暗黒騎士物語
事件の真相
「なるほど、そういう事か……」
「はい、そうでございます……。閣下。決して裏切ろうと思ったわけではないのです……」
暗黒騎士の姿になったクロキはゼアルから報告を受ける。
会った事はないがゼアルは暗黒騎士であるクロキの事を知っていた。
有名人になっている事にクロキは驚く。
そのゼアルはクロキの前で跪いている。
ゼアルはナルゴルに住んでいた山羊頭人だ。
サテュロスの一種であり、ダークサテュロスとも呼ばれる事もある。
サテュロスよりも山羊に近い容姿をして、黒毛であり、上位種族になると翼が生えている者もいる。
また彼らはナルゴルに住むサテュロスで魔王モデスの腹心であるルーガスの眷属でもある。
実はルーガスは普段は角の生えた人間の老人の姿をしているが、その正体は翼の生えた山羊だ。
ダークサテュロスは白毛や茶毛のサテュロスに比べて腕力や魔力が強く、上位の魔族であるデイモン族の次ぐらいに強い。
その為、同じぐらいの強さのケール族等と共に下位デイモンと呼ばれる事もある。
彼らのほとんどはルーガスとその弟子であるウルバルドの配下である事が多く、調査のためにナルゴル外に派遣される事もある。
ゼアルは元々ウルバルドの配下で邪神ラヴュリュスの監視の為にこの地に派遣されていた。
クロキはゼアルの存在をこの地に来る前に少し聞いていたのである。
そして、この地に派遣されていたゼアルはある時を境に連絡が途絶えて行方を眩ませた。
理由は邪神ラヴュリュスの仲間のアトラナクアに抱き込まれたからだ。
身を隠すのが下手なゼアルはアトラナクアに発見された。
そして、その存在に気付いたアトラナクアはゼアルに近づいた。
ゼアルはアトラナクアがラヴュリュスの仲間と気付かず、ナルゴルの情報を彼女に流していた。
おかげでラヴュリュスはモデスの監視の目を逃れて地上に自身の傀儡国家を作る事に成功していたのである。
その後ゼアルはアトラナクアがラヴュリュスと繋がっている事を知り、その事がウルバルドにばれた時の事を怖れて行方を眩ませ、アトラナクアの元に身を寄せるしかなかった。
もちろん、モデスは捜索隊を出したが、見付ける事は出来なかった。
また、当時はナルゴルもレーナとの争いが激しくなっていたため、捜索を続ける事ができなかった。そのままゼアルの行方はわからなくなっていたのである。
そして、今回アトラナクアを捕えた事でゼアルの行方がわかった。
クロキはその情報を頼りにここまで来たのである。
(間違いなくゼアルの裏切りを知ったウルバルドは怒るだろうな)
クロキはナルゴルにいる同僚を思い浮かべる。
そのうちウルバルドの配下がゼアルを捕らえに来るだろう。
しかし、そんな事はクロキにとってはどうでも良い。
一応クロキもナルゴルの一員ではあるのだが、正直腹は立たない。
それは、この地に来るまでゼアルの事を知らなかったからである。
問題は今回のカルキノス騒動にこのゼアルが裏にいたという事だ。
ゼアルはアトラナクアの仲間として闘技場の魔物を逃がす事に加担していた。
その時にカルキノスを操る方法を知ったらしい。
(それにしても、まだここにいてくれて助かった)
クロキは心底そう思う。
アトラナクアからこの場所を聞いてはいたが、アトラナクアが捕らえられた時点で、この拠点を放棄している可能性もあった。
そして、クロキはクーナを置いてここに来たのである。
クーナを置いて来たのはこの地下室の上にある店がかなりいかがわしい店だったからである。
可愛いクーナには、なるべく近寄らせたくない場所だ。
クロキはここまで来るのが大変だった事を思い出す。
店の場所はアトラナクアから聞いていたがその内部構造まで聞いていなかったのである。
仕方がないから隠形の魔法で潜入したが、それは失敗だった。
店の奥を探索すると複数の男女が合体していたのである。
綺麗な女の人なら良いが、毛むくじゃらのおっさんが男娼に後ろから伸し掛かられているのを見た時はさすがに吐きそうになった。
気分を落ち着けるため店の外に出て、再び入ろうかどうか迷っている時にマルシャスという男に声をかけられたのである。
(おかげここまで来る事ができた……。彼には感謝しなければならないだろうな)
クロキは目の前で震えているマルシャスを見る。
「あの、閣下……。どうかウルバルド様にお取りなしをお願いします」
ゼアルは山羊の頭を下げてお願いをする。
もともとゼアルは裏切るつもりはなく、アトラナクアに騙されたのだ。
だけど、弁明もせず行方を眩ませた以上は裏切りと見られても仕方がない。
モデスなら許してくれるかもしれないが、ウルバルドは許さないだろうとクロキは思う。
「悪いけどそれは無理。だけど見逃してあげるよ。自分にできる事はそれだけだ」
「そうですか……」
ゼアルは悲しそうに言う。
「仕方がないだろ……。それよりもここから逃げた方が良いと思うよ。そのつもりがなかったとはいえ、勇者に敵対したのだからね」
クロキはそう言ってゼアルの後ろに控えているアイノエ達を見る。
彼女達は震えながら頭を下げている。
先ほどクロキが使った恐怖の魔法を影響がまだあるようであった。
今回の一件はアイノエがシェンナに嫉妬して引き起こしたものだ。
レイジ達が標的ではなかった。
アイノエはゼアルの愛人である。
黒毛とはいえサテュロスである事には変わりはないので、同じように女好きだ。
ナルゴルの外へと派遣されたダークサテュロス達はこっそりと人間の女性を愛人にする者が多い。
そして、愛人となった女性は見返りに力をもらい魔女となる。
この力を与えるという行為は神や天使が人間に与える恩寵と同じだ。
上位の生物は下位の生物に自身が使える能力を与える事ができる。
同等の生物でも一時的に自身と同じ能力を与える事ができるが、同等だと効果は長続きせず、与えている間は自分自身は力を使えない。
しかし、下位の生物ならば長時間使えて、自分自身も力を使える。
ただし、下位の生物に与えられるのは自身の持つ能力の何万分の1程度である。
それでも下位の生物にとっては大きな力だ。
それを下位の生物は恩寵、もしくは加護と呼ぶのである。
エリオスの神々やそれに仕える天使達はそんな恩寵を人間に与えたりする。
なぜならエリオスの神々は自分達の眷属である人間を増やしたいと考えている。
また、天使達は数が少なくエリオスの守りや天空の管理や他の雑事が多く、地上まで手が回らない事が多い。
よって、人間達だけで頑張ってもらわなくてはならない。
しかし、人間は弱い。そこで何とか強くしようと色々とてこ入れをするのである。
与える能力の内容はそれぞれの天使が仕える神によって違う。
例えばレーナに仕える戦乙女達は目ぼしい信徒に対して特殊な戦闘力を向上させる魔法を使ったりする。
しかし、それでも天使が使う魔法なので人間から見たら強力だ。同じ天使に使うには物足りないかもしれないが、人間にとっては大きな恩恵だろう。
また加護の中には戦闘とは関係ないものもある。結婚と出産の女神フェリアに仕える天使達は子供ができやすくなる恩寵や加護を人間に与える。
そして、ゼアルも天使達と同じようにアイノエに力を与えた。
ゼアル達は人間に比べてそこまで上位の種族ではないが、それでもある程度の力は与えられる事ができ、 場末の踊り子にすぎなかったアイノエは力を得た。
ゼアルがどのような加護を与えたのかはクロキにはわからない。それでも魅力を上げる魔法と感性を鋭くする魔法でもかけたのだろう事は推測できる。
ゼアルの加護を受けたアイノエは今ではアリアディア共和国で一番の女優となった。
一番の女優となったアイノエには多くの男性が近づき、贈り物は山となった。連日のように上流階級の宴席に呼ばれ。紳士淑女の話題をさらった。
アイノエは得意絶頂だったようだ。何しろただの場末の踊り子が、今や押しも、押されぬ大女優なのだから。
しかし、そんなアイノエを脅かす存在が現れた。それがシェンナであった。
最初は優しくしていたアイノエも、シェンナが頭角を現してくるにつれて憎らしくなる。
あの手、この手で排除しようとしたがシェンナはそれを全て躱した。
そして、ついにマルシャスを使いカルキノスをけしかける事までしたのである。
これが今回の事件の真相である。
笛は元はゼアルのもので、アイノエが可愛くお願いするからつい渡してしまったようであった。
(何をやっているのやら……)
クロキは事件の真実を知って頭が痛くなる。
「閣下、お願いがあります」
クロキがこめかみを押さえていると、突然後ろに控えていたタラボスが話しかける。
クロキはタラボスを見る。
タラボスは少し太り気味の中年の人間の男性だ。
一見人の良さそうな外見をしているが、クロキはこの男から何か嫌な感じがした。
「何かな……?」
「そこの娘を私にいただけないでしょうか? その娘のせいで私の可愛いドラウグルの一体が壊れてしまいましたので」
タラボスはクロキの横で寝ているシェンナを見ながら言う。
ドラウグルとはタラボスの後ろにいる白い仮面を付けた黒いローブを着ている者達の事だ。
ドラウグルはアンデッドでゾンビの一種である。
ただし、ドラウグルとなった者はゾンビと違い生前よりも超人的な力を持っている。知能もわずかだけど残し、状況判断もできる上に生前より速く動ける。
その強力さから兵士として作成される事が多く、通称で屍兵と呼ばれる。
しかし、強力であるだけにゾンビに比べて作るのが難しい。
死霊魔術の能力が高くなければ作れないのはもちろんだが、材料が入手しにくいからだ。
ゾンビを作るには「ゾンビ粉」が必要だが、ドラウグルには「流星の欠片」という材料が必要で、それはナルゴルなら他の地域に比べて入手しやすいが、それ以外の地域では入手しにくい。
クロキはタラボスがその流星の欠片を魔術師協会の副会長という地位を利用して集めたのだろうと推測する。
「この娘をどうするつもりなのかな?」
クロキはわかっているが聞かずにはいられなかった。
「もちろんドラウグルにいたします。生前は優秀な戦士であったドラウグル達と戦って生き延びる程の技の持ち主です。きっと強いドラウグルになりましょう」
タラボスは笑いながら言う。
(思った通りこの男は死霊魔術師か……。それにしても、同族をアンデッド化させる事に抵抗はないようだな)
クロキはタラボスの後ろにいるドラウグルを見る。
死霊魔術師でもない限り、好き好んでアンデッドになりたがる者はいない。
タラボスの後ろにいるドラウグル達は、自ら望んでドラウグルになったとは“クロキは思えなかった。
タラボスはシェンナを殺してドラウグルにすると言う。
(どうやらこいつは人の皮を被った悪魔のようだ)
クロキはシェンナを見る。
シェンナの技は見事だった。
強力なドラウグルを相手に一歩も引く事はなかった。
だけど、ジェンナの剣は殺人のため剣だ。
すでに死んでいるアンデッドが相手では分が悪い。
(あのまま彼女が逃げ切れたとは思えない。自分が捕えなければどうなっていたか)
クロキはシェンナを引き渡す気になれなかった。
「この娘は渡せないな」
「えっ? なぜでございますか?」
クロキが冷たく言うとタラボスは意外そうな顔をする。
渡してもらえないとは思わなかったようであった。
「愚かな人間よ! 閣下に意見するとはどういうつもりだ! これほどの綺麗な足をしているのだ! 生かしたまま体中をペロペロするのが普通だろうが! そうでございますな!!閣下!!」
クロキとタラボスの話しを聞いていたゼアルが突然割って入り力を込めて言い出す。
「おっ、おう」
その勢いに思わず押されて思わずクロキは賛同してしまう。
「そ! そうでしたか閣下! もうしわけございません!」
タラボスは残念そうに引き下がる。
(何か誤解しているみたいだな。それにしても、人間よりも悪魔の意見に賛同したくなるとは……)
クロキはちょっと複雑な気持ちになる。
しかし、シェンナをアンデッドにしたくないのは確かだった。
そのためクロキはゼアルに合わせる事にする。
「タラボスよ、ゼアルの言う通りだ……。その娘は帰ってペロペロする予定だ。よって連れて帰る」
そう言ってクロキはシェンナを担ぐ。
そろそろ戻らねばならなかった。
つい先ほどシロネが目を覚ましそうだと通信の魔法でリジェナから報告があったのである。
もしクーナと鉢合わせると争いになるかもしれないので急いで戻る必要があった。
「さすが閣下ですな! わかっていらっしゃる! どうぞ閣下これをお持ち帰り下さい!!」
ゼアルは帰ろうとするクロキに何かが入った箱を差し出す。
「これは?」
クロキは箱の中身を見る。
布きれや何かの道具らしき物が入っている。
「女の身をより美しく見せる服と女に性の悦びを与える道具でございます。いずれ使おうと思っていたのですが、閣下に差し上げます」
ゼアルはそう言うといやらしくぬふふと笑う。
(おそらく、自分に取り入って、何とか裏切りを許してもらいたいみたいだ。先程も言ったけど、自分に出来る事はないんだけどな)
クロキは箱の中身を見て、溜息を吐く。
スケスケの薄い服に、紐みたいな服、そして下着のような鎧まで入っている。
ゼアルは他の黒サテュロスと同様に、この地下祭壇で魔女を相手に乱交集会を行っていたようであった。
追われる身でありながらだ。
(こんないかがわしい物を作って何をやっているのだ? ここは叱るべきだろな)
 
そう考えたクロキはゼアルに言う。
「ありがとう、貰っておくよ♪」
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
説明は文章が無駄に長くなるので苦手だったりします。
しかも、元の文章が悪すぎるので、修正が大変だったりします。
良くなってないですけど……。
修正して確認、修正して確認をしているうちに、最初に修正した箇所がおかしくなっていたりしています。
誤字脱字等の修正箇所があったら報告して下さると嬉しいです(´;ω;`)ウゥゥ
「はい、そうでございます……。閣下。決して裏切ろうと思ったわけではないのです……」
暗黒騎士の姿になったクロキはゼアルから報告を受ける。
会った事はないがゼアルは暗黒騎士であるクロキの事を知っていた。
有名人になっている事にクロキは驚く。
そのゼアルはクロキの前で跪いている。
ゼアルはナルゴルに住んでいた山羊頭人だ。
サテュロスの一種であり、ダークサテュロスとも呼ばれる事もある。
サテュロスよりも山羊に近い容姿をして、黒毛であり、上位種族になると翼が生えている者もいる。
また彼らはナルゴルに住むサテュロスで魔王モデスの腹心であるルーガスの眷属でもある。
実はルーガスは普段は角の生えた人間の老人の姿をしているが、その正体は翼の生えた山羊だ。
ダークサテュロスは白毛や茶毛のサテュロスに比べて腕力や魔力が強く、上位の魔族であるデイモン族の次ぐらいに強い。
その為、同じぐらいの強さのケール族等と共に下位デイモンと呼ばれる事もある。
彼らのほとんどはルーガスとその弟子であるウルバルドの配下である事が多く、調査のためにナルゴル外に派遣される事もある。
ゼアルは元々ウルバルドの配下で邪神ラヴュリュスの監視の為にこの地に派遣されていた。
クロキはゼアルの存在をこの地に来る前に少し聞いていたのである。
そして、この地に派遣されていたゼアルはある時を境に連絡が途絶えて行方を眩ませた。
理由は邪神ラヴュリュスの仲間のアトラナクアに抱き込まれたからだ。
身を隠すのが下手なゼアルはアトラナクアに発見された。
そして、その存在に気付いたアトラナクアはゼアルに近づいた。
ゼアルはアトラナクアがラヴュリュスの仲間と気付かず、ナルゴルの情報を彼女に流していた。
おかげでラヴュリュスはモデスの監視の目を逃れて地上に自身の傀儡国家を作る事に成功していたのである。
その後ゼアルはアトラナクアがラヴュリュスと繋がっている事を知り、その事がウルバルドにばれた時の事を怖れて行方を眩ませ、アトラナクアの元に身を寄せるしかなかった。
もちろん、モデスは捜索隊を出したが、見付ける事は出来なかった。
また、当時はナルゴルもレーナとの争いが激しくなっていたため、捜索を続ける事ができなかった。そのままゼアルの行方はわからなくなっていたのである。
そして、今回アトラナクアを捕えた事でゼアルの行方がわかった。
クロキはその情報を頼りにここまで来たのである。
(間違いなくゼアルの裏切りを知ったウルバルドは怒るだろうな)
クロキはナルゴルにいる同僚を思い浮かべる。
そのうちウルバルドの配下がゼアルを捕らえに来るだろう。
しかし、そんな事はクロキにとってはどうでも良い。
一応クロキもナルゴルの一員ではあるのだが、正直腹は立たない。
それは、この地に来るまでゼアルの事を知らなかったからである。
問題は今回のカルキノス騒動にこのゼアルが裏にいたという事だ。
ゼアルはアトラナクアの仲間として闘技場の魔物を逃がす事に加担していた。
その時にカルキノスを操る方法を知ったらしい。
(それにしても、まだここにいてくれて助かった)
クロキは心底そう思う。
アトラナクアからこの場所を聞いてはいたが、アトラナクアが捕らえられた時点で、この拠点を放棄している可能性もあった。
そして、クロキはクーナを置いてここに来たのである。
クーナを置いて来たのはこの地下室の上にある店がかなりいかがわしい店だったからである。
可愛いクーナには、なるべく近寄らせたくない場所だ。
クロキはここまで来るのが大変だった事を思い出す。
店の場所はアトラナクアから聞いていたがその内部構造まで聞いていなかったのである。
仕方がないから隠形の魔法で潜入したが、それは失敗だった。
店の奥を探索すると複数の男女が合体していたのである。
綺麗な女の人なら良いが、毛むくじゃらのおっさんが男娼に後ろから伸し掛かられているのを見た時はさすがに吐きそうになった。
気分を落ち着けるため店の外に出て、再び入ろうかどうか迷っている時にマルシャスという男に声をかけられたのである。
(おかげここまで来る事ができた……。彼には感謝しなければならないだろうな)
クロキは目の前で震えているマルシャスを見る。
「あの、閣下……。どうかウルバルド様にお取りなしをお願いします」
ゼアルは山羊の頭を下げてお願いをする。
もともとゼアルは裏切るつもりはなく、アトラナクアに騙されたのだ。
だけど、弁明もせず行方を眩ませた以上は裏切りと見られても仕方がない。
モデスなら許してくれるかもしれないが、ウルバルドは許さないだろうとクロキは思う。
「悪いけどそれは無理。だけど見逃してあげるよ。自分にできる事はそれだけだ」
「そうですか……」
ゼアルは悲しそうに言う。
「仕方がないだろ……。それよりもここから逃げた方が良いと思うよ。そのつもりがなかったとはいえ、勇者に敵対したのだからね」
クロキはそう言ってゼアルの後ろに控えているアイノエ達を見る。
彼女達は震えながら頭を下げている。
先ほどクロキが使った恐怖の魔法を影響がまだあるようであった。
今回の一件はアイノエがシェンナに嫉妬して引き起こしたものだ。
レイジ達が標的ではなかった。
アイノエはゼアルの愛人である。
黒毛とはいえサテュロスである事には変わりはないので、同じように女好きだ。
ナルゴルの外へと派遣されたダークサテュロス達はこっそりと人間の女性を愛人にする者が多い。
そして、愛人となった女性は見返りに力をもらい魔女となる。
この力を与えるという行為は神や天使が人間に与える恩寵と同じだ。
上位の生物は下位の生物に自身が使える能力を与える事ができる。
同等の生物でも一時的に自身と同じ能力を与える事ができるが、同等だと効果は長続きせず、与えている間は自分自身は力を使えない。
しかし、下位の生物ならば長時間使えて、自分自身も力を使える。
ただし、下位の生物に与えられるのは自身の持つ能力の何万分の1程度である。
それでも下位の生物にとっては大きな力だ。
それを下位の生物は恩寵、もしくは加護と呼ぶのである。
エリオスの神々やそれに仕える天使達はそんな恩寵を人間に与えたりする。
なぜならエリオスの神々は自分達の眷属である人間を増やしたいと考えている。
また、天使達は数が少なくエリオスの守りや天空の管理や他の雑事が多く、地上まで手が回らない事が多い。
よって、人間達だけで頑張ってもらわなくてはならない。
しかし、人間は弱い。そこで何とか強くしようと色々とてこ入れをするのである。
与える能力の内容はそれぞれの天使が仕える神によって違う。
例えばレーナに仕える戦乙女達は目ぼしい信徒に対して特殊な戦闘力を向上させる魔法を使ったりする。
しかし、それでも天使が使う魔法なので人間から見たら強力だ。同じ天使に使うには物足りないかもしれないが、人間にとっては大きな恩恵だろう。
また加護の中には戦闘とは関係ないものもある。結婚と出産の女神フェリアに仕える天使達は子供ができやすくなる恩寵や加護を人間に与える。
そして、ゼアルも天使達と同じようにアイノエに力を与えた。
ゼアル達は人間に比べてそこまで上位の種族ではないが、それでもある程度の力は与えられる事ができ、 場末の踊り子にすぎなかったアイノエは力を得た。
ゼアルがどのような加護を与えたのかはクロキにはわからない。それでも魅力を上げる魔法と感性を鋭くする魔法でもかけたのだろう事は推測できる。
ゼアルの加護を受けたアイノエは今ではアリアディア共和国で一番の女優となった。
一番の女優となったアイノエには多くの男性が近づき、贈り物は山となった。連日のように上流階級の宴席に呼ばれ。紳士淑女の話題をさらった。
アイノエは得意絶頂だったようだ。何しろただの場末の踊り子が、今や押しも、押されぬ大女優なのだから。
しかし、そんなアイノエを脅かす存在が現れた。それがシェンナであった。
最初は優しくしていたアイノエも、シェンナが頭角を現してくるにつれて憎らしくなる。
あの手、この手で排除しようとしたがシェンナはそれを全て躱した。
そして、ついにマルシャスを使いカルキノスをけしかける事までしたのである。
これが今回の事件の真相である。
笛は元はゼアルのもので、アイノエが可愛くお願いするからつい渡してしまったようであった。
(何をやっているのやら……)
クロキは事件の真実を知って頭が痛くなる。
「閣下、お願いがあります」
クロキがこめかみを押さえていると、突然後ろに控えていたタラボスが話しかける。
クロキはタラボスを見る。
タラボスは少し太り気味の中年の人間の男性だ。
一見人の良さそうな外見をしているが、クロキはこの男から何か嫌な感じがした。
「何かな……?」
「そこの娘を私にいただけないでしょうか? その娘のせいで私の可愛いドラウグルの一体が壊れてしまいましたので」
タラボスはクロキの横で寝ているシェンナを見ながら言う。
ドラウグルとはタラボスの後ろにいる白い仮面を付けた黒いローブを着ている者達の事だ。
ドラウグルはアンデッドでゾンビの一種である。
ただし、ドラウグルとなった者はゾンビと違い生前よりも超人的な力を持っている。知能もわずかだけど残し、状況判断もできる上に生前より速く動ける。
その強力さから兵士として作成される事が多く、通称で屍兵と呼ばれる。
しかし、強力であるだけにゾンビに比べて作るのが難しい。
死霊魔術の能力が高くなければ作れないのはもちろんだが、材料が入手しにくいからだ。
ゾンビを作るには「ゾンビ粉」が必要だが、ドラウグルには「流星の欠片」という材料が必要で、それはナルゴルなら他の地域に比べて入手しやすいが、それ以外の地域では入手しにくい。
クロキはタラボスがその流星の欠片を魔術師協会の副会長という地位を利用して集めたのだろうと推測する。
「この娘をどうするつもりなのかな?」
クロキはわかっているが聞かずにはいられなかった。
「もちろんドラウグルにいたします。生前は優秀な戦士であったドラウグル達と戦って生き延びる程の技の持ち主です。きっと強いドラウグルになりましょう」
タラボスは笑いながら言う。
(思った通りこの男は死霊魔術師か……。それにしても、同族をアンデッド化させる事に抵抗はないようだな)
クロキはタラボスの後ろにいるドラウグルを見る。
死霊魔術師でもない限り、好き好んでアンデッドになりたがる者はいない。
タラボスの後ろにいるドラウグル達は、自ら望んでドラウグルになったとは“クロキは思えなかった。
タラボスはシェンナを殺してドラウグルにすると言う。
(どうやらこいつは人の皮を被った悪魔のようだ)
クロキはシェンナを見る。
シェンナの技は見事だった。
強力なドラウグルを相手に一歩も引く事はなかった。
だけど、ジェンナの剣は殺人のため剣だ。
すでに死んでいるアンデッドが相手では分が悪い。
(あのまま彼女が逃げ切れたとは思えない。自分が捕えなければどうなっていたか)
クロキはシェンナを引き渡す気になれなかった。
「この娘は渡せないな」
「えっ? なぜでございますか?」
クロキが冷たく言うとタラボスは意外そうな顔をする。
渡してもらえないとは思わなかったようであった。
「愚かな人間よ! 閣下に意見するとはどういうつもりだ! これほどの綺麗な足をしているのだ! 生かしたまま体中をペロペロするのが普通だろうが! そうでございますな!!閣下!!」
クロキとタラボスの話しを聞いていたゼアルが突然割って入り力を込めて言い出す。
「おっ、おう」
その勢いに思わず押されて思わずクロキは賛同してしまう。
「そ! そうでしたか閣下! もうしわけございません!」
タラボスは残念そうに引き下がる。
(何か誤解しているみたいだな。それにしても、人間よりも悪魔の意見に賛同したくなるとは……)
クロキはちょっと複雑な気持ちになる。
しかし、シェンナをアンデッドにしたくないのは確かだった。
そのためクロキはゼアルに合わせる事にする。
「タラボスよ、ゼアルの言う通りだ……。その娘は帰ってペロペロする予定だ。よって連れて帰る」
そう言ってクロキはシェンナを担ぐ。
そろそろ戻らねばならなかった。
つい先ほどシロネが目を覚ましそうだと通信の魔法でリジェナから報告があったのである。
もしクーナと鉢合わせると争いになるかもしれないので急いで戻る必要があった。
「さすが閣下ですな! わかっていらっしゃる! どうぞ閣下これをお持ち帰り下さい!!」
ゼアルは帰ろうとするクロキに何かが入った箱を差し出す。
「これは?」
クロキは箱の中身を見る。
布きれや何かの道具らしき物が入っている。
「女の身をより美しく見せる服と女に性の悦びを与える道具でございます。いずれ使おうと思っていたのですが、閣下に差し上げます」
ゼアルはそう言うといやらしくぬふふと笑う。
(おそらく、自分に取り入って、何とか裏切りを許してもらいたいみたいだ。先程も言ったけど、自分に出来る事はないんだけどな)
クロキは箱の中身を見て、溜息を吐く。
スケスケの薄い服に、紐みたいな服、そして下着のような鎧まで入っている。
ゼアルは他の黒サテュロスと同様に、この地下祭壇で魔女を相手に乱交集会を行っていたようであった。
追われる身でありながらだ。
(こんないかがわしい物を作って何をやっているのだ? ここは叱るべきだろな)
 
そう考えたクロキはゼアルに言う。
「ありがとう、貰っておくよ♪」
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
説明は文章が無駄に長くなるので苦手だったりします。
しかも、元の文章が悪すぎるので、修正が大変だったりします。
良くなってないですけど……。
修正して確認、修正して確認をしているうちに、最初に修正した箇所がおかしくなっていたりしています。
誤字脱字等の修正箇所があったら報告して下さると嬉しいです(´;ω;`)ウゥゥ
コメント
Kyonix
WTF
リトルサモナー
>(こんないかがわしい物を作って何をやっているのだ? ここは叱るべきだろな)
> そう考えたクロキはゼアルに言う。
>「ありがとう、貰っておくよ♪」
叱るどころか感謝しつつ受け取るんかーい!w
トラ
更新お疲れ様です
ノベルバユーザー299421
天使...天使....黒い翼堕天使。 気付いたのですが、堕天使はまだ見ていません。 主人公は最初の堕天使を作成できるかもしれません。 それが彼なら、彼は間違いなくそれを行うことができます。
第二に、キリスト教神話では、堕天使はドラゴンと深く関係しています。 たとえばサタン/ルシファー。 堕天使ルシファーはドラゴンとしても知られていました。 天使サマエルもいます。 彼はアダムとイブを欺いた蛇です。 ドラゴン。 サタンとも呼ばれます。
English.
I noticed that in this version and the previous version, we haven't seen fallen angels yet. If it's the protagonist, he can definitely create a fallen angel.
also, in Christian mythology, fallen angels and dragons are related to each other in some way. For example, both Satan and Lucifer were known as the dragon
The angel samael, the deceiver, the one who made Adam and Eve eat the forbidden fruit. He was also known as the serpent, a dragon. (He is satan)
根崎タケル
更新しました。
今回は特に文章が酷いような気がします。
トラ様、眠気覚ましが足りない様、誤字報告ありがとうございます。
ノベルバユーザー323618様心配して下さってありがとうございます。