暗黒騎士物語
砂嵐
メジェドの姿で神器を装着したクロキとトトナ達は翌日になり、アルナックを出発する。
黄金の宮殿から、四隻の空船が空を飛ぶ。
ジプシールの上空は防衛のため空船を出す事は制限されている。
しかし、女王であるセクメトラの許可さえあれば可能である。
目指すは奪われたピラミッド。
これから黄金の砂漠を越えて、南東の方角へと向かう予定であった。
この空船の艦隊を指揮するのは名目上ハルセスだが、実質的には軍神であるイスデスである。
本来ならハルセスは出撃せずアルナックに待機する予定だった。
だけど、セクメトラに頼み込んで、危険な時は撤退する事を条件に出撃の許しを得た。
壮麗な黄金細工で彩られた巨大な空船にハルセス多くの妻達と共に乗り、意気揚々と進んでいる。
ハルセスの乗る空船は巨大で以前に見たアルフォスの空船よりも大きい。
そのハルセスの空船の周りを4隻の空船が飛び、周囲にはハルセスの配下であるハヤブサ頭の鳥人が周囲を警戒するように飛んでいる。
その空船の後ろを自分とトトナはキマイラに乗り飛んでいる。
空は青く、日差しが強い。
もっとも、魔法で防御しているので問題はない。
「あのトトナ。そんなに密着されると……」
クロキは後ろでしがみ付いているトトナに言う。
トトナはいつもの分厚いローブ姿に戻っている。
しかし、密着されるとその服の下隠された膨らみの感触を背中に感じてしまう。
このままだと股間が大変な事になるだろう。
少し離れてもらわないと困る。
振り向くとクロキはトトナの方を見ながら言う。
「どうしたの、クロキ? 私達は夫婦も同然。くっつくのは当然」
そう言うトトナの顔はいつもの通り無表情だ。
しかし、どこかクロキの反応を楽しんでいるようであった。
「あのトトナ。今はメジェドなのですが……」
今クロキはメジェドの姿だ。
もちろん白い布の下には腰巻を巻いている。
これで、布がめくれても、直に空気に触れされる事で世界と一体になる解放感を味わう変態と誤解されなくてすむ。
だから、これ以上はくせになる事はないはずであった。
クロキは一体になりたくなるのを我慢する。
「大丈夫。勇者達は先頭だから、ここから離れている。本当の名を言っても聞こえない」
トトナの言う通り、レイジ達と離れている。
普通なら、この距離だと聞こえないはずだ。
しかし、この世界ではレイジ達の身体能力は高くなっている。
もしかすると、聴覚も高くなっている可能性もあるので油断しない方が良いだろう。
「ですが、トトナ。油断はしない方が……。自分の正体がバレると面倒な事になります」
「わかっている。でも今だけはこうさせて」
その言葉の後、トトナはクロキの背中に額をくっつける。
クロキは暖かい何かを感じる。
このまま空を飛ぶのも良いかと思える。
「ぐるるるる」
突然キマイラが鳴く。
「ごめんなさい。少し長く飛び過ぎた」
キマイラは少し辛そうであった。
さすがに長時間飛び過ぎたようなので、そろそろ、空船に戻った方が良さそうであった。
クロキ達が乗っていたのは最後尾の一番小さい空船である。
これはネルが所有する空船で、船員も全てケットシーだ。
船首の部分が可愛い猫になっていてクロキは思わず和んでしまう。
「お帰りにゃん。トトナん」
空船に戻るとネルがクロキ達を出迎えてくれる。
彼女の執事であるヴァロンも一緒だ。
本来ならネルもハルセスと同じくアルナックに残らなければならなかった。
しかし、無理を言って付いて来たのだ。
「何か忙しそうだけどどうしたの? ネル?」
トトナの言う通りだった。
船員の上着を身に付けたケットシー達が何か慌てている。
「それが大変なのにゃん!!大きな砂嵐が近づいているのにゃん!!」
「砂嵐が? この船は大丈夫なの?」
「それは……。わからないにゃん。ヴァロンは規模によってはこの船は耐えられないと言ってたにゃん」
どうやら、まずい状況のようであった。
「トトナ様!! お戻りになられましたか!! 先程ハルセス様の使いが来まして!! この船をハルセス様の船に収容するとの事です!!」
執事である黒猫のヴァロンがこちらに来る。
ネルの空船はとても小さい。巨大なハルセスの空船に収容できるほどであった。
ハルセスの船の後部が大きく開きネルの空船が収容されて行く。
「おおっ!! よくぞ来た姫君!! 歓迎するぞ!!」
クロキ達が空船を降りるとハルセスがやって来て両手を広げて歓迎する。
トトナが来てくれた事がとても嬉しい様子であった。
ハルセスはどう見てもトトナに気があるようなそぶりだ。
トトナはそんなはずはないと否定するが、クロキにはどう見てもそうとしか思えない。
トトナは今までに何度かジプシールに来たが、そんなそぶりは一度もなかったそうだ。
それにしてもネルはどう思っているのだろうかとクロキは考える。
婚約しているはずなのにハルセスが他の女性を口説いてもネルは何も言わない。
ライオンのように雌同士では争わないのかもしれなかった。
ライオンは1匹の雄に対して複数の雌で群れを作る。
そしてまた、ライオンのメスは自身が産んだ子供以外にも授乳したり、協力して養育する。
ハルセス達も同じなのかもしれなかった。
現にスフィンクスの女性は親友同士で同じ男の妻になりたがるとクロキは聞いた事があった。
クロキがそんな事を考えていると、ネルが側に来て寄り添う。
時々抱き着くなどスキンシップが激しい。
だけど、可愛い猫に懐かれたみたいで悪い気はしない。むしろ嬉しかったりする。
「そう。ありがとう王子」
歓迎すると言われてもトトナの反応は微妙だ。
帽子を目深に被りハルセスの視線から逃れようとしている。
「やがてはレーナと共にこのハルセスの側に永遠に来るが良いぞ」
ハルセスは「ふっ」と笑う。
褐色の肌に明るい髪。全体に獅子の特徴があり、背中には大きなハヤブサの翼を持つ
しかし、ハルセスはどちらかと言えば人間の方に近く、イシュティアの息子だけあって、美男子だ。
もっともレイジやアルフォスに比べると三枚目だろう。
「ハルセス王子。冗談はそこまでにして欲しい。今は砂嵐の対策を聞きたい」
トトナはそっけなく返す。
「それならば問題はない。あのいけ好かない勇者が何とかするだろう」
「光の勇者が?」
「ああ、その通りだ。奴め、新たな力を手に入れたようだからな。俺に任せておけと言いおった」
ハルセスは悔しそうに言う。
「そう……。勇者が新しい力を」
「そうだ。だが、それよりも、どうだ、トトナ。それまでハルセスと共にここで茶でも飲まぬか?」
「王子。お誘いはありがたい。だけど、レーナの勇者が手に入れた新しい力が気になる。彼は一番前の船にいるはず。会いに行く」
ハルセスの返事を待たずにトトナは移動する。
空船同士の距離は離れているが飛翔の魔法を使えば移動する事は簡単だろう。
「待ってにゃあ!! トトナん!!」
ネルもクロキもトトナの後を追う。
「待て、トトナ!! 奴に会いに行くだと!! それはいかん!! もし行くのなら!! このハルセスも共に行こう!!」
最後にハルセスがトトナの後を追う。
こうして結局全員が行く事になった。
◆
チユキは遠視の魔法で空船から砂嵐を見る。
黄土色の煙が空へ立ち上り渦巻いている。
今はまだ遠いが、このまま進めばやがて空船は砂嵐に飲み込まれるだろう。
「これはすごいわね。レイジ君。もちろん大丈夫なのでしょうね?ハルセス王子に大見得を切ったのだから」
チユキは船首に立ち、同じように砂嵐の方角を見るレイジに声を掛ける。
「もちろんだ。チユキ。出来ない事は言わないさ」
レイジはチユキに背を向けて言う。
背中の様子から笑っているのがチユキにはわかる。
「まあ、レイジなら大丈夫よチユキ。上位精霊の力を使うつもりなのでしょう? レイジ?」
「ああ、そのとおりだ。イシュティア。俺と契約した精霊の力で砂嵐ぐらい打ち消してみせる」
レイジとイシュティアは笑う。
チユキが眠っている間に黄金のピラミッドへと行ってレイジは上位精霊の力を得た。
チユキは何だかレイジとイシュティアの距離が近いような感じがした。
チユキがそんな事を考えていると誰かがこちらに来る。
トトナとネルとハルセスに、そして天敵であった。
「やあ、トトナ。来てくれたのかい? うん!!?」
トトナの顔を見て笑おうとしたレイジはハルセスに気付き、微妙な顔になる。
ハルセスはハルセスで機嫌が悪そうであった。
本当は来たくなかったのかもしれない。
争いにならない事をチユキは願う。
「あら、ハル君が来るなんて珍しいわ。ふふ、レイジが気になるのね。良いわ。とても良いわ。男が争う姿はとても見ていて楽しいもの」
イシュティアは楽しそうに笑う。
実の子供でも、容赦がない。
それを見てハルセスが複雑そうな顔になる。
「ふん!! それよりも砂嵐の様子はどうなのだ!!」
ハルセスは偉そうに言う。
「王子。落ち着いて、今魔法の映像で映し出す」
トトナがそう言うとハルセスは「ぐっ!!」と呻き声を出して黙る。
トトナが呪文を唱え、魔法の映像を作り出す。
映像では黄土色の煙が吹き荒れている。
「あれ? 今何か砂嵐の中に見えない?」
チユキは映像を指差す。
砂嵐の中に細長い影が見えたのである。
「あれは、おそらく大砂蟲。今回の砂嵐は大砂蟲が原因だと思う」
「大砂蟲? って言うと流砂の原因になると言われる巨大な芋虫のあれの事?初めて見たわ」
「そう黒髪の賢者。あれ程大きく成長した大砂蟲は初めて見る」
大砂蟲は砂漠の地下を移動する巨大な蟲だ。
小さい物でも10メートルを超え、大きい者だと1つの都市を飲み込む程になる。
この巨大な蟲は食事をする時に周囲にある砂と一緒に周りの生物を吸いこむ。
その時に流砂が起こるのである。
突然砂が流れ始めたら、大急ぎでその場から離れなければ大砂蟲に吸い込まれてしまうだろう。
そして、この大砂蟲のもう一つの特徴として一定量の砂を飲み込んだら、数か月に一度、一斉に吐き出すのである。
その時に砂嵐が起きる。
チユキ達はその大砂蟲が吐き出す砂嵐に遭遇したのだ。
「あれ程大きく成長した大砂蟲なら3日は砂を吐き出すかもしれない。光の勇者レイジ、貴方に何とかできるの?」
トトナが言うとチユキは驚く。
3日間砂を吐き出すと言う事は、3日間砂嵐が治まらないと言う事だ。
トトナはレイジをじっと見ている。
トトナはいつも無表情なので、チユキには感情が読みとてなかった。
「ああ。もちろんだ。トトナ。俺が何とかしてみせる」
レイジは不適な笑みを浮かべる。
「その言葉に偽りはないだろうな!!? 光の勇者!! もし何も出来なければ!!! その命をもらうぞ!!」
「ちょっとハルセス王子!! そんな約束はできません!!」
チユキはそんな約束はさせられないので抗議をする。
「いいんだ、チユキ!! 良いだろう王子!! 失敗したら、この命くれてやるよ!!」
そう言うとレイジは船の進行方向を見る。
しばらくすると、魔法を使わなくても、巨大な土煙が上がるのが見える。
土煙は徐々に大きくなり近づいて来る。
このままでは飲み込まれるだろう。
その場にいた全員がレイジを見る。
「舞い上がり、光り輝く者よ!! 俺の呼び声に応えよ!! 光翼の主ベンヌ!!」
レイジが叫ぶと空船の上空に輝く巨大な鳥が現れる。
光の上位精霊ベンヌ。
その名は鮮やかに舞い上がり、そして光り輝く者を意味する聖なる鳥である。
伝承では太陽を始まりの丘で抱きしめて誕生させたと言われている。
太陽のごとく輝きを持つ聖鳥ベンヌが羽ばたくと光の膜が3隻の空船を覆う。
間をおかず砂嵐が空船を襲う。
しかし、光の膜が砂嵐から空船を守る。
あたりが黄土色に染まり周囲が見えなくなる。
「ベンヌ!!!」
レイジの呼び声に応えベンヌが羽ばたく。
光の波動が砂嵐を打ち消していく。
砂嵐が消えた後に残ったのは天にも昇るように立つ巨大な芋虫だ。
この巨大な芋虫こそが大砂蟲なのだろう。
大砂蟲の体に開いた小さな穴からは砂が吹き出している。
しかし、そのたびにベンヌの羽ばたきが砂を吹き飛ばす。
大砂蟲の頭の所の穴には多数の触手がぬめぬめと動いている。
「うわっ!!気持ち悪!!」
チユキは思わず叫んでしまう。
それぐらい大砂蟲の姿は不快だった。
「放て!! 輝火の光翼!!」
再びレイジの呼び声に応えベンヌが羽ばたく。
ベンヌの翼がさらに輝く。
とても眩しくて、大砂蟲を見るのがやっとだった。
大砂蟲が光の翼に飲み込まれ、消えていく。
やがて光が消えると大砂蟲の姿はどこにもなかった。
「ありがとう!! ベンヌ!!」
レイジがそう言うとベンヌの姿が消える。
「さすが、やるわね!! レイジ!! 光の上位精霊を使いこなすなんて!! 私が見込んだ男なだけあるわ!!」
イシュティアは嬉しそうに言う。
「貴様の力ではないぞ!! ベンヌの力が凄まじかっただけだ!! それを忘れるな!!」
それに対してハルセスは悔しそうである。
「どうだい、トトナ? 俺の力は?」
レイジはハルセスを無視してトトナを見る。
何かを期待しているようにも見える。
「なるほど……。確かにその力を見せてもらった。レーナの勇者」
そう言うトトナの表情を見てチユキは疑問に思う。
彼女は普段から無表情で感情がわからない。
だけど、何となくだけど不安そうに見えたのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
サンドワーム!!サンドワーム!!( ゜∀゜)o彡°
鳥取県のロゴが入った巨大サンドワームを見て、これは砂漠編で絶対出さないといけないと思いました。
光の上位精霊は色々と候補がありましたが、エジプトなのでベンヌにしました。
そして、今年の更新はこれで終わりになります。再開は来年1月4日を予定しています。
実は英語化はグーグル翻訳で簡単に出来ると思ったのですが、思ったより時間がかかりそうです。
そのため、年末年始はその作業をします。2章までは英語化したいです……。
また、絵も描きたい(>_<)どこまで出来るかわかりませんが頑張ります。
最後にカクヨムの近況ノートで年始の挨拶をしたいと思います。
それでは皆さん良いお年をm(_ _)m
黄金の宮殿から、四隻の空船が空を飛ぶ。
ジプシールの上空は防衛のため空船を出す事は制限されている。
しかし、女王であるセクメトラの許可さえあれば可能である。
目指すは奪われたピラミッド。
これから黄金の砂漠を越えて、南東の方角へと向かう予定であった。
この空船の艦隊を指揮するのは名目上ハルセスだが、実質的には軍神であるイスデスである。
本来ならハルセスは出撃せずアルナックに待機する予定だった。
だけど、セクメトラに頼み込んで、危険な時は撤退する事を条件に出撃の許しを得た。
壮麗な黄金細工で彩られた巨大な空船にハルセス多くの妻達と共に乗り、意気揚々と進んでいる。
ハルセスの乗る空船は巨大で以前に見たアルフォスの空船よりも大きい。
そのハルセスの空船の周りを4隻の空船が飛び、周囲にはハルセスの配下であるハヤブサ頭の鳥人が周囲を警戒するように飛んでいる。
その空船の後ろを自分とトトナはキマイラに乗り飛んでいる。
空は青く、日差しが強い。
もっとも、魔法で防御しているので問題はない。
「あのトトナ。そんなに密着されると……」
クロキは後ろでしがみ付いているトトナに言う。
トトナはいつもの分厚いローブ姿に戻っている。
しかし、密着されるとその服の下隠された膨らみの感触を背中に感じてしまう。
このままだと股間が大変な事になるだろう。
少し離れてもらわないと困る。
振り向くとクロキはトトナの方を見ながら言う。
「どうしたの、クロキ? 私達は夫婦も同然。くっつくのは当然」
そう言うトトナの顔はいつもの通り無表情だ。
しかし、どこかクロキの反応を楽しんでいるようであった。
「あのトトナ。今はメジェドなのですが……」
今クロキはメジェドの姿だ。
もちろん白い布の下には腰巻を巻いている。
これで、布がめくれても、直に空気に触れされる事で世界と一体になる解放感を味わう変態と誤解されなくてすむ。
だから、これ以上はくせになる事はないはずであった。
クロキは一体になりたくなるのを我慢する。
「大丈夫。勇者達は先頭だから、ここから離れている。本当の名を言っても聞こえない」
トトナの言う通り、レイジ達と離れている。
普通なら、この距離だと聞こえないはずだ。
しかし、この世界ではレイジ達の身体能力は高くなっている。
もしかすると、聴覚も高くなっている可能性もあるので油断しない方が良いだろう。
「ですが、トトナ。油断はしない方が……。自分の正体がバレると面倒な事になります」
「わかっている。でも今だけはこうさせて」
その言葉の後、トトナはクロキの背中に額をくっつける。
クロキは暖かい何かを感じる。
このまま空を飛ぶのも良いかと思える。
「ぐるるるる」
突然キマイラが鳴く。
「ごめんなさい。少し長く飛び過ぎた」
キマイラは少し辛そうであった。
さすがに長時間飛び過ぎたようなので、そろそろ、空船に戻った方が良さそうであった。
クロキ達が乗っていたのは最後尾の一番小さい空船である。
これはネルが所有する空船で、船員も全てケットシーだ。
船首の部分が可愛い猫になっていてクロキは思わず和んでしまう。
「お帰りにゃん。トトナん」
空船に戻るとネルがクロキ達を出迎えてくれる。
彼女の執事であるヴァロンも一緒だ。
本来ならネルもハルセスと同じくアルナックに残らなければならなかった。
しかし、無理を言って付いて来たのだ。
「何か忙しそうだけどどうしたの? ネル?」
トトナの言う通りだった。
船員の上着を身に付けたケットシー達が何か慌てている。
「それが大変なのにゃん!!大きな砂嵐が近づいているのにゃん!!」
「砂嵐が? この船は大丈夫なの?」
「それは……。わからないにゃん。ヴァロンは規模によってはこの船は耐えられないと言ってたにゃん」
どうやら、まずい状況のようであった。
「トトナ様!! お戻りになられましたか!! 先程ハルセス様の使いが来まして!! この船をハルセス様の船に収容するとの事です!!」
執事である黒猫のヴァロンがこちらに来る。
ネルの空船はとても小さい。巨大なハルセスの空船に収容できるほどであった。
ハルセスの船の後部が大きく開きネルの空船が収容されて行く。
「おおっ!! よくぞ来た姫君!! 歓迎するぞ!!」
クロキ達が空船を降りるとハルセスがやって来て両手を広げて歓迎する。
トトナが来てくれた事がとても嬉しい様子であった。
ハルセスはどう見てもトトナに気があるようなそぶりだ。
トトナはそんなはずはないと否定するが、クロキにはどう見てもそうとしか思えない。
トトナは今までに何度かジプシールに来たが、そんなそぶりは一度もなかったそうだ。
それにしてもネルはどう思っているのだろうかとクロキは考える。
婚約しているはずなのにハルセスが他の女性を口説いてもネルは何も言わない。
ライオンのように雌同士では争わないのかもしれなかった。
ライオンは1匹の雄に対して複数の雌で群れを作る。
そしてまた、ライオンのメスは自身が産んだ子供以外にも授乳したり、協力して養育する。
ハルセス達も同じなのかもしれなかった。
現にスフィンクスの女性は親友同士で同じ男の妻になりたがるとクロキは聞いた事があった。
クロキがそんな事を考えていると、ネルが側に来て寄り添う。
時々抱き着くなどスキンシップが激しい。
だけど、可愛い猫に懐かれたみたいで悪い気はしない。むしろ嬉しかったりする。
「そう。ありがとう王子」
歓迎すると言われてもトトナの反応は微妙だ。
帽子を目深に被りハルセスの視線から逃れようとしている。
「やがてはレーナと共にこのハルセスの側に永遠に来るが良いぞ」
ハルセスは「ふっ」と笑う。
褐色の肌に明るい髪。全体に獅子の特徴があり、背中には大きなハヤブサの翼を持つ
しかし、ハルセスはどちらかと言えば人間の方に近く、イシュティアの息子だけあって、美男子だ。
もっともレイジやアルフォスに比べると三枚目だろう。
「ハルセス王子。冗談はそこまでにして欲しい。今は砂嵐の対策を聞きたい」
トトナはそっけなく返す。
「それならば問題はない。あのいけ好かない勇者が何とかするだろう」
「光の勇者が?」
「ああ、その通りだ。奴め、新たな力を手に入れたようだからな。俺に任せておけと言いおった」
ハルセスは悔しそうに言う。
「そう……。勇者が新しい力を」
「そうだ。だが、それよりも、どうだ、トトナ。それまでハルセスと共にここで茶でも飲まぬか?」
「王子。お誘いはありがたい。だけど、レーナの勇者が手に入れた新しい力が気になる。彼は一番前の船にいるはず。会いに行く」
ハルセスの返事を待たずにトトナは移動する。
空船同士の距離は離れているが飛翔の魔法を使えば移動する事は簡単だろう。
「待ってにゃあ!! トトナん!!」
ネルもクロキもトトナの後を追う。
「待て、トトナ!! 奴に会いに行くだと!! それはいかん!! もし行くのなら!! このハルセスも共に行こう!!」
最後にハルセスがトトナの後を追う。
こうして結局全員が行く事になった。
◆
チユキは遠視の魔法で空船から砂嵐を見る。
黄土色の煙が空へ立ち上り渦巻いている。
今はまだ遠いが、このまま進めばやがて空船は砂嵐に飲み込まれるだろう。
「これはすごいわね。レイジ君。もちろん大丈夫なのでしょうね?ハルセス王子に大見得を切ったのだから」
チユキは船首に立ち、同じように砂嵐の方角を見るレイジに声を掛ける。
「もちろんだ。チユキ。出来ない事は言わないさ」
レイジはチユキに背を向けて言う。
背中の様子から笑っているのがチユキにはわかる。
「まあ、レイジなら大丈夫よチユキ。上位精霊の力を使うつもりなのでしょう? レイジ?」
「ああ、そのとおりだ。イシュティア。俺と契約した精霊の力で砂嵐ぐらい打ち消してみせる」
レイジとイシュティアは笑う。
チユキが眠っている間に黄金のピラミッドへと行ってレイジは上位精霊の力を得た。
チユキは何だかレイジとイシュティアの距離が近いような感じがした。
チユキがそんな事を考えていると誰かがこちらに来る。
トトナとネルとハルセスに、そして天敵であった。
「やあ、トトナ。来てくれたのかい? うん!!?」
トトナの顔を見て笑おうとしたレイジはハルセスに気付き、微妙な顔になる。
ハルセスはハルセスで機嫌が悪そうであった。
本当は来たくなかったのかもしれない。
争いにならない事をチユキは願う。
「あら、ハル君が来るなんて珍しいわ。ふふ、レイジが気になるのね。良いわ。とても良いわ。男が争う姿はとても見ていて楽しいもの」
イシュティアは楽しそうに笑う。
実の子供でも、容赦がない。
それを見てハルセスが複雑そうな顔になる。
「ふん!! それよりも砂嵐の様子はどうなのだ!!」
ハルセスは偉そうに言う。
「王子。落ち着いて、今魔法の映像で映し出す」
トトナがそう言うとハルセスは「ぐっ!!」と呻き声を出して黙る。
トトナが呪文を唱え、魔法の映像を作り出す。
映像では黄土色の煙が吹き荒れている。
「あれ? 今何か砂嵐の中に見えない?」
チユキは映像を指差す。
砂嵐の中に細長い影が見えたのである。
「あれは、おそらく大砂蟲。今回の砂嵐は大砂蟲が原因だと思う」
「大砂蟲? って言うと流砂の原因になると言われる巨大な芋虫のあれの事?初めて見たわ」
「そう黒髪の賢者。あれ程大きく成長した大砂蟲は初めて見る」
大砂蟲は砂漠の地下を移動する巨大な蟲だ。
小さい物でも10メートルを超え、大きい者だと1つの都市を飲み込む程になる。
この巨大な蟲は食事をする時に周囲にある砂と一緒に周りの生物を吸いこむ。
その時に流砂が起こるのである。
突然砂が流れ始めたら、大急ぎでその場から離れなければ大砂蟲に吸い込まれてしまうだろう。
そして、この大砂蟲のもう一つの特徴として一定量の砂を飲み込んだら、数か月に一度、一斉に吐き出すのである。
その時に砂嵐が起きる。
チユキ達はその大砂蟲が吐き出す砂嵐に遭遇したのだ。
「あれ程大きく成長した大砂蟲なら3日は砂を吐き出すかもしれない。光の勇者レイジ、貴方に何とかできるの?」
トトナが言うとチユキは驚く。
3日間砂を吐き出すと言う事は、3日間砂嵐が治まらないと言う事だ。
トトナはレイジをじっと見ている。
トトナはいつも無表情なので、チユキには感情が読みとてなかった。
「ああ。もちろんだ。トトナ。俺が何とかしてみせる」
レイジは不適な笑みを浮かべる。
「その言葉に偽りはないだろうな!!? 光の勇者!! もし何も出来なければ!!! その命をもらうぞ!!」
「ちょっとハルセス王子!! そんな約束はできません!!」
チユキはそんな約束はさせられないので抗議をする。
「いいんだ、チユキ!! 良いだろう王子!! 失敗したら、この命くれてやるよ!!」
そう言うとレイジは船の進行方向を見る。
しばらくすると、魔法を使わなくても、巨大な土煙が上がるのが見える。
土煙は徐々に大きくなり近づいて来る。
このままでは飲み込まれるだろう。
その場にいた全員がレイジを見る。
「舞い上がり、光り輝く者よ!! 俺の呼び声に応えよ!! 光翼の主ベンヌ!!」
レイジが叫ぶと空船の上空に輝く巨大な鳥が現れる。
光の上位精霊ベンヌ。
その名は鮮やかに舞い上がり、そして光り輝く者を意味する聖なる鳥である。
伝承では太陽を始まりの丘で抱きしめて誕生させたと言われている。
太陽のごとく輝きを持つ聖鳥ベンヌが羽ばたくと光の膜が3隻の空船を覆う。
間をおかず砂嵐が空船を襲う。
しかし、光の膜が砂嵐から空船を守る。
あたりが黄土色に染まり周囲が見えなくなる。
「ベンヌ!!!」
レイジの呼び声に応えベンヌが羽ばたく。
光の波動が砂嵐を打ち消していく。
砂嵐が消えた後に残ったのは天にも昇るように立つ巨大な芋虫だ。
この巨大な芋虫こそが大砂蟲なのだろう。
大砂蟲の体に開いた小さな穴からは砂が吹き出している。
しかし、そのたびにベンヌの羽ばたきが砂を吹き飛ばす。
大砂蟲の頭の所の穴には多数の触手がぬめぬめと動いている。
「うわっ!!気持ち悪!!」
チユキは思わず叫んでしまう。
それぐらい大砂蟲の姿は不快だった。
「放て!! 輝火の光翼!!」
再びレイジの呼び声に応えベンヌが羽ばたく。
ベンヌの翼がさらに輝く。
とても眩しくて、大砂蟲を見るのがやっとだった。
大砂蟲が光の翼に飲み込まれ、消えていく。
やがて光が消えると大砂蟲の姿はどこにもなかった。
「ありがとう!! ベンヌ!!」
レイジがそう言うとベンヌの姿が消える。
「さすが、やるわね!! レイジ!! 光の上位精霊を使いこなすなんて!! 私が見込んだ男なだけあるわ!!」
イシュティアは嬉しそうに言う。
「貴様の力ではないぞ!! ベンヌの力が凄まじかっただけだ!! それを忘れるな!!」
それに対してハルセスは悔しそうである。
「どうだい、トトナ? 俺の力は?」
レイジはハルセスを無視してトトナを見る。
何かを期待しているようにも見える。
「なるほど……。確かにその力を見せてもらった。レーナの勇者」
そう言うトトナの表情を見てチユキは疑問に思う。
彼女は普段から無表情で感情がわからない。
だけど、何となくだけど不安そうに見えたのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
サンドワーム!!サンドワーム!!( ゜∀゜)o彡°
鳥取県のロゴが入った巨大サンドワームを見て、これは砂漠編で絶対出さないといけないと思いました。
光の上位精霊は色々と候補がありましたが、エジプトなのでベンヌにしました。
そして、今年の更新はこれで終わりになります。再開は来年1月4日を予定しています。
実は英語化はグーグル翻訳で簡単に出来ると思ったのですが、思ったより時間がかかりそうです。
そのため、年末年始はその作業をします。2章までは英語化したいです……。
また、絵も描きたい(>_<)どこまで出来るかわかりませんが頑張ります。
最後にカクヨムの近況ノートで年始の挨拶をしたいと思います。
それでは皆さん良いお年をm(_ _)m
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コメント
眠気覚ましが足りない
年末年始の忙しさで更新に気づいてなかった!!
更新お疲れ様です。
昨年はお疲れ様でした。今年も頑張ってくださいませ。
cyber
黒木ではなく、レイジのキャラクターを開発している気がします。 黒木が彼の問題を避け続けるなら、主人公を変えるべきだと思う。
黒木が勝者であり、まだ失望し、負けた人だと思っていたのに、なぜレイジは失敗し、まだ勝者の栄光を持っていたのですか? この新しいバージョンでは、黒木とレイジの小さな戦いについて少し修正する必要があると思います。黒木が勝ち負けに勝ち、何も得られずに勝つことにうんざりしています1 何も変更せずに勝ちました。 また、私はエリオスと他の人たちがナルゴルの利益と悪霊の戦いの間に座っていることを望みません。これは本当に迷惑です。
根崎タケル
今年最後の更新です。
英語化の道は遠いです。
皆様良いお年を。