暗黒騎士物語

根崎タケル

暗黒騎士VS海鬼将軍

 クロキの目の前でフェーギルの体が膨れ上がる。
 巨人族出身なので人間の倍以上の背丈がさらに伸びる。
 広い場所なので狭さは感じないが強い圧力を感じる。 

「さて、誰が来る。それとも全員か?」

 フェーギルは座っていた台座から巨大な剣を取り出す。
 その剣は巨大であり鋸のような刃が片方に付いている。
 フェーギルの構えから、それなりに剣の心得はあるようだとクロキは推測する。

「どうする。全員で行くか? 俺はそれでもかまわないが?」

 レイジがクロキに聞く。
 こちらの判断に任せるようだ。
 少し目を閉じ、どうするのが一番最善なのかをクロキは考える。

(どうすべきだろうか? 相手は何か自信があるようだし……。う~ん、仕方がないか)

 しばし考えた後、クロキは決断し目を開ける。
 
「……相手は一騎。まずは自分だけで行くよ。後は見てそちらで決めて欲しい。トヨティマ姫。申し訳ございませんが勇者達と一緒にいて下さい」
「えっ? どういう事や? ちょっと!? 暗黒騎士!?」

 トヨティマは止めるがクロキは構わず前に出る。
 この城にフェーギルしかいない事が変であり、伏兵の可能性もある。
 様々な手段に対処できそうなレイジ達を待機させた方が良い。
 それにトルキッソスはまだ目を覚ましていないので、その護衛も必要だ。
 まずは自分だけが戦い様子を見る。それがクロキの結論であった。

「暗黒騎士か? 地上では強いらしいが、ここで勝てるとは思わない事だ」
「多分そうなのだろうね……。でも、自分は出来る事をやるだけだよ」

 海の中であり剣も勝手が違い、黒い炎も使いにくい。
 1体1ならフェーギルの方が優勢かもしれなかった。
 クロキもフェーギルを舐めているわけではない。
 最善の手段が一騎打ちだと判断しただけだ。
 少なくともフェーギルの手の内をある程度は見るつもりであった。
 クロキは竜の力を解放する。
 これで少しは海の中でも戦えるはずである

「いくぞ! 暗黒騎士!」
「うわっ!?」

 フェーギルが大剣を振り下ろす。
 クロキは魔剣を構えその一撃を何とか受け流す。

(うう、すごい圧力……。だけど、何とか受け流せた)

 先程のレイジとの戦いで得た海の中で動き方をクロキは実践する。

「やるな! 暗黒騎士! だがこれならどうだ!」

 フェーギルは怒涛の勢いで大剣を振るう。

(うっ! な、何の! このままやられるかー!)

 1人で戦うと言って無様にやられては格好悪い。
 そう思ったクロキは竜の力を使い、体を動かしフェーギルに対応する。
 やっぱり1人で戦うべきではなかったかなと少しだけ後悔する。
 しかし、今更助けてとは言えない。
 全力で応戦するしかなかった。




「ねえ、大丈夫なの? 1人で行かせて?」

 暗黒騎士が1人で前に出ていくのをチユキは見送り、横のレイジに聞く。

「えっ、大丈夫だろう。どうしたんだ? チユキ?」

 レイジは首を傾げてなぜそんな事を聞くのと疑問に思っている様子を見せる。

「そうや、1人で行かせるなんて、どういうつもりや!?」

 海神の姫であるトヨティマが怒った顔を見せる。

「相手の力はいまいち良くわからないっすから、まずは1人で戦い手の内を見る。それが狙いっすね」

 ナオが解説する。

「えっ、そうなの? でもそれって危険なんじゃ?」
「確かに危険っすね。それがわかってて、自ら前に出たっす。流石っすね……」

 そう言ってナオは真面目な顔をして暗黒騎士である彼の背中を見る。
 チユキもナオと同じように見る。

「そんな、危険を自ら……。なあ、あんたら本当は相打ちを狙っているってわけやないやろうな……。もしそれなら許さへんよ」

 トヨティマは厳し目をチユキ達に向ける。
 彼女にしてみれば自身の父親の命を狙った相手であり、信頼できないのも当然であった。

「そんな事はしないし、させない……。もしクロキが危なそうだったら私が助ける……」

 そう答えたのはシロネである。
 彼女はトヨティマの方を見ず、暗黒騎士から目を反らさない。
 片手には剣が握られていて、いつでも飛び出す用意が出来ているようであった。
 その顔はとても真剣であり、トヨティマは何も言えなくなる。

「まあ、そう心配する事はないさ。もしかするとあいつだけで大丈夫かもしれないな。まあ、見てな」

 レイジの言う通り暗黒騎士とフェーギルの戦いが始まる。
 暗黒騎士はフェーギルの怒涛の攻めを軽く受け流し、全く寄せ付けない。
 その姿には余裕すら感じられた。

「なんや、フェーギルの攻撃が全く届きよらんやんか。ますます、ポレの字にはもったいないわ……」

 トヨティマが驚きの声を出す。
 それはチユキも同じであった。
 
(本当に強い……。レイジ君の言う通りだわ)

 チユキはレイジを見る。
 レイジは最初から大丈夫だと思っていた。
 何度も剣を合わせていたからこそ、暗黒騎士の彼の実力がわかるのかもしれない。
 
「さて、今の所は大丈夫そうだな……。しかし、あれほど自信を持っていた奴だ。何かあるかもしれない。リノ、王子様の様子はどうだ?」

 レイジはそう言って後ろを見る。
 そこにはリノとマーメイドの姫の介護を受けているトルキッソスがいる。
 石化は解けているがまだ目を覚ましていない。

「多分もう大丈夫だよ。レイジさん。もうすぐ目を覚ますと思う」
「そうか、良かった。いつでも動ける準備をしといてくれ。今のところは奴だけで大丈夫かもしれないが、何かあるかもしれないからな」

 レイジは暗黒騎士の方へと視線を戻す。
 暗黒騎士の反撃によりフェーギルは押されている。
 しかし、まだ何かありそうであった。




 鬼岩城の広間でクロキはフェーギルと剣を交える。
 クロキはフェーギルの猛攻を躱しながらフェーギルの体を斬る。
 しかし、いくら傷つけてもすぐにフェーギルの体はすぐに回復してしまう。
 そのため、戦況は一進一退であった。

「おのれ、ちょこまかと動きよって! これならどうだ!!」

 フェーギルの仮面にある口元の隙間が猛烈な勢いで海水を吸い込み始める。
 クロキの動きを流れで制限するつもりだ。

(うわ、吸い込まれる! だけど!)

 クロキは吸い込みに逆らわず、むしろ加速してフェーギルに近づく。
 
「何!?」

 慌てたフェーギルは大剣を振るがクロキは身を捻って躱すと右腕を斬り裂く。
 右腕は半ばまで斬り裂かれるがすぐに再生をし始める。

(やっぱり、すぐに再生してしまう……。それでも、この魔剣なら少しはダメージが与えられているはず……。何度も繰り返せば)

 クロキの持つ魔剣は破壊の力がある。
 また、海の中で威力は低くなって黒い炎を魔剣に付与しているので、さらに効果があるはずだった。

「馬鹿な!? 何故陸の者に剣が届かない!? なぜ追い込まれる!? おのれ!」
「ええと、そう言われても……」

 クロキはただ普通に戦っているだけだ。
 出来る事をやる。
 最善を尽くす。
 しかし、海の中で陸の者に負ける事はフェーギルにとって許しがたい事のようであった。

「もう良い。この身がどうなろうと構わん。全てを吐き出してやろう」

 フェーギルの体がさらに膨らみ変化をし始める。

(ようやく、奥の手を出して来たか。なら一騎打ちはここまでだ)

 クロキはフェーギルから離れるとレイジ達の元へと戻る。

「やったな。どうやら、奴が本気で来るようだ」

 戻ってきたクロキにレイジが声をかける。
 戦う前、フェーギルには余裕があった。
 しかし、クロキと戦っているうちにその余裕は消え去り、今まさに本気を出そうとしている。
 正直に言うとここまで上手くいくとは思っていなかった。
 少し慎重になりすぎていたかもしれない。
 クロキ達の目の前でフェーギルの身体が膨らみ、背中から巨大なウツボの頭が現れ、右手タコの足へと変わる。
 その姿はいくつもの生物の混合体のようである。
 

「嘘!? いくつもの命と意思を感じるよ。何あれ!?」
「まるでいくつもの生物が合わさったような姿だわ。どういう事なの?」

 リノとチユキが驚きの声を出す。

「そうだ……。我々は……私達は……俺達は……。1つの命の群体なのだ。いくつもの命を取り込み、いくつもの命を生み出す……。新たなる創世の元だ」

 喋りながらフェーギルはさらに変化して、変わる事に口調も変わっていく。
 本当にいくつもの意思があるようだ。

「なんて姿!? 貴方は本当に深海の巨人オアネス族なの!? どうしてそんな力を?」

 マーメイドの姫は首を振っておぞましいものを見る目でフェーギルを睨む。
 深海の巨人族の事はクロキも知っている。
 巨人族にこのような力はなかったはずだ

「これは……。マ、マーメイドの姫よ……。これは混沌の霊杯の力。忠誠を誓うのと引き換えに、エエ得た力だ……。 さあ来い……。お前達も一部になれ……」
「来るぞ! 固まれ!」

 レイジの合図で全員が円陣を組む。
 良い判断だとクロキは思う。
 この部屋の壁中にイソギンチャクが生えている。
 そのイソギンチャクもおそらくフェーギルの支配下にあるだろう。
 つまり敵に囲まれている状態だ。

「た、大変す! 壁のイソギンチャクの様子が変っすよ! 何か大きくなって迫って来ているっす」

 ナオの言うとおり、壁のイソギンチャク達が大きくなり、触手をクロキ達に伸ばしてくる。
 ただの触手ではなかった、その触手の先が様々な海洋生物の頭となり、顎を開けて獲物を喰らおうとしてくるのだ。

(良かった全員で入らなくて、もし、入っていたら、餌を与えているのと同じだったよ)

 クロキは迫って来る触手を見てそう思う。

「こ、ここは我々の腹の中だ、だ、だ。ぜ、全員で入って来なかったのは残念だ。だがあああ、お前達だけでも我々の一部にするぞぞぞ」


 フェーギルはそう言うと下がり、イソギンチャクに呑まれ、合体する。
 すると周囲のイソギンチャクの動きが活発になり襲いかかってくる。
 
「ちょっと来ないでよ!」

 シロネは剣を振りイソギンチャクの触手を斬り裂く。
 しかし、すぐに再生して頭を生やす。

「こりゃキリがないっすよ」
「ああ、そうだな、ここは撤退だ!」

 レイジは広間の入り口があったところに手をかざす。
 
「喰らえ! 神威の光砲!」

 レイジの叫びと共に強力な光の帯が放たれ入り口を塞いでいた触手に向かう。
 海の中なので威力が若干落ちているかもしれないがそれでも十分な威力である。
 触手は焼き払われ広間の入り口が開かれる。

「閉じる前に逃げるんや!」

 トヨティマの叫びと共にクロキ達は広間から脱出する。

「「「に、に逃げられると思うなあああああああ」」」

 周囲からフェーギルの声が反響する。
 しかし、聞くつもりはない。
 クロキ達は急ぎ来た道を戻るのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

東京オリンピックが開催です。
しかし、コロナのせいで見に行く事は出来ないです。
住んでいる国での開催なのに残念ですね(;´・ω・)

それでオリンピックで思い付いたのですが、この世界でも地域の国々が共同でスポーツの祭典をするという設定を作ろうかなと思ったりしています。
ギリシャ神話の世界観を題材にしているのでおかしくはないはず……( ̄▽ ̄)
設定資料集も充実させたい。

そして、世界地図の作成も再開しました。
地図を出して欲しいと言うリクエストが来るのですが、その作成技術が低いので中々出せずにいます。

最後に製作途中ですがトトナの絵をカクヨムの近況ノートに載せました。
下手ですが良かったらどうぞ……。

コメント

  • LGsusXD

    Esto se pone cada vez más interesante, se agradece mucho tu trabajo

    0
  • Pedro Picapiedra

    EXCELENTE

    1
  • Orang lewat

    Terimakasih atas pembaruannya.saya menunggu chapter berikutnya

    0
  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。
    地図!地図待ってます!
    完璧でなくていいので、陸のかたちと大まかな国の位置さえ分かる様ならOKです!

    3
  • 根崎タケル

    更新しました。
    何とか今週も更新です。
    更新を止めると書けなくなりそうで怖かったりします(;´・ω・)

    4
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