暗黒騎士物語
アルゴアの王子
アルゴアの王子オミロスとその一行はゴブリンの巣穴を進む。
そして、その途中でゴブリンの一団と遭遇し、戦闘になる。
ゴブリンの数は多い。
オミロス達は7名なのにゴブリン達は20匹以上はいる。
だけど、オミロスは慌てない。
何故なら、こちらには英雄パルシスがいるからだ。
「閃光よ!!!」
「グギャアア!!」
「グアアア」
パルシスの放つ閃光の魔法が炸裂する。
その強い光を受けたゴブリン達が目を押さえて苦しみだす。闇行性のゴブリンは強い光に弱い。しばらくは目が見えないだろう。
「今だ! 奴らが視力を回復しないうちに倒すんだ!!」
視力が回復し数で押し切られるとやっかいである。
オミロスは号令を出すと、自らも剣を掲げてゴブリン達に突っ込む。
「頭は固いから狙うな! 胴体を狙うんだ!!」
「そんな事わかってら!!」
オミロスの仲間達は口々に言い合いゴブリン達と剣を交える。ゴブリン達は暴れ回り彼らの攻撃を躱そうとする。
ゴブリンの頭は石のように固いため剣が通らない。そのため、首から下を狙わなければならない。人間はゴブリンよりも背が高いため、狙いにくいがある程度熟練した戦士であれば問題はない。
オミロスが引きつれている者達はアルゴアの戦士だ。
ゴブリンとの戦いには慣れている。
魔王の支配するナルゴルに近く、常に魔物の脅威にさらされているアルゴアでは強い事が重要な価値を持つ。
アルゴアの男子は生まれてから戦士として生きる事を宿命づけられているのだ。
アルゴアの男は皆が戦士であり精強なのである。
戦況はオミロス達に有利に進んでいる。
しかし、さすがにゴブリンの数が多くまた暴れるので中々倒す事ができない。
「ガアアア!!」
ようやく視力が回復したゴブリンが棍棒を振り上げ襲ってくる。
オミロスはゴブリンの棍棒を盾で防ぐと体を回してゴブリンの体を斬り裂く。
斬ったゴブリンを蹴飛ばし他のゴブリンに当てそのまま横から来たゴブリンを突き殺す。
「やるじゃないですか、オミロス王子」
パルシスが笑いながら言う。
よく言うとオミロスは思う。
パルシスはオミロスよりもはるかに多くのゴブリンを相手にして倒している。
パルシスは元々アルゴアの人間ではない。
腕を見込まれてオミロスの父の食客となった他国の人間であった。
その腕は凄まじく、1対1なら誰もパルシスに敵わなかった。
最近は他国にもその名が鳴り響き、アルゴアの英雄と呼ばれるまでになっていた。
オミロスはこのパルシスと言う男があまり好きではなかった。
キザで女たらしである。
パルシスはアルゴア王国の女性だけでなく、他国の女性にも手を出している事をオミロスは知っていた。
先代の王とは違い、近隣諸国と友好関係を築くという父の方針でオミロスは周辺の国々に行かされた。
それにこの男は供として付いて来た時に、多くの他国の令嬢達に手を出した。
パルシスは男とは思えないほどの美形である。
女性も放っておかないのだろうとオミロスは思う。
「それでは、このパルシスも王子様に負けてはいられませんね。行きますよ!!」
そう言うとパルシスはゴブリンの群れに向かっていく。
そして次々とゴブリンを斬り裂いて行く。
その動きはまさに疾風であった。
「すごい……」
「さすがパルシス様だ!!」
そこにいた全員が口々にパルシスを褒め称える。
パルシスは英雄と言われるだけあって本当に強く。
噂では弱いオーガぐらいなら1人で渡り合えるらしかった。
オミロスは舌を巻く。
顔も良く強い。まるで光の勇者のようではないかと思う。
やがてパルシスの働きにより、ゴブリン達で動いている者はいなくなる。
「終わりましたが、まだ先に進むのですか? オミロス王子?」
「はい、もう少し先に進みたいと思っています」
オミロスがそう言うと不満の声がでる。
「若様……戻りましょう。これ以上ここにいたら死んでしまいますよ」
一緒についてきたバルザサが撤退を提案する。
バルザサはオミロスの父の配下で、オミロスが幼い頃から護衛として一緒にいる。
そのバルザサは困っている様子である。
オミロスの身を案じているのだ。
「すまない、バルサザ。もう少しだけ付き合ってくれ」
「もういいじゃねえか、オミロス。キュピウスの姫の行方なんかよう。もうゴブリンに殺されているぜ」
「マキュシス!!」
オミロスはマキュシスの胸ぐらをつかむ。
マキュシスはオミロスの従兄弟だ。
心配で一緒について来てくれたが、今の言葉は聞き捨てる事が出来なかった。
「ゴブリンは必ずしも人間を殺したりしない! 生かしておく事もある!!」
「おい、それじゃ、死ぬよりも悲惨だぜ……。ゴブリンの子供を産まされるなんてよ……」
ゴブリンが人間の女性を殺さずに生かしておく理由は1つしかない。
そのマキュシスの言葉にオミロスは泣きそうになる。
「それでも……リジェナを……」
最後は言葉にならなかった。
「マキュシス殿。そんなに王子ををいじめるものではないですよ」
パルシスがそう言うとマキュシスがため息をつく。
「すまない、オミロス。言い過ぎた」
マキュシスが謝る。
「来る途中に外に通じる穴がありました。そこで休みましょう。良いですね王子。皆疲れています」
パルシスの提案に皆が賛同の声を上げる。
その声にオミロスは渋々と承諾をする。
「わかりました。パルシス殿。元々ここにいるのは私のわがままなのだ。休もうみんな」
オミロス達は引き返す。
穴にたどり着き、外に出ると空は薄曇りであった。
カンテラの火を消し、各々そこらに座り込む。
「オミロス王子。マキュシス殿ではないですが、いつまで続けるつもりなのでしょう?」
パルシスの問いにオミロスは頭を悩ませる。
「すみません、パルシス殿……。せめてリジェナがどうなったのか知りたいんです……」
オミロスが言うとその場の者達が全員黙る。
ゴブリンに捕えられた女性の最悪の姿を想像したからだ。
「だがよ、オミロス、もうここら辺のゴブリンは刈りつくしたはずだぜ」
マキュシスの言葉に頷く。
「ああ。だからもう少し先に進もうと思う」
オミロスが言うと戦士達から反対の声が上がる。
「それはだめだ! これ以上進むと山の北側に入っちまうぜ!!」
「そいつは勘弁してもらえませんか王子、北側のゴブリンは南側のゴブリンよりも遥かに強い。さすがに危険だ!!」
もっともであった。
北側のゴブリンは強い。オミロスもそれは知っている。
装備も南側ゴブリンの武器が棍棒ぐらいしか作れないのに対して、北側のゴブリンは鉄製の武器や鎧を作る技術を持っている。
パルシスを除き、行けば全滅だろう。
バルザサやマキュシスも何も言わないが不満そうである。
言わないのはパルシスぐらいである。
「そんなに不平を言う物ではないですよ、皆さん。私は王子の気持ちもわかりますよ。リジェナ姫ですか。確かに美しい姫でしたからね。固執するのもわかります」
パルシスが皆を窘める。
だけど、オミロスはそのパルシスの言葉に血が逆流する感じがした。
「パルシス殿! そう思うならば、何故リジェナを助けてくれなかったのですか?! むざむざとゴブリンの巣穴に……」
「それを決めたのは王であるあなたのお父上ですよ。私に何ができましょう」
そう言われてはオミロスは黙るしかない。
パルシスの言うとおりだった。
リジェナをゴブリンの巣穴に追放したのはオミロスの父だ。
元々アルゴアには内部で争いがあった。
争いの原因は建国の時まで遡る。
アルゴアの起こりは400年前に魔王討伐を行うために集まった東大陸の諸国の騎士団や戦士団の拠点となった砦である。
最初はナルゴル攻略の時までの臨時の砦だったのが時代を経る事で国となっていった。
いつしか司令官が王となり、各国の騎士団や戦士団がそれぞれの氏族となった。
最初は聖レナリア出身の氏族が王となっていたが、他の氏族が不満を持ち争いになり。各氏族が話し合いの結果10年交代で各氏族の族長が王となる事が決定した。
だけど、次第にその決め事は守られなくなり、特に有力な氏族だったある氏族が王位を独占しはじめた。
それがリジェナのいた氏族であった。
それに不満を持つ者もいるが、その氏族が強力だった事もあり、争いは表面化する事は無かった。
しかし、問題が起こった。
時の王であるキュピウスが、大国ヴェロスに滞在中にその国の王子の婚約者と恋に落ち、そのあげく駆け落ちをしてアルゴアに連れて帰ってしまったのだ。
当然ヴェロス王国は怒り、王子の婚約者を戻すように要求した。
だがキュピウス達は返す事はしなかった。
不満に思ったのが他の氏族である。
元々王家に不満を持っていたからなおさらだ。
他の氏族はキュピウスに戻すように説得したが聞き入れられなかった。
結果としてアルゴアは大国ヴェロスと争う事になり、周辺の国もアルゴアと距離を置くようになった。
そのためアルゴアには商人が寄り付かなくなり、孤立し生活が苦しくなった
結果、他の氏族は王家にさらに不満を持つようになったのだった。
その不満を持つ人々が対立する有力氏族の長である自分の父モンタスの所に集まり、王となったキュピウスに退位を求めるようになったのである。
もちろんキュピウスは聞き入れない。
王家は強力であり、他の氏族も正面から争う事はできなかった。
王家も他の氏族を滅ぼすだけの力は無く、争いが表面に出る事は無かった。
しかし、不満だけは溜まっていった。
やがて月日が流れ、駆け落ちした女性はキュピウス王との間に姫を生んだ。
それがリジェナである。
オミロスがリジェナに出会ったのは5歳の時だ。
王宮で行われた氏族長の会議に父に連れて来られた時の事だった。
その時、オミロスは初めて来た王宮に興奮して勝手に歩き回った。
その時に、たまたま王宮を歩いてリジェナに出会ったのだった。
同じ歳であったオミロスとリジェナはすぐに仲良くなった。
大人達は争っていたが、そんな事は子供であったオミロスとリジェナには関係がなかった。
オミロス達は時々親の目を盗んで一緒に遊んだ。
そして、リジェナと共に大きくなった。
大きくなったリジェナはとても綺麗になった。
リジェナの前では言えなかったが、オミロスはそんなリジェナを守りたかった。
だから、オミロスはマキュシスとバルサザと共に1年程アルゴアを離れ武者修行の旅をした。
だけど、それは失敗であった。
武者修行を終えて、祖国であるアルゴアに戻ったオミロスは仰天した。
いつの間にか父モンタスがアルゴアの王となり、リジェナ達を追放していたのである。
何でも、キュピウス王が父達を皆殺しにしようとしたらしい。
最終的に反撃に成功して、父モンタスは王となった。
最初にその事を聞かされた時はオミロスは耳を疑った。
確かに争いはあったが、キュピウス王はそんな暴挙に出るような人ではないと思っていたからだ。
だけどその思いは裏切られた。
確かにキュピウス王は自業自得かもしれないが、何もしなかったリジェナまで追放しなくても良いのではないだろうか?
オミロスは父を責めたがどうにもならなかった。
せめてリジェナがどうなったのか知りたい。
そう父に言って英雄パルシスを借りて、このアケロン山脈を捜索しているのである。
リジェナが生きているのかどうかわからない。
生きているなら助けたい。死んでいるならその遺品を持ち帰りたい。
暗いゴブリンの巣穴の中に閉じ込められているなんてあまりにも可哀そうだ。
そう思い、オミロスは危険なゴブリンの巣へと入ったのだった。
しかし、それはオミロスだけの思いだ。
付き合わされた者達には良い迷惑である。
「王子。悲嘆に暮れる気持ちはわかりますが、そろそろ戻らないと夜が来てしまいます。今日はもうやめましょう」
その言葉にオミロスは頷くしかなかった。
自身のわがままで配下の者達を死なせるわけにはいかない。
やがて、休憩が終わり、全員が立ち上がる。
「休憩は終わり?」
突然、オミロス達に声がかけられる。女性の声であった。
全員が声のする方を一斉に見る。
「「「!?」」」
その瞬間、その場の全員が声が出ない程の衝撃を受ける。
そこには美しい少女が、1人立っていた。
透き通るような白い肌に白銀の髪がとても美しく。
黒いドレスに身を包み、その手には巨大な鎌が握られている。
オミロスはこれ程の綺麗な少女に出会うのは初めてだった。
彼女のいる場所だけ、まるで別世界のようだと思った。
その場の全員が少女に見惚れてしまう。
「お前達がアルゴアから来た者か?」
少女は大鎌を向けるとオミロス達に尋ねるのだった。
そして、その途中でゴブリンの一団と遭遇し、戦闘になる。
ゴブリンの数は多い。
オミロス達は7名なのにゴブリン達は20匹以上はいる。
だけど、オミロスは慌てない。
何故なら、こちらには英雄パルシスがいるからだ。
「閃光よ!!!」
「グギャアア!!」
「グアアア」
パルシスの放つ閃光の魔法が炸裂する。
その強い光を受けたゴブリン達が目を押さえて苦しみだす。闇行性のゴブリンは強い光に弱い。しばらくは目が見えないだろう。
「今だ! 奴らが視力を回復しないうちに倒すんだ!!」
視力が回復し数で押し切られるとやっかいである。
オミロスは号令を出すと、自らも剣を掲げてゴブリン達に突っ込む。
「頭は固いから狙うな! 胴体を狙うんだ!!」
「そんな事わかってら!!」
オミロスの仲間達は口々に言い合いゴブリン達と剣を交える。ゴブリン達は暴れ回り彼らの攻撃を躱そうとする。
ゴブリンの頭は石のように固いため剣が通らない。そのため、首から下を狙わなければならない。人間はゴブリンよりも背が高いため、狙いにくいがある程度熟練した戦士であれば問題はない。
オミロスが引きつれている者達はアルゴアの戦士だ。
ゴブリンとの戦いには慣れている。
魔王の支配するナルゴルに近く、常に魔物の脅威にさらされているアルゴアでは強い事が重要な価値を持つ。
アルゴアの男子は生まれてから戦士として生きる事を宿命づけられているのだ。
アルゴアの男は皆が戦士であり精強なのである。
戦況はオミロス達に有利に進んでいる。
しかし、さすがにゴブリンの数が多くまた暴れるので中々倒す事ができない。
「ガアアア!!」
ようやく視力が回復したゴブリンが棍棒を振り上げ襲ってくる。
オミロスはゴブリンの棍棒を盾で防ぐと体を回してゴブリンの体を斬り裂く。
斬ったゴブリンを蹴飛ばし他のゴブリンに当てそのまま横から来たゴブリンを突き殺す。
「やるじゃないですか、オミロス王子」
パルシスが笑いながら言う。
よく言うとオミロスは思う。
パルシスはオミロスよりもはるかに多くのゴブリンを相手にして倒している。
パルシスは元々アルゴアの人間ではない。
腕を見込まれてオミロスの父の食客となった他国の人間であった。
その腕は凄まじく、1対1なら誰もパルシスに敵わなかった。
最近は他国にもその名が鳴り響き、アルゴアの英雄と呼ばれるまでになっていた。
オミロスはこのパルシスと言う男があまり好きではなかった。
キザで女たらしである。
パルシスはアルゴア王国の女性だけでなく、他国の女性にも手を出している事をオミロスは知っていた。
先代の王とは違い、近隣諸国と友好関係を築くという父の方針でオミロスは周辺の国々に行かされた。
それにこの男は供として付いて来た時に、多くの他国の令嬢達に手を出した。
パルシスは男とは思えないほどの美形である。
女性も放っておかないのだろうとオミロスは思う。
「それでは、このパルシスも王子様に負けてはいられませんね。行きますよ!!」
そう言うとパルシスはゴブリンの群れに向かっていく。
そして次々とゴブリンを斬り裂いて行く。
その動きはまさに疾風であった。
「すごい……」
「さすがパルシス様だ!!」
そこにいた全員が口々にパルシスを褒め称える。
パルシスは英雄と言われるだけあって本当に強く。
噂では弱いオーガぐらいなら1人で渡り合えるらしかった。
オミロスは舌を巻く。
顔も良く強い。まるで光の勇者のようではないかと思う。
やがてパルシスの働きにより、ゴブリン達で動いている者はいなくなる。
「終わりましたが、まだ先に進むのですか? オミロス王子?」
「はい、もう少し先に進みたいと思っています」
オミロスがそう言うと不満の声がでる。
「若様……戻りましょう。これ以上ここにいたら死んでしまいますよ」
一緒についてきたバルザサが撤退を提案する。
バルザサはオミロスの父の配下で、オミロスが幼い頃から護衛として一緒にいる。
そのバルザサは困っている様子である。
オミロスの身を案じているのだ。
「すまない、バルサザ。もう少しだけ付き合ってくれ」
「もういいじゃねえか、オミロス。キュピウスの姫の行方なんかよう。もうゴブリンに殺されているぜ」
「マキュシス!!」
オミロスはマキュシスの胸ぐらをつかむ。
マキュシスはオミロスの従兄弟だ。
心配で一緒について来てくれたが、今の言葉は聞き捨てる事が出来なかった。
「ゴブリンは必ずしも人間を殺したりしない! 生かしておく事もある!!」
「おい、それじゃ、死ぬよりも悲惨だぜ……。ゴブリンの子供を産まされるなんてよ……」
ゴブリンが人間の女性を殺さずに生かしておく理由は1つしかない。
そのマキュシスの言葉にオミロスは泣きそうになる。
「それでも……リジェナを……」
最後は言葉にならなかった。
「マキュシス殿。そんなに王子ををいじめるものではないですよ」
パルシスがそう言うとマキュシスがため息をつく。
「すまない、オミロス。言い過ぎた」
マキュシスが謝る。
「来る途中に外に通じる穴がありました。そこで休みましょう。良いですね王子。皆疲れています」
パルシスの提案に皆が賛同の声を上げる。
その声にオミロスは渋々と承諾をする。
「わかりました。パルシス殿。元々ここにいるのは私のわがままなのだ。休もうみんな」
オミロス達は引き返す。
穴にたどり着き、外に出ると空は薄曇りであった。
カンテラの火を消し、各々そこらに座り込む。
「オミロス王子。マキュシス殿ではないですが、いつまで続けるつもりなのでしょう?」
パルシスの問いにオミロスは頭を悩ませる。
「すみません、パルシス殿……。せめてリジェナがどうなったのか知りたいんです……」
オミロスが言うとその場の者達が全員黙る。
ゴブリンに捕えられた女性の最悪の姿を想像したからだ。
「だがよ、オミロス、もうここら辺のゴブリンは刈りつくしたはずだぜ」
マキュシスの言葉に頷く。
「ああ。だからもう少し先に進もうと思う」
オミロスが言うと戦士達から反対の声が上がる。
「それはだめだ! これ以上進むと山の北側に入っちまうぜ!!」
「そいつは勘弁してもらえませんか王子、北側のゴブリンは南側のゴブリンよりも遥かに強い。さすがに危険だ!!」
もっともであった。
北側のゴブリンは強い。オミロスもそれは知っている。
装備も南側ゴブリンの武器が棍棒ぐらいしか作れないのに対して、北側のゴブリンは鉄製の武器や鎧を作る技術を持っている。
パルシスを除き、行けば全滅だろう。
バルザサやマキュシスも何も言わないが不満そうである。
言わないのはパルシスぐらいである。
「そんなに不平を言う物ではないですよ、皆さん。私は王子の気持ちもわかりますよ。リジェナ姫ですか。確かに美しい姫でしたからね。固執するのもわかります」
パルシスが皆を窘める。
だけど、オミロスはそのパルシスの言葉に血が逆流する感じがした。
「パルシス殿! そう思うならば、何故リジェナを助けてくれなかったのですか?! むざむざとゴブリンの巣穴に……」
「それを決めたのは王であるあなたのお父上ですよ。私に何ができましょう」
そう言われてはオミロスは黙るしかない。
パルシスの言うとおりだった。
リジェナをゴブリンの巣穴に追放したのはオミロスの父だ。
元々アルゴアには内部で争いがあった。
争いの原因は建国の時まで遡る。
アルゴアの起こりは400年前に魔王討伐を行うために集まった東大陸の諸国の騎士団や戦士団の拠点となった砦である。
最初はナルゴル攻略の時までの臨時の砦だったのが時代を経る事で国となっていった。
いつしか司令官が王となり、各国の騎士団や戦士団がそれぞれの氏族となった。
最初は聖レナリア出身の氏族が王となっていたが、他の氏族が不満を持ち争いになり。各氏族が話し合いの結果10年交代で各氏族の族長が王となる事が決定した。
だけど、次第にその決め事は守られなくなり、特に有力な氏族だったある氏族が王位を独占しはじめた。
それがリジェナのいた氏族であった。
それに不満を持つ者もいるが、その氏族が強力だった事もあり、争いは表面化する事は無かった。
しかし、問題が起こった。
時の王であるキュピウスが、大国ヴェロスに滞在中にその国の王子の婚約者と恋に落ち、そのあげく駆け落ちをしてアルゴアに連れて帰ってしまったのだ。
当然ヴェロス王国は怒り、王子の婚約者を戻すように要求した。
だがキュピウス達は返す事はしなかった。
不満に思ったのが他の氏族である。
元々王家に不満を持っていたからなおさらだ。
他の氏族はキュピウスに戻すように説得したが聞き入れられなかった。
結果としてアルゴアは大国ヴェロスと争う事になり、周辺の国もアルゴアと距離を置くようになった。
そのためアルゴアには商人が寄り付かなくなり、孤立し生活が苦しくなった
結果、他の氏族は王家にさらに不満を持つようになったのだった。
その不満を持つ人々が対立する有力氏族の長である自分の父モンタスの所に集まり、王となったキュピウスに退位を求めるようになったのである。
もちろんキュピウスは聞き入れない。
王家は強力であり、他の氏族も正面から争う事はできなかった。
王家も他の氏族を滅ぼすだけの力は無く、争いが表面に出る事は無かった。
しかし、不満だけは溜まっていった。
やがて月日が流れ、駆け落ちした女性はキュピウス王との間に姫を生んだ。
それがリジェナである。
オミロスがリジェナに出会ったのは5歳の時だ。
王宮で行われた氏族長の会議に父に連れて来られた時の事だった。
その時、オミロスは初めて来た王宮に興奮して勝手に歩き回った。
その時に、たまたま王宮を歩いてリジェナに出会ったのだった。
同じ歳であったオミロスとリジェナはすぐに仲良くなった。
大人達は争っていたが、そんな事は子供であったオミロスとリジェナには関係がなかった。
オミロス達は時々親の目を盗んで一緒に遊んだ。
そして、リジェナと共に大きくなった。
大きくなったリジェナはとても綺麗になった。
リジェナの前では言えなかったが、オミロスはそんなリジェナを守りたかった。
だから、オミロスはマキュシスとバルサザと共に1年程アルゴアを離れ武者修行の旅をした。
だけど、それは失敗であった。
武者修行を終えて、祖国であるアルゴアに戻ったオミロスは仰天した。
いつの間にか父モンタスがアルゴアの王となり、リジェナ達を追放していたのである。
何でも、キュピウス王が父達を皆殺しにしようとしたらしい。
最終的に反撃に成功して、父モンタスは王となった。
最初にその事を聞かされた時はオミロスは耳を疑った。
確かに争いはあったが、キュピウス王はそんな暴挙に出るような人ではないと思っていたからだ。
だけどその思いは裏切られた。
確かにキュピウス王は自業自得かもしれないが、何もしなかったリジェナまで追放しなくても良いのではないだろうか?
オミロスは父を責めたがどうにもならなかった。
せめてリジェナがどうなったのか知りたい。
そう父に言って英雄パルシスを借りて、このアケロン山脈を捜索しているのである。
リジェナが生きているのかどうかわからない。
生きているなら助けたい。死んでいるならその遺品を持ち帰りたい。
暗いゴブリンの巣穴の中に閉じ込められているなんてあまりにも可哀そうだ。
そう思い、オミロスは危険なゴブリンの巣へと入ったのだった。
しかし、それはオミロスだけの思いだ。
付き合わされた者達には良い迷惑である。
「王子。悲嘆に暮れる気持ちはわかりますが、そろそろ戻らないと夜が来てしまいます。今日はもうやめましょう」
その言葉にオミロスは頷くしかなかった。
自身のわがままで配下の者達を死なせるわけにはいかない。
やがて、休憩が終わり、全員が立ち上がる。
「休憩は終わり?」
突然、オミロス達に声がかけられる。女性の声であった。
全員が声のする方を一斉に見る。
「「「!?」」」
その瞬間、その場の全員が声が出ない程の衝撃を受ける。
そこには美しい少女が、1人立っていた。
透き通るような白い肌に白銀の髪がとても美しく。
黒いドレスに身を包み、その手には巨大な鎌が握られている。
オミロスはこれ程の綺麗な少女に出会うのは初めてだった。
彼女のいる場所だけ、まるで別世界のようだと思った。
その場の全員が少女に見惚れてしまう。
「お前達がアルゴアから来た者か?」
少女は大鎌を向けるとオミロス達に尋ねるのだった。
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コメント
ゼロ
多分なんですが、レーナはクロキに一目惚れしたのではと思います。
例の事故でクロキを愛するようになったのではなく、自分がクロキにどういう思いを持ってるのかを理解したのではと思います
レーナは今までいろんな男に言い寄られてたし、レイジもレーナの為だと言ってレーナの思い通りに動いてるけど、クロキはレーナの自分の元に来いと言う誘いを断った時ショックを浮けたと同時に簡単に言いなりにならないことに好感を持ったみたいなこと書いてましたし、書籍の方ではアルフォスから好きな人を聞かれたとき咄嗟にクロキの顔が浮かんだと書いてたので、自覚してなかっただけでその時点でクロキに特別な感情を持ってたと思いますよ
眠気覚ましが足りない
アルゴアの王子より修正報告です。
最初はナルゴル攻略の時までの臨時の砦が時代を得る事で国となっていった。
↓
最初はナルゴル攻略の時までの臨時の砦だったのが時代を経る事で国となっていった。
砦から国になったのなら砦の外まで敷地やら国土やらが拡張してますよね?
ならば、“だった”をつけて過去の事と明白にしましょう。
あと、時代を得てではなく、時代を経て“へて”です。
根崎タケル
誤字報告ありがとうございます!!
修正しました!!
ノベルバユーザー264601
バルサザとバルザサが混ざってます
根崎タケル
3章の続きを更新しました。