暗黒騎士物語

根崎タケル

アンジュとジュシオ

「助けに来たぞ、クロキ!」

 曇り空に届く、カルンスタイン城の最上階。
 窓から入って来たクーナがクロキに笑いかける。
 クーナはクロキを助けるために魔竜グロリアスに乗って助けに来たのである。

「ありがとうクーナ。助かったよ」
「もちろんだ! クロキのいない世界なんて絶対に嫌だ! どんな所でも駆けつけるぞ!」

 クーナは「ふふん」と笑う。
 それはクロキも同じだ。クーナのいない世界なんて絶対に嫌だ。
 クーナはクロキの闇を照らす白銀の月の姫。
 絶対に失いたくない存在だ。

「クーナ様~。ティベルは頑張ったですよ~」

 ティベルがクーナに抱き着く。

「そうか、よくやったぞ。ティベル」

 クーナが褒めるとティベルが「えへへ」と笑う。
 傍から見たら心温まる光景だが、そろそろ動かないと危ないだろう。
 ザファラーダがクーナを見て苛立っている。

「誰よあなた? 折角だけど、その男は渡さないわよ」

 ザファラーダは不機嫌そうに言う。
 そのクーナを見る目はとても不快そうだ。

「黙れ! ブース! クロキはクーナのだぞ! 顔を造っているみたいだが! 醜い顔が透けて見えるぞ!」

 クーナはザファラーダを指して見下すように笑う。
 クーナの言う通り、ザファラーダの今の姿は魔法で作られた偽りのものだ。
 ある程度魔力が高い者なら、真実の姿が透けて見える。
 その言葉を聞くとザファラーダの顔が怒りに染まり、姿が変わっていく。
 口が耳まで裂け、その口からは牙が出てくる。
 その口から長い舌が三つ出ている。その一つ一つの舌先には、蛭のような口がついている。
 目が七つに増え、赤く光る。
 背中からは巨大な蝙蝠の羽が生える。
 その羽が動くと強烈な瘴気の波動を感じる。
 ティベルは怖がりクーナの背に隠れる。

「私をブスと言ったなああああああ! 小娘があああああ! ちょっと綺麗だからって見下した目で見やがってえええええええええ! そのすました顔が誰かわからないぐらい! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切って! 切り刻んでやるううううううううううううう!」

 ザファラーダは咆哮して、鉤爪をクーナに向ける。

(うわ、かなり怒っている……)

 クロキは体が震える。
 ザファラーダはブスと言われたことが許せないようだ。
 正直に言って怖い。
 あまりの怒りにクロキは思わず引いてしまう。
 だけど、クーナは平気そうだ。

「ふん! 本当の事を言われて怒ったか! お前のような醜い女にクロキを渡すものか! お前にはブサイクな男がお似合いだ! そこらへんのゴブリンとでも乳繰り合ってろ!」

 クーナが大鎌を向けて言う。
 ザファラーダから怒りを向けられても平然としている。

「言ったなあああああああああああああ! 小娘えええええええええええええええ!」

 ザファラーダがクロキ達に向かってくる。

「おっと、その前に! クロキ! 移動するぞ! 夢幻の蝶よ!」

 クーナが蝶を呼び出すとザファラーダから逃げるように転移する。
 移動先はすぐ近くのグロリアスの背だ。

「ありがとう、グロリアス。助けに来てくれて」

 クロキはそう言ってグロリアスの背を撫でる。
 するとグロリアスは嬉しそうに喉を鳴らす。

「さあ、グロリアス。空船へと戻るぞ」

 クーナが言うとグロリアスは翼を広げ、上空へと昇る。
 そこにはクロキの空船が浮かんでいる。
 城のすぐ近くまで来ていたようであった。

「クロキ先生! よくぞご無事で!」

 クロキが空船に戻りグロリアスから降りると誰かが駆け寄って来る。
 ナルゴルの姫ポレンである。

「えっ!? 殿下!? どうしてここに!?」

 クロキは首を傾げる。
 ポレンはナルゴルの姫である。
 この危険なワルキアに来ることをモデスが許すとは思えなかった。
 
「えへへ、先生の事が心配で来ちゃいました」

 ポレンは笑う。
 
(セルキーの時もそうだった。それにしても、まさか自分を助けに来てくれるとは思わなかった。やはり、殿下は良い方だ……)

 クロキは何と言って良いかわからなかった。
 この後、ポレンはモデスに叱られるだろう。
 それでも、来てくれた事を嬉しく思う。

「まさか、殿下が来て下さるとは……。とても、嬉しく思います」
「はうっ!」

 クロキが片膝を付きポレンの手を握る。
 するとポレンの顔が真っ赤になる。
 
「どうしました。殿下?」
「い、いえ! 何でもないです!」 

 ポレンはぶんぶんと首を振る。
 しかし、どこか嬉しそうであった。

「ポレン! 何をしている! クロキは体を癒さなくてはいけない! 離れろ!」
「そうなのさ! 殿下! 今は大変な時なのさ!」

 側まで来たプチナはポレンを引っ張るとクロキから引きはがす。
 ポレンは「うう~。ぷーちゃんの意地悪~」と言って名残惜しそうにする。

「閣下! よくぞご無事で!」
「ああ、何とかね。グゥノ卿。ごめん、心配をかけて」

 今度は、グゥノを筆頭とする女性デイモン達がやって来て頭を下げる。

「どうやら、大変な目にあったようだねえ。ゲロゲロゲロ」

 最後にグゥノ達の後ろからヘルカートが歩いてくる。
 どうやら、クロキの状態を一目で察したようだ。

「ヘルカート! クロキの状態がおかしい! お前なら治せるだろう!」

 クーナがヘルカートに詰め寄る。

「わかっているよ……。治してやるから、冥魂の宝珠ソウルオーブを寄こしな。それを使えばナルゴル様の影を取り除けるよ」

 ヘルカートがそう言うと、クーナは胸に挟んでいた魂の宝珠ソウルオーブを取り出して渡す。

「ヘルカート。クロキを癒せ。クーナ達が足止めをしてやる」

 クーナは背を向ける。
 その視線の先にはザファラーダがいる。
 どうやら、城から出てきたようだ。
 その周りにいるのは幽鬼と吸血鬼の騎士達が多く待ち構えている。

「小娘があああああああ! 逃がすかああああああああああ!」

 ザファラーダの七つの目が赤く光る。

「それでは行くぞ! クロキは待っていてくれ!」

 クーナはクロキを見て笑う。

「お願いクーナ。無理はしないで。クーナがいない世界なんて嫌だから」
「わかっているぞ! クロキ! ポレンもいるから大丈夫だぞ!」
「えっ!? 私も!?」
「当たり前だ! クロキを助けるために来たのだろうが!」
「えっ、はい! そうです! クロキ先生を助けるんだ! 行きます師匠!」

 ポレンは赤くなっていた自身の顔を叩くとクーナに駆け寄る。
 クロキの横のヘルカートが何か言いたそうにしていたが、諦めたように溜息を吐くのが見える。
 クーナとポレンは共にグロリアスに乗り込む。 

「行くぞ! グロリアス! クロキをいじめた報いを受けさせてやるぞ!」

 クーナがそう言うと、グロリアスが咆哮する。
 その後にグゥノ達もまた声を上げ、ザファラーダ達へと向かう。

「さて、お前さんを癒すとするかね。ゲロゲロゲロ。まさか、ザルキシスがナルゴル様の魂のかけらを 持っているとは思わなかったよ……。影を主のもとに戻すようにすれば、お前さんも元に戻るはずさね」

 ヘルカートは宝珠を見て、少し悲しそうな顔をする。
 おそらく、モデスの母であるナルゴルの事を考えているのだろう。
 世界中を恐怖させた破壊神ナルゴル。
 その力は絶大であった。
 なにしろクロキの竜達の魂をここまで縛りつけるだから。
 だけど、負けてはならない。
 今は無理でも絶対に克服してやるとクロキは決心する。

「さあ、座って目を瞑りな。影を取り除くからね」
「はい。お願いします」

 クロキはヘルカートに言われ足を組んで座る。
 冥魂の宝珠ソウルオーブから魔力の波動があふれ出す。
 目を瞑るクロキの前にクーナの後ろ姿を見る。

(待ってて、クーナ。すぐに行くから)

 クロキはそう思い精神を集中するのだった。






「……起きてジュシオ」

 ジュシオの耳に懐かしい声が聞こえる。
 忘れていた姉アンジュの声であった。

(なぜ、今姉さんの声が聞こえるのだろう)

 ジュシオは暗闇の中で疑問に思う。
 暗黒騎士によって斬られ、もうすぐ消えるはずだからだ。
 きっと、最後の時に聞こえる幻聴だろうとジュシオは思う。

「駄目よ。ジュシオ。あなたはまだ消えないわ。私があなたを守るから」

 アンジュのその声がジュシオを現実に引き戻す。
 ジュシオは目を開ける。
 そこにはアンジュが立っていた。
 ただし、ジュシオが子どもの時と同じ姿だ。
 アンジュの姿は透けて見える。
 その姿は幽霊ゴーストであった。

(なぜ? 今になって私の前に現れるのだろう?)

 ジュシオは姉の姿を見て泣きそうになる。 
 幽霊になっているのならもっと早く会う事ができたはずだ。

「お姉ちゃん……。どうして……」
「ようやく、私に気が付いたのね、ジュシオ。ずっと傍にいたのに……」

 ジュシオもまた泣きそうな顔を浮かべる。
 アンジュはずっとジュシオの傍にいたのだ。

(姉はずっと側にいた? なぜ、ずっと気付かなかったのだろう……。あれ?)

 そこで、ジュシオは気付く。
 心を縛っていた赤い何かが消えている。
 ザファラーダの事を考えても何も感じない。

(もしかすると、私の存在が消えようとしているので呪縛がなくなったのかもしれない)

 ジュシオはそう結論する。
 その呪縛が姉アンジュの存在を気付かなくさせていたのだろう。
 呪縛がなくなり、最後の時になってようやくアンジュに会えたのだろう。

「ようやく、解放……。僕もお姉ちゃんと同じ幽霊ゴーストになれるかな。このまま消えるのは嫌だな……」

 姉と会ったからだろうか、ジュシオは自身の呼び名が私から僕へと変わってしまう。
 吸血鬼ヴァンパイアの肉体が崩壊した後、幽霊ゴーストになったという話は聞かない。
 滅ぶときは、消滅してしまうだけだ。
 このままだとジュシオも消えてしまうのだろう。
 ジュシオはやっと姉に会えたのに、このまま消えるのは嫌だった。

「大丈夫よ、ジュシオ。あなたは消えないわ。お姉ちゃんが守ってあげる」

 アンジュの体から淡い光が出てくる。
 すると、ジュシオは体が癒されるのを感じる。
 淡い光が出てくるごとにアンジュの姿が揺らぐ。
 アンジュは自らの力を使う事でジュシオを助けようとしているのだ。

「やめて。そんな事をしたら、お姉ちゃんが消えちゃう」
「大丈夫。あなたが普通の吸血鬼じゃないように、私も普通の幽霊じゃないみたいなの、だから大丈夫よ」

 アンジュはジュシオを心配させないように笑顔を作る。
 ジュシオはその顔を見て無理をしていると感じる。
 しかし、その力は確かで体が癒えていく。
 おそらく、そのままであれば消滅していただろう。

「ふう、もう大丈夫みたい……」

 体が薄くなりながらも姉は安堵の顔を見せる。
 ジュシオも良かったと思う。姉が消えてしまうのではと思ったからだ。

「さて、これから、どうしようかしら? 2人ならどこでも大丈夫だと思うけど」
「駄目だよ。多分あいつらが追ってくる……。どこでもじゃ無理だよ」

 その言葉にジュシオは首を振る。
 その考えは楽観的だ。
 おそらく、逃げるのは困難だ。死の眷属はどこにでもいる。
 だからといってザファラーダのところに戻る事はできない。
 ザファラーダの命令で沢山の子どもを捧げた。その事を考えるとジュシオは胸が苦しくなる。
 血の饗宴で死の眷属に食われる。
 そんな子どもをもう見たくなかった。
 だから、どこかに行ける場所が必要だ。
 だけど、エリオスのところには行けない。彼らはアンデッドを嫌う。
 その事をアンジュに伝える。

「そう、ならあそこしかないわね……」
「多分、そうだね……」

 アンジュとジュシオは同じことを考える。
 ジュシオは顔を上げる。
 そこでは銀色の髪の少女とザファラーダが対峙していた。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

書き直すだけなのに中々進まないです。
よく考えたらポレンを連れて来たのが原因かも……。
次回は大幅書き直しなんですよね……。

ちなみに次回は「魔界の姫VS鮮血の姫」です。

なぜか「ざしゃ」を変換すると「サジャ」になる現象が……。
随時修正しています。
また、海外の方が作って下さったwikiですが、閲覧できない方もいるようです。
なぜだろう(@_@)

ここで気付く方もいるかもしれませんが、アンジュとジュシオの名前の元ネタは安寿と厨子王だったりします。

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コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。

    え?
    ちゃんと読み比べてませんでしたが、設定資料ってコピペじゃなかったんですね。

    0
  • 根崎タケル

    更新しました。

    設定資料の続きを書く暇がなかったりします( ;∀;)

    0
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