暗黒騎士物語

根崎タケル

白麗の聖騎士

「くそ!! 何で俺たちが後発なんだ!? レムス!?」

 そう言うとトルクスはレムスを睨むと首を掴む。
 トルクスは力が強いのでレムスはとても苦しくなる。

「そんな事を言われても……、そう決まったのだから仕方がないじゃないか……」

 レムスは首を横に振って答える。
 なぜトルクスが怒っているのは魔物のいる森への突入の順番だ。
 レムス達赤熊の戦士団は他の戦士団の後発になってしまったのである。
 戦士にとって先陣を行く事は名誉な事だ。
 そのため僕達赤熊の戦士団は誰よりも先に魔物と戦う事を誇りにしていた。
 しかし、それは他の戦士団にとっても同じことである。
 どの戦士団が先陣を切るのかで喧嘩になってしまった。
 そして、黒髪の賢者様の仲裁と話し合いで進む順番が決められた。
 その結果、レムス達は最後に突入する事になってしまった。
 その事を赤熊の戦士団の、特に若い団員達は不満に思っているのである。
 団を代表してレムスはカリスとアルカス団長と共に話し合いに参加した。
 カリスや団長に不満をぶつけるわけにはいかないから、矛先は自然レムスへと向けられる。

「全く手前から口を取ったら何が残るって言うんだ? え? 役に立たねえ奴だな?ケッ!!!」

 トルクスが悪態をつく。
 それは他の若い団員も同じだ。

「ちょっと!! 私達が最後になったのはレムスのせいじゃないよ! 全部黒髪の賢者様が決めた事なんだから!!」

 一番先を歩くカリスが振り向いて言う。
 カリスの言うとおり黒髪の賢者チユキはレムス達が最後に突入するように指名したのだ。
 なぜ、レムス達を最後にしたのかわからない。
 しかし、頭の良い賢者の言う事だ。何か深い考えがあるのだろうとレムスは思う。

「ちっ!! わかりましたよ。お嬢!!」

 カリスに注意されてトルクスは黙る。

「それよりもみんな! 親父達に早く追いつくよ!!」

 カリスは大声を上げる。
 アルカス団長が率いる熟練の戦士達の足は速い。あっというまに若い団員を置き去りにしてしまった。
 カリスとしてはもっと先に進みたいのである。
 しかし、若い団員を率いるように父親であるアルカス団長から命令されている。
 そのため、カリスはレムス達に合わせているのである。
 レムス達はカリスを先頭に森を進む。
 一番最後のせいだろうか、ここまで魔物に出くわす事はなかった。
 それよりも先発の戦士と巨大な蟲の魔物の死体があちこちに転がっている。
 それが戦いの激しさを物語っている。

「止まってみんな!!」

 突然カリスが全員を止める。
 カリスの前を見ると人間と魔物の死体がたくさん転がっている。
 だけど、それはここに来るまでに何度も見た光景である。
 レムスはなぜ急にカリスが止めたのかわからない。
 どうしたのだろうと首を傾げる。

「どうしたんですかい?お嬢?何もないですぜ」

 団員のデクノスがカリスの前に出る。
 彼は若い団員の中で一番体が大きく、魔物の生首を集めるのが趣味だ。
 今もゴブリンの生首を体中にぶら下げて鎧替わりにしている。

「下がって!! デクノス!! 何かいる!!」

 カリスが叫ぶと同時だった。
 死体の中から何かが突然出てくる。

「ふえ?」

 それがデクノスの最後の言葉だった。
 飛び出して来た何かに首を一瞬で掻き斬られる。
 デクノスは首から血を吹き出し、後ろへと倒れる。
 レムスは突然出てきた何かを見る。 
 突然出てきたのは赤い帽子を被ったゴブリンであった。

「ゴブリンだと!? 何も感じなかったぞ!!」

 トルクスが叫ぶ。
 トルクスは敵を感知する能力を持っている。しかし、ゴブリンに全く気付かなかった。
 赤い帽子を被ったゴブリンはレムス達を見てニヤリと笑う。
 ゴブリンは小柄なのを利用して人間の死体の中に隠れて僕達をやり過ごして後ろから襲うつもりだったのかもしれない。
 カリスが気付かなければ大変な事になっていただろう。
 気付かれた赤い帽子のゴブリンは逃げ出す。

「待ちやがれ!!」

 トルクスと数名の団員達が赤い帽子のゴブリンを追いかける。

「馬鹿!!待ちなさい!!」

 カリスの慌てた声。
 その声にトルクスの後を追おうとしていた団員の何人かが残る。

「そこ!!」

 カリスが斧を投げる。
 魔物死骸と人間の死体の間に隠れていたゴブリンが悲鳴を上げて飛び出す。
 隠れていたのは一匹だけではなかったようだ。
 ゴブリンは先ほどと同じように逃げていく。

「どうするカリス? トルクスを追う?」

 レムスの問いにカリスは首を振る。

「ダメ。何かが近づいてくる」

 カリスがそう言った時だった。
 森の影から何かが出てくる。
 影から出てきたのはレムスと同じくらいの大きさのキノコだ。
 もちろん普通のキノコではない。
 その巨大キノコには手足が生えていて、目と口がある。

「あれはバケキノコマイコニド? 気を付けて! 毒の胞子を飛ばしてくるかもしれない!」

 レムスは叫ぶ。
 バケキノコマイコニドは人間と同じように手足が生えたキノコの魔物だ。
 大きさはレムス達と同じくらいあり、普段は大人しく手を出さない限り襲ってくる事はない。
 ただ、ゴブリンの中にはバケキノコマイコニドを飼いならす者もいる。
 ゴブリンに飼われたバケキノコマイコニドは積極的に襲ってくる。
 現にバケキノコマイコニドの後ろからゴブリンが出てくる。

「みんな! 武器を構えて!!」

 カリスは素早く投げた斧を拾うと素早く構える。
 その目が金色に輝いている。カリスの持つ豹の霊感はどの獣の霊感よりも感知能力に優れている。
 隠れていた赤い帽子のゴブリン達が出て来たのは隠れるのが不可能と判断したからだろう。
 レムス達は全員武器を構える。
 トルクス達は先へと進んでしまった。そのためレムス達は半分の人員でゴブリンと戦わなくてはいけなくなったのだった。





 チユキ達は結界の中へと入り空から森の中を見る。

「まずいっすよチユキさん! このままだと全滅するかもしれないっす!!」

 ナオが森の自由戦士達の戦いぶりを見ながら言う。

「そうみたいね……。ゴブリンの方が連携しているわ。やっぱり止めるべきだったかもしれない」

 チユキは後悔する。何度も思ったが無理をしてでも止めるべきだった。
 遠視の魔法で戦士達の戦いぶりを見る限り、自由戦士達は赤い帽子レッドキャップのゴブリンが率いる魔物達により次々と打ち取られている。
 赤い帽子レッドキャップのゴブリンは通常のゴブリンよりも残忍で強い。
 彼らは人間の血を染料にして自らの衣服を飾る。
 過去に戦った赤い帽子レッドキャップのゴブリンの中には人間の皮を剥いで衣装にしていた者もいたぐらいだ。
 そのゴブリンと出会った時は、チユキはあまりの気持ち悪さに吐きそうになったぐらいだ。
 それ以外にも蟲の魔物も多い。
 これでは勝てない。

「何とか戦えているのは、アルカスさん達ぐらいだね」
「確かにそうねシロネさん。でも、このままだと危ないわ」

 チユキが下を見ると魔獣の皮を着た戦士団が戦っているのが見える。
 魔獣の血を原料した特殊な刺青により獣の霊感を得る事ができる。
 熊の魔獣の力を得たアルカスの戦いぶりはすさまじく、次々と魔物を倒している。
 しかし、彼らだけではどうにもならない。
 アルカス達以外の戦士達はそこまで強くなく、次々と倒れていく。

「ねえ、レイジさんどうするの? このままだとやられちゃうよ」

 リノがレイジに不安そうに言う。

「こうなっては全員を撤退させるのは難しい。しかし、できるだけ助けるべきだろうな」

 レイジは真面目な顔をして言う。

「そう、じゃあ。魔法で声を拡大して撤退を呼びかけ……」

 チユキが魔法を発動しようとしたときだった。
 強烈な光の矢がレイジに向かって飛んで来たのである。
 一瞬の事だったので声を掛けるのが遅れた。

「レ、レイジ君!!?」

 チユキはレイジの方を見る。

「大丈夫だ。チユキ」

 しかし、何事もなかったようにレイジは声を出す。
 突然の不意打ちにも関わらず、驚異的な反応速度で防御をしたのだ。

「やるわね、レイジ君。私だったら間に合わなかったわ。それにしても何者なのかしら」

 チユキは光の矢が飛んできた方を見る。

「ほう、防いだか。やるではないか」

 チユキは光りの矢が飛んで来た方向を見ると翼を背中から生やした男性がこちらに来るのが見える。
 翼が生えているが、天使ではない。
 翼の生えた男性は褐色の肌をしていて、黄金細工の装身具を身に付けていてキラキラとしている。そのため見ていると目が痛くなる。

「我が名はハルセス。ウシャルスの子にしてジプシールの地の支配者なり。我は汝と勝負を……ぼげえ!!!!」

 褐色の肌をした男性がレイジの放った光砲で吹っ飛ぶ。
 “光砲”は“神威の光砲”程ではないがそれでもかなりの威力がある。
 まともに当たったみたいなのでただでは済まないだろう。

「レイジ君。相手は何か話している途中だったみたいだったけど……」
「いや、何か長くなりそうだったから、ついな」

 レイジは笑って答える。
 レイジもまさか今の一撃で倒せるとは思っていなかったようだ。

「待ってレイジさん! まだ何かいるよ!!」

 シロネが指し示すとそこには複数の空を飛ぶ影がいた。
 その姿は人と同じ姿ではなく、千差万別であり、奇妙である。
 ただ、その全員から強大な魔力を発しているところだけは同じであった。

「ふん、砂漠の小僧がやられたか……」
「奴は我々の中でも一番の若造。所詮レーナにはふさわしくない存在よ」
「良い気になるなよ。光の勇者。貴様が天上の美姫レーナの仲なぞ断じて認めん」
「レーナハ我ガ妻ニナル予定。オ前ハ邪魔ダ」
「そうだ!! そうだ!! お前なんかレーナちゃんにふさわしくないぞ! レーナちゃんはぼくちんのものだ!!」
「さあ、私達の挑戦を受けてもらいましょうか?」

 空を飛ぶ者達は口々に喋り出す。
 口ぶりから全員が男のようである。
 チユキは彼らを見て、何か嫌な予感がする。

「なんすかあれ……」
「なんだか。レイジさんに恨みを持っているみたいだけ……」

 ナオとリノが不安そうな声を出す。

「まずいわね。まさかこんな奴らが待ち構えているなんて……」

 チユキは頭が痛くなるのだった。








「ちっ!! 何をやっているんだ人間共!!」

 ゴブリンの王子ゴズは魔法の鏡を見て悪態をつく。
 魔法の鏡によって映しだされた映像では人間達がやられている。
 ゴズは母であるダティエから人間の相手の指揮をするように言われゴブリンと蟲兵に指示を出している。
 そのゴブリン達の働きにより人間共は駆逐されようとしている。
 それを見て頭が痛くなる。

「こっちはまだ精鋭が残っているんだぞ……」

 白銀の魔女が残した最強である黄金の蟲戦士は温存している。
 この蟲戦士達を使えば人間なぞ一気に殲滅できる。
 しかし、全滅させるわけにはいかない。
 これぐらいなら大丈夫だろうと思って赤帽子達を向かわせたが、人間は予想以上に脆かった。
 ここから何とか迷采配をして人間を助けなければならない。
 全滅させてしまったら人間に紛れて逃げる事ができなくなってしまう。

(やはり逃げた事に気付かれるかもしれないが、無理やり人間共に紛れるしかないだろうか?)

 そんな事を考えると、とりあえずゴズは母の様子を見に行く。
 こちらを気にしていないようなら逃げるべきであった。
 母ダティエはカエルの魔女と一緒に勇者共の様子を見ている。
 人間の方には興味がないようであった。

「ああ、砂漠の光神が倒されましたわ」

 ダティエが悲痛な叫びを上げる。
 ゴズも鏡を見ると砂漠の光神が勇者の一撃で吹っ飛んでいる。

「全く……、死んではいないだろうけど、何をやっているのだが……。後で回収しといてやるかね。ゲロゲロ」

 カエル魔女ヘルカートは首を振る。

「他の男神達も不安だね。アルフォスが参加してくれりゃあ楽だったんだがね」
「えっ!? アルフォス様も誘ったのですか!? あの美しいあの御方を!?」

 ヘルカートがアルフォスの名を出すとダティエは嬉しそうな声を出す。

「ああ確かに誘ったよ。それがどうしたね?」
 
 ヘルカートはダティエを睨み言う。

「い、いえ!! 何でもありませんわ! おほほほほほほ!!」

 ダティエは気色悪い声で笑ってごまかす。
 アルフォスは魔王モデスに敵対する存在だ。魔王側であるヘルカートやダティエにとっても敵である。
 好意を持つべきではない。
 ゴズも歌と芸術の神アルフォスの事は知っている。
 ダティエが持つ男神の絵の中で一番多く描かれているからだ。
 そして、その絵の全てが変な液体をかけられたため汚れている事も当然知っている。

「でも、ヘルカート様。アルフォス様が来られると楽というのはどういう事でしょう? あの御方は戦いとは無縁の方に思えます。美しい御方ですが強そうには感じませんわ」

 ダティエの言う通りだ。
 アルフォスは歌って遊んでばかりの神とゴズも聞いていた。
 戦いとは無縁の神のように感じていた。

「ふん。お前の目は節穴かね。確かにこの数百年アルフォスは遊んでばかり。とても強そうには思えないだろうね。でもね、あの男は強いよ。間違いなくここに来た男神の誰よりもね」
「えっ?そうなのですか?」
「そうさ。今でこそ遊んでばかりいるが、かつては神王オーディスに仕える最強の聖騎士と呼ばれていた男さ。それが奴の正体さね。もしかするとオーディスよりも強いかもしれないねえアルフォスは。ゲロゲロゲロゲロ」

 その言葉にゴズとダティエは絶句するのだった。







 雲の上でクロキ達とアルフォス達は対峙する。
 アルフォスの空飛ぶ船の上では美女達がクロキ達を見て笑っている。
 その笑いには間違いなく嘲りが含まれているのがクロキにはわかる。
 こういう美女に嘲笑の的にされるのは正直きつかった。
 その美女達を傍らで侍らせているアルフォスは笑っているようだが、鋭い視線をクロキに向けている。

(なぜ、こんな爆発して欲しいイケメンが弓矢で自分を狙ったのだろう?)

 クロキは疑問に思う。
 クロキとアルフォスには接点はない。
 恨みを買った覚えはないのだ。

「どうしたのですか? アルフォス様。早く戻らないと勇者達が戦いをはじめてしまいますよ」

 アルフォスの側にいた美少女が尋ねる。
 美少女はまだ幼く胸がない。
 もしかすると美少女のような少年かもしれなかった。

「可愛いヒヤシス。勇者よりもこちらの方が面白そうなのでね」
「へえ、そうなの? アルフォス様。私にはこの暗黒騎士よりも勇者の方に興味があるのだけど」

 ドライアドらしき緑の髪をしたエルフがアルフォスの側に来て言う。

「相変わらず君はつれないねダフィーネ。もしかして僕よりもあの勇者に気があるのかい?」
「もうアルフォス様ったら。意地悪な言い方。ふんだ!! 誰もが貴方ばかりを見ているとは限らないのよ。それに他のみんなも暗黒騎士よりも勇者に興味があると思うけど」

 ダフィーネと呼ばれたエルフが他の女性達を見て言う。

「みんなもそう思うのかい?」

 アルフォスの問いに美女達が相談し合う。

「そうね。あんな暗黒騎士よりもカッコ良い光の勇者の方に興味があるわね。もちろんアルフォス様には敵わないけど」
「そうそう。あんな醜い魔王の部下なんて興味ないっていうか~」
「あの魔王の部下だもの。きっと、あの兜の下の顔はブサイクに違いないわ~」
「本当。ブサイクは消えて欲しいわね。この世界にはいらないわ」
「ちょっとあんたその兜の下を見せなさいよ。どんなブサイクな顔があるか見て上げるわよ」
「やめてよ。ブサイクの顔なんて、わざわざ見たくないわ」

 美女達はクロキを見てくすくすと笑う。
 大勢の美女に笑われてクロキは消えてしまいたくなる。
 クロキはレイジに比べて良い男とは自分自身も思っていない。
 この兜の下の顔を見せる気にはなれない。

「何だあいつら……。首を跳ねてやる」
「待ってクーナ! 押さえて!!」

 クロキは後ろでクーナが飛び出しそうになるのを制する
 これほど酷い事を言われてもクロキは彼女達を完全な敵にしたくないのである。
 クロキは自分が嫌になるが、それでも綺麗な女性から嫌われたくないのだ。
 少しは言い返した方が良いのかもしれないが、それすらできない。
 クロキはちょっと泣きたくなってくる。

「ねえ、ちょっとみんなあそこにいるのって魔王の子供なんじゃない? すごくそっくりよ」

 突然美女の一名がポレンを指差す。

「えっ?!!」

 名指しされてポレンは戸惑う。

「あっ本当だ!!そっくり!!」
「本当魔王にそっくりでブタみたい! みんな~ブタがいるわ! ブタブタ!!」
「ねえ、そこのブタさん。貴方魔王の子供なんでしょ?だってすごく醜いんだもの。そんな姿で生まれたら私だったら死んじゃいたくなるわね」
「ほーんと。何で生きていられるのかしら?」
「本当に醜いわね。子供かどうかわからないけど、どうせ魔王の仲間なんでしょ。だったら性格も腐っているに違いないわね」
「すごいわね~。生まれた時から汚物なんて。さっさと死んだら」

 美女達はポレンを見て嘲笑する。

「あうあう……」
「で、殿下?」

 クロキの後ろでポレンの泣きそうな声が聞こえ、プチナが慰めようとしているのが気配でわかる。
 その泣き声を聞いてクロキの中である感情が生まれる。
 クロキはマントを広げポレンが美女達の視界に入らないようにする。
 そして―――――。








「黙れええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ! ブス共おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」









 クロキは大声で叫ぶ。
 そして、思った以上に大きな声が出たので、びっくりしてしまう。
 さっきまで喋っていた美女達が驚いた顔をしてクロキを見る。
 その表情は明らかに「なに? こいつ?」という感じであった。
 頭に血が上ったクロキはもはや美女達から嫌われる可能性がある事などお構いなしになっていた。

「お前らにポレン殿下の何がわかる! 殿下はとてもお優しい御方だっ! 自らを慕う者達のために泳いだ事も無いのに身を挺して海に入りクラーケンを退治されるような方なんだよ! 貴様らが馬鹿にして良い相手じゃない!!!!!」

 そう言ってクロキは美女達に剣を向ける。

「それでも!なお言うつもりなら! この自分が相手をしてやる!」

 そう言うとクロキの体から黒い炎が噴き出す。
 その炎は意図的に出したものではない。
 クロキの自然な感情から出たものだ。
 黒い炎と共に恐怖の波動が美女達に向かう。

「ひいいいい!!」
「いやあ! 何よ怖い!!」
「助けてアルフォス様ぁ!!」
「きゃあああああ!!」
「いやあああああ! 助けてえアルフォス様あああああ!!」

 クロキの恐怖の波動を浴びた美女達が甲板の上で逃げ惑う。
 それは滑稽な様子である。
 クロキの背でクーナの驚く気配を感じる。
 またグロリアスが心配そうに首を曲げてクロキを見る。

「僕の可愛い子達を相手にするだって? それは困るな。彼女達を傷つけるつもりなら僕が相手をしないといけないね」

 アルフォスは笑うとその体が光に包まれる。
 光が消えると純白の鎧がアルフォスの身を覆っている。

「嘘? アルフォス様が聖騎士の姿になられるなんて……」
「噂には聞いていたけど初めて見た……」
「まさか? アルフォス様が戦われるなんて」
「私達のために戦われるなんて、騎士の鑑だわ……」
「素敵!! 暗黒騎士から私達を守る為に封印していた聖騎士の鎧を着るなんて!!!」
「アルフォス様なら暗黒騎士なんていちころですわ!!!」
「あんな暗黒騎士なんてやっつけちゃってくださいアルフォス様!!!」

 アルフォスが純白の聖騎士の姿になると美女達がうっとりした表情になる。
 だけど、アルフォスは美女達に構わずクロキを見る。

「ミューサ! 剣を!!!」
「はいアルフォス。用意していますよ」

 ミューサと呼ばれた美女が一振りの剣を持って来てアルフォスに渡す。

「ありがとうミューサ。さあ出ておいで白き聖竜ヴァルジニアスよ!!!」

 アルフォスが叫ぶと空船の甲板が開き中から純白の竜が飛び出して来る。
 純白の竜はかなり大きく、グロリアスと同じくらいであった。

「とおう!!」

 アルフォスは飛ぶとヴァルジニアスと呼んだ竜に乗る。

「ねえ暗黒騎士。僕とヴァルジニアス、君とその黒い竜。僕達だけにならないかい? 勝負を邪魔されたくないからね」

 アルフォスは剣を抜くと青く輝く剣身をクロキに向ける。

「わかった。良いよ。その申し出を受けよう」

 クロキは頷く。

「クロキ……。やるのか?」
「ああ、クーナ。殿下と一緒に下で待っていてくれないか?」

 クロキはクーナの頬を触る。

「クロキ先生ぇ……」

 えぐえぐ泣きながらポレンはクロキの名を呼ぶ。

「大丈夫です殿下。ちょっと行ってきますね」

 クロキは心配させないように明るい声を出す。

(殿下は今まで引き籠っていた。外に出るのは大変な勇気が必要だっただろう。何がポレンをそうさせたのかわからない。しかし、頑張って外に出た。事情はわからずとも頑張る者を笑って良いはずがない)

 戦う覚悟をクロキは決める。
 頑張って外に出たポレンの前で勝負を逃げるわけにはいかない。
 今ここに暗黒騎士と聖騎士の戦いが始まろうとしていた。



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

安彦大先生の名作『アリオン』ではアポロンがラスボスでした。普段は遊んでいるけど実は最強。
つまり最初からアルフォスは強い設定だったりします。

キノコの魔物は出したかっただけです。
特に意味はないです。
そして、キノコの魔物は名前をどうするかどうか迷いました。
マイコニドにするべきか、ファンガスにすべきか、マタンゴにすべきか?
まあ、マイコニドが一番無難なのですが、後から変更できるようにバケキノコにマイコニドのルビを振りました。
ちなみデザインではドラクエのマタンゴが一番すきだったりします。

次回は最強の暗黒騎士と最強の聖騎士の戦いが始まります。

「カクヨム」でも読んで下さると嬉しいです。


コメント

  • ノベルバユーザー468724

    「どうするカリス? トルクスを追う」→
    「どうするカリス? トルクスを追う?」

    0
  • Kyonix

    あなたの人生の最大のレイプを取得しようとしているアルフォスを準備します

    0
  • ノベルバユーザー286789

    レイジとは違う圧倒的ライバル感

    1
  • Runeminor

    更新お疲れ様です。

    レイジの「出来るだけ助けよう」が
    「出来るだけ(男を見殺しにして女性だけ)助けよう」と脳内変換されましたw
    と言いながらもある意味行動が一貫してるレイジは個人的にはそこまで嫌いなキャラでは無くなってきました。

    アルフォスの取り巻きを見て思ったのですがエリオスって屑以外は追放される様な風潮でもあるのでしょうか?
    現状では唯一まともと思われるトトナは引きこもって積極的に他の神と関わってませんし。
    レーナ?
    勇者ガチャからポイ捨てコンボを考えるととてもまともとは思えません。

    1
  • ナットです。タイにいます。

    More than a month? If it’s still less than 2 months that’s still surprisingly fast. Goddesses’ accelerated pregnancy is actually...fearsome....

    But for building a country this span of time is about right, not too little or too much, considering the country will be expanding from now on.

    It would be much faster if the dwarves give them a helping hand, but will they?

    0
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