暗黒騎士物語

根崎タケル

騒がしい日々

 ナルゴルの中心に位置する魔王宮。
 その一室でモデスとモーナは話し合う。
 部屋には他に誰もいない。
 その座椅子にモデスは座り、その膝の上にモーナがいる。

「すまないな、モーナ」
「いえ、あなた。これぐらいの事であればなんなりとお命じ下さい」

 モデスはモーナが了承してくれたようなのでほっとする。
 今頃、モーナの護衛だった魔族の女騎士達がクロキの元に向かっているはずであった。
 これでクロキも部下を持つ身となった。
 モデスとしては魔族の男性で構成された暗黒騎士団の中から部下を付けようと思ったのだが、暗黒騎士団は勇者との戦いでほぼ壊滅状態であり、現在再建中である。
 そのため、ランフェルドから数少ない暗黒騎士を取り上げるわけにはいかなかった。
 オークや下位種族等を部下にする事も考えたが、クロキの強さを考えれば 足手まといにしかならない。
 そこで無傷であったモーナの配下である女騎士の何名かをクロキの部下にしようとモデスは思ったのだ。
 元々、ナルゴルに居る限りモーナが危険な目に会う事はなく、護衛の騎士は多すぎるぐらいだった。
 だから、女騎士の何名かを減らしても問題はないはずであった。
 しかし、それにはモーナの許可を取らねばならない。
 モーナはあまりクロキの事が好きではないようなので渋るかとモデスは思ったが、意外とあっさり了承してくれた。
 その事でモデスは安堵する。

「私がモデス様の頼みを聞かないはずがありませんわ」

 モーナは笑う。
 その笑みはモデスの心を蕩かせる。

「ぬふふふ」

 モデスは笑うとモーナを抱き寄せる。

「いけませんわ、モデス様……。このような所で……」
「ぬふふふ、良いではないか、良いではないか」

 モデスがモーナといちゃつこうとしている時だった。
 突然。扉の外から声がする。

「陛下、陛下。よろしいでしょうか」

 声は主はルーガスのようである。
 モデスが入るように言うと、部屋にルーガスが入って来る。

「何事だ、ルーガス?」
「実は……。勇者達を監視していたナットとの連絡が途絶えました。もしかすると捕まってしまったかもしれません」
「何だと!? ナットはこのモデスの為に良く働いてくれた者だ。それが捕まるとは……」

 報告を受けてモデスは天を仰ぐ。

「それがどうしたのです、ルーガス老。たかがネズミ一匹。伝える程の事は無いはずですよ? こちらの重要な情報を知ってないのなら捨て置きなさい!!」

 モーナは冷たく言う。

「確かにそうですが……」

 ルーガスもまた頷く。
 ナットはナルゴルでは身分が高いというわけではない。
 だからモーナは見捨てるべきだと思っている。
 だが、モデスは自身の為に働いてくれた者を見捨てるような真似はしたくなかった。

「ルーガスよ。もし、ナットが捕まっているのなら出来れば助けてやりたい」
「はい。陛下ならばそう言われると思っておりました。しかし、勇者達は強い。並の者では救出は不可能でしょう」
「確かにそうだな」

 モデスはそこで考える。
 しかし、答えは1つしかなかった。

「やはりあの者に頼むしかないな……」

 最強の暗黒騎士の姿を思い浮かべ、モデスはそう呟くのだった。





「ふふふーん♪」

 クロキの目の前でクーナがお茶を淹れてくれている。
 クーナはとても上機嫌であった。

(おそらくリジェナ達がいなくなった事が嬉しいのだろうな)

 クロキはクーナの様子を見て苦笑する。
 リジェナ達は昨日、聖レナリア共和国へと行ってしまった。
 おかげで魔王城のすぐ近くに建てられた屋敷に住む者は、クロキとクーナと最初に付けられた熊のような顔の召使いだけになってしまった。
 ちなみに、この熊のような顔の召使いの正体は人熊ワーベアの少女である。
 クロキは人間形態の彼女の姿を見た事がなく、いつか人間の姿を見たいと思う。
 人熊ワーベアの少女はクーナと違ってリジェナがいなくなって残念そうであった。
 クロキはリジェナ達を御馳走を見るように涎をたらしていたのを覚えている。
 もちろん、食べる事は出来なかったのだが。
 人熊の彼女の存在を考えると本当にリジェナはナルゴルから出られて良かったとクロキは思う。
 ナルゴルは本来、人が住めるような所ではない。
 クロキは少々さみしいと思うが仕方がなかった。

「どうだ、クロキ。リジェナに頼らなくてもクーナがいればお茶をいつでも飲む事ができるぞ」

 クーナはクロキの前にお茶を置くと、どうだとばかりに仁王立ちになって胸を反らす。
 するとクーナの大きな胸がぷるんと揺れる。
 クーナが今着ている服は元々リジェナが着ていたメイド服である。
 なぜ、こんな服を持っているのかと言うと、とあるドワーフにリジェナ達の作業着を作って欲しいと頼んだら、この服を渡されたからだ。
 なんでも勇者の召使い達は全員この服を着ているらしく、まねをして作ったらしい。
 ちなみ人熊の少女もメイド服を着ている。
 そしてリジェナはメイド服の格好でクロキの世話をしてくれていた。
 そのため、クロキは目のやり場にすごく困ってしまう。
 リジェナが着ても破壊力がすごかったメイド服を今はクーナが着ている。
 クーナの胸はリジェナよりもかなり大きい。そのため、メイド服の胸元がかなり危険な事になっている。
 何か今にもすごい物が飛び出してきそうでクロキは目が離せなかった。

「どうしたのだ、クロキ? 飲まないのか?」

 クーナが不思議そうにクロキを見て言う。

(良かった。クーナの胸に見惚れていた事には気付かれなかったようだ)

 クロキは誤魔化すように笑うとカップを手に取る。

「いや、ありがとうクーナ。いただくよ」

 そう言ってクロキはお茶の入ったカップを口に運ぶ。
 お茶はかなり甘いがおいしく、初めて飲む味であった。

「どうだ、クロキ?」

 クーナは何かを期待するように自分を見る。

「うん、おいしいね。所で初めて飲む味だけど、このお茶どうしたの?」
「ああ、ダティエからもらった」

 クーナの言葉を聞いてクロキは思わず吹きそうになるのを堪える。

(ダティエって確かゴブリンの女王のあのダティエだよね……)

 クロキは御茶の入ったカップを見る。
 実はクロキは少し前にカロン王国にダティエを訪ねたばかりだった。
 訪問した理由はゴズの行方を知るためである。
 その時にクロキはゴズはダティエがモデスから預かった大切な物を勝手に持ち出した罰でカロンの地下水牢に閉じ込められている事を聞いた。
 つまり、もうリジェナがゴズに襲われる事はなくなったのである。
 その事はクロキも嬉しく思う。
 ただ気になるのはダティエと話しをしている時、視線がやたらとクロキの股間に向いているのが気になった。
 舐めまわすように股間を見られるのでクロキは正直嫌だったりする。

(ダティエには悪いが、出来ればもう会いたくないな)

 クロキはダティエを事を思い出し、震えながら御茶を見る。

「おいしいか、クロキ?」

 クーナがにこにこしながら聞いて来る。

(せっかくクーナが淹れてくれたお茶だ。味は悪くないのだから、いただこう)

 クロキはそう考えて、お茶を飲み干す。

「おいしいよ、クーナ」
「そうか、じゃんじゃん飲んでくれ。クロキは耐性が強そうだからたっぷりと入れておいたんだ。クロキは何だかクーナに遠慮しているみたいだからな。クーナになら全てを曝け出して良いのだぞ」

 クーナはお茶を再び淹れる。

(耐性? 何の事だろう? でも、まあ良いか。クーナは楽しそうだし)

 クロキは少し悪い予感がしたが、気にしない事にする。

「ああ、そうだ。クーナにプレゼントがあるんだ」

 そういって懐から箱を取り出す。

「それは……?」

 箱の中に入っているのは指輪である。
 クロキはその指輪を取り出すとクーナの左手の薬指に填める。

「この指輪はね、ペアになっていてそれぞれ付けている2人の位置がわかる魔法と互いのいる所に転移する事ができる魔法が込められているんだ」

 クロキは左手の薬指をみせる。
 そこにはクーナと同様に指輪が填められている。

「これでクーナとずっと一緒だよ」

 クロキがそう言うとクーナの瞳が潤む。

「クロキ!!」

 クーナは叫ぶとクロキに抱き着く。

「クロキ! クロキ! だ~い好きクロキ!!」
「はは、喜んでくれて嬉しいよ」

 クロキはクーナの背中を撫でながら少しだけ罪悪感を覚える。

(これでクーナが何をして、何処にいるのかがわかる)

 指輪の本当の理由はクーナが暴走しないための手綱であった。
 だけど、それクーナに言う事は出来なかった。

(それにしてもクーナから良い匂いがする)

 クロキはクーナの匂いを思いっきり吸い込む。

 こんこん。

 クロキとクーナが抱き合っている時だった。扉が叩かれる。

「誰だ!!」

 クーナはクロキから離れて怒鳴る。邪魔されて少し不機嫌みたいだ。

「失礼します、旦那様」

 扉を開いて入って来たのは意外な人物であった。

「リジェナ?! どうしてお前がここにいる!?」

 クーナは驚く。
 シロネ達からもらった転移魔法の石でリジェナの一族達は聖レナリア共和国に行ったはずであった。
 そのリジェナがここにいる。
 驚くのも無理はなかった。

「そうなのですが……実は旦那様に最後にお願いしたい事がありまして 私1人残りました」

 リジェナは頭を下げる。

「なんだ、リジェナ。クロキに何をお願いするつもりだ?」

 クーナはリジェナが現れた事で不機嫌になる。

「はい、最後に旦那様にお情けをいただきたく思いまして」
「えっ?」
「!!」

 クロキは驚きリジェナを見る。
 リジェナの瞳は真っ直ぐにクロキを捕えている。

「お情けって……? ちょっと待った、クーナ! 大鎌をしまって!!」

 クロキは無言で大鎌を呼び寄せたクーナを止める。

「リジェナ! お前のような貧相な体なんかいるものか! クーナで間に合っている!!」
「えっ……ですが旦那様は時々私のお尻を見ていたような……」

 クロキはリジェナの言葉でお茶を吹きそうなる。

(バレてたんですか……。ごめんなさい、掃除中屈んだ時にお尻を見てました……)

 のけぞったクロキは心の中で謝る。
 気付かれないようにしていたつもりだが、バレバレだったようだ。

「ダメだ! ダメだ! クロキにはクーナがいれば良い! さっきもクーナの胸を舐めまわすように見ていた! リジェナなんか必要ない!!」

 その言葉にクロキは思わず椅子からずり落ちそうになる。

(気付いてたのか……。ごめんなさい、ずっと見てました)

 再びクロキは心の中で謝る。

「閣下! 閣下はいらっしゃいますか?!!」

 今度は複数の足音がこの部屋の方へと向かってくるのがクロキに聞こえる。
 来たのは完全武装した魔族の女騎士達だ。
 彼女達はリジェナを押しのけるように部屋に入ってくる。

「魔王陛下の命により閣下の配下となりました。以後よろしくお願いします」

 魔族の女性達がクロキに頭を下げる。

(そう言えばモデスが自分に部下を付けてくれるって言ってたっけ?  ただ、こんな魔族の女性が来るとは思わなかった)

 クロキは魔族の女性達を見る。
 魔族には大きく分けて2種族ある。人間離れした姿の下位の魔族と、角が生えている以外は人間とほぼ変わらない容姿の上位魔族。
 そして、上位魔族は、美しい天使族に負けないぐらいの美形揃いである。
 彼女達は全員上位魔族であり、かなりの美女である。

「なんでこうなるんだー!!!」

 クーナは頭を抱える。
 
(やっぱり、自分の周りに女性が増えるのが嫌みたいだな。まさか自分も部下として女騎士達が来るとは思わなかっよ。モーナさんも良く許したな)

 クロキは魔王の妃であるモーナの事を考える。
 本来なら魔族の女騎士は皆モーナの配下だ。
 彼女達がここに来たと言う事は、モーナが部下になる事を承諾したと言う事であった。
 クロキはその事を意外に思う。
 モーナはクロキを嫌っているみたいだったからだ。
 クロキは目の前でクーナが頭を抱えているのを見て、騒がしい日々が始まりそうだと思う。
 クロキは心を落ち着けるために再びお茶を口に運ぶ。
 女性が多くなった部屋で良い匂いが充満している。

(それにしても何だか体が熱いな)

 先程からクロキは体が熱くなるのを感じていた。
 そして、徐々に意識が遠のいていった。

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コメント

  • Kyonix

    1人を殺し、他の人はほとんど死に、最後の1人は破壊されました。

    0
  • 眠気覚ましが足りない

    騒がしい日々から修正報告です。

    もしかすると掴まってしまったかもしれません

    もしかすると捕まってしまったかもしれません

    0
  • ノベルバユーザー286789

    大幅改稿とは驚きです。

    レイジと合流したシロネ、4章ではシナリオヒロインだったのに、このままではクロキ側のヒロインとしての活躍が無くなってしまいそう。

    もしや代わりにレーナとかリジェナの活躍が増えるのかな?

    2
  • ノベルバユーザー267279

    すみません細かいことですがリジェナ達が聖レナリアに行ったのが昨日となっていたりつい先程となっていたのでどちらが正しいのでしょうか?

    1
  • 眠気覚ましが足りない

    3章の更新完了お疲れ様でした。

    いえ、シズフェの話であってます。

    最初、シズフェ達の話を分ければ、例えばクロキに捕まるまでアトラナは国でどう振る舞っていたか、一部が開示されただけだった勇者を誘き寄せるための策の全貌などを詳しく書いていただけるかな、と思ったんです。
    つまり、シズフェ主観ではありますが、時折脇道にそれてその時の話に関わる別のキャラ視点の詳しい話とかも見られるかな、と。

    ただ、4章を大幅に書き換えるということなので、旧なろう版とノベルバ版とで概要だけ同じで内容は別物になってしまいますよね?

    自分の提案は、なろう版から話の流れ自体は変わらないことを勝手に前提にしていたので、内容が変わってくるということは裏側も変わってくる、それじゃあ自分の案では『旧版新版両方の裏側書いて』と言っているようなものだ、と思って取り乱しました。

    既に決められている様なので、出過ぎた発言でした。

    3
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