暗黒騎士物語
迷宮都市ラヴュリュントス2 コカトリスの庭
シズフェ達は迷宮都市ラヴュリュントスの地表部へと入る
  ゴーダン率いる自由戦士達が突入しているはずであった。
シズフェ達の役割は地上部分を探索して、人質が捕まっていないか探す事だ。
ラヴュリュントスの地表部分は広いが、自由戦士の数も多い。
もし捕まっているのなら、見つける事は簡単だろう。
だが、そんなシズフェ達の前に魔物達が現れる。
「シズフェ、大丈夫か!!」
「こっちは大丈夫だよ、ケイナ姉! それにしても、なんでこんなにゴブリンがいるのよ!!」
シズフェは叫ぶ。
地表にいるのはコカトリスだけのはずだ。だけど迷宮の地表部分に突入したらゴブリンの集団に襲われたのである。
周りでは他の自由戦士達がゴブリンと戦っている。迷宮の地表部分は魔法の霧に覆われているため、視界が悪く奇襲を受けてしまった。
(そう言えば、レイジ様がこの迷宮に入る理由は、ゴブリンに攫われたパシパエア王国の人々の救出だったけ? だとすれば、このゴブリンは農場から逃げた、奴隷だったゴブリンなのかも?)
そんな事を考えながらシズフェは襲って来たゴブリンを斬り裂く。
「マディ! 大丈夫!!」
「うん、シズちゃんなんとか」
シズフェはマディを守りながら戦う。
マディは直接戦闘ができないから乱戦になると危険だ。
「気を抜くなシズフェ! マディ!」
ケイナは一番後ろを進み、後ろから襲って来る者がいないか警戒する。
ケイナの動きは素早く。
広い場所で戦えばほとんど人がケイナには敵わない。
ケイナは槍を振り回しゴブリンを蹴散らす。
そしてマディは閃光の魔法でゴブリンの視界を奪い。シズフェ達を助ける。
「ゴブリンは殲滅ですわ!!」
レイリアさんがメイスでゴブリン達を薙ぎ払いながら進む。
「あいかわらず飛ばしているな、レイリアさん……」
シズフェはレイリアの戦いぶりを見て笑う。
レイリアは女神レーナ様に仕える司祭なだけあって魔物が嫌いだ。
過去に魔物に襲われて魔物が嫌いになり、魔物を殲滅したいと心から願ったら天使様が答えてくれたと、シズフェは過去に聞いた事がある。
治癒魔法が使えるのだから後衛になってくれた方が本当は良いのだろう。だけど彼女は前に出る。
その彼女をサポートするのはエルフのノーラである。
ノーラは弓と小剣を巧みに使い、ゴブリンを倒していく。
その連携の取れた動きを見てシズフェは2人を頼もしく思う。
この2人はシズフェと出会う前から組んでいたらしく息がぴったりあった。
2人の活躍でゴブリンを掻き分け進んでいく。
(さすがね、だけど2人以上にすごいのはこいつよね)
シズフェはレイリアとノーラの前で戦っているノヴィスを見る。
だけど、この2人以上に活躍しているのがノヴィスだ。
火の勇者と呼ばれるだけあってノヴィスは強く。火の魔法と剣を使い次々とゴブリンを倒していく。
「すごい、ノヴィ君。前よりも強くなっているみたい」
マディがノヴィスを見て呟く。
(確かに、前よりも強くなっているかも)
ノヴィスの戦いぶりを見てシズフェは感心する。
(昔からすごいと思っていたけど、さらに磨きがかかったわね)
シズフェは幼い頃を思い出す。
小さい頃からノヴィスはすごかった。
剣の才能も、魔法の才能もあるのだ。
ノヴィスは、シズフェの父親から剣を習い、魔法はマディの父親から教えを受けた。
シズフェもノヴィスと共に指導を受けたが残念な事に才能がなかった。
何しろシズフェには腕力がないのだ。
いくら鍛えても筋肉がつかず、戦う事は難しい。
父親が魔物による怪我で亡くなり、魔法の剣を受け継がなければ自由戦士になろうとは思わなかっただろう。
そんなシズフェが自由戦士になったのは生活のためである。
再婚した母が一緒に暮らさないかと誘ってくれたが断った。
義父は良い人だったが、シズフェの父親は1人で充分である。
自由戦士になったシズフェは、父親と共に自由戦士をしていたケイナの仲間にしてもらい今に至るのである。
その時、既にノヴィスは自由戦士になっていて、ケイナと共に依頼をこなしていた。
魔法戦士は珍しかったからノヴィスはすぐに有名になった。
その後マディが仲間になり、たまたま一緒に仕事をしたレイリアとノーラが仲間になった。
レイリアとノーラが仲間になる頃にはノヴィスは火の勇者と呼ばれるようになっていた。
そして、個別に依頼を受けるようになって、だんだんとシズフェ達とは別に行動をするようになった。
久しぶりに会ったノヴィスはさらに強くなっていて、その才能の差にシズフェは嫉妬しそうになる。
「どうした、シズフェ? 惚れ直したか?」
シズフェが見ている事に気付いたのかノヴィスがにっと笑う。
「はあ? 何言ってんの、バカ!!」
シズフェは呆れた声を出す。
(いつ私がこいつに惚れたのよ。周りは火の勇者とか呼んでるけど、私から見たら悪ガキよ。小さい頃、私に何度意地悪したと思ってるの? 今でも私に結構意地悪だし。少しでいいからレイジ様を見習って欲しい)
シズフェの中ではノヴィスはいつまでたっても子供だ。
それに対して光の勇者レイジはとても優しく紳士的であった。
先程もシズフェはもっとレイジとお話しがしたかった。
だけど、チユキの目が厳しくてあまりお話しができなかったのである。
(あんな素敵な男性と仲良くなれるはずないじゃない。そもそもあんなに綺麗な人が周りにいるのだから、私なんかまともに相手にしないだろうし)
シズフェはそんな事を考えながら進む。
この程度の数のゴブリンぐらいならシズフェ達でも何とかなる。
問題は、進んでいる途中で砕けたゴブリンの石像がいくつも落ちている事だ。
間違いなくコカトリスの仕業である。
魔獣コカトリスはシズフェ達では勝つことは難しい。
遭遇しなければ良いがそうはいかないだろう。石像の数が多い。絶対近くにいる。
「コケ――――――――!!」
突然大きな鳴き声がする。
そして、近くから自由戦士達の悲鳴が聞こえる。
「やばい! コカトリスだ、逃げろ!!」
ケイナが叫ぶ。
遠くからコカトリスらしき巨体が見える。
コカトリスは暴れまくり、灰色の霧を吐いている。コカトリスが吐いているのは石化毒に違いなかった。
あの霧に触れると石になってしまう。
シズフェは過去に遠くからコカトリスを見た事があるが、ここまで興奮しているのを見るのは初めてだ。
急に沢山のゴブリンが入って来た事で気が立っているのかもしれない。
コカトリスは真っ直ぐにこちらに来る。
当然シズフェ達も逃げる事にする。
「きゃあ!!」
「マディ!!」
逃げる途中、マディが転んでしまう。
「くそ!!」
ノヴィスが戻りコカトリスに立ちはだかる。
その間にシズフェはマディを起こす。
コカトリスは大きくノヴィスの背丈の2倍はある。
「はあっ!!」
ノヴィスは剣を振るい、マディに行かないようにする。
ケイナが槍を振り回しでコカトリスを追い払おうとする。
ノーラが弓でコカトリスの頭をねらう。
「みんな下がって! 石化毒が来る!」
シズフェが大声を出すとコカトリスが大きく口を開ける。
そしてコカトリスの口から灰色の霧が吐き出される。
「火壁(ファイヤーウォール)!!」
ノヴィスが魔法で火の壁を作り石化毒を打ち消す。
石化毒は火の壁により消されて行く。
「へっ、どうだ!!」
ノヴィスが笑う。
「駄目っ!!ノヴィス、逃げて!!」
シズフェは叫ぶが間に合わない。
コカトリスが火の壁を無視して突っ込んで来る。
コカトリスには火に耐性がある。
火の魔法を得意とするノヴィスとは相性が悪い。
羽毛は固くて攻撃が効きにくいため、剣で傷つける事も難しい。
コカトリスの弱点は水だ。この魔獣は水に濡れるのを極端に嫌がる。
だから雨の降る日は安全だったりするのである。
「くっ!!」
コカトリスの体当たりによりノヴィスが跳ね飛ばされる。
「大丈夫、ノヴィス?」
シズフェはノヴィスに駆け寄る。
コカトリスがこちらにくる。
「よくもノヴィスを!!」
ケイナが槍を構え前に出る。
「暗闇!!」
マディが暗闇の魔法でコカトリスの視界を塞ぐ。
これでしばらくは安全だ。また石化毒も1回吐いたら次に吐くまで時間がかかるはずである。この間に逃げなければ。
「はっ!!」
ノーラが弓でこちらへ向かわないように援護してくれる。
シズフェとレイリアはその間にノヴィスの所にかけよる。
「すまない、へまをした」
ノヴィスが弱弱しく言う。右足が白く固くなっている。
どうやら体当たりされた時に石化毒に触れたみたいだ。
「レイリアさん、解毒を!!」
シズフェが言うと、レイリアは首を振る。
「私の治癒魔法では無理です……。担いで逃げるしかありません」
「わかった!!」
シズフェはレイリアさんとノヴィスを起こそうとする。
「何をしている! 俺を置いて早く逃げろ!!」
「馬鹿っ! 置いて行けるわけないでしょ!!」
コカトリスはマディの魔法で方向を見失っている。だけど、マディの魔法は長続きしない事をシズフェは知っている。
急いで逃げないと石化毒が来るだろう。
「クエ―――――!!」
コカトリスが暴れるとコカトリスを覆っていた暗闇が晴れる。
そして、コカトリスはシズフェ達を見付け向かって来る。
(駄目だ間に合わない)
シズフェがそう思い、眼を瞑った時だった。
「はっ!!」
何者かがシズフェの頭上を越えてコカトリスに向かって剣を振るう。
首を失ったコカトリスはそのまま倒れ動けなくなる。
「大丈夫かシズフェ?」
「レイジ様!!」
飛び込んできたのは光の勇者レイジである。
レイジの爽やかな笑顔を見てシズフェは安心する。
「すごい、コカトリスが一撃だなんて……」
シズフェの横でマディが呟く。
マディは首を失ったコカトリスの死体を見て凄いと思う。
そして、レイジが来た方向からその仲間の女性達が来る。
全員が美しい女性だ。
その華やかさにシズフェは見惚れる。
「大丈夫? 怪我をしているみたいだけど」
倒れているノヴィスを見て胸の大きな女性が来る。
聖女サホコと呼ばれる女性であった。
勇者レイジの従者であり、慈愛に満ちた女性だとシズフェは聞いている。
聖女サホコはノヴィスの石化した足に触る。
すると触った所が小さく光りノヴィスの足が元通りになる。
「えっ? 治った」
ノヴィスは驚いた声を出す。
もちろん驚いたのはノヴィスだけではない。
シズフェも驚く。
「すごい、これほどの治癒魔法を……」
レイリアはノヴィスの足を触る。
レイリアもまた治癒魔法の使い手だ。
サホコの使った治癒魔法がどれだけ高度なのかがわかるのである。
「すごいね、大きな鶏さんだよ、まだいっぱいいるみたい」
髪を頭の左右で結んだ女の子が無邪気な声を出す。
精霊使いのリノと呼ばれる女性だ。
一見、か弱い女の子に見えるが、エルフでも扱うのが難しい上位精霊を使役できる。
シズフェは精霊の事に詳しくないが、ノーラが彼女の事を聞いて驚いた顔をした事を思い出す。
そのリノは巨大なコカトリスを見ても全く動じていない。
彼女にとってコカトリスはシズフェにとって鶏程度の相手なのだろう。
シズフェはそう思い、自身との力の差を考えてしまう。
「まさかこんな事になってるなんてね……。これは先が思いやられるわね」
賢者と呼ばれるチユキが呟く。
黒髪が美しい女性であり、マディの何百倍もの魔力を持つ。
シズフェは魔法を使えないが、それなりの知識はある。
だから黒髪の賢者チユキのすごさがある程度はわかる。
魔術師協会で最高である賢者の称号を与えられる事はあるなと思う。
「すみませんでした。その……地表部分はコカトリスだけだと言ってしまいまして……」
「ああ、その事……。それはあなたのせいじゃないわ。通常とは違う事が起こったのだから。それにゴブリンがここに大量に入った時点で私も予想してしかるべきだったわ」
チユキは手を振ってシズフェを許す。
「気にしなくても良いよ。シズフェに怪我がなくて良かった。まあ他に罠はないみたいだし、後は俺達がやるよ」
そう言ってレイジは先に進む。
シズフェはそれを見送るしかなかった。
「なんだありゃ……すごすぎるだろ、あれ」
「本当……。すごい、さすがレイジ様」
ノヴィスが呟くとシズフェは頷く。
レイジの動きは凄かった。
いくら魔法の武器を持っていてもあんな動きはできない。
そして、コカトリスはかなり強い魔獣だ。それを一撃で倒したのだ。ノヴィスでなくてもすごいと思うだろう。
世の中上には上がいる事をシズフェは思い知らされる。
「強いな……。それに連れている女性もすごい美人だな」
ノーラが呟く。
(確かにレイジ様ばかり見ていたけど、改めて思い返すと皆すごい美人だ。ノヴィスなんか足を治してくれた聖女様に見惚れていたぐらいだし)
シズフェはノヴィスの様子を思い出し笑いそうになる。
あんな美女達がいたのでは立ち入る隙はない。
「確かにすごい美人よね……」
「ホントすごい、む……美人だな」
ノヴィスが横で呟く。
「あなた今、胸と言おうとしなかった?」
シズフェは飽きれた声を出す。
ノヴィスは治癒魔法をかけてもらった時に聖女サホコの胸ばかり見ていたようであった。
(こいつ、助けてもらっておきながら何を考えているのよ)
そこまで考えてシズフェは気付く、ノヴィスが自身の胸元を見ている事に。
「ちょっと、誰と比べているのよ!?」
「いや、別に……もうちょっとあったらなと思ってな」
ノヴィスが笑いながら失礼な事を言う。
殴ってやろうかとシズフェは考える。
「おいおい、ノヴィス。それならお前が大きくしてやりゃ良いだろ?」
ケイナがシズフェとノヴィスの後ろから抱き着いて言う。
「ちょっ、ケイナ姉!!」
シズフェはケイナ姉に抗議する。
美形な勇者様ならともかく、こいつに大きくしてもらいたいと思わないから当然である。
「良し、わかった。俺にまかせとけ」
そう言ってノヴィスは両手を上げて何かを揉むようなしぐさをする。
「何を考えてるのよ! あんたは――!! さっさと行くわよ!」
シズフェはノヴィスを叩く。
それを見て仲間達が笑う。
レイジ達が通った後なので、もう周りに魔物はいない。
シズフェは急ぎ後を追うのだった。
  ゴーダン率いる自由戦士達が突入しているはずであった。
シズフェ達の役割は地上部分を探索して、人質が捕まっていないか探す事だ。
ラヴュリュントスの地表部分は広いが、自由戦士の数も多い。
もし捕まっているのなら、見つける事は簡単だろう。
だが、そんなシズフェ達の前に魔物達が現れる。
「シズフェ、大丈夫か!!」
「こっちは大丈夫だよ、ケイナ姉! それにしても、なんでこんなにゴブリンがいるのよ!!」
シズフェは叫ぶ。
地表にいるのはコカトリスだけのはずだ。だけど迷宮の地表部分に突入したらゴブリンの集団に襲われたのである。
周りでは他の自由戦士達がゴブリンと戦っている。迷宮の地表部分は魔法の霧に覆われているため、視界が悪く奇襲を受けてしまった。
(そう言えば、レイジ様がこの迷宮に入る理由は、ゴブリンに攫われたパシパエア王国の人々の救出だったけ? だとすれば、このゴブリンは農場から逃げた、奴隷だったゴブリンなのかも?)
そんな事を考えながらシズフェは襲って来たゴブリンを斬り裂く。
「マディ! 大丈夫!!」
「うん、シズちゃんなんとか」
シズフェはマディを守りながら戦う。
マディは直接戦闘ができないから乱戦になると危険だ。
「気を抜くなシズフェ! マディ!」
ケイナは一番後ろを進み、後ろから襲って来る者がいないか警戒する。
ケイナの動きは素早く。
広い場所で戦えばほとんど人がケイナには敵わない。
ケイナは槍を振り回しゴブリンを蹴散らす。
そしてマディは閃光の魔法でゴブリンの視界を奪い。シズフェ達を助ける。
「ゴブリンは殲滅ですわ!!」
レイリアさんがメイスでゴブリン達を薙ぎ払いながら進む。
「あいかわらず飛ばしているな、レイリアさん……」
シズフェはレイリアの戦いぶりを見て笑う。
レイリアは女神レーナ様に仕える司祭なだけあって魔物が嫌いだ。
過去に魔物に襲われて魔物が嫌いになり、魔物を殲滅したいと心から願ったら天使様が答えてくれたと、シズフェは過去に聞いた事がある。
治癒魔法が使えるのだから後衛になってくれた方が本当は良いのだろう。だけど彼女は前に出る。
その彼女をサポートするのはエルフのノーラである。
ノーラは弓と小剣を巧みに使い、ゴブリンを倒していく。
その連携の取れた動きを見てシズフェは2人を頼もしく思う。
この2人はシズフェと出会う前から組んでいたらしく息がぴったりあった。
2人の活躍でゴブリンを掻き分け進んでいく。
(さすがね、だけど2人以上にすごいのはこいつよね)
シズフェはレイリアとノーラの前で戦っているノヴィスを見る。
だけど、この2人以上に活躍しているのがノヴィスだ。
火の勇者と呼ばれるだけあってノヴィスは強く。火の魔法と剣を使い次々とゴブリンを倒していく。
「すごい、ノヴィ君。前よりも強くなっているみたい」
マディがノヴィスを見て呟く。
(確かに、前よりも強くなっているかも)
ノヴィスの戦いぶりを見てシズフェは感心する。
(昔からすごいと思っていたけど、さらに磨きがかかったわね)
シズフェは幼い頃を思い出す。
小さい頃からノヴィスはすごかった。
剣の才能も、魔法の才能もあるのだ。
ノヴィスは、シズフェの父親から剣を習い、魔法はマディの父親から教えを受けた。
シズフェもノヴィスと共に指導を受けたが残念な事に才能がなかった。
何しろシズフェには腕力がないのだ。
いくら鍛えても筋肉がつかず、戦う事は難しい。
父親が魔物による怪我で亡くなり、魔法の剣を受け継がなければ自由戦士になろうとは思わなかっただろう。
そんなシズフェが自由戦士になったのは生活のためである。
再婚した母が一緒に暮らさないかと誘ってくれたが断った。
義父は良い人だったが、シズフェの父親は1人で充分である。
自由戦士になったシズフェは、父親と共に自由戦士をしていたケイナの仲間にしてもらい今に至るのである。
その時、既にノヴィスは自由戦士になっていて、ケイナと共に依頼をこなしていた。
魔法戦士は珍しかったからノヴィスはすぐに有名になった。
その後マディが仲間になり、たまたま一緒に仕事をしたレイリアとノーラが仲間になった。
レイリアとノーラが仲間になる頃にはノヴィスは火の勇者と呼ばれるようになっていた。
そして、個別に依頼を受けるようになって、だんだんとシズフェ達とは別に行動をするようになった。
久しぶりに会ったノヴィスはさらに強くなっていて、その才能の差にシズフェは嫉妬しそうになる。
「どうした、シズフェ? 惚れ直したか?」
シズフェが見ている事に気付いたのかノヴィスがにっと笑う。
「はあ? 何言ってんの、バカ!!」
シズフェは呆れた声を出す。
(いつ私がこいつに惚れたのよ。周りは火の勇者とか呼んでるけど、私から見たら悪ガキよ。小さい頃、私に何度意地悪したと思ってるの? 今でも私に結構意地悪だし。少しでいいからレイジ様を見習って欲しい)
シズフェの中ではノヴィスはいつまでたっても子供だ。
それに対して光の勇者レイジはとても優しく紳士的であった。
先程もシズフェはもっとレイジとお話しがしたかった。
だけど、チユキの目が厳しくてあまりお話しができなかったのである。
(あんな素敵な男性と仲良くなれるはずないじゃない。そもそもあんなに綺麗な人が周りにいるのだから、私なんかまともに相手にしないだろうし)
シズフェはそんな事を考えながら進む。
この程度の数のゴブリンぐらいならシズフェ達でも何とかなる。
問題は、進んでいる途中で砕けたゴブリンの石像がいくつも落ちている事だ。
間違いなくコカトリスの仕業である。
魔獣コカトリスはシズフェ達では勝つことは難しい。
遭遇しなければ良いがそうはいかないだろう。石像の数が多い。絶対近くにいる。
「コケ――――――――!!」
突然大きな鳴き声がする。
そして、近くから自由戦士達の悲鳴が聞こえる。
「やばい! コカトリスだ、逃げろ!!」
ケイナが叫ぶ。
遠くからコカトリスらしき巨体が見える。
コカトリスは暴れまくり、灰色の霧を吐いている。コカトリスが吐いているのは石化毒に違いなかった。
あの霧に触れると石になってしまう。
シズフェは過去に遠くからコカトリスを見た事があるが、ここまで興奮しているのを見るのは初めてだ。
急に沢山のゴブリンが入って来た事で気が立っているのかもしれない。
コカトリスは真っ直ぐにこちらに来る。
当然シズフェ達も逃げる事にする。
「きゃあ!!」
「マディ!!」
逃げる途中、マディが転んでしまう。
「くそ!!」
ノヴィスが戻りコカトリスに立ちはだかる。
その間にシズフェはマディを起こす。
コカトリスは大きくノヴィスの背丈の2倍はある。
「はあっ!!」
ノヴィスは剣を振るい、マディに行かないようにする。
ケイナが槍を振り回しでコカトリスを追い払おうとする。
ノーラが弓でコカトリスの頭をねらう。
「みんな下がって! 石化毒が来る!」
シズフェが大声を出すとコカトリスが大きく口を開ける。
そしてコカトリスの口から灰色の霧が吐き出される。
「火壁(ファイヤーウォール)!!」
ノヴィスが魔法で火の壁を作り石化毒を打ち消す。
石化毒は火の壁により消されて行く。
「へっ、どうだ!!」
ノヴィスが笑う。
「駄目っ!!ノヴィス、逃げて!!」
シズフェは叫ぶが間に合わない。
コカトリスが火の壁を無視して突っ込んで来る。
コカトリスには火に耐性がある。
火の魔法を得意とするノヴィスとは相性が悪い。
羽毛は固くて攻撃が効きにくいため、剣で傷つける事も難しい。
コカトリスの弱点は水だ。この魔獣は水に濡れるのを極端に嫌がる。
だから雨の降る日は安全だったりするのである。
「くっ!!」
コカトリスの体当たりによりノヴィスが跳ね飛ばされる。
「大丈夫、ノヴィス?」
シズフェはノヴィスに駆け寄る。
コカトリスがこちらにくる。
「よくもノヴィスを!!」
ケイナが槍を構え前に出る。
「暗闇!!」
マディが暗闇の魔法でコカトリスの視界を塞ぐ。
これでしばらくは安全だ。また石化毒も1回吐いたら次に吐くまで時間がかかるはずである。この間に逃げなければ。
「はっ!!」
ノーラが弓でこちらへ向かわないように援護してくれる。
シズフェとレイリアはその間にノヴィスの所にかけよる。
「すまない、へまをした」
ノヴィスが弱弱しく言う。右足が白く固くなっている。
どうやら体当たりされた時に石化毒に触れたみたいだ。
「レイリアさん、解毒を!!」
シズフェが言うと、レイリアは首を振る。
「私の治癒魔法では無理です……。担いで逃げるしかありません」
「わかった!!」
シズフェはレイリアさんとノヴィスを起こそうとする。
「何をしている! 俺を置いて早く逃げろ!!」
「馬鹿っ! 置いて行けるわけないでしょ!!」
コカトリスはマディの魔法で方向を見失っている。だけど、マディの魔法は長続きしない事をシズフェは知っている。
急いで逃げないと石化毒が来るだろう。
「クエ―――――!!」
コカトリスが暴れるとコカトリスを覆っていた暗闇が晴れる。
そして、コカトリスはシズフェ達を見付け向かって来る。
(駄目だ間に合わない)
シズフェがそう思い、眼を瞑った時だった。
「はっ!!」
何者かがシズフェの頭上を越えてコカトリスに向かって剣を振るう。
首を失ったコカトリスはそのまま倒れ動けなくなる。
「大丈夫かシズフェ?」
「レイジ様!!」
飛び込んできたのは光の勇者レイジである。
レイジの爽やかな笑顔を見てシズフェは安心する。
「すごい、コカトリスが一撃だなんて……」
シズフェの横でマディが呟く。
マディは首を失ったコカトリスの死体を見て凄いと思う。
そして、レイジが来た方向からその仲間の女性達が来る。
全員が美しい女性だ。
その華やかさにシズフェは見惚れる。
「大丈夫? 怪我をしているみたいだけど」
倒れているノヴィスを見て胸の大きな女性が来る。
聖女サホコと呼ばれる女性であった。
勇者レイジの従者であり、慈愛に満ちた女性だとシズフェは聞いている。
聖女サホコはノヴィスの石化した足に触る。
すると触った所が小さく光りノヴィスの足が元通りになる。
「えっ? 治った」
ノヴィスは驚いた声を出す。
もちろん驚いたのはノヴィスだけではない。
シズフェも驚く。
「すごい、これほどの治癒魔法を……」
レイリアはノヴィスの足を触る。
レイリアもまた治癒魔法の使い手だ。
サホコの使った治癒魔法がどれだけ高度なのかがわかるのである。
「すごいね、大きな鶏さんだよ、まだいっぱいいるみたい」
髪を頭の左右で結んだ女の子が無邪気な声を出す。
精霊使いのリノと呼ばれる女性だ。
一見、か弱い女の子に見えるが、エルフでも扱うのが難しい上位精霊を使役できる。
シズフェは精霊の事に詳しくないが、ノーラが彼女の事を聞いて驚いた顔をした事を思い出す。
そのリノは巨大なコカトリスを見ても全く動じていない。
彼女にとってコカトリスはシズフェにとって鶏程度の相手なのだろう。
シズフェはそう思い、自身との力の差を考えてしまう。
「まさかこんな事になってるなんてね……。これは先が思いやられるわね」
賢者と呼ばれるチユキが呟く。
黒髪が美しい女性であり、マディの何百倍もの魔力を持つ。
シズフェは魔法を使えないが、それなりの知識はある。
だから黒髪の賢者チユキのすごさがある程度はわかる。
魔術師協会で最高である賢者の称号を与えられる事はあるなと思う。
「すみませんでした。その……地表部分はコカトリスだけだと言ってしまいまして……」
「ああ、その事……。それはあなたのせいじゃないわ。通常とは違う事が起こったのだから。それにゴブリンがここに大量に入った時点で私も予想してしかるべきだったわ」
チユキは手を振ってシズフェを許す。
「気にしなくても良いよ。シズフェに怪我がなくて良かった。まあ他に罠はないみたいだし、後は俺達がやるよ」
そう言ってレイジは先に進む。
シズフェはそれを見送るしかなかった。
「なんだありゃ……すごすぎるだろ、あれ」
「本当……。すごい、さすがレイジ様」
ノヴィスが呟くとシズフェは頷く。
レイジの動きは凄かった。
いくら魔法の武器を持っていてもあんな動きはできない。
そして、コカトリスはかなり強い魔獣だ。それを一撃で倒したのだ。ノヴィスでなくてもすごいと思うだろう。
世の中上には上がいる事をシズフェは思い知らされる。
「強いな……。それに連れている女性もすごい美人だな」
ノーラが呟く。
(確かにレイジ様ばかり見ていたけど、改めて思い返すと皆すごい美人だ。ノヴィスなんか足を治してくれた聖女様に見惚れていたぐらいだし)
シズフェはノヴィスの様子を思い出し笑いそうになる。
あんな美女達がいたのでは立ち入る隙はない。
「確かにすごい美人よね……」
「ホントすごい、む……美人だな」
ノヴィスが横で呟く。
「あなた今、胸と言おうとしなかった?」
シズフェは飽きれた声を出す。
ノヴィスは治癒魔法をかけてもらった時に聖女サホコの胸ばかり見ていたようであった。
(こいつ、助けてもらっておきながら何を考えているのよ)
そこまで考えてシズフェは気付く、ノヴィスが自身の胸元を見ている事に。
「ちょっと、誰と比べているのよ!?」
「いや、別に……もうちょっとあったらなと思ってな」
ノヴィスが笑いながら失礼な事を言う。
殴ってやろうかとシズフェは考える。
「おいおい、ノヴィス。それならお前が大きくしてやりゃ良いだろ?」
ケイナがシズフェとノヴィスの後ろから抱き着いて言う。
「ちょっ、ケイナ姉!!」
シズフェはケイナ姉に抗議する。
美形な勇者様ならともかく、こいつに大きくしてもらいたいと思わないから当然である。
「良し、わかった。俺にまかせとけ」
そう言ってノヴィスは両手を上げて何かを揉むようなしぐさをする。
「何を考えてるのよ! あんたは――!! さっさと行くわよ!」
シズフェはノヴィスを叩く。
それを見て仲間達が笑う。
レイジ達が通った後なので、もう周りに魔物はいない。
シズフェは急ぎ後を追うのだった。
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3万
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21
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コメント
眠気覚ましが足りない
さらに追加です。
だとすれば、このゴブリンは農場から逃げた奴隷のゴブリンなのかもしれない?
↓
だとすれば、このゴブリンは農場から逃げた、奴隷だったゴブリンなのかも?
眠気覚ましが足りない
追加です。
(あんな素敵な男性と仲良くなれるはずがない。そもそもあんなに綺麗な人が周りにいるのだから私なんかまともに相手にしてくれないだろう)
↓
(あんな素敵な男性と仲良くなれるはずないじゃない。そもそもあんなに綺麗な人が周りにいるのだから、私なんかまともに相手にしないだろうし)
実はコカトリスには火に耐性があるのだ。
火の魔法を得意とするノヴィスとは相性が悪いはずであった。
羽毛は固く攻撃が効きにくい。剣で傷つける事は難しい。
↓
コカトリスには火に耐性がある。
火の魔法を得意とするノヴィスとは相性が悪い。
羽毛は固くて攻撃が効きにくいため、剣で傷つける事も難しい。
「いえ、地表部分はコカトリスだけだと言ってしまいまして……その……」
↓
「すみませんでした。その……地表部分はコカトリスだけだと言ってしまいまして……」
眠気覚ましが足りない
連投お疲れ様です。
更新していただけて大変ありがたいですが、無理だけはしないで下さいね。
ところでシズフェはシロネをチユキに寄せた感じの性格だと思っているのですが、いかがでしょう。
報告です。
(確かにすごい。前よりも強くなっているのではないのかしら?)
↓
(確かに、前よりも強くなっているかも)
(いつ私がこいつに惚れたのだろう。周りは火の勇者と呼んでいるけど、私から見たら悪がきだ。小さい頃、何度意地悪をされただろう。今でも私に結構意地悪だったりするし。レイジ様を見習って欲しい)
↓
(いつ私がこいつに惚れたのよ。周りは火の勇者とか呼んでるけど、私から見たら悪ガキよ。小さい頃、私に何度意地悪したと思ってるの? 今でも私に結構意地悪だし。少しでいいからレイジ様を見習って欲しい)
一部が地の文のようになっています。
根崎タケル
第4章続きを更新しました。
つい最近知ったのですが、カクヨムも投げ銭と広告収入を導入するらしいです。
スマホ等が普及するのなら、電子書籍を買わずにそのまま読んだ方が早い。
時代はそちらに進んでいるのかもしれません。
そして、連休中に移転作業を進めたいと思います。
眠気覚ましが足りない様。誤字報告ありがとうございます。
修正しました。