暗黒騎士物語

根崎タケル

竜の覚醒

「どうだ!! 暗黒騎士!! 近づかなければ僕の勝ちだ!!」
「うおう!!!」

 アルフォスが叫びながら射ってくる矢をクロキは身を反らして避ける。
 矢が当たった庭園の床が爆発して衝撃波が足元から伝わってくる。
 一矢でも食らえば大ダメージに違いない。
 アルフォスは先ほどから近づかず遠くから弓矢で攻撃してくる。
 はっきり言ってズルいとクロキは思う。
 確かに近づいてくれなければ剣は届かない。
 何とか距離を縮めるしかないが、それは難しかった。
 クロキの周囲には水晶のような氷の鎧で武装した雪の乙女スノーメイデン達が空を飛んでいる。
 彼女達はクロキがアルフォスに近づこうとすると氷の槍を使い邪魔してくる。
 そのため彼女達を排除しようとすると、今度はアルフォスが弓矢で牽制してくる。
 かなり、不利な状況であった。
 そして、生半可な攻撃ではアルフォスや雪の乙女スノーメイデン達はすぐに回復してしまう。
 結界を破壊しなければクロキの勝利は難しい。
 中にいる竜達の力を目覚めさせれば可能だろうけど、この力はまだ制御できない。
 だから、クロキはできれば使いたくなかった。

「いい加減に僕の矢を受けたまえ!! 暗黒騎士!!!」

 空中から矢を放つアルフォスが馬鹿な事を言う。
 矢を受けろと言われて受ける奴がいるわけがない。
 クロキは水晶庭園クリスタルガーデンを走り回り、矢から逃れる。

「ちょっと逃げないでよ! 暗黒騎士!!」
「大人しく矢を受けなさいよ!!」
「バーカ! バーカ!!」
「お願いだから! アルフォス様に勝たせてあげてよ!!」

 空船の美女達が無茶な事を言う。
 クロキは「誰がやられてたまるか!!」と言い返したくなる。

「何?!!!」

 クロキが逃げ回っている時だった。
 何もなかった所に突然に巨大な氷の壁が現れてクロキの行く手を塞ぐ。
 雪の乙女スノーメイデンの仕業かどうかはクロキにはわからない。
 しかし、この空間はアルフォスにとって有利に働く。
 突然壁が現れても不思議ではない。
 油断したとクロキは焦る。

「これで終わりだ! 暗黒騎士!!」

 叫び声と共にアルフォスが矢を放つ。
 逃げ場はない。

「こなくそ!!!」

 逃げ場のないクロキはやけくそで魔剣に魔力を込めると矢を打ち返す。

「馬鹿な!? 矢を打ち返しただと!? ぐわあっ!!!」

 今度はクロキではなくアルフォスの方が驚きの声を出す。
 打ち返された矢はアルフォスの左肩に命中する。
 矢が当たりアルフォスは空から落ちて床に激突する。
 クロキが飛び道具対策のために編み出したこの技は実戦で使うのは初めてだったりする。
 だけど、うまくいったようであった。
 矢を受けたアルフォスは庭園の床でのた打ち回る。

「どれだけヤバい魔法を込めていたんだよ……」

 クロキは自身が受けていたらと思うとゾッとする。
 空船にいる美女達が悲鳴を上げる。
 アルフォスは矢を受けたダメージで中々起き上がれないようであった。

(今のうちに叩く! そうでなければ次は矢を打ち返せないかもしれない!)

 クロキは矢を打ち返した時の衝撃で崩した体勢を立て直すと、前傾の姿勢を取り一気に移動する。
 空間を縮める事で相手との距離をゼロにする。
 キョウカと一緒にいたカヤが使った縮地という技であった。
 しかし、アルフォスの方へと向かおうとするクロキの正面から強烈な吹雪が襲い掛かる。

「な!? 雪の女王スノークィーン!?」

 突然現れた雪の女王《スノークィーン》はオーロラ色に輝く吹雪を放ちクロキの行く手を遮る。
 クロキが行く手を阻まれている間にアルフォスは起き上がろうとする。

「させるか!! 斬撃よ! 空間を飛び! 敵を斬り裂け!!」

 クロキは剣に魔力を込めて斬撃を飛ばす。
 斬撃はこの距離なら届くはずであった。
 吹雪を斬り裂きながら斬撃がアルフォスへと真っすぐ飛ぶ。

「ぐわああああ!!!!」

 アルフォスの右腕から血しぶきが飛ぶ。
 しかし、倒すには浅く、アルフォスは右腕から血を流しながら距離を取る。

「やってくれたなああああ!! 暗黒騎士!!!」

 起き上がったアルフォスはすごい形相でクロキを睨む。
 最初に見せた貴公子の姿はすでにない。
 傷はすぐに治るかもしれないがダメージを受ければ痛みは残る。
 その痛みがアルフォスの淡麗な顔を歪ませている。

「剣でも弓でも倒せないなら!! 僕の最大の魔法で仕留めてやる!!」

 アルフォスはそう言うと浮かび上がる。
 その体がオーロラ色に輝く。
 輝きはアルフォスだけではなく、天空のオーロラもまた輝きを強めている。
 鏡面のような庭園の床が天空のオーロラを写し、空間全体を輝かせる。

「な!? 何だ、これ!!?」

 クロキは自身に向かってくるオーロラの輝きが纏わりつくと動きが取れなくなる。
 鎧はヘイボス神が作った特別製であり、普通なら凍りつくはずがない。
 しかし、その鎧が凍りつきはじめていた。
 輝きと共に強い圧力がクロキを押しつぶそうとする。
 空間が縮まっているような感じであった。

「どうだい!! この水晶庭園の魔力の全てを受けている気持ちは!! 魂すら凍りつかせ砕く!! 僕の最大の魔法は冷気の耐性を持つ者だって耐える事は不可能なのさ!!!」

 アルフォスは高らかに笑う。
 空間が縮まりオーロラの輝きがクロキに向かって収束する。
 水晶庭園の全てがクロキに向かっているのだ。
 周囲の空間までもが凍り、クロキは先ほどから震えが止まらなくなる。
 肉体だけでなく、精神すら凍りつくかのようであった。

(このままじゃまずい! 仕方がない! 自分の中にいる竜達よ!!)

 クロキは竜達の力を目覚めさせようとする。
 制御できるかわからないがやるしかなかった。

「永遠に溶けない水晶の牢獄で眠るがいい!! 暗黒騎士!!!」

 アルフォスの笑い声と共にクロキの体は凍りつこうとしていた。






 上空にあったオーロラが消えて、青空が広がっている。
 ポレンの目の前には巨大な氷の柱、いや光り輝く水晶の塔がそびえ立っていた。
 アルフォスの作った水晶庭園はクロキを凍りつかせるために全ての魔力を使い果たして消えた。
 雪の女王スノークィーン雪の乙女スノーメイデン達も魔力を使い果たしたのかもういない。
 ただ、アルフォスだけが空中を飛んでいる。

「はははははは!! 僕の勝ちだ!! 褒めてあげるよ暗黒騎士!! 僕にこの魔法を使わせたのだからね!! この美しい墓標で永遠に眠りたまえ!!!」

 アルフォスの笑い声が天空に響く。
 それを聞いた美女達が喜びの声を上げる。

「やった! やった! アルフォス様の勝ちよ!!」
「そうよ! 最後に勝のはアルフォス様に決まっているわ!!」
「そうそう! 悪は滅ぶ運命にあるのよ!!」
「アルフォス様―! カッコ良い―――!!!」

 美女達が喜ぶのとは裏腹にポレンの気持ちが沈んでいくのがわかる。

「ああ……。ポレン殿下……。閣下が……。閣下が……。大変なのさ」

 ポレンの隣のプチナがあわあわと慌てる。
 もちろん慌てているのはポレンも一緒である。

「あわわわわわわわ!! しっ、師匠!! クーナ師匠! 先生が! クロキ先生が!!!」

 ポレンはクーナに言う。
 しかし、クーナは全く慌てておらず、その視線は真っすぐに水晶の柱に注がれている。

「ふふ、アルフォスの勝ちのようですね魔女よ。暗黒騎士はアルフォスの魔法で凍りつきました。貴方達の負けです」

 ミューサは勝ち誇ったようにクーナに言う。
 その後ろには美女達の何名かが付いて来て、ポレン達を見下す。
 美女達の顔もまた勝ち誇っている。
 その顔を見てポレンは泣きたくなる。

「ふん。愚かだな、本当に勝ったとでも思っているのか?」

 しかし、泣いているポレンとは違いクーナは笑い、ミューサ達を見返す。

「何を言っているのですか!? 魔女よ!? アルフォスの最強の魔法は肉体だけでなく魂すらも砕くのですよ!! 暗黒騎士は水晶の牢獄で永遠の眠りについたはずです!!」

 ミューサは声を荒げて言う。

「それはどうかな? 聞こえないか? あの水晶の塔から響く竜の咆哮が? クーナの耳にははっきりと聞こえているぞ」

 クーナがそう言うとポレンとミューサ達は水晶の柱を見る。

「何……? あれ……?」

 美女の1人が呟く。
 そこでポレンも気付く。
 水晶の柱が震えている。
 そして、振動するたびに中から唸り声のようなものが聞こえて来る。

「ばっ、馬鹿な!? 僕の最大の魔法を受けてなお生きているというのか!?」

 アルフォスが絶叫した時だった。
 水晶にひびが入る。
 そして、次の瞬間。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 天を揺るがす咆哮が聞こえると水晶が完全に割れて、中から黒い炎が噴き出す。

「そんな!? ありえないいいいいいいいいいいいいいいい!!?」

 空中を飛ぶアルフォスは砕かれた水晶の塔から吹き上げてくる黒い炎を見て叫ぶ。
 炎は天空に吹き上がると広がり青空を黒く染め上げて行く。

「ちょっと!? 何あれ!?」

 美女の一名が空を指差す。
 天空を覆い尽くす黒い炎の中から巨大な何かが見える。
 それは巨大な黒い竜だった。
 あまりにも巨大すぎて、この空船が小舟に見えるぐらいである。
 黒い竜が翼を広げると黒い炎が体から吹き出し、青空を黒く染め上げて行く。
 黒い竜が翼を羽ばたかせると空船が激しく揺れる。
 まるで嵐の中の小舟のようだ。
 美女達が悲鳴を上げてそれぞれ甲板のどこかに掴まる。

「この化け物がああ!!!!!」

 アルフォスは巨大な竜に矢を放つ。
 しかし、矢は黒い炎により一瞬で消されてしまう。
 黒い竜が煩わしい虫を払うように前足を振るう。
 その一撃でアルフォスは吹き飛ばされる。

「ぐわあああああああ!!!」
「アルフォス!!!!」

 アルフォスが吹き飛ばされるとミューサは悲痛な叫びをあげる。
 吹き飛ばされたアルフォスは地面へと叩きつけられる。

「なっ、何なのですか!? あの竜は!? 答えなさい、魔女よ!!」

 ミューサはクーナを睨む。

「そんなの決まっているぞ。あれはクロキだ。クロキの中に眠る数十匹の竜の力が解放されたのだ。クーナも初めて見るがこれ程とはな。クロキは自分でも制御できないから使いたがらないが、これはすごい! ははは! すごい!! すごいぞ、クロキ!!!」

 クーナは楽しそうにはしゃぐ。
 その様子はとても嬉しそうであった。

「いやあああああ! アルフォス様ああああ!!!!」

 美女達の悲鳴でポレンは空船の外を見ると、巨大な竜が地面に叩きつけたアルフォスに追撃をしている。
 アルフォスは何とか逃れようとするが避けきれず吹き飛ばされる。
 空中に飛ばされたアルフォスを竜が再び地面に叩きつける。
 その様子はまるで遊んでいるかのようであった。
 それを見ている美女達が悲鳴を上げ、泣き始める。

「やっやめさせなさい!! 魔女よ!! 貴方達の勝ちです!! 早くやめさせて!! お願い!! アルフォスが死んでしまう!!」

 ミューサはクーナの前に座り込み懇願する。
 それはポレンも同じであった。
 これ以上はやりすぎである。
 それに美男子は世界の宝。アルフォスを失うのはもったいなかった。
 だけど、クーナはミューサの様子を見て冷たく笑う。

「はあ? 何を言っている? 何故クーナが止めねばならない? それよりもお前は自らの心配をするのだな!!!」

 そう言うとクーナは立ち上がるとミューサを蹴り飛ばす。
 そして、クーナは立ち上がると大鎌を取る。

「そろそろ頃合いだ! ブス共! その絶望した顔は中々愉快だぞ! その表情のまま首を掻き斬ってやろう!!」
「なっ!!!」

 ミューサは恐怖の表情を浮かべ後ろに下がる。
 クーナの様子に気付いた美女達が悲鳴を上げる。
 慌てて何名かの美女達が武器を取る。

「ちょ、ちょっと!! 師匠!! 先生は勝負が終わるまでは大人しくしてなさいって言ってましたよ!!」

 ポレンはクーナを引き留める。

「何を言っている? ポレン? 勝負はクロキの勝ちで終わっているぞ。先程ミューサもそう言っていただろうが」
「あっ、そうだった!!」

 クーナに言われてポレンは先程ミューサが言った台詞を思い出す。

(駄目だ! 止められそうにない!)

 ポレンにとって性格の悪い美女達は好きに慣れないが殺す程ではない。
 どうしようかとポレンは迷う。
 この中でクーナに敵う者はいなさそうであった。このままでは虐殺が始まるだろう。
 美女達の顔が恐怖に染まる。
 クーナは大鎌を持ち近づく。

「待ちなさい!!!」

 そんな時だった。
 突然声がする。
 そして、ポレンが声をした方を見た瞬間だった。
 ポレンは目を奪われる。
 そこにはとても美しい女神がいた。
 いつの間にか別の空船がポレン達のいる空船に横付けされていた。
 女神はその空船の甲板からポレン達を見ている。
 明るくキラキラと輝くような髪に、透けるような白い肌。服の上からでもわかる豊かな胸、だけど腰はとても細い。
 顔の造形は完璧で、綺麗な瞳はとても力強い。
 ポレンは見た瞬間その存在感に圧倒される。
 それは他の美女達も一緒で全員がその女神を見ている。
 一瞬で場の空気を支配してしまった。
 
(だ、誰なの? この師匠並みの美女は?)

 ポレンは突然現れた女神を見て、その正体を考える。

「レーナ様……」

 美女の一名が呟く。

「レーナ様だわ! レーナ様が来てくれたわ!!」
「レーナ様! レーナ様が助けに来てくれたわ!!」
「レーナ様! レーナ様!!」
「レーナ様が来てくれた! これで勝てる!!」

 美女達が喜びの声を出す。

(この女神が知恵と勝利の女神アルレーナ? 初めて見た)

 美女達の言葉でポレンは突然現れた女神の正体を知る。
 レーナの事はポレンも知っている。
 アルフォスの妹でこの世界でもっとも美しいとされる三美神の一柱である。
 そのレーナがポレン達のいる空船へと乗り込んで来る。

「レーナ! 何しに来た! 邪魔をするのならお前でも許さないぞ!!」

 クーナはレーナを睨む。

(あれ? よく見たら師匠とレーナってすっごく似てない?)

 ポレンはクーナとレーナを見て首を傾げる。
 事情を知らないポレンが疑問に思うのは当然だった。

「悪いけど大人しくしてくれるかしら?」

 そういうとレーナは掌をクーナに向ける。
 レーナに掌を向けられた、クーナは跪く。

「おま……。クーナの体を……。動け……」

 クーナは苦しそうにレーナを睨む。

「本物である私なら貴方の動きを封じるぐらいならできるわ!! 大人しくしていなさい!! クーナ!!!」

 レーナは勝ち誇ったように言う。

(う、嘘!? 師匠に何があったの!?)

 突然クーナが動かなくなったのでポレンはおろおろする。

「レーナ様! 悪魔達が近づいています!!」

 レーナのお供の天使が報告する。
 ポレンが後ろを見ると飛竜ワイバーンに乗ったデイモン達が近づいて来ていた。

「こちらから手を出しては駄目よ、ニーア。大人しくこの船に乗せて上げなさい」

 レーナがそう言うと天使達が驚く。
 それを聞いてポレンは安心する。
 近づいて来ているのはポレンの父親である魔王の配下だ。
 迎えに来て来たようであった。

「殿下――! ポレン殿下――!!!!」

 デイモン達がこの船に乗り込む。

「殿下! ご無事でしたか!!!」

 女性のデイモンがポレンの前で跪く。

「グゥノ。そちらが手を出さないのなら、こちらも手出しはしません。大人しく見ていなさい」

 レーナはデイモンを睨んで言う。

「なぜ? 私の名を? しかし、殿下がいる以上はこちらも無理は出来ない……」

 名前を呼ばれたグゥノは驚いて呻く。

「レーナ! アルフォスが! アルフォスが!!!」

 ミューサがレーナに縋り付く。
 今現在もアルフォスはクロキに吹き飛ばされ、黒い嵐の中を木の葉のように舞っている。

「まさか……。まさか……。暗黒騎士がこんな力を隠しているなんて……」

 ミューサは泣きながら、訴える。
 
「あれでも力を抑えてくれている方なのよ……。ミューサ。この子達がいるからでしょうね。だけど、いつまで抑え込めるかわからない。このままだと、まずいわ。全くアルフォスも世話がやける」

 レーナは溜息を吐く。

「何をするつもりだ……。レーナ。折角クロキが本気を出そうとしているのに……。それを邪魔するつもりか……」

 クーナは苦しそうにレーナに言う。

「まあ、確かに私も本気を見てみたいわね。でも、それだとこの辺り一帯は死の大地に変わるでしょうね。それはちょっとやりすぎ。だから止めさせてもらうわよ」

 レーナは竜となったクロキを見て微笑む。

「危険ですレーナ様! あのような化け物を止めるなんて! 無理です! 逃げましょう!!」

 天使が叫ぶ。
 ポレンも無理だと思う。クロキが咆哮するたびに恐怖がポレンの内側から湧きだして来ていた。
 美女達の中にも恐怖のあまり腰を抜かして、中には気絶している者もいる。
 さらには漏らしている者もいるぐらいであった。
 正直ポレンもおしっこちびりそうであった。

「何を言っているのかしらニーア? 私になら止められるわ! アルフォスの北風では駄目! 彼を抑えられるのは太陽である私だけよ! 見てなさい!!」

 そう言うとレーナは船から飛び出す。
 レーナは黒い嵐の中を飛び地面に叩きつけられたアルフォスを守るように巨大な竜となったクロキの前へと行く。

「馬鹿な!! 自殺行為だ!!」

 女性のデイモン達が叫ぶ。
 巨大な竜となったクロキに比べてレーナは豆粒程の大きさでしかない。
 誰が見ても自殺行為であった。
 しかし、レーナの体が光り輝いた瞬間だった。
 竜となったクロキの動きが止まる。
 それは信じられない光景だった。

「嘘……。竜が鎮まった……」

 美女の一名が呟く。
 それは信じられない光景だった。
 レーナの輝きが増すごとにクロキの動きが小さくなる。
 竜の咆哮も弱弱しくなり、大人しくなる。

「あああ!! 竜が!! 竜が!! 鎮まっていく!!」
「すごい……。レーナ様……。あんな怖ろしい竜を鎮めるなんて……」
「まるで、太陽のようだわ!! まさに光の女神!!!」
「なんて神々しい御姿なの……」
「美しい光……。アルフォス様を助けるために危険を顧みないなんて」
「ああ!! レーナ様!! レーナ様!!」

 美女達がその光景を見て感動する。
 中には涙を流している者もいる。
 ポレンまでも感動してしまいそうになる。

「どっどういう事なのさ?! 閣下が鎮まっているのさ?!!!」
「本当!? どういう事なの!? 先生が大人しくなっている!?」

 ポレンとプチナが驚いた顔をして言う。

「不思議な事ではないぞ……、ポレン。精神が繋がっているのなら、それは可能だ。 レーナめ……。やってくれたな」
「えっ、精神が……? どういう事なんですか? 師匠?」

 ポレンは首を傾げる。
 クーナの言っている意味がわからなかった。

「それにしても……。おのれ……レーナ。折角クロキが本気を出したというのに……」

 しかし、クーナはポレンに答えず、悔しそうに大人しくなるクロキを見て呟く。
 だけど、ポレンとしてはこれで良かったと思う。 
 さすがにこれ以上はやりすぎであった。
 黒い竜となったクロキの体が黒い炎に包まれて小さくなっていく。
 ポレンが見上げると空を覆っていた黒い炎が収束して青空が戻っていく。
 完全に戻った青空に残ったのは暗黒騎士と光の女神。
 クロキ達が地上へと降りていく。
 地上には傷つき横たわったアルフォスがいる。
 倒れた聖騎士とそれを見下ろす暗黒騎士。
 勝負がついた瞬間であった。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

これにてアルフォス戦は決着です。
ちなみにカクヨムの11月のPVは現時点で53万だったりします。
さすがにカクヨムは人が多いです……。

コメント

  • ノベルバユーザー400289

    クロキがリア充イケメン勢に危害を加えられ、それでも煮え切らないクロキが漸く反撃を始めた途端、毎度の様に水入りとなる。どうせ相手を取り逃がすにしても、せめてクロキが受けた被害と釣り合う程度にはボコボコにしてからにして欲しいです。そうすれば結果として逃げられても、読者のヘイトは解消されるので良い気がします。

    2
  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。
    日中は仕事のため、夜中にポケモン最新作をゆっくり進めています。

    先生、ちょっとしたボケですから触れるならツッコむか流すかにして下さい。恥ずかしいので。

    外国の方のほうが現状読みやすい環境なのでしょうか。自分は紛れもない日本人ですけど。


    キョダイマックスしたのはクロキの方でした。

    アルフォスは、レーナを変えたのはクロキかも、とまで考えていながら、レーナの加護がクロキにあるとは思い至っていなかったのでしょうか。
    ちなみに、あるかどうかは明記されてませんけど、精神が繋がっているということはレーナを象徴とする勝利の概念がクロキに流れ込んでいる、と解釈していいでは?と思っての発言です。
    まぁ、アルフォスが見てきた今までのレーナから、とっくに全てを捧げているとまでは分かるわけないですね。魔法薬の定着は自業自得ですし、一目惚れしてたのも本当ですから、そこに至る過程と時間が短縮されただけですし。
    あれ?これってアルフォスに対するざまぁ?


    では、竜の覚醒から修正報告を。

    何だと? あれはクロキに決まっているぞ。

    そんなの決まっているぞ。あれはクロキだ。

    何だと?では言い返しているみたいですので、やめた方が良いかと。
    あるいは、何なのかだと?でしょうか。


    改めて見ると師匠とレーナは良く似てない

    よく見たら師匠とレーナってすっごく似てない?

    クーナだけを指すなら修正の必要は無いのですが、二人を指しているので、改めて、を使うと、前に見比べたときには気づかなかった、という意味が含まれることになります。本文中に、ポレンはレーナを初めて見たとあるので、この意味を省かなくてはなりませんので、よく見たら、に変えました。
    それに伴って後半の“良く”を“すっごく”に。
    『似てる』のレベルがカラバリ違いクラスになってしまってるようにも思えますが、実際は髪とか服とか僅かに身長が違うくらいだったと思うので大丈夫かと。
    最後の、似てない、はおそらく“?”が抜けていたと思われます。入れないとただの否定です。

    0
  • Raven

    Thanks for the update! Hahahaha get rekt Alfoss! Much more detailed than the ones in ncode and for some reason, I really love this novel. Please keep up the AWESOME work as always author-sama. From the Philippines.
    ♡⃛◟( ˊ̱˂˃ˋ̱ )◞⸜₍ ˍ́˱˲ˍ̀ ₎⸝◟( ˊ̱˂˃ˋ̱ )◞♡⃛

    1
  • ナットです。タイにいます。

    It’s アルフォス’s fault for waking up the dragon. Now who’s gonna put it back to sleep? ( ͡° ͜ʖ ͡°)

    When I thought this arc is ending soon I can’t help trying to remember the next arc and those main characters inside. Never thought I would be looking forward to seeing the appearance of メジェド again.

    Anyway, thank you for the chapter. Good night?

    2
  • 根崎タケル

    更新しました。

    眠気覚ましが足りない様、誤字報告ありがとうございます。
    修正しました。
    〇ンコ?

    外国の方も読んで下さっているので嬉しく思います。

    3
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