みに来たのですの。どうせ読むなら面白い本が良いですわ。ねえ、クロキさん。私を禁書庫に連れてくださいな」
キョウカがおねだりするように言う。
クロキは困った顔になる。
(こんな美人にこんなお願いされたら困るわよね。全く美人は得ね)
ミツアミは冷めた目でクロキを見る。
キョウカのように天然で男を誘惑する女性は好きになれない。
どうせなら知的なチユキの案内をしたかったと思う。
「う~ん。あの禁書庫は自分のじゃないの。やはり、マギウス殿の許可がないと」
「マギウス? 誰ですの?」
キョウカがそう言った時だった。
ミツアミは驚きで倒れそうになる。
見るとカタカケも同じように倒れそうになっている。
「あの~。キョウカ様。大賢者様を御存知ないのですか?」
ミツアミは一応尋ねる。
大賢者マギウスを知らずにサリアに来る者がいるとは信じられなかったのである。
「大賢者? そういえば、チユキさんがそんな名前の方の話をしていたような気がしますわね。まあ良いですわ。ようはその方の許可があればよろしいのですわよね。それなら許可をもらいに行きますわ。さあ、行きましょう、クロキさん!」
「えっ? 自分も!?」
キョウカはクロキを引っ張ると連れて行く。
「お待ちください、キョウカ様!」
案内係なのでミツアミも付いていくしかないのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
何とか更新です。
実はエッセイを書きました。
思った事を書きなぐっただけなので、簡単でした。
問題は載せるかどうかです(;´・ω・)
英訳の値段を調べてみたら1文字5円……(>_<)
やっぱりそれぐらいしますよね。
すでに167万字以上書いているから、835万円以上。
無理ですね……。
最後に来週はお休みします。ごめんなさい。
代わりにもしかするとエッセイを載せるかもしれません。
魔術師はそれぞれの地で個別に行動して、弟子を取り、魔術を伝えていた。
そんな中、大賢者マギウスとその弟子達は魔術師協会を設立し、各地の魔術師と交流して互いの魔術の技を教え合う事で魔術はより洗練された者になった。
そんな魔術は複数の体系に分けられていて、大別すると3つある。
それが錬金術、心霊術、占星術だ。
これらの体系はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに補う事もあったりもする。
そして、食堂で出会った妖艶の賢者サビーナは心霊術の達人であった。
チユキとマギウスとガドフェス。そして、食堂で出会ったサビーナは同じ卓へと座る。
一緒に来た者達はその卓の周辺の卓へと座り、賢者達がどんな話をするのか興味深く見ている。
チユキ達の卓にお茶が運ばれて来る。
食堂は食事時でない時はお茶も提供してくれる。
お茶といっても緑茶ではないので、フェンネル草のハーブ茶である。
味は良くないが、香りが良く、チユキも愛飲している。
サリアのあるナーラン盆地はハーブの産地でもあった。
魔術師は思考を鈍らせる酒よりも、茶を好む。
そのためサリア周辺ではハーブ栽培が盛んなのである。
運んできた給仕の女性は魔術師ではない。
そもそも、サリアに住む半数以上が魔術師ではない。
一般人は魔術の勉強に忙しい魔術師に代わり、サリアの経済を動かしているのである。
給仕の女性は滅多に集まらない4名の賢者に応対して少し緊張している。
彼女は頭を下げると、急いで卓を離れる。
チユキは出されたハーブ茶を少し啜ると目の前に座るサビーナを見る。
サビーナから強い香りが漂ってくるのでハーブの香りが楽しめない。
(これは魔法の香? 魅惑の香かしら? 吸いすぎると私でも危険かもしれないわね)
チユキは魔法で香の煙が来ないようにする。
最初は彼女が吸っている煙管からの香りかと思ったが、良く見るとサビーナの腰に小さな香炉があり、香はそこから漂ってくるようであった。
心霊術は精神や精霊、そして死霊等の形のないものに作用する事に特化した魔術だ。
そして、魔術を使う時にその補助として魔法の香を使う。
魔法の香には眠りを誘うものや、情欲を高めるもの、精霊を呼びよせたり、死霊を寄せ付けないものもある。
その心霊術には死霊術も含まれていて、心霊術を学ぶ者の中には死霊術に手を染める者もいる。
タラボスも心霊術を学ぶ過程で死霊術を知ったのだろう。
「久しぶりね。黒髪の賢者チユキ殿」
「はい、久しぶりですね、サビーナ殿」
チユキはサビーナに答える。
前にも会ったがサビーナが何を考えているかわからない。
タラボスは彼女の弟子のはずだが、何も関わっていないらしい。
サビーナは心霊術師だが、死霊術は使わないと聞いている。
しかし、その話を鵜呑みにするわけにはいかない。
魔法の香には瘴気を隠す物もあり、強い香りで隠しているかもしれなかった。
それに、どこか敵意を向けている感じがするのだ。
最初はタラボスの事かと思ったがそういうわけでもないようである。
そのためチユキは疑問に思うのだった。
「ガドフェス師も、久しぶりですわ」
「はは、久ぶりじゃな。サビーナ。相変わらずエロいのう」
「ふふ、そうですか。師ならいつでも相手をして差し上げますわ」
「そりゃ、ありがたい。じゃが、お主の若い弟子に恨まれてわかなわん。遠慮しておくよ。他の子を誘うとしよう。がははははは」
サビーナとガドフェスは挨拶代わりの軽いやり取りをする。
どちらも本気ではないのだろう。
サビーナの外見は20代前半美しい女性であり、胸は大きい。
手を加えた魔術師のローブの前をはだけさせていて、谷間を見せつけている。
数多くいる取り巻きの若い魔術師の男と寝所を共にすることもあるらしい。
「相変わらずじゃな、ガドフェスよ。何度も言うが、そんな調子で後任を決めるでないぞ」
マギウスがガドフェスを窘める。
「後任と言うのは会長と副会長のですか? マギウス殿?」
「そうじゃよ、チユキ殿。そろそろ決めねばならん。会長のペンドスが今期でやめたいと言いおったからな。タラボスの件で疲れたようじゃ。タラボスは中々得難い者だと思うとったが、あのような事をしでかしておるとはな……。おかげで周囲の国から釘を刺されたよ。人選に苦労するわい」
マギウスは溜息を吐く。
魔術師は自身の研究に時間をかけたいためか、協会の仕事をやりたがらず、役員になりたがる者は少ない。
そんな中で協会の仕事に積極的なタラボスは有難い存在だったのである。
もっとも、それは自身の不正を隠すためでもあった。
協会には会計等を担当する魔術師でない職員もいるが、魔術師のための組織である以上、重要な役職はまかせられない。
かといって、よこしまな者を役員にするわけにはいかない。
タラボスは副会長の地位を利用して、周辺諸国の市民に隠れて死神ザルキシスの信徒を増やす等の事もしていたのである。
チユキ達の活躍で判明して、その弁明のために現会長のペンドスは大変な思いをした。
会長を止めたくなるのも仕方がないだろう。
「タラボスねえ。もっと、上手くやれば良いのに、馬鹿な奴ねえ」
サビーナも溜息を吐く。
その言葉はもっと上手く隠せと言っているようであった。
雑談は続く賢人会議まで、まだ時間はあるのであった。
◆
ミツアミはクロキと呼ばれる男性を見る。
その腕にはキョウカが抱き着いている。
図書館の受付でクロキと出会ったキョウカが飛びついたのだ。
ミツアミは改めてクロキが何者だろうかと考える。
この男性はマギウスに認められて、禁書庫に入る許可をもらった。
しかも、あの光の勇者の妹と知り合い。
只者であるはずがない。
しかし、抱き着かれて、慌てている様子を見ると特別な存在に見えない。
チユキやキョウカのように存在感があるわけではなく、黙って隅に座っていると目に留まる事もないだろう。
つまり、大した事なさそうに見えるのである。
そのため、特に付き合いたいとは思わなかったのである。
「あの、ミツアミさん。このとてつもない美女はどちら様で?」
キョウカを見たチヂレゲが目を瞬かせて聞く。
「こちらはキョウカ様。あの光の勇者レイジ様の妹君よ。黒髪の賢者チユキ様と共に来られたの」
「あっ! そうか賢人会議!? そうだよな、チユキ様も来られるよな……」
カタカケがなるほどと声を出す。
彼は過去に迷惑をかけた。
その事を悔いているみたいであった。
「ところでキョウカ様。そちらの……ええと、クロキさんと知り合いなのですか? 勇者様の御仲間に男性はいなかった気がしますが」
「レイジの? いえ、仲間じゃ……」
「ええ! もちろん大切な仲間ですわよ!」
「えっ!? あの!? 胸がその!」
クロキの言葉を遮り、キョウカがさらに胸を体に押し付けたのでクロキは慌てふためく。
その言葉を聞いてミツアミはクロキの正体に納得する。
要は知られていない勇者の仲間がいたのだ。
活躍し、目立つ仲間を影で支える者。それがクロキなのだ。
つまり、クロキは勇者の引き立て役なのだ。
目立たないのも納得である。
「そういえば、貴方達。何の話しをしていたの?」
ミツアミはもう1つの気になる事を聞く。
「ええーと、それは……」
「ええ、まあ……」
カタカケとチヂレゲは言いにくそうにする。
「ああ、そうだ。その事なんだけど……。禁書庫にはマギウス殿の許可がないと連れていけないよ」
クロキは首を振る。
「まあ、やっぱり駄目だよな……」
「まてまて、カタカケ! なあ、あんた。そこを何とかなんねえかな?」
こりないチヂレゲはしつこくお願いする。
「ちょっと! あんた達! また危ない橋を渡ろうとして! 禁書庫には危ない本だってあるのよ! そもそも、何で入りたいのよ! どうせ、良くない理由でしょ!」
ミツアミが問い詰めるとカタカケとチヂレゲは困った顔をする。
「えーと、それは。どうやら、導師様の中で禁書庫にある本を求めている方がいて、それを持って来たらね……。ミツアミさんも知っているだろう。俺達の状況が……」
カタカケは視線を反らして言う。
ミツアミは呆れた顔をする。
魔術を探求する導師ならば禁書庫にある魔導書を欲しがるのも当然である。
しかし、それなら大賢者マギウスに直接許可を求めれば良いのである。
それをしないのは良くない理由に違いなかった。
実はタラボスは自身の弟子の何人かを死霊術の実験体にしていた。
これは魔術師達が動揺しないようにと一般公開はされていない。
ミツアミは師であるゴトクの仕事を手伝った時に偶然知ったのである。
「確かに知っているわ。だけど、禁書庫に入るなら大賢者様に頼むべきだわ。クロキさんに頼むのはおかしいわ。何という導師様なの?」
「えっと、それは……。誰なんだ、チヂレゲ?」
カタカケが横を見るとチヂレゲはそっぽを向く。
「あっ、悪い。用事を思い出した。じゃ、じゃあな! カタカケ!」
チヂレゲはそう言うと早歩きで図書館を出ていく。
余りの速さにミツアミは止める事ができず、見送ってしまう。
「逃げたわね……。全く、後ろ暗い所があるに違いないわ。ところで、貴方は本当に何もしらないの?」
「い、いや。知らないよ。チヂレゲから導師様の名までは聞いてないよ」
カタカケは慌てて首を振る。
「ちょっと、気になったのですが、禁書庫って何ですの?」
クロキの腕に抱き着いたままのキョウカが聞く。
「キョウカ様。禁書庫は特に危険な魔導書を封印している場所です。そんな魔導書が持ち出されたら大変ですので大賢者様の許可なしにははいれないのです。そうですよね?」
ミツアミはそう言ってクロキを見る。
「えっと、ちょっと理由が違うんだけど……。まあ、確かに勝手に持ち出したらいけないと思うよ。でもそれならここの書物全部がそうだしなあ」
クロキは顎に手を置いて唸る。
(えっ、どういう事なの? 危険な魔導書を封印しているのではないの?)
ミツアミは首を傾げる。
「良くわからないのですけど、ようは面白い本が置いてあるって事ですわよね。私、本を読みに来たのですの。どうせ読むなら面白い本が良いですわ。ねえ、クロキさん。私を禁書庫に連れてくださいな」
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「う~ん。あの禁書庫は自分のじゃないの。やはり、マギウス殿の許可がないと」
「マギウス? 誰ですの?」
キョウカがそう言った時だった。
ミツアミは驚きで倒れそうになる。
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「あの~。キョウカ様。大賢者様を御存知ないのですか?」
ミツアミは一応尋ねる。
大賢者マギウスを知らずにサリアに来る者がいるとは信じられなかったのである。
「大賢者? そういえば、チユキさんがそんな名前の方の話をしていたような気がしますわね。まあ良いですわ。ようはその方の許可があればよろしいのですわよね。それなら許可をもらいに行きますわ。さあ、行きましょう、クロキさん!」
「えっ? 自分も!?」
キョウカはクロキを引っ張ると連れて行く。
「お待ちください、キョウカ様!」
案内係なのでミツアミも付いていくしかないのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
何とか更新です。
実はエッセイを書きました。
思った事を書きなぐっただけなので、簡単でした。
問題は載せるかどうかです(;´・ω・)
英訳の値段を調べてみたら1文字5円……(>_<)
やっぱりそれぐらいしますよね。
すでに167万字以上書いているから、835万円以上。
無理ですね……。
最後に来週はお休みします。ごめんなさい。
代わりにもしかするとエッセイを載せるかもしれません。
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コメント
ノベルバユーザー318854
やっとキョウカのターンですかね?
眠気覚ましが足りない
更新お疲れさまです。
今読んでいる最中なのですが、気になるところがありまして、途中でコメントしています。
“そんな魔術は複数の体系に分けられていて、大別すると3つある。
それが錬金術、心霊術、占星術だ。”
これは、この作品では戦闘で用いられている魔術もこのいずれかに該当するということでしょうか?