暗黒騎士物語

根崎タケル

迷宮都市ラヴュリュントス13 タロス

 クロキとシロネは進む。
 通路は広く30人が横一列に並んで通れそうであった。

「ちょっと、クロキ!!」

 進んでいると後ろからシロネが声を掛ける。

「何、シロネ?」

 クロキは振り向かずに聞く。

「もう、何でこっちを見ないのよ! それから、魔物も全部1人倒しちゃってさ! これじゃ私と一緒にいる意味が無いじゃない!!」
「いやでも……。見たら怒るし……」

 いやらしい目で見るとシロネは怒る。
 クロキは煩悩が多いのでどうしてもいやらしい目で見てしまう。
 だからこそ、視界に入らないようにしているのである。
 そもそもシロネは隙が多い。
 エロい目で見ている男は多い。
 苦労もわかって欲しいクロキは思う。

「だからって見ないつもりなの!?」

 シロネは文句を言う。
 だけど、クロキとしてはどうすれば良いのかわからない。
 そのため言い返せないので黙ったまま先に進む。

「待って、シロネ!!」

 クロキは止まり、なおも文句を言おうとするシロネを止める。
 通路の先に何者かがいる。
 その者は黄銅色の鎧に身を包んだ背丈が2メートル程の戦士に見える。
 手には巨大な大剣を持ち、背中には翼らしき者が見える。

「何、あれ……」

 シロネは戦士を見て言う。

「おそらくこの近道を守る番人。ヘイボス神が作ったタロスだと思う」

 クロキは前もってヘイボス神から知識を得ていた。正しい通路を進んだ先にはヘイボス神が作ったタロスが番人として守っている。
 タロスは金属製の人形だ。それだけなら金属製のゴーレムと同じだけど、内部にイーコールという魔法の血が流れている所が違う。
 内部に血が流れているタロスはゴーレムよりも人間に近い。

「止まりなさい。あなた方はここを通る事を許されていません」

 タロスはクロキ達に気付いたのか、止まるように言う。
 涼やかな中性的な声である。
 ヘイボス神が作ったタロスには意志があり、また喋る事もできるようであった。

「下がって、シロネ。少し手間取りそうだ」

 クロキは剣を構える。
 この近道を守るタロスは青銅製ではなく。オリハルコン製だと聞いている。
 オリハルコンはハルコンと呼ばれる銅に似た金属を元に作られる魔法合金である。
 そのオリハルコンは非常に硬く、普通の剣では傷1つ付ける事はできない。だけど、クロキの持つ魔剣なら斬る事が出来るはずであった。

「待って、クロキ。私がやるわ。ここまでほとんどクロキばかりが戦って私は何もしてないもの」

 シロネは剣を抜いて前に出る。
 青く透き通った剣身が姿を現す。
 剣身は青く魔法の光を輝かせている。
 シロネの持つ剣も特別製なのである。
 魔剣と同じようにタロスを傷つける事ができるだろう。

「でも、それだと見えちゃうよ……」

 クロキが言うとシロネがジト目で睨む。

「そんなに見たくないなら後ろを向いていれば」
「それは無理だよ。さすがに戦いは気になる。それに見たくないわけじゃないよ。シロネの足は綺麗だから、むしろ舐めまわすように見たい!!」

 クロキは右手で拳を作ると力を込めて言う。

「それはそれで、嫌なんだけど……」

 シロネはスカートを押さえて困った顔をする。

「むう……」

 クロキは唸る。

(これだから女の子は難しい。どうすれば良いのだろう?)

 本能的な物だからいやらしい目以外の目で見る事は絶対にできない。
 だけどシロネの嫌がる事はしたくないので、なるべく視界に入らないようにするしかなかった。
 
「はあ……わかったわ。見ても良いよ。でもあんまり見ないでね、恥ずかしいから」

 シロネは頬をが少し紅くして言うとタロスに向かって行く。。

「侵入者を排除します」

 タロスはそう言うと翼を広げ大剣を構える。

「ふふん! かかって来なさい!!」

 タロスはシロネに向かって突進して大剣を振る。
 かなり速い。
 だが、シロネの方がより速い。
 シロネはその攻撃を軽くステップを踏んで躱す。

「次はこちらが行くよ♪」

 シロネは素早く踏み込むとタロスに向かって剣を振るう。
 タロスは後ろに下がる。
 かなり重そうなのに良い反応である。
 しかし、避けきれずオリハルコンで出来た腕が少し斬り裂かれる。

「へえ、中々速いじゃない」

 シロネは少し楽しそうに言う。

「右腕を損傷。修復します」

 タロスがそう言うと、その体が光る。
 すると腕が瞬く間に治っていく。

「嘘!? 回復するの? 何よ、それだったら修復が追い付かないように斬りまくってやる!!」

 シロネはタロスに向かう。
 しかし、タロスは翼を広げると空中に逃れる。
 通路が広いので空を飛ぶ事も可能であった。

「悪いけど、空中戦は私も得意なの」

 そう言うとシロネもまた背中から翼を出して空中へと舞い上がる。
 シロネとタロスが猛烈なスピードで飛び回り、何度も交差する。
 交差する事12回、やがてタロスが地面へと叩き落とされる。

「ふふ~ん。どうかしら?」

 シロネは笑いながら降りる。
 地面に落されたタロスが起き上がる。
 起き上がったタロスの体の色が黄銅色から赤胴色と変わると紅く光る。
 タロスがシロネに向かって1歩踏み出すと床から煙が上がる。

「何? 怒ったの?」

 シロネが笑いながら聞くとタロスがシロネに向かって距離を詰める。
 先程よりも速い。

 ガキッ!!

 そんな音がしてシロネとタロスの剣がぶつかると鍔迫り合いを始める。

「へえ。さっきよりも強くなっているじゃない」

 シロネは余裕の声で受ける。
 先程よりも強くなったみたいだが、まだまだシロネの方が強い。
 タロスは剣を引くと怒涛の攻撃を始める。
 シロネは体を回すように剣を振るい、タロスの攻撃を1つ1つ弾いていく。
 クロキが見た所タロスの攻撃はただ力任せに剣を振るっているだけだ。
 そんな攻撃ではシロネに傷1つ付ける事はできないだろうと推測する。。
 だけど気になる事があった。
 徐々にだけどタロスの体の光が強くなっている気がしたのだ。
 クロキは嫌な予感がする。
 再びシロネとタロスが鍔迫り合いを始める。

「その程度の力じゃ私は倒せないわよ」

 シロネは笑う。
 そのシロネの声に応えず、タロスは体の光をさらに強くする。
 クロキは急いでシロネの所に走る。
 ヘイボス神から聞いた事を思い出したのだ。

「危ない、シロネ!!!!」

 クロキはシロネの側に駆けるとタロスを弾き飛ばしシロネと共に地面に伏せる。
 そして、地面に伏せた時だった。
 突然タロスの体が白く輝き爆発する。
 クロキはシロネの上に乗り庇うと急いで魔法で防御する。

(ヘイボス神が作ったタロスは敵わないと判断した時は、自身の中にあるイーコールを濃縮させて自爆する。その事を忘れていた)

 クロキは後悔がするが遅く、強烈な光が襲って来る。
 数秒の後、やがて光が収まる。
 クロキが目を開けるとタロスがいた場所には大きな穴が開いている。
 周りを見ると通路の壁が溶解しているのがわかる。
 かなり熱量があったようであった。

「大丈夫? シロネ?」
「何よ、あれ。自爆するなんて聞いてないわよ……」
「ごめん……。知ってたけど忘れていた。でもシロネに怪我が無くて良かった」

 そう言ってクロキはシロネから離れる。見る限り怪我は無いみたいだ。
 
「ちょっと待って、クロキ! 腕が!!」

 シロネは慌てた声を出す。
 クロキの左腕を見ると表面が溶けて骨が見えている。防御魔法が間に合わなかったのである。
 火竜の力を持つクロキの体を焼く程の光だった。
 正面から受けていたら死んでいただろう。

「治癒魔法を!!」

 シロネは回復魔法を使おうとするのを止める。

「大丈夫、これぐらい何ともないよ。すぐに治る」

 クロキはシロネを安心させるために笑う。
 シロネは回復魔法があまり得意ではない事を知っている。
 無駄な魔力を使わせるわけにはいかない。
 それにシロネから癒してもらわなくても、クロキの再生力はかなり強い、自力で立ち直る事ができる。

「私を庇って……」
「これは自分が不覚を取っただけでシロネのせいじゃないよ」

 シロネが泣きそうになるのを見て、クロキは大丈夫だと手を振る。

(まずいなと思う。これは本当に泣いているな)

 暗黒騎士の鎧を着ていればこれ程傷つく事はなかっただろう。
 それに横目で見ていたことから気付くのが少し遅れた。
 運が悪かったと言える。

「ごめんね、クロキ……」
「大丈夫! 大丈夫! 本当に大した事は無いから」
「本当に大丈夫なの……?」

 シロネが心配そうに聞く。
 本音を言うとクロキはかなり痛かった。だけどそれを顔に出す事は出来なかった。

「本当に大丈夫だから。でも少しだけ休もう。邪神と戦うのだから万全を期すべきだ」

 クロキは笑うと床に腰を下ろす。そして左腕を治癒するために瞑想を始めるのだった。





 チユキ達は迷宮の最奥である第13階層へとたどり着く。
 第13階層は暗く所々にある魔法の照明が不気味に通路を照らす。
 その巨大な通路を進む。
 進むとやがて広い部屋へと出る。
 部屋は円形で1000人以上は入れそうだ。
 チユキは部屋の奥の方に誰かがいるのを感じる。
 部屋の奥には巨大な祭壇があり、進んでいくと、その祭壇の中央にある椅子に1人の男が腰かけているのが見えた。
 黒髪の長い髪に四角い顔、剥き出しの上半身は筋肉に包まれ強そうである。
 だけど普通の人間ではない。
 その男の頭には巨大な2本の角が生えている。
 男は大きな口をゆがめチユキ達を見下ろす。
 男の周りには複数の人間の女性達が侍っている。
 おそらく邪神に無理やり妻にされた女性達であった。
 その女性達の中に縛られたエウリアの姿が見える。

「ふん! よく来やがったな勇者共!!」

 角の生えた男が吠える。
 チユキは男のその声には聞き覚えがあった。第12階層で聞こえた声だ。

「あなたがラヴュリュスなのかしら?」

 チユキは大声で聞く。

「ああ、そうだ。俺がラヴュリュスだ。大人しく武器を捨てろ。そうすりゃ命は助けてやる」

 ラヴュリュスは笑いながらこちらを見る。

「お願いです、レイジ様! 武器を捨てて下さい! 私を見捨てないで!!」

 縛られたエウリアが大声で叫ぶ。

「無駄よ、エウリア!!貴方がラヴュリュスの娘である事はズーンから聞いているわ!!」

 ズーンの最後の言葉はちゃんとチユキに届いていた。だから、もう騙される事はない。

「あの裏切り者め!!!」

 エウリアは悔しそうに言う。

「悪いな、エウリア! 君の父親はブッ飛ばさせてもらう!!」

 レイジは剣を構える。

「この俺様をブッ飛ばすだと!? 大きく出たな、レーナの勇者よ!! 大人しくしていれば命は助けてやろうと思ったがもうやめだ!! その首をレーナの元に送ってやる!!」

 ラヴュリュスは立ち上がると横に置いてあった巨大な両刃の斧を取る。
 斧を持つとラヴュリュスの体が膨らんでいく。
 人間だった頭が牛へと変わる。背中から4本の腕が生えてくる。
 変化が止まると現れたのは牛頭の6腕の巨人。
 新しく出した腕が側にある槍と剣と盾を持ち上げる。
 その姿は第5階層で見た邪神の像と同じであった。

「いくぞ、みんな!!」

 レイジが仲間達に檄を飛ばすと各々武器を構える。
 この迷宮での最後の戦いの始まりであった。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

さて本日最後の更新になります。
絵師様の件ですが、移転作業等もあり、
全てが終って落ち着いてから考えたいと思います。
本気で時間が★いです……;つД`)

コメント

  • t3485

    今回を見て、なろう連載時もレイジならチャラ男発言や性獣行動全開でも寛容なのに、クロキ相手だと視線一つでまるで生理的嫌悪感でもあるかの様に言葉の袋叩きを浴びせるシロネに毎回、理不尽さとイラだちを感じちていた事を思い出した。好意故に潔癖を求める狭量さにしても過剰過ぎるし、違うだろうと。それに転移前の私生活でもレイジやその取り巻きと共にいる事を選択し、クロキを何年も放置したにも関わらず、まだクロキへ執着心を抱くところが未だに不自然で理解出来なかった。それと共に思い出したのが、クロキもシロネが側にいると、腕が立つだけの優柔不断で緊張感が無く情け無い男に劣化して

    2
  • 天魔波旬

    移転作業だから、投稿ペースがもっと早くならないかなと思っていたけど、いざペースが早くなると無理してないか心配になります。
    無理はしないでくださいね。

    1
  • 眠気覚ましが足りない

    連日三更新お疲れ様でした。

    この辺りはクロキ達の迷宮の抜け方以外はなろう版と変わりないようですね。


    一読目で見つけた修正箇所です。

    実はズーンの最後の言葉はチユキに届いていたのである。だから、もう騙される事はないのである。

    ズーンの最後の言葉はちゃんとチユキに届いていた。だから、もう騙される事はない。

    0
  • 根崎タケル

    本日最後の更新になります。
    Twitterですが、一度やってみようと思ったのですが、勝手がわからず。
    休止中だったりします。
    宣伝のために再開しようかどうかで迷います。
    絵師様と知り合いになれたら絵の依頼とかが、しやすくなるのかもしれません(>_<)

    眠気覚ましが足りない様誤字報告ありがとうございます。

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