暗黒騎士物語

根崎タケル

愛と美の神殿

 迷宮都市ラヴュリュントスを脱出してから、既に1日が経った。
 クロキは今、シロネ達と共に自由都市テセシアにいる。
 自由都市テセシアはあまり綺麗な都市ではない。
 様々な建物がひしめき合い、そのあいだをまるで迷路のように細い道が複雑に入り組んでいる。
 計画に沿って、きちんと造られていないのは確かだ。
 都市の出入りが自由であり、また居住も自由であるせいか、色々な人間が訪れる。中には他の地域で罪を犯した者までいる。そのため、治安があまり良くない。
 そもそも、このテセシアは他の地域から流れて来た難民を収容するために造られた都市である。
 この都市を造ったアリアディア共和国の首脳陣は、彼等を厄介な客人と思っているのは間違いなかった。
 何しろテセシアはこの地域で唯一危険な迷宮の側に造られているからだ。
 或いは、難民を収容できる土地が此処しかなかっただけかもしれない。
 危険な土地であるせいか、このテセシアに流れ着いた難民の男性は自由戦士になる者が多い。
 単に、ここで就ける職が自由戦士しかないのかもしれないが、何の技術がない人でも健康な体があれば、剣を持つだけで名乗る事ができる職業だ。
 そして、女性の中には生活のために娼婦になる者が多くいる。
 これも自分の体が一つあればなれる、元手がかからない職業だからだ。
 そんな娼婦達が信仰するのが、愛と美の女神イシュティアである。
 女神イシュティアは、エリオス十二神の1柱であり、レーナや女神フェリアと同じく三美神の1柱だ。
 この世界の人間の宗教はエリオスの神々を崇める多神教である。
 エリオスの神々で人間が信仰しているのは、男女で6対となる12神。
 クロキは人間達から聞いたエリオスの神々の事を思い出す。 

 1.法と契約の男神オーディス、結婚と出産の女神フェリア
 2.鍛冶と財宝の男神ヘイボス、美と愛の女神イシュティア
 3.海と船乗りの男神トライデン、大地と豊穣の女神ゲナ
 4.酒と料理の男神ネクトル、医と薬草の女神ファナケア
 5.力と戦いの男神トールズ、知恵と勝利の女神アルレーナ
 6.歌と芸術の男神アルフォス、知識と書物の女神トトナ

 ヘイボス神はドワーフ達の神だが、人間からも信仰されている。
 人間の間ではヘイボス神は財宝神でもある。
 ドワーフは地中にある黄金や宝石を見つけて扱う。それがいつの間にか、ヘイボス神を崇めるとお金持ちになれると言われるようになり、職人だけでなく商人からも信仰されるようになった。
  因みに、他にもエリオスの神はいるが、人間からはあまり信仰されていない。
  この12神で特に信仰されているのが、神王オーディスとその妻である神妃フェリアだ。
  多神教のため複数の神を同時に信仰しても問題はなく、神王オーディスと神妃フェリアを同時に信仰する事も可能である。
  しかし、教義の内容によって同時に信仰できない神もいる。
  女神フェリアと女神イシュティアである。
  この2柱の教団は仲が悪い事で有名だ。
  どちらも女性が信仰する女神だが、教義の内容はかなり違う。
  フェリアの教えは良妻賢母に対して、イシュティアの教えは真逆である。
  そもそもイシュティアの教えに結婚という考えが無い。
  フェリアの教えは貞節を守るが、イシュティアの教えは恋人を複数持っても良いのである。
  そんな女神イシュティアは娼婦達の神であり、女神フェリアは娼婦を職業と認めていない。
  この事がフェリア信徒とイシュティア信徒との争いの原因のようだ。
  そのためか、多くの国で信仰される女神フェリアと真っ向から対立する女神イシュティアはあまり信仰されていない。
  しかし、所によっては国の守護神だったりする。
  現にミノン平野から西にある聖サルゴニア王国では、国王よりもイシュティア神殿の神聖娼婦の方が上位の存在である。
  このテセシアでも、イシュティア教団の力は強い。
  彼女達の機嫌を損ねれば、都市に住むほぼすべての女性から嫌われるのだ。
  自由戦士達も迂闊なことは出来ない。
  そして、クロキ達はテセシアのイシュティア神殿に来ていた。
  なぜここにいるかと言うと、レイジ達が戻って来るかもしれないため、迷宮から一番近いテセシアで待とうとシロネが提案したからだ。
  そのテセシアで一番立派な建物がイシュティア神殿である。
  中には神聖娼婦のための豪華な入浴施設もあり、シロネ達が滞在するには良いだろう。
  もっともクロキにとっては落ち着かなかったりする。

「落ち着かないな……」

 街並みを見ていたクロキの口から思わず声が漏れる。
 クロキがいるのはイシュティア神殿の敷地にある外部宿泊施設だ。
 基本的にイシュティア神殿は男子禁制だ。
 しかし、例外的に外周にある宿泊施設と賭博場は男性が特別に入る事ができる。
 今いる外部宿泊施設も男性が入っても良い場所である。
 ただ、宿泊費は他に比べてかなり高く3倍以上するが、クロキにとって問題はそこでなかった。
 女神イシュティアは、愛と美の女神であると同時に娼婦達の女神だ。
 つまり、宿泊施設は言わば娼館なのである。  
 クロキはここに向かっていた時に何人もの薄着の女性達とすれ違った事を思い出す。  
 おそらく女神イシュティアに仕える娼婦達だろう。  
 女神イシュティアの正式な信徒には、例外を除き女性しかなる事ができない。  
 そして、この神殿にいる信徒は同時に娼婦である事が多い。  
 流石に今は昼だから18禁的な事は行われていないみたいだが、それでも娼館で会議しますと言ったら落ち着かなくなるのは当然だ。
 元々、このイシュティア神殿は売春宿だったらしい。  
 経営者は男性だったようだ。  
 しかし、娼婦達の扱いが悪く、この地を訪れたイシュティアの使徒の怒りを買った。  
 イシュティアの使徒は娼婦達を率いて反乱を起こし、買収宿を乗っ取った。  
 売春宿はイシュティア神殿へと改修され、今ではテセシアの娼婦達の元締めになっている。  
 元締めと言っても決して悪い物ではない。  
 神殿の組織は娼婦達で構成された互助組織のような物だ。  
 無理やり女性を娼婦にする事もしない、それどころか娼婦に非道な事をした男を懲らしめたりするそうだ。  
 それにイシュティアの信徒の情勢に非道な事をすれば、女神から不能の呪いを受けると言われている。だから、イシュティア神殿の娼婦達を粗略に扱う男はまずいない。  
 寧ろ、女神のように崇められていると言っても良いだろう。

「どこを見ているのよクロキ?」

 クロキが窓の方を見ているとシロネがジト目で注意する。
 注意されたクロキが視線を戻すと4名の女性がこちらを見ている。
 左からキョウカ、カヤ、シロネ、レーナの順だ。
 クロキは全員が厳しい目で見ているような気がした。

(そんな事を言うのなら、ここに滞在しなければ良いのに……)

 そう言いたくなるのを我慢してクロキは正面を向く。
 今は円卓に座り会議中なのである。
 もちろんクロキは鉄仮面を被ったままだ。一応お手伝いの自由戦士という肩書なので当然だ。
 しかし、正体は全員にバレバレである。

「貴方はああいう恰好がお好みなのかしら?」

 クロキの左隣に座るキョウカが興味ありげにクロキを見る。
 なぜかキョウカが隣に座っている。
 そして、なぜか距離が近いような気がする。
 
「お嬢様。そのような男の汚らわしい趣味等は聞く必要がありません。離れてください」 

 そう言うとカヤはキョウカを自身の方へと引っ張る。
 また、その時にクロキに冷たい瞳を向けるのを忘れない。
 その表情で下着を見せてくれたら一部の男性が喜ぶだろう。

「そうですよ、キョウカ。その男に近づかない方が良いでしょう。それに今はその男の趣味を聞いている場合ではありません」

 クロキの右隣に座るレーナが不機嫌そうに言う。  
 ヴェールで顔が見えないが、隠している表情も不機嫌そうである。  
 レーナも正体を隠してここにいる。 
 知恵と勝利の女神レーナ、正式な名前はアルレーナだが通称でレーナと呼ばれている。
 その彼女が地上にいれば騒ぎになる。そのため正体を隠す必要があった。
 しかし、部屋の外で待機している神官戦士の数を考えると、いかにも重要人物だとわかるだろう。
 そして、レーナもまたクロキとの距離が近い。 
 美女2人に挟まれてクロキは更に落ち着かなくなる。 
 
「そうだよ、今はそんな時じゃないよ! レイジ君達が捕まったんだよ! 何とかしないと!」

 シロネが大声を出す。
 シロネの言う通りレイジ達は迷宮を支配する邪神ラヴュリュスに捕らえられた。
 その事をクロキ達に伝えたのはレーナである。
 ラヴュリュスはエリオスの神々に対して1か月以内にレーナを渡さないとレイジ達を殺すと伝えた。  
 エリオスの神々は助ける理由がないのでレイジ達を見捨てるつもりだ。  
 もちろん、レーナも行くつもりはない。  
 そもそも、ラヴュリュスが約束を守るとは思えない。  
 そして、レーナは今しがたクロキ達にその事を伝えに来たのであった。
 
「そうですね。魔法の映像によればレイジ様達は生きているはずです。時間の制限はありますが……。その間に何とか助けなくてはいけません」

 カヤが全員を見る。
 ラヴュリュスが送ってきた映像には生きているレイジ達の姿が映っていた。
 もっとも、それは偽の映像かもしれないが、今は信じるしかないだろう。

「だけど、何の対策もしないで迷宮に入っても意味がない。同じように捕らえられるだけだ」

 クロキは首を振って答える。 
 
「じゃあ、どうするのよ。クロ……鉄仮面?」

 あやうくクロキと言いかけたシロネが睨む。

「手がないわけじゃない。迷宮を作った主に聞けば良いはずだ」 
「その通りです。あの迷宮はラヴュリュスが無理やりヘイボスに作らせたもの。ヘイボスなら迷宮を攻略する方法を知っているかもしれません」

 クロキが言うとレーナも頷く。
 邪神の迷宮を作ったのは鍛冶の神ヘイボスだ。
 彼の助けを借りなければいけないだろう。

「つまり、その鍛冶の神から助言を得なければいけないという事ですのね」
「そういう事です、キョウカ。ヘイボスにはすでに連絡してあります。すぐに連絡を返してくれるでしょう。その連絡があるまで待ちなさい」 

 キョウカの問いにレーナが答える。

「そのようですね、お嬢様。いつまでかかるかわかりません。一度アリアディア共和国へ戻りましょう。ちょうど聖レナリア共和国から呼び寄せた侍女達も来ているはずです。それにこの宿は少々問題があります」

 カヤが部屋を見て言う。
 クロキも頷く。
 娼館なので夜の嬌声が聞こえて来る時があるのだ。  
 一応、高い部屋なので壁は厚く、声も大きくは聞こえない。  
 しかし、クロキは耳が良い。  
 このままだと下半身が野獣になりかねない。
 一刻も早く出た方が良いだろう。

「そうだね、ここはさすがに問題あると思う。野獣もいるし……」

 シロネがジト目でクロキを見て言うとレーナとカヤが頷く。
 野獣と言われるのは心外だが、出て行く事にはクロキも異論はない。
 クロキ達はテセシアを離れる事にするのだった。
 





 
 迷宮都市から撤退したシズフェ達はシロネ様達と自由都市テセシアへと戻った。  
 シロネ様達と別れ、今はイシュティア神殿の裏庭で模擬戦をしている。

「はっ!!」

 シズフェは木剣をノヴィスに振るう。

「よっと!!」

 しかし、シズフェの木剣はノヴィスの木剣で簡単に打ち払われる。

「やっ!!!」

 ケイナの棒が横からノヴィスに振るわれる。
 だけど、ノヴィスは後ろに素早く飛んで簡単に避ける。
 シズフェとケイナはノヴィスから離れ距離を取る。

(さすがノヴィス。強い)

 シズフェはノヴィスの動きを心の中で賞賛する。
 先程から2人がかりで戦っているのにまったくノヴィスには敵わない。
 さすが火の勇者と呼ばれる事はあると思うのだった。

「やめた……」

 突然ノヴィスが構えを解く。

「ちょっとどうしたのよ、ノヴィス!!」
「駄目だ。シズフェが相手じゃ上達しない……」
「ちょっと失礼ね! あなたが剣の練習に付き合えって言って来たんでしょーが!!」

 シズフェはノヴィスに怒る。
 そもそも、シズフェとケイナが剣の練習に付き合っているのはノヴィスが頼んだ事だ。
 それを練習にならないと言うのは失礼であった。

「だって、仕方が無いだろ……。身近で剣の相手をしてくれるのはシズフェしかいねえんだよ。それに怪我をさせるわけにもいかないから本気も出せないしな……。これじゃ練習相手にならねえ」

 ノヴィスが残念そうな声で言うがそんな事を言ってもどうにもならない。

「もう……。そうは言っても私じゃ貴方の相手なんかできないわよ。それにしても本当に急にどうしたのよ。剣の練習に付き合えとか?」

 シズフェは疑問に思う。

(なんで急に強くなりたいから剣の相手をしてくれとか言い出すのだろう。今までこんな事はなかったのに)

 しかし、ノヴィスはその言葉に応えない。

「まっ、迷宮で役に立たなかったら、そう思うわな」
「ケイナ姉!!」

 ノヴィスの抗議を意に介さずにケイナは笑いながらノヴィスの背中に抱き着く。

「なるほど、確かに役に立ってないわね。レイジ様の足元にも及ばなかったわ」
「な、何を! あんないい恰好しやがって! いつか超えてやるわ!」 

 ノヴィスは吠える。
 それを聞いてシズフェはため息を吐く。
 どうやら対抗意識を持っているようだけど、どんなに頑張ってもノヴィスがレイジ様に勝てるとはシズフェには思えない。
 でも、強くなろうとするのは良い事だろう。
 マディも黒髪の賢者様を見て自分も頑張らなきゃと言い、アリアディア共和国にある魔術師協会に行って勉強中だ。  だから、今はここにはいない。
  シズフェ達も強くなるために、現在イシュティア神殿の裏庭で剣の練習をしている。
 本来なら、ここは愛と美の女神イシュティア様に仕える巫女達の洗濯物を干したりする場所なので、男性は入る事はできない。
 だけど、シズフェは何度かイシュティア神殿の依頼を受けたりしている。その時に神殿の巫女達と仲良くなったので特別に使わせてもらっている。
 フェリア信徒であるシズフェにも優しくするあたりイシュティア神殿は大らかである。
 もし、これがフェリア神殿だったら改宗をせまるだろう。  
 一般的にフェリア信徒とイシュティア信徒は仲が悪いと言われている。  
 なぜなら、結婚の女神であるフェリア様の教えでは、夫に対して貞節である事が良いとされる。  
 それに対して、美の女神イシュティア様は複数の男神を愛人にしている。  
 つまり、イシュティア様はフェリア様の教えに反しているのである。  
 そのため、フェリア信徒は一方的にイシュティア信徒を嫌うのだ。  
 だけど、フェリア信徒であるシズフェが気にしなければ問題にはならない。  
 また、この自由都市テセシアではアリアディア共和国と違い、イシュティア教団の力が強く彼女達に逆らうのは得にならない。  
 教義さえ気にしなければ、イシュティア様に仕える巫女達は皆大らかで付き合いやすい。
 彼女達は市民権を持たない女性の保護を表明している。
 シズフェもこの都市に着た頃はまだ子供で、その時にイシュティア教団の巫女達のお世話になった事があった。
 だからこそイシュティア神殿の教義に何も言うつもりはない。
 そして、今裏庭にはシズフェとケイナとノヴィスの他にノーラと仲良くなった神殿の巫女達がいる。
 この巫女達の中にはあきらかにノヴィスを見に来ている子もいるようであった。
 光の勇者様には及ばなくてもノヴィスは充分にすごいとシズフェは思っている。
 比べるのは少し意地悪だったかなとシズフェは少し反省する。

「はあ……。レイジ様に勝てるかどうかはわからないけど、私の所じゃなく本格的な武術の先生に習った方が良いんじゃない?」

 シズフェが言うとノヴィスは首を振る。

「それも考えたんだけどな。前に剣術の有名な先生と喧嘩したからな……。どこも入門を拒否されちまったんだよ」
「あー。そういえば前にそんな事があったわね……。それじゃあこの辺りで剣を教えてくれる人はいないわよね……」

 ノヴィスは前に剣術道場を1つ潰した事があった。
 その剣術道場はあまり性質の良くない所だったみたいだけど、あんな事があった後では誰もノヴィスに剣を教えてくれないだろう。

「それなら光の勇者から教えを乞うてはどうだ、少年。彼は強いし、少年が全力で剣を振っても大丈夫なはずだ」

 横で見ていたノーラが声を掛ける。

「少年はやめてくれよ、ノーラさん。もう少年じゃないぜ」
「ああ、すまないな……。人間の成長は早いのを忘れていたよ、失礼した」

 ノーラは謝る。
 シズフェはエルフのノーラの年齢は知らないが、おそらく100年以上は生きている。
 そのノーラから見たらノヴィスぐらいの年齢は全員子供である。

「でもノヴィス。ノーラさんが言った事は一理あると思うけど」
「確かにそうだけど……。なんだかな」

 ノヴィスは嫌そうに答える。

「まっ、確かに理由が理由なだけに。当の光の勇者様に教えを乞うのが嫌だろうな~♪ それならノヴィス、剣の乙女様から教えてもらったらどうだ?」
「おっ!? それは良い考えだなケイナ姉! 美人の女剣士! 手取り足取り教えてもらいたいぜ! そういや今ここにいるんだろ! お会いできないかな!」
「それならレイリアに頼んだらどうだ? 確か神殿から来た重要人物の護衛をしているらしいからな」

 ノーラが答える。
 シズフェの仲間である神官戦士のレイリアは、アリアディア共和国から来た重要人物の護衛に駆り出されている。
 その重要人物は剣の乙女シロネと面会をしている最中であった。

「なるほど! それじゃレイリアさんに頼んで紹介してもらおうかな!」

 ノヴィスの鼻の下が目に見えて伸びる。
 それを見て、シズフェは頭が痛くなる。

「全く何を考えているのよ。レイジ様がいるのだから、万が一でもノヴィスには機会はないわよ。それに私達の相手をしてくれるかわからないわよ」
「そんなのわかんないだろ! 頼んだら教えてくれるかもしれないぜ!」

 ノヴィスは聞く耳を持たない。
 
(どうしよう? このままだとシロネ様に迷惑をかけちゃう)

 シズフェは何かノヴィスを止める方法を考える。
 そして、迷宮で出会ったある人物が浮かぶ。

「あっ!? そうだ良い事を考えた! 迷宮で会った鉄仮面の人から剣を学んだら? ノヴィスは気絶していてしらないだろうけど、すごい剣士だったのよ! 男同士だし教えてもらうのにちょうど良いんじゃない?」 

 シズフェは名案だとばかりに両手をぽんと合わせる。
 シズフェは鉄仮面の戦士の事を思い出す。
 すごい剣士であった。
 何しろあの強いミノタウロス達をうまく誘導して同士討ちをさせたのだ。
 彼に習うのも良いかもとシズフェは思う。

「ええ、嫌だぜ! どうせなら美女が良いだろ!」
「こ、こいつは……」

 シズフェは何か言おうとした時だった、後ろからケイナが止める。

「まあ、待てノヴィス。シズフェは剣の乙女様に妬いているんだよ。だから、反対しているんだ。察してやれよ」
「何!? 本当か!? シズフェ!?」

 ケイナが笑いながら言うとノヴィスが嬉しそうな声を出す。
 しかし、シズフェにとってはありえない話だったりする。
 
(何で私がノヴィスに妬くのよ。意味がわからない)

 シズフェが何と言おうか迷っている時だった。

「ノヴィ~~ス!!!」

 突然声が聞こえる。
 シズフェはこの声には聞き覚えがあった。

「「ジャスティ!!」」

 シズフェとノヴィスの声が重なる。
 声と共にあらわれたのはシズフェとノヴィスの昔からの知り合いだ。
 名前はジャスティア。
 呼ぶときは少し短くしてジャスティと呼ぶ。
 ジャスティはイシュティア様に仕える巫女である。もっとも娼婦ではないのだが。
 そして、ジャスティはシズフェがテセシアに来たばかりの頃に知り合った同世代の女の子で、小さい頃はマディとノヴィスと共に遊んだ事がある。
 そのジャスティがドタドタと走ってくる。

「帰ってきたのなら声を掛けてくれても良いじゃない、ノヴィス!!」

 そう言ってノヴィスに抱き着く。ジャスティはノヴィスが帰ってきてからまだ会っていなかったようであった。

「ぐふう!!」

 ノヴィスが苦しそうにする。
 ジャスティは女のシズフェから見てもかなり太ましい女の子だ。
 そして、男性顔負けの力持ちだったりする。抱き着かれたノヴィスは女の子に抱き着かれて嬉しそうではなく苦しそうにしている。
 実は、ジャスティは地の勇者ゴーダンの妹である。
 顔もごつく、2人はとても良く似ている。

「あら、シズフェ。貴方いたの?」

 ジャスティがノヴィスに抱き着きながら言う。
 小さい頃からジャスティはノヴィスの事が好きでなぜかシズフェを敵視する。

(ジャスティは、どうやら私がノヴィスの事を好きだと思っているようだ。そんな事は無いのに)

 シズフェは溜息を吐く。
 だけど、気付いていながら、いなかったかのように言われるのは面白くない。

「最初からいたのに気付かなかったの、ジャスティ? ごめんね、私あなたのように大きくないから」

 シズフェは笑い、ジャスティのお腹を見ながら言う。

「ええ、シズフェ。あなたの胸が小さすぎて気付かなかったわ」
「なっ!!」

 言われてシズフェは胸を押さえる。
 シズフェの胸は決して小さい方ではない。
 少なくともマディやノーラよりは大きい。要はジャスティが大きすぎるのだ。
 ただジャスティの胸は大きいが胴回りもかなり大きいのでまったく悔しくない。
 だけど、シズフェは少し不愉快になる。

「なによ! あなたのは太っているだけでしょーが!!」
「私は太っているのではないわ! ちょっとぽっちゃりしているだけよ!!」

 シズフェとジャスティは睨みあう。

「待て待て! お前らノヴィスが泡吹いてるぞ!!」

 そばで見ていたケイナが間に入る。
 見るとジャスティに抱き着かれたノヴィスが泡を吹いてぐったりしている。

「きゃあ――――ノヴィス!!」

 ジャスティが抱き着くのをやめてノヴィスを起こそうとする。

(火の勇者と呼ばれたノヴィスを絞め落すとは、おそるべしジャスティ……)

 シズフェはそう思うのだった。

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コメント

  • Kyonix

    レイジ:タイトル「義兄」を獲得。

    0
  • ノベルバユーザー294617

    更新お疲れ様です。
    クロキがヘタレて合流したから迷宮を警戒したりボスやレイジがショボくなった気がします。
    ナットの救助に本気なら負かされたっきりなのに一緒に行って合流させたりしないだろうし…

    0
  • 読書好きTT

    なろう読みました‼️続きが気になります‼️更新頑張ってください‼️‼️

    1
  • NNY

    暗黒騎士物語?
    本当 暗黑道化師物語/光明勇者伝説 そうじゃない?

    0
  • まっきー

    めっちゃノベルバチェックしてました!
    残念です

    0
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