暗黒騎士物語
蠍神の毒
知識と書物の女神トトナは姉である医と薬草の女神ファナケアと義理の姉妹である知恵と勝利の女神アルレーナと共に母である結婚と出産の女神フェリアの私室へと来る。
「よく集まりました、私の娘達よ」
フェリアはトトナ達を見て言う。
ファナケアとトトナはフェリアの実の娘で、レーナはフェリアの義理の娘である事から天界の三姉妹と呼ばれる事もある。
三姉妹女神はフェリアの自慢の娘達であり、その全員が集まっている。
「さて、トールズの事ですが、ファナ。容体はどうなのですか?」
「はいお母様。トールズの事ですが、体は動かず、眠り続けていますが、命に別状はありません。ただ、正面から毒を受けましたので、目覚めるのが何時になるのかわかりません」
ファナケアは悲しそうに言う。
蠍神ギルタルの毒は神族の持つ毒の中ではそこまで強力ではない。
下位の種族が受ければ死ぬだろうが、神族ならば死ぬ事はない。
毒の耐性を持つ神ならば体の動きが少し鈍るぐらいだろう。
ただし、毒の耐性が無い、又は当たり所が悪ければ、ずっと体が痺れて動けなくなる可能性もある。
そして、トールズはギルタルの毒を正面から受けてしまった。
そのため、未だに起き上がれないでいる。
「ファナ。解毒剤はどうしたのです? なぜ使わないのですか?」
「実はお母様、解毒剤の量が足りないのです。そして、新たに作ろうにも材料が足りません。調達をしないと、どうにもならないのです……」
ファナケアの言葉にフェリアは溜息を吐く。
「そうですか……。何が足りないのです? ファナ?」
「さ……、蠍神の毒です。お師匠様の資料にはそう書かれていました」
ファナケアが師匠と言うとフェリアの眉が不機嫌そうにぴくりと動く。
ファナケアが言う師匠というのは魔王モデスに仕える大魔女ヘルカートの事である。
元々ファナケアの医療や薬草の知識はヘルカートがエリオスに残した物である。
ファナケアは短い期間ヘルカートに弟子入りしていた。
フェリアはそれが気に入らないのだ。
フェリアは破壊神ナルゴルの力を受け継いだ魔王を何よりも嫌う。
トトナが生まれる前の事である。
フェリアは聖母神ミナ様がナルゴルに殺される所に居合わせていた。
その時は物陰に隠れ何とか助かったが、オーディスが駆けつけた時は恐怖でガタガタと震えている状態であった。
それ以来、フェリアはナルゴル恐怖症だ。
そして、その力を受け継ぐ魔王モデスをも同じように怖れている。
エリオスの女神が魔王を嫌う理由には容姿が醜いのもあるが、女神の頂点に立つフェリアの影響でもある。
「ファナケア。蠍神の毒という事はギルタルの毒が必要なの?」
「いいえ、レーナ。ギルタルでなくても同じ毒を持つ者ならば、誰でも良いわ」
「そう……。それなら誰がいるかしら?」
その場にいる者達全員が考える。
そして、トトナはある者の事を思い付いた。
「ブルウル。ギルタルの妹がジプシールに住んでいるはず」
全員の視線がトトナに集まる。
「それは本当ですか? トトナ?」
トトナはそのフェリアの言葉に頷く。
「間違いない。確かにそう」
ギルタルの妹であるブルウルはジプシールに住んでいる。
トトナの知る限り、兄ギルタルに比べて大人しい性格だったはずであった。
礼を尽くせば毒をくれるかもしれなかった。
「なるほど……。ギルタルの妹ですか。エリオスの者以外の手を借りるのは気が進みませんが、仕方が有りません。手を借りる事にしましょう」
「でも、フェリア様。それだと問題があります。ジプシールは私達の力が及びません。ブルウルも手を貸してくれるかどうか?」
「確かにそうですねレーナ。ですが、ジプシールならイシュティの力が及びます。ヘイボスに頼むという手もありますが、動いてくれるかどうかわかりません。ですからイシュティに頼みましょう」
フェリアは笑って言う。
(そんなに簡単にいくのだろうか?)
トトナはジプシールを支配する者の事を考える。
ジプシールを支配する女王はそんなに甘い性格ではない事をトトナは知っている。
毒と引き換えに大変な事を頼まれる可能性もある。
それならば魔王を頼った方が良いとトトナは思う。
性格の優しい魔王に頼めば、ヘルカートから薬を貰えるだろう。
しかし、フェリアにその考えはない。
フェリアからしたら、魔王よりもジプシールの方がましなのである。
「そういえばお母様。イシュティア様が解毒剤を欲しがっていました。ええと……、何でも光の勇者が必要としているらしいです」
ファナケアはレーナの方を見て申し訳なさそうに言う。
「光の勇者って、レイジの事? どうしてレイジが解毒剤を必要とするのかしら? それになぜイシュティア様がレイジと一緒にいるの?どういう事?」
レーナは首を傾げる。
「わからないわ、レーナ。でも光の勇者の仲間の剣士がギルタルの毒で倒れたと聞いているわ」
「剣士って、もしかしてシロネが!!?」
レーナは突然大声を上げて驚く。
トトナはその声を聴いて首を傾げる。
なぜかレーナの声は嬉しそうであった。
「落ち着きなさい。レーナ。イシュティが貴方の勇者の所にいる事が気になるのはわかりますが、今は我慢して、レーナ」
「申し訳ございません。フェリア様」
レーナはフェリアに頭を下げる。
「さて、ファナ。イシュティに蠍神の毒を手に入れるように連絡するのです」
「はい。お母様」
そう言ってファナケアが退室する。
「さて、後はイシュティに任せましょう」
フェリアは安心したように言う。
しかし、トトナにはうまく行くとは思えなかった。
(師匠に相談できないだろうか?)
トトナは都合の良い事を考える。
ファナケアが大魔女ヘルカートの弟子なら、トトナは魔王の宰相ルーガスの弟子である。
ルーガスは世界で一番の知識の持ち主である。
トトナは師匠ならば良い方法を教えてくれるかもしれないと思う。
トトナは姉のファナケアと違って、師匠であるルーガスと今でも連絡を取り合っている。
それにナルゴルにはクロキがいる。
(ナルゴルに行けば、クロキに会えるかもしれない)
トトナは兄が大変な状態だというのに、そんな事を考えるのだった。
◆
チユキ達は女神イシュティアの空船に乗って私達の拠点であるエルド王国へと戻る。
エルド王宮のシロネの寝室にはチユキの他にレイジとサホコとリノにナオ、そしてキョウカにカヤがいる。
その場の全員が倒れたシロネを心配そうに見ている。
シロネにはサホコの治癒魔法の効果がなく、眠り続けたままであった。
「ごめんなさい。私の力じゃどうにもならないみたい……」
「サホコのせいじゃない。毒が特殊なんだ。仕方がないさ」
サホコが謝るとレイジが慰める。
「そうよ、サホコさん。シロネさんの命は大丈夫なはずだし、解毒剤が来たら、すぐに目を覚ますはずだわ」
チユキもサホコを慰める。
「ところで、知らせなくても良いのですの?」
同じように心配そうな顔をしていたキョウカが突然言う。
「キョウカさん? 誰に知らせるの?」
リノが不思議そうに聞く。
「もちろんクロキさんの事です。シロネさんが倒れたと知ったら、きっと心配なさいますわ」
キョウカの言葉にチユキ達は顔を見合わせる。
クロキというのはシロネの幼馴染の暗黒騎士の事である。
「確かに彼はシロネさんの事を大切に思っているらしいわね。だから、出来る事なら伝えた方が良いかもしれない。でも、彼は今魔王の元にいる。下手をすると戦いになるわ」
チユキは首を振って答える。
「あら、そうなるとは思えませんわ。わたくしが行けばきっと応対してくれると思いますわよ」
キョウカが胸を張って言うと、その場の全員が顔を見合わせる。
「おお! キョウカさんはかなり信頼しているみたいっすね。もしかすると案外良いかもしれないっすよ。そうやって近づいて、こちら側に引き寄せるっすよ」
ナオはうんうんと頷く。
それに対してレイジとカヤは微妙な顔をする。
「私としてはあまりあの男に近づいて欲しくないのですが?」
カヤは歯切れが悪そうに言う。
「どうしてですの? カヤ? 殿方に慣れた方が良いと言ったのは貴方だったはずですわ。それにクロキさんはわたくしにとても優しかったわ。近づいても問題があるとは思えませんわよ」
キョウカはカヤに反論する。
そのキョウカの様子にチユキ達は驚く。
キョウカがカヤの意見に反論するなんて珍しいからである。
「確かにそう言ったのですが、まさかお嬢様がそんな……、本気になるかもしれないと思うと……。やはり近づくべきではありません! そうです! あの者は優しい顔をした野獣です!」
カヤは突然大声を出す。
「野獣? そうかしら? とても紳士的に感じましたけど?」
「いーえ!! 駄目です!! お嬢様!! あの者のお嬢様の胸元を見る時の目は野獣そのものです!! ぜーったいに!! 近づいてはいけません!!」
カヤが駄々っ子のようにキョウカに言う。
その様子にチユキ達はさらに驚く。
「ど、どうしたの? カヤさん? いつものカヤさんじゃないみたい」
サホコが目を丸くする。
「ホントびっくりだよ。いつも冷静なカヤさんがあんなになるなんて……」
「そうっすねリノちゃん。ビックリっすよ」
「本当だわ。普段は冷静沈着のカヤさんが……。珍しいわ」
チユキ達はカヤを見る。
いつもと違って子供のようであった。
「ど、どうしたのですの? カヤ?まるで昔に戻ったみたいですわ」
「絶対に近づいては駄目です!! 男なんて汚らわしい野獣です!! 特にあの者からは危険な感じがします!! 近づいてはいけません!!」
カヤはサホコの方を横目で見て言う。
サホコのお腹が大きくなっている。
レイジの子がいるのだ。
チユキは正直何をやっているんだと言いたいが、サホコも望んだ事なので我慢している。
カヤは引く様子がなく、思い付くままに欠点をあげ連ねてキョウカに迫る。
キョウカはカヤの剣幕にしどろもどろになっている。
「キョウカ。このまま目を覚まさないならともかく、解毒剤のあてはある。奴に知らせる必要はないさ。むしろいらない心配をかけると思うぜ」
レイジが2人の間に割って入りキョウカを説得する。
「そう……。お兄様がそう言われるのなら。そうなのかもしれませんわね」
キョウカはまだカヤの言う事を納得していないみたいだが、レイジの言葉を聞く事で場を収める。
「ここにいたのね? レイジ? 探したわよ」
突然、扉が開けられて何者かが部屋に入ってくる。
暴力的な胸を持つ女神イシュティアであった。
愛と美の女神イシュティアはエリオスの神々の一柱で、恋愛や踊り、そして幸運を司る。
信仰している者は踊り子や娼婦に博徒、そして盗賊である。
その彼女は何故かエルド王国に滞在している。
先ほどまで彼女はエルドの上空にある自身の空船にいた。
「イシュティア! 解毒剤はどうなったんだ!?」
レイジはイシュティアに詰め寄る。
その顔は真剣であった。
本当にシロネの事を本当に心配しているである。
仲間が大変な時に巨乳美女にデレデレしていたら、さすがのチユキも怒ったであろう。
「それなんだけどね。ちょっと問題があったみたいなの」
イシュティアは申し訳なさそうな顔をする。
「どういう事なのですか女神イシュティア? 解毒剤は届かないですか?」
「イシュティアで良いわ。その代わり私も貴方の事をチユキと呼ぶわ。それから解毒剤の事なのだけど、どうやら在庫がないみたいなのよね。そうでしょうピスティス」
イシュティアが横にいる少年に聞く。
少年は一見普通の人間に見える。
しかし、その正体は神族でありイシュティアと同じぐらい長く生きている。
盗みの神ピスティス
それが少年神の名であり、本当の姿は両手両足に六本の指を持つ猿神にして、女神イシュティアの従属神である。
チユキはこのピスティスについて、面白い神話を知っていた。
昔鍛冶神ヘイボスの持っていた首飾りをイシュティアが欲しがった事があった。
しかし、ヘイボスはその首飾りをイシュティアに渡す事を拒んだ。
それを知ったピスティスはヘイボスから首飾りを盗み、イシュティアに渡したのである。
当然ヘイボスはその事を神王オーディスに訴えた。
オーディスは神王としてイシュティアに首飾りを返還するように言うが、イシュティアは首を横にして返そうとしなかった。
その時のイシュティアの言葉はこうだ。
「このように美しい首飾りは私のような美女が身に付けてこそ価値が有ります。ヘイボスはこの首飾りを宝物庫にしまうだけ、宝の持ち腐れです。よってピスティスの行った行為は正当なものであり、首飾りは返しません」
そう言うとイシュティアは自分の宮殿へと戻ったそうだ。
このイシュティアの言葉を聞いたオーディスとヘイボスは開いた口が塞がらなかったらしい。
この神話からピスティスの信徒である盗賊達の教義として女神イシュティアのためにするならば盗みは許されるのである。
具体的には盗んだ金の何割かをイシュティア神殿に奉納するのが一般的だが、他にも娼婦に貢ぐか賭博場にて金を落しても、イシュティアのためと言う事になっている。
「はい、イシュティア様。先程ファナケア様から薬の在庫はないという連絡があったんですよ~」
ピスティスは首を振って答える。
「それは本当か!!」
レイジがイシュティアとピスティスに詰め寄る。
「ごめんなさいね。レイジ。でも大丈夫よ。材料さえあれば薬は作れるわ」
イシュティアはレイジを宥める。
「そうか、ではその材料はどこにあるんだ?」
「ふふ、それはジプシールよ。それで相談なのだけど私と共に一緒に来てくれないかしら? レイジ?」
そう言ってイシュティアは妖艶な笑みを浮かべるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
なぜか時間がなく、執筆が進まなかったりします。
時間どろぼうに盗まれているかも、助けてMOMO……。
設定資料集のヘイボスとイシュティアを上げようと思ったら、7章のネタバレがありました。
もう少し上げるのは先になります。
「カクヨム」でも読んで下さると嬉しいです。
「よく集まりました、私の娘達よ」
フェリアはトトナ達を見て言う。
ファナケアとトトナはフェリアの実の娘で、レーナはフェリアの義理の娘である事から天界の三姉妹と呼ばれる事もある。
三姉妹女神はフェリアの自慢の娘達であり、その全員が集まっている。
「さて、トールズの事ですが、ファナ。容体はどうなのですか?」
「はいお母様。トールズの事ですが、体は動かず、眠り続けていますが、命に別状はありません。ただ、正面から毒を受けましたので、目覚めるのが何時になるのかわかりません」
ファナケアは悲しそうに言う。
蠍神ギルタルの毒は神族の持つ毒の中ではそこまで強力ではない。
下位の種族が受ければ死ぬだろうが、神族ならば死ぬ事はない。
毒の耐性を持つ神ならば体の動きが少し鈍るぐらいだろう。
ただし、毒の耐性が無い、又は当たり所が悪ければ、ずっと体が痺れて動けなくなる可能性もある。
そして、トールズはギルタルの毒を正面から受けてしまった。
そのため、未だに起き上がれないでいる。
「ファナ。解毒剤はどうしたのです? なぜ使わないのですか?」
「実はお母様、解毒剤の量が足りないのです。そして、新たに作ろうにも材料が足りません。調達をしないと、どうにもならないのです……」
ファナケアの言葉にフェリアは溜息を吐く。
「そうですか……。何が足りないのです? ファナ?」
「さ……、蠍神の毒です。お師匠様の資料にはそう書かれていました」
ファナケアが師匠と言うとフェリアの眉が不機嫌そうにぴくりと動く。
ファナケアが言う師匠というのは魔王モデスに仕える大魔女ヘルカートの事である。
元々ファナケアの医療や薬草の知識はヘルカートがエリオスに残した物である。
ファナケアは短い期間ヘルカートに弟子入りしていた。
フェリアはそれが気に入らないのだ。
フェリアは破壊神ナルゴルの力を受け継いだ魔王を何よりも嫌う。
トトナが生まれる前の事である。
フェリアは聖母神ミナ様がナルゴルに殺される所に居合わせていた。
その時は物陰に隠れ何とか助かったが、オーディスが駆けつけた時は恐怖でガタガタと震えている状態であった。
それ以来、フェリアはナルゴル恐怖症だ。
そして、その力を受け継ぐ魔王モデスをも同じように怖れている。
エリオスの女神が魔王を嫌う理由には容姿が醜いのもあるが、女神の頂点に立つフェリアの影響でもある。
「ファナケア。蠍神の毒という事はギルタルの毒が必要なの?」
「いいえ、レーナ。ギルタルでなくても同じ毒を持つ者ならば、誰でも良いわ」
「そう……。それなら誰がいるかしら?」
その場にいる者達全員が考える。
そして、トトナはある者の事を思い付いた。
「ブルウル。ギルタルの妹がジプシールに住んでいるはず」
全員の視線がトトナに集まる。
「それは本当ですか? トトナ?」
トトナはそのフェリアの言葉に頷く。
「間違いない。確かにそう」
ギルタルの妹であるブルウルはジプシールに住んでいる。
トトナの知る限り、兄ギルタルに比べて大人しい性格だったはずであった。
礼を尽くせば毒をくれるかもしれなかった。
「なるほど……。ギルタルの妹ですか。エリオスの者以外の手を借りるのは気が進みませんが、仕方が有りません。手を借りる事にしましょう」
「でも、フェリア様。それだと問題があります。ジプシールは私達の力が及びません。ブルウルも手を貸してくれるかどうか?」
「確かにそうですねレーナ。ですが、ジプシールならイシュティの力が及びます。ヘイボスに頼むという手もありますが、動いてくれるかどうかわかりません。ですからイシュティに頼みましょう」
フェリアは笑って言う。
(そんなに簡単にいくのだろうか?)
トトナはジプシールを支配する者の事を考える。
ジプシールを支配する女王はそんなに甘い性格ではない事をトトナは知っている。
毒と引き換えに大変な事を頼まれる可能性もある。
それならば魔王を頼った方が良いとトトナは思う。
性格の優しい魔王に頼めば、ヘルカートから薬を貰えるだろう。
しかし、フェリアにその考えはない。
フェリアからしたら、魔王よりもジプシールの方がましなのである。
「そういえばお母様。イシュティア様が解毒剤を欲しがっていました。ええと……、何でも光の勇者が必要としているらしいです」
ファナケアはレーナの方を見て申し訳なさそうに言う。
「光の勇者って、レイジの事? どうしてレイジが解毒剤を必要とするのかしら? それになぜイシュティア様がレイジと一緒にいるの?どういう事?」
レーナは首を傾げる。
「わからないわ、レーナ。でも光の勇者の仲間の剣士がギルタルの毒で倒れたと聞いているわ」
「剣士って、もしかしてシロネが!!?」
レーナは突然大声を上げて驚く。
トトナはその声を聴いて首を傾げる。
なぜかレーナの声は嬉しそうであった。
「落ち着きなさい。レーナ。イシュティが貴方の勇者の所にいる事が気になるのはわかりますが、今は我慢して、レーナ」
「申し訳ございません。フェリア様」
レーナはフェリアに頭を下げる。
「さて、ファナ。イシュティに蠍神の毒を手に入れるように連絡するのです」
「はい。お母様」
そう言ってファナケアが退室する。
「さて、後はイシュティに任せましょう」
フェリアは安心したように言う。
しかし、トトナにはうまく行くとは思えなかった。
(師匠に相談できないだろうか?)
トトナは都合の良い事を考える。
ファナケアが大魔女ヘルカートの弟子なら、トトナは魔王の宰相ルーガスの弟子である。
ルーガスは世界で一番の知識の持ち主である。
トトナは師匠ならば良い方法を教えてくれるかもしれないと思う。
トトナは姉のファナケアと違って、師匠であるルーガスと今でも連絡を取り合っている。
それにナルゴルにはクロキがいる。
(ナルゴルに行けば、クロキに会えるかもしれない)
トトナは兄が大変な状態だというのに、そんな事を考えるのだった。
◆
チユキ達は女神イシュティアの空船に乗って私達の拠点であるエルド王国へと戻る。
エルド王宮のシロネの寝室にはチユキの他にレイジとサホコとリノにナオ、そしてキョウカにカヤがいる。
その場の全員が倒れたシロネを心配そうに見ている。
シロネにはサホコの治癒魔法の効果がなく、眠り続けたままであった。
「ごめんなさい。私の力じゃどうにもならないみたい……」
「サホコのせいじゃない。毒が特殊なんだ。仕方がないさ」
サホコが謝るとレイジが慰める。
「そうよ、サホコさん。シロネさんの命は大丈夫なはずだし、解毒剤が来たら、すぐに目を覚ますはずだわ」
チユキもサホコを慰める。
「ところで、知らせなくても良いのですの?」
同じように心配そうな顔をしていたキョウカが突然言う。
「キョウカさん? 誰に知らせるの?」
リノが不思議そうに聞く。
「もちろんクロキさんの事です。シロネさんが倒れたと知ったら、きっと心配なさいますわ」
キョウカの言葉にチユキ達は顔を見合わせる。
クロキというのはシロネの幼馴染の暗黒騎士の事である。
「確かに彼はシロネさんの事を大切に思っているらしいわね。だから、出来る事なら伝えた方が良いかもしれない。でも、彼は今魔王の元にいる。下手をすると戦いになるわ」
チユキは首を振って答える。
「あら、そうなるとは思えませんわ。わたくしが行けばきっと応対してくれると思いますわよ」
キョウカが胸を張って言うと、その場の全員が顔を見合わせる。
「おお! キョウカさんはかなり信頼しているみたいっすね。もしかすると案外良いかもしれないっすよ。そうやって近づいて、こちら側に引き寄せるっすよ」
ナオはうんうんと頷く。
それに対してレイジとカヤは微妙な顔をする。
「私としてはあまりあの男に近づいて欲しくないのですが?」
カヤは歯切れが悪そうに言う。
「どうしてですの? カヤ? 殿方に慣れた方が良いと言ったのは貴方だったはずですわ。それにクロキさんはわたくしにとても優しかったわ。近づいても問題があるとは思えませんわよ」
キョウカはカヤに反論する。
そのキョウカの様子にチユキ達は驚く。
キョウカがカヤの意見に反論するなんて珍しいからである。
「確かにそう言ったのですが、まさかお嬢様がそんな……、本気になるかもしれないと思うと……。やはり近づくべきではありません! そうです! あの者は優しい顔をした野獣です!」
カヤは突然大声を出す。
「野獣? そうかしら? とても紳士的に感じましたけど?」
「いーえ!! 駄目です!! お嬢様!! あの者のお嬢様の胸元を見る時の目は野獣そのものです!! ぜーったいに!! 近づいてはいけません!!」
カヤが駄々っ子のようにキョウカに言う。
その様子にチユキ達はさらに驚く。
「ど、どうしたの? カヤさん? いつものカヤさんじゃないみたい」
サホコが目を丸くする。
「ホントびっくりだよ。いつも冷静なカヤさんがあんなになるなんて……」
「そうっすねリノちゃん。ビックリっすよ」
「本当だわ。普段は冷静沈着のカヤさんが……。珍しいわ」
チユキ達はカヤを見る。
いつもと違って子供のようであった。
「ど、どうしたのですの? カヤ?まるで昔に戻ったみたいですわ」
「絶対に近づいては駄目です!! 男なんて汚らわしい野獣です!! 特にあの者からは危険な感じがします!! 近づいてはいけません!!」
カヤはサホコの方を横目で見て言う。
サホコのお腹が大きくなっている。
レイジの子がいるのだ。
チユキは正直何をやっているんだと言いたいが、サホコも望んだ事なので我慢している。
カヤは引く様子がなく、思い付くままに欠点をあげ連ねてキョウカに迫る。
キョウカはカヤの剣幕にしどろもどろになっている。
「キョウカ。このまま目を覚まさないならともかく、解毒剤のあてはある。奴に知らせる必要はないさ。むしろいらない心配をかけると思うぜ」
レイジが2人の間に割って入りキョウカを説得する。
「そう……。お兄様がそう言われるのなら。そうなのかもしれませんわね」
キョウカはまだカヤの言う事を納得していないみたいだが、レイジの言葉を聞く事で場を収める。
「ここにいたのね? レイジ? 探したわよ」
突然、扉が開けられて何者かが部屋に入ってくる。
暴力的な胸を持つ女神イシュティアであった。
愛と美の女神イシュティアはエリオスの神々の一柱で、恋愛や踊り、そして幸運を司る。
信仰している者は踊り子や娼婦に博徒、そして盗賊である。
その彼女は何故かエルド王国に滞在している。
先ほどまで彼女はエルドの上空にある自身の空船にいた。
「イシュティア! 解毒剤はどうなったんだ!?」
レイジはイシュティアに詰め寄る。
その顔は真剣であった。
本当にシロネの事を本当に心配しているである。
仲間が大変な時に巨乳美女にデレデレしていたら、さすがのチユキも怒ったであろう。
「それなんだけどね。ちょっと問題があったみたいなの」
イシュティアは申し訳なさそうな顔をする。
「どういう事なのですか女神イシュティア? 解毒剤は届かないですか?」
「イシュティアで良いわ。その代わり私も貴方の事をチユキと呼ぶわ。それから解毒剤の事なのだけど、どうやら在庫がないみたいなのよね。そうでしょうピスティス」
イシュティアが横にいる少年に聞く。
少年は一見普通の人間に見える。
しかし、その正体は神族でありイシュティアと同じぐらい長く生きている。
盗みの神ピスティス
それが少年神の名であり、本当の姿は両手両足に六本の指を持つ猿神にして、女神イシュティアの従属神である。
チユキはこのピスティスについて、面白い神話を知っていた。
昔鍛冶神ヘイボスの持っていた首飾りをイシュティアが欲しがった事があった。
しかし、ヘイボスはその首飾りをイシュティアに渡す事を拒んだ。
それを知ったピスティスはヘイボスから首飾りを盗み、イシュティアに渡したのである。
当然ヘイボスはその事を神王オーディスに訴えた。
オーディスは神王としてイシュティアに首飾りを返還するように言うが、イシュティアは首を横にして返そうとしなかった。
その時のイシュティアの言葉はこうだ。
「このように美しい首飾りは私のような美女が身に付けてこそ価値が有ります。ヘイボスはこの首飾りを宝物庫にしまうだけ、宝の持ち腐れです。よってピスティスの行った行為は正当なものであり、首飾りは返しません」
そう言うとイシュティアは自分の宮殿へと戻ったそうだ。
このイシュティアの言葉を聞いたオーディスとヘイボスは開いた口が塞がらなかったらしい。
この神話からピスティスの信徒である盗賊達の教義として女神イシュティアのためにするならば盗みは許されるのである。
具体的には盗んだ金の何割かをイシュティア神殿に奉納するのが一般的だが、他にも娼婦に貢ぐか賭博場にて金を落しても、イシュティアのためと言う事になっている。
「はい、イシュティア様。先程ファナケア様から薬の在庫はないという連絡があったんですよ~」
ピスティスは首を振って答える。
「それは本当か!!」
レイジがイシュティアとピスティスに詰め寄る。
「ごめんなさいね。レイジ。でも大丈夫よ。材料さえあれば薬は作れるわ」
イシュティアはレイジを宥める。
「そうか、ではその材料はどこにあるんだ?」
「ふふ、それはジプシールよ。それで相談なのだけど私と共に一緒に来てくれないかしら? レイジ?」
そう言ってイシュティアは妖艶な笑みを浮かべるのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
なぜか時間がなく、執筆が進まなかったりします。
時間どろぼうに盗まれているかも、助けてMOMO……。
設定資料集のヘイボスとイシュティアを上げようと思ったら、7章のネタバレがありました。
もう少し上げるのは先になります。
「カクヨム」でも読んで下さると嬉しいです。
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コメント
Kyonix
「京香」 は好きですか 「カヤ」
ナットです。タイにいます。
Thanks for the update!!
Raven
Thank the Gods of Nargol, an update! I was getting worried because author-san hasn't updated for quite a while and thought something might have happened. Stay safe and healthy author-sama
眠気覚ましが足りない
更新お疲れ様です。
設定だけを見せられると、読者としてはいつか使われることを求めてしまうものです。
でも、レンバーの冒険譚、出来そうではありませんか?
確か、なろう版ではレーナがレイジのもとへ材料が足りないと伝えに来るのでしたっけ?
キョウカとカヤのセリフも変わってましたね。
なろう版よりもキョウカのクロキに対する好意がハッキリ出ているように思えます。しかし、リジェナなどと違って今後どうするかわかりませんね。キョウカ本人の言うように、いつか本当に顔パスになってしまいそうな気もしますし。
カヤはなろう版ではいきなり大声をあげていましたが、少し大人しくなったでしょうか。言っている事は変わってないんですけどね。
根崎タケル
更新しました。
設定資料集は完全に自分の趣味です。
やはり作者自身が創作を楽しまないと、続かなかったりします。
だから、消化しなくても問題はないのです。
自分はファンタジーの世界を作りたい。
その世界の広がりを設定資料で感じてくれたら嬉しく思います。