暗黒騎士物語

根崎タケル

血の絆

 レーナから衝撃の事実を告げられたクロキは頭が混乱する。
 いきなりコウキが自身の子だと言われても、受け入れる事は難しい。

「何よ、クロキ。疑うの? 子どもが出来る事を私にしたでしょ?」

 コウキを抱っこしているレーナが怒ったように言う。 

(確かに身に覚えがあるけど……。でも、なあコウキは育ちすぎているし……。だけど、何だろうこの感覚は?)

 クロキはコウキを見る。
 レーナに抱かれてすやすやと寝ている。
 そのコウキから何かの繋がりを感じるのは確かなのだ。
 初めてコウキに会った時、気のせいだと思った。
 しかし、レーナに言われた事ではっきりとコウキの中に眠る黒い炎を感じる。
 それにこの世界での成長はクロキ達が元いた世界とは違う。
 最初から大人の状態で生まれる者もいる事もあるのだ。
 クロキはレーナの言っている事が嘘ではないような気がしてくる。

「疑うのなら、あの子に聞いてみなさい。知っているはずだから」

 レーナはエルフの都アルセイディアの方角を見て言う。
 もちろん、レーナの言うあの子というのはクーナの事だ。
 クーナはアルセイディアにいるはずであった。
 レーナとクーナは繋がっているのでコウキの事を知っている。
 このような事でクーナは嘘を吐かない。
 これではクロキも信じるしかない。

「いや……。疑うってわけじゃないけど、何というかビックリした……」
「ふふふ、ちょっとびっくりさせようと思って、あの子にも黙っているように言っていたのは確かだわ、でも血の絆はすごいわね。紹介する前に貴方と出会うなんて」

 レーナはにんまりと笑うとクロキの驚いた顔を見てすごく嬉しそうにする。

「あ、あの、レーナ。コウキは父親の事を知っているの?」
「いいえ、知らないわ。正確には教えていないもの。ああ、そうだ、念のために言っておくわね。コウキが私達の子だって事は秘密にしてね。バレたら大変な事になるから。もちろん、コウキにも秘密。それからコウキをナルゴルに連れ去ろうとはしないでね。私がコウキに会いにいくのが難しくなるもの」

 レーナは釘を刺す。
 もし、コウキをナルゴルに連れ去ったら、そうとう怒りそうであった。
 
「いや、無理やり連れ去ったりはしないけど」
「無理やり以外でもダメよ、クロキ。やっぱり貴方の事を教えられないわ。コウキが父親を慕ってナルゴルに行かれたら困るもの。まあ、いつかは知るかもしれないけど、それまでは秘密。良いわねクロキ?」
「は、はあ……」

 クロキは生返事をするしかなかった。
 そもそも、頭はまだ混乱しているのだ。
 そしてレーナはクロキにコウキを渡す。

「コウキは人間の世界で勇者となり、最終的には私の騎士として迎える予定よ。だから、剣をしっかりと教えてあげてね、お父さん」
「お父さん……」

 クロキはお父さんと呼ばれ戸惑う。
 コウキはまだ寝ている。
 レーナが抱きしめた事で安心して、より眠りを深めたようだ。

「さて、そろそろ行くわね。あのエルフ達を調教しないといけないからね」

 そう言うとレーナは立ち上がる。
 テス達が恐怖しているのがわかる。
 彼女達は全てを知ってしまった。
 口止めのためにレーナは何かをするつもりなのだろう。
 クロキはレーナの後ろ姿を見る。
 お尻を眺めていると改めてすごい事をしたのだと思う。

(本当に自分はレーナを孕ませたの!? あんな美女を!? 思考が追い付かないよ!!?)

 クロキのこれまでのレーナとの事を思い出す。
 だけど、なるべく考えないようにしなければならない。
 なぜなら、椅子から立てなくなるからだ。

「あっ、そうだ」

 何かを思いついたらしく、レーナがこちらに戻ってくる。

「良かったらまた産んであげるわよ、クロキ」

 レーナは耳元で囁く。

「え、えっ!? あのレーナ!!?」
「ふふっ、それじゃあねクロキ」

 レーナは悪戯っぽく笑うと再び離れる。
 こうしてクロキは椅子から立ち上がれなくなるのだった。





 チユキ達は琥珀の宮の一室に集まる。
 白銀の魔女クーナも一緒だ。
 何故ならクーナも一緒に戦うからだ。
 他には戦乙女のニーアとエルフの女王とその側近がいる。
 
「ありがとうチユキ。君達も手伝ってくれるのだな」

 ニーアがお礼を言う。
 チユキ達はこの森の防衛をするエルフ達の手伝いをする事になった。
 
「まあ、緑人グリーンマンさん達と約束したからしょうがないよね」

 リノはうんうんと頷く。
 チユキ達はこの森を荒らす者達を止めると緑人グリーンマンと約束した。
 そのため、アルセイディアに残っているのだ。

「そうっすね。コウキ君も戻ってくるみたいっすから、目的もほぼ達成したと同じっす。だから、後は手伝いをするっす」

 ナオも頷く。
 一応コウキはニーアの取り計らいで、戻ってくる事になった。
 天使が約束したので嘘ではないだろう。
 しかし、気になる事がある。
 ニーアはコウキの事を知っていたみたいなのだ。
 そのあたりは有耶無耶にされたが、チユキとしては気になるところだ。

「ところで、どんな様子なの? 敵の戦力は?」

 チユキはニーアに聞く。

「それが、わからんのだ。最初の情報では大した事はないはずだったのだがな……」
「えっ? そうなの?」
「そうだチユキ。蛇の王子が来ている事はわかったが、攻めてきている邪神は少ないと聞いている。しかし、どうも戦力が増強されているらしい。わかっていたら、お前達にも協力を要請したのだがな」

 ニーアは残念そうに言う。

「はははは、何を言っているのだ。エリオスの男共が勇者を連れてくる事に反対したからだろうが」

 突然クーナが笑い出す。
 するとニーアが言葉を詰まらせる。
 その様子は図星のようであった。
 
「ああ、隠してもしょうがないな、それが事実だ……。女神様方は助けを求めようとしたらしいのだが……」

 ニーアは説明する。
 エリオスの女神達はレイジに助けを求めようとしたが、それを男神達が嫌がったのだと。

(エリオスの神々は思っている以上にグダグダのようね)

 チユキはそれを聞いて溜息を吐く。
 何もしなかったのではない、何も出来なかったというのが事実であった。

「あの~、大丈夫なの?」

 シロネは不安そうに聞く。
 チユキも同じ気持ちである。
 そんな状態で戦えるのだろうかと疑うのも当然であった。

「当初の情報の通りなら問題はない。基本的には我々が対処する。だからチユキ達には不測の事態が起こった時に動いてもらいたい」
「はあ、まあそれで良いけど、こちらの戦力と相手の戦力、わかっているだけでも教えてくれない?」
「わかった。協力をしてくれるのだから戦力を教えよう。タタニア女王、映像を出してくれ」
「はいニーア様」

 エルフの女王タタニアが側近に命じると部屋の中央に映像が浮かび上がる。
 映像には純白の鎧を纏った男性がいる。
 前に会った事がある歌と芸術の神アルフォスであった。
 アルフォスが浮かび上がるとリノとエルフの側近達が歓声を上げる。
 アルフォスは神王に仕える聖騎士団の団長あるとチユキは聞いていた。
 最初に出会った時はそうは見えなかったが、今のアルフォスはすごく強そうに見える。

「天上の戦力だが、まずはアルフォス様が率いる聖騎士団が先頭になって戦う」

 ニーアはアルフォスの周りにいる。天馬に乗った天使達を指す。
 聖騎士は神王が認めた者のみで構成された精鋭である。
 その多くは天使だが、人間の中にも選ばれる者もいるらしい。
 アルフォスと同じ純白の鎧を纏った天使達はいかにも精鋭といった感じである。

「次に第2陣としてトールズ様が率いる男神の方々と聖戦士達が控えている」

 次に煌びやかな衣装を身に纏った男性達が映し出される。
 豪華な衣装を身に纏った者達と、無骨な武装した戦士風の者達である。
 エリオスの男神と聖戦士であった。
 聖戦士は神に認められた戦士達の総称だ。聖騎士も広義では聖戦士である。
 また、聖騎士と同じく、天使もいれば人間もいる。
 ただし、聖騎士がほぼ天使なのに対して、聖戦士は人間の方が多いようであった。
 翼を持たない者達が多く、空舟スカイボートに乗っている。
 彼らは男神達に選ばれ、聖戦士となった者達であった。
 ただ、重装備の聖戦士と比べて男神達のほとんどは武装していない。
 楽しそうに雑談して、中には女性を侍らしている者もいる。
 これから戦いだというのに大丈夫だろうかとチユキは思う。

「そして、もしもに備えて我々戦乙女隊がいる」
 
 今度は武装した女性天使達が映し出される。
 チユキが過去に見た顔がちらほらといる。

「あれ? 貴方の主の姿が見えないみたいだけど」
「チユキ。レーナ様はいない。何かお考えがあるらしく、別行動を取られるようだ」
「そうなんだ。じゃあ指揮は誰がするの?」

 リノが無邪気に聞くとニーアは顔を曇らせる。
 チユキ達は顔を見合わせる。
 
「何かあったっすか?」
「実は指揮は誰が執るのか決まっていない。一応アマゾナ様がレーナ様の副官として来ていらっしゃるのだが……」

 ニーアは言いにくそうな様子を見せる。

(アマゾナって、戦神トールズの娘よね? 何か問題があるのかしら?)

 チユキは首を傾げる。
 狂乱の女神アマゾナは力と戦いの神トールズの娘であり、レーナと同じく戦女神である。
 また父親と同じく、鎧を身に付けず、下着姿で戦う事で有名だったりする。
 その彼女の逸話は少なく、どのような女神なのかチユキにはわからなかった。

「まあ、それはこちらの都合だ。チユキ達は気にする必要はない。次に地上戦力だが、妖精騎士エルフィンナイトとドワーフの戦士団が中心となって戦うはずだ。私はこの辺りの事は詳しくない。タタニア女王、説明してくれるか?」
「はい、地上は私達、アルセイディアの軍が対処します。精強な妖精騎士エルフィンナイト達が必ず敵を打ち破るでしょう」

 タタニアがそう言うとニーアが首を傾げる。

「ドワーフの戦士はどうしたのだ。今回は協力するように言っておいたはずだぞ」
「ああ、そうでしたね。ドワーフの戦士と彼らの連れて来てくれたゴーレム達もいます」

 明らかに付け足したようにタタニアは言う。

「はあ、もう良いわ、それで敵の戦力はどうなの?」

 チユキは諦めたように聞く。
 エルフとドワーフが協力し合うのは難しそうであった。

「敵の戦力で判明しているのは蛇の王子とその眷属達だ。それに援軍としてオークやゴブリンの軍勢の姿も見えるらしい。タタニア女王よ、次は敵の戦力だ」
「はい、ニーア様」

 ニーアがそう言うと敵の戦力が映像として浮かび上がる。
 巨大な足のある蛇はムシュフシュである。
 その上に褐色肌の男が乗っている。

(あれは蛇の王子ダハーク。彼が森を荒らす犯人みたいね。ムシュフシュの毒の影響で木々が枯れている……)

 チユキはダハークを何とかしなければならないと思う。
 他にもオークの軍団やゴブリンの軍団が映し出される。

「ちょっと待って! あれは何!?」

 シロネが声を上げる。
 ゴブリンの軍団の中に人間の姿が見えたのだ。
 人間達は縄で繋がれ、ゴブリンの軍団と共に一緒に歩かされている。
 
「落ち着いて、シロネさん。ゴブリンの奴隷になった人達だわ。無理やり戦士として戦わされるみたいね」

 チユキは眉を顰めて言う。
 ゴブリンには奴隷文化があり、同種族だけでなく他種族を奴隷として働かせる。
 その中には人間も含まれる。
 落ち着いてと言ったが、チユキも内心では平静ではない。
 心の中で激しい嫌悪感が沸き上がっている。

「そんな、助けないと……」
「そうっすよ、助けないといけないっす」

 リノが言うとナオも同意する。
 
「助けるのは少し難しいかもしれません。さすがにそこまで余裕は私達には……」

 タタニアは難しそうな顔をする。
 
「それじゃあゴブリンは私達が相手にするわ。それで良いわね」
「ああ、構わないぞ、チユキ。だが、敵の戦力が不明だ。死の眷属共や大地の巨人ギガテスも来ているかもしれない。気を付けるんだ」
「わかったわ」

 チユキは頷く。
 敵はいつ攻めてきてもおかしくない。
 いつでも戦えるようにしておこうと思うのだった。


 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

更新です。
暑くて、体がだるいです……。
執筆が捗らないです。ちょっとしか変更していないのに……。

誤字脱字があったら教えて下さると助かります。

ノベルバのアプリで読まれていない方はカクヨムで読んで下さると嬉しいです。

コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。

    冷房があるだけマシです。
    自分の部屋は窓からの風のみです。


    >元RuneMinorさん
    なるほど、確かにチユキは何をもって危険と言ったかを仲間に明かしていません。
    ただ、チユキ自身は2度も助けられていることや、シロネとキョウカなど擁護にまわるであろう人もいます。
    さらには、その何が危険かについてチユキ自身まともに口を開こうとしません。問われると、明らかに普段とは違う様子にまでなっています。なので、他の皆も言葉通りの危険とは捉えていないでしょう。
    とくに直接尋ねに行ったナオは、仲間を傷つけられたから、とか、仲間として行動したら後ろから斬られる、とかの意味ではないことは察してるかもしれません。ナオ自身がどう思っているかはわかりませんが。
    それに他の仲間を見ると、キョウカからは恋愛の対象に見えている節があり、レイジは越えるべき目標として認識している様ですし、サホコとカヤはそれぞれ異なる理由で敵視している、など統一性がありません。残る一切考えを口にしない二人がはっきりと言わない限り、どうともならないかと。
    ここまで足並みが揃っていない以上、チユキがそう言うなら、とはならないと思いますよ。
    自分としては、レイジが光の勇者の地位を追われる方が先かなぁ、なんて考えてます。

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  • 根崎タケル

    更新しました。
    部屋の冷房が弱いので、溶けそうです。
    誤字脱字があったら教えて下さると助かります……。
    本当に思考がまとまりません。

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