暗黒騎士物語

根崎タケル

結界の破壊

 レーナはクロキ達と別れ少しの間だけ天界エリオスの自身の宮殿に戻る。
 なぜなら、あまり長く離れるとうるさいのがいるからだ。
 レーナの宮殿は虹の橋によって、エリオス山に繋がれた浮島にある。
 浮島には泉を中心とした庭園があり、それを見るとレーナは帰って来た感じがする。

「お帰りなさいませ、レーナ様」

 戻るとニーアを初めとした戦乙女達が出迎える。

「出迎え、ご苦労様ですニーア」

 レーナはフードを脱ぐと側の戦乙女に渡す。

「彼の地での事は全て終わられたのですか?」

 ニーアがレーナに聞く。

「いえ、まだよ」

 レーナは首を振る。

(迷宮から戻ったクロキを労わなくてはいけないわ。少ししたら戻らないとね)

 そんな事を考えながらレーナは笑う。

「そうですね。まだ、レイジが助かっていませんから」

 後ろから付いて来るニーアが心配そうに聞く。
 
(なぜレイジの事を聞くのだろう? 意味がわからないわね)

 レーナは首を傾げる。

「心配する意味がわからないわ、ニーア。レイジなら大丈夫よ」
「そうなのですか?」
「ええ、そうよ」

 レーナは確信を持って答える。
 ラヴュリュスの迷宮にはクロキが向かっている。
 レーナにはクロキがラヴュリュスに負けるとは思えない。
 レイジは助かるだろう。だから、心配はしていない。
 だから、レーナはこう答える。

「だって私の騎士は強いもの」






 日が変わりシロネはクロキと共にキシュ河に潜る。
 もちろん、レイジ達を助けるためだ。
 シロネは横にいるクロキを見る。
 クロキは暗黒騎士の姿になっている。シロネはその姿が好きではない。
 ナルゴルに帰らずにずっと一緒にいれば良いのにと思う。
 しかし、クロキは帰ると言って譲らない。
 その事にシロネはいら立ちを感じていた。
 
(私が言っても聞かないなんて、やっぱりあの子に操られているのかな? うん、絶対そうよね。必ず取り戻してやるんだから。でも今はレイジ君達を助け出すことに集中しなきゃ)

 シロネとクロキは河の中を行く。
 シロネは水の精霊の力で水の中でも息をする事ができる。クロキは体の中に水竜の力があるから水の中でも活動できるそうだ。
 シロネ達の前にはリザードマン達が先導してくれている。
 河の結界を破る方が、祠から結界を破るより簡単なようであった。
 リザードマン達の調査によりこの場所に迷宮へと続く水路を発見した。
 迷宮の設計図では、この水路はレイジがいる5階層に繋がっている。
 水路の穴は小さく人が入る事は無理だろう。小さくなれば入る事はできるだろうが、シロネもクロキもそんな魔法は使えない。
 そして、水路と河の境には光り輝く膜があった。おそらくそれが結界である。
 実はこの迷宮は後から改造されているせいか、少しいびつになっている事が判明した。
 これは鍛冶の神ヘイボスですら知らない事であった。
 いびつになり、結界に歪みが生じ、脆くなった箇所が出来てしまった。
 迷宮を支配する邪神ラヴュリュス達はその脆くなった箇所に新たに結界を張った。
 しかし、応急処置のため結界は完璧ではない。
 河の中の結界もその綻びの1つだ。
 この結界を破れば転移で中から脱出できるはずであった。
 それは、祠を操作して結界を破るよりも簡単な作業になるだろう。
 シロネは剣を抜く。

「今助けるからね、みんな」

 シロネは剣を上段に構え振り下した。





「何……今の……」

 チユキは思わず呟く。
 何か魔力の波動を突然感じたのだ。
 一緒にお茶を飲んでいたナオもリノも何かを感じたようだ。

「チユキさん……。結界が消えたみたいっすよ。そんな感じがするっす」
「精霊さんの声も聞こえるよ、チユキさん」
「どうやらシロネさん達がやってくれたみたいね」

 チユキ達は目を合わせ頷く。

「みんな、どうしたんだ?」

 サホコとエウリアを連れたレイジ君が食堂に入って来る。

「ふふ、レイジ君。結界が消えたみたいなの。シロネさんがやってくれたみたいだわ」

 チユキが言うと3人が驚く。

「さすがはシロネだ。俺が見込んだだけの事はある」
「ふふ、レイ君の言った通りだね。信じて待ってて良かった」

 レイジとサホコが笑う。

「そんな……。結界が……。アトラ……は何を……?」

 だけどエウリアは浮かない顔を何かをぶつぶつと呟く。

「エウリア姫? どうかしたのですか?」

 チユキが聞くとエウリアは慌てる。

「いっ、いえ! 何でもありません! ああ、そう! 急いでみなにも知らせないと、私はこれで!!」

 エウリアは急いで食堂を出る。
 その様子にチユキは首を傾げる。

「結界が消えたと言う事は脱出ができるな」
「ええ、そうよレイジ君。今だったら転移魔法で脱出できるわ。さあみんな、街の人達を集めて!!脱出するわよ!!」





「結界が消えただと! どういう事だっ?!」

 ラヴュリュスは連絡をしてきたミノタウロスの一匹を怒鳴りつける。
 すると玉座の周りにいる人間の愛妾達が怯える。
 それが、またラヴュリュスを苛つかせる。
 この女性達は外の国から攫って来た者達だ。
 この13階層にはラヴュリュスのお気に入りが沢山いるのだ。

(人間のメスは他の種族よりも美しいが、どんなに優しく愛撫をしても大半はすぐに死んでしまう。生き残るのは1割にも満たない。これでは俺様の猛る情欲は満たされない)

 だからこそ、ラヴュリュスは強靭な肉体を持つメスが欲しかった。
 もちろん強靭なだけでは駄目だ。美しくなければならない。
 初めてレーナを見た時の衝撃をラヴュリュスは今でも覚えている。以来、あの美しい女神こそ妻に相応しいと思っている。
 だからレーナの恋人と呼ばれる光の勇者の存在は許せなかった。

「アトラナクアは何をしている!?」

 ラヴュリュスは再び怒声を放つ。
 結界が破れたと言う事は迷宮の外で何かが起こったのだ。
 しかし、何も連絡がない。

「あの醜い蜘蛛女め! このままでは折角捕えた勇者達が逃げてしまうではないか!」

 ラヴュリュスは歯ぎしりをする。
 再び結界を張ろうにもラヴュリュスはそちらは不得意だ。
 ザルキシスも今はいない。
 だが、このまま逃がす事はできない。

「者共に伝えろ! 勇者共を逃がすな!!」






「ズーンがエウリア姫を攫っていったですって?!!」

 チユキはウスの街の中央広場でエウリアの従者を問い詰める。
 すでに街の人達は迷宮の外へと転移させた。
 あとはエウリア達のみという所でエウリアの侍女がミノタウロスのズーンに攫われた事を伝えて来たのである。

「はい、チユキ様。突然でした……。ズーンとか言うミノタウロスがいきなり姫様を連れ去って行ったのです。そして、こう言ったのです。この迷宮から出るなと。出れば姫様がどうなるかわからないぞと……。どうかお願いです、姫様を助けてください」

 侍女が頭を下げる。だけど侍女の表情は普段とあまり変わらない。
 主人が心配じゃないのだろうか、とチユキは思うが、ここに連れ去られた時も平然としていたので、元々感情を出すのが苦手なだけなのかもしれないとも思う。

「そんな!早く助けに行かないと!!」

 サホコが慌てた声をあげた。

「あのミノタウロスめ! 大人しいふりをして……やってくれるじゃないか……」

 レイジが悔しそうな顔をする。

「まさかズーンが……。でもおかしいわね。リノの魔法で知っている事を聞きだしたはずなのに」

 チユキはは疑問に思う。
 リノの魔法でズーンは本当の事を話したはずだ。ズーンはこの5階層から抜け出す方法は知らないはずだ。
 リノの魔法に抵抗する事ができていたようにも思えない。
 それに、あの優しそうなミノタウロスがそんな事をするなんて思えなかった。
 短い間だったけど打ち解けられたと思ったのに。

「だけど事実だぜ、チユキ。急いで助けに行かないと。エウリアが何をされるかわからない。迷宮から出るなと言うのなら、このまま下の階層に行ってやろうじゃないか!! 」

 レイジが不敵な笑みを浮かべて言う。
 レイジは女の子を見捨てない。だけど付き合わされる私達の身になって欲しい。

「でもどうやって? 連れ去られたとすればここよりも下の階層よ。行き方がわからないわ……」

 ここから下の階層に行く方法はわからない。このままではここに留まるしかない。
 だけどそんな事をすれば再び結界で閉じ込められるかもしれない。
 そうなればエウリアだけでなくチユキ達も危険だ。
 エウリアには悪いけど、彼女よりも仲間の命が大事だ。
 ここは見捨てるべきである。

「それなんすけど、チユキさん。どうやら湖の底から下の階層に行けそうっすよ」

 横からナオが言う。

「湖の底から?」

 この第5階層には大きな湖がある。その湖の底から地下の階層に行けるとナオが伝える。

「はいっす。感覚が戻ったから間違いはないっす。リノちゃんも湖の底に下の階層へと水が流れていると言ってたっす」
「うん。ナオちゃんの言う通りだよ、チユキさん。水が湖の底からさらに下へと流れているのを感じるの」
「ナオさんとリノさんが言うのだから間違いないわね。どうするレイジ君?」

 チユキはレイジを見る。

「行くしかないな。エウリアを助けなければ」
「はあ……やっぱりそうなるか……。ではそこから行きましょう。あなた達は外にいるシロネさん達にこの事を伝えて」

 チユキがそう言うとエウリアの従者達は頷く。
 そして、チユキは魔法を発動するとエウリアの従者を転移させる。
 こうして、この地にはレイジとチユキにサホコとリノとナオだけが残る。

「行こう、みんな!!」

 レイジの声と共にチユキ達は湖へと向かうのであった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

更新できそうだったので、更新です。
湿気がすごくて、部屋がサウナ状態だったりしますが、
頑張って更新していきたいと思います;つД`)


そして、ごめんなさい。また変更です。

リザードフォーク→蜥蜴人リザードマン

にしました。
今後出てくる獣人達に合わせての変更です。

そもそもリザードフォークにしたのは、英語に翻訳して読む人に配慮してのことだったりします。
トカゲ男だとメスがいるのかわからないですが、蜥蜴人がうまく英訳されてくれると良いのですが……。

それにしても、日本語と英語で少し感じが違う気がします。
ちなみに元老院は

元老院→《英語訳》→Senate→《再日本語訳》→上院議会

となります。なんか違う……。
まあ、アメリカの上院議会の元ネタが元老院だからなのですが。

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コメント

  • t3485

    シロネが無意識にクロキを見下し続ける宿痾は相変わらずですね。クロキが暗黒騎士として戦い、その強さをシロネ達へ見せた時が、シロネにとってクロキを見る目や意識を変えてヒロインへ昇格する貴重な機会だったのに…。弱虫な幼馴染が、強いと思っていた自分達勇者パーティー全員より実は強かったというのは物凄い衝撃だと思うのですが、それもスルー。主人公を言葉や思考の端々で見下し、通常ならその偏見から解放となる出来事があっても、強固な偏見の為に全く挽回に結び付かない、頑固さというよりも鈍さ。自分個人としては、ストーリーが進みここまで見せられてもクロキへの評価が変わらないシロネには、もうヒロインルートは想像がつきません。逆にシロネの周囲の女性陣達は順調にクロキの情報や評価を更新して対応も変わってきているので、クロキとの関係でシロネだけが取り残されている様に見えます。シロネは勇者とクロキのハーレム成立後、独り売れ残りエンドになりそうな予感がします。

    2
  • ナットです。タイにいます。

    I’m looking forward to the future chapters!! Especially the new waifus!!!!!!!!

    0
  • Kazandu

    Hi man, i was reading this novel from naru site for so long. But i feel that this doesn't have enough consistency.

    POSITIVE:
    - A nice main plot (at least until volume 3)
    - Very interesting characters, unique personalitys
    - MC who simply got dropped in to the fry is quite the develop.

    Curiously the problem goes in the develop of the plot and the evolution of Characters

    NEGATIVE:

    - The plot goes nowhere,
    - The characters doesn't got any sustancial develop, or get wasted even have the potencial to shine more.
    - The MC after 9 volumes practicaly is still the same moron with inferiority complex.
    - The MC Childhood friend, and the other characters on the "hero" hadn't evolved as characters at al, y to the point you can kick them out of the history and does not affect the plot at all.,

    But i don't want to be missunderstood, i think the work in general lines is very good, but i find it lacking in this aspects, i think that this re work thay you are doing is a new chance to do a 180 dregees turn, rather than simply "fix" the previous version.

    As a matter of personal opinion i will sugest changes like this ones:

    - try to develop the characters a little more, rather than introduce new ones like minor heros that had no relevance, is better to focus in the initial characters, and his developing, the MC need to grow balls i understand the initial set up as a pussy was good but seriously he need to move on,

    - The Godess Lena is a bitch, and i like it, is unique and is one of a hell of selling point, another interesting one is Totona, she need more develip, Kuna is very interesting as character but need more room to improve, the Chilhood friend can be interesting but his persisten "my friend was brainwashed, and the womanizer hero is the best" need a lot of improvement.

    - The nargol loyalist faction is a fucking goldmine, i think the need more develop as a evil group, yo u c

    0
  • トラ

    更新お疲れ様です

    0
  • ノベルバユーザー318854

    迷宮の設計図では、この水路はレイジ君がいる5階層に繋がっている。

    迷宮の設計図では、この水路はレイジがいる5階層に繋がっている。

    おそらく結界であった。

    おそらくそれが結界である。

    初めてレーナを見た時の衝撃をラヴュリュスは今でも覚えている。あの美しい女神こそ妻に相応しいと思っている。

    初めてレーナを見た時の衝撃をラヴュリュスは今でも覚えている。以来、あの美しい女神こそ妻に相応しいと思っている。

    後はエウリア達いう所でエウリアの侍女がミノタウロスのズーンに攫われた事を伝えて来たのである。

    あとはエウリア達のみ(orだけ)という所でエウリアの侍女がミノタウロスのズーンに攫われた事を伝えて来たのである。

    ここは見捨てるべきであった。

    ここは見捨てるべきである。

    0
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