暗黒騎士物語
愛の魔法薬
ガリオスの妻、ペネロアは家で夫の帰宅を待っていた。
ペネロアがガリオスと結婚したのは5年前だ。
その時、ペネロアは22歳、3回目の結婚で会った。
前の2人の夫は魔物に殺されたので、再婚相手に強い男性を求めた結果、ガリオスに白羽の矢がたったのである。
ガリオスはペネロアよりも10以上年齢が上であったが、夫婦仲は良く、2人で一緒に出掛けたりもしている。
しかし、今日のガリオスはペネロアの弟のレンバーを手伝いをしているらしく、帰りが遅い。
そのため、1人で留守番をしているのだ。
そして、夜もふけようとしている時だった。
玄関で誰かが入ってくる気配がする。
「ただいま帰りました、ペネロアさん」
入って来たのはクロであった。
クロは夫であるガリオスの恩人だ。
あの時、ペネロアは再び夫を失うのでないと気が気でなかった。
夫を助けてくれたクロにペネロアも感謝して、彼を客人として迎えたのである。
ペネロアはクロが夫を運んできた時の事を思い出す。
あの細い体で倍近い体格の旦那を背負って現れたときは本当に驚いた。
弟であるレンバーが言うにはクロと言う青年は魔術師かもしれないとの事だった。
魔術師と言えばニムリ先生しか知らないが、クロはそのニムリ先生よりも不思議な感じがした。
しかし、不思議な感じがするだけでクロという青年は悪い人間ではないようだった。
むしろ、側にいるとほっとした気分にさせてくれるようにペネロアは感じていた。
「あの、知り合いに会ったので招待したいのですが、良いですか?」
出迎えるとクロはそう言って後ろに顔を向ける。
ペネロアは最初、人がいる事に気付かなかったがフードを被った女性がいた。
その事に驚く。
「ガリオスからクロが女性を連れてくるかもと言ったけど本当だったとはね……」
クロはあまりそういう事をしそうには見えなかったのである。
そのクロが女性を連れて来た事にも驚く。
「ちっ! 違いますよ! ペネロアさん! 前に会った事のある人です! たまたま今日再会しただけです!!」
クロは顔を赤くしながら否定する。照れているようだ。
ペネロアは後ろの女性を見る。フードを被っていて顔が良く見えないが。口元からかなりの美人のようである。
女性は照れているクロに対して平然としている。
クロが一方的に想いを寄せているのかもしれない。
そう思うとペネロアはクロを応援する事に決める。
「冗談よ。クロ。ようこそロクス王国へ。クロの知り合いなら歓迎するよ」
2人に入るように促すと、2人は部屋を通り、離れへといく。
クロはロクスに滞在している間、ペネロアの家の離れの部屋を使っている。
2人が離れに行こうとしたときだった。
ペネロアは何かを思いつきクロを呼び止める。
「なんでしょう?」
「後で飲み物を持って行ってあげるよ、何が良い?」
「ありがとうございます、ペネロアさん。それでは自分はいつものでお願いします」
「ああミセネンだからかい」
「はい未成年だからです」
「お連れは? ミセネンかい?」
ペネロアが聞くとクロは少し考えて言う。
「お任せします……。おそらく未成年じゃないと思います」
「そうかい、良い物が手に入ったからそれをあげるよ」
「ありがとうございますペネロアさん」
クロが頭を下げる。礼儀正しい子だとペネロアは思う。
ますます応援したくなる。
クロ達は今度こそ離れに行く。
(よし! 今日はお隣から上等な蜂蜜酒をもらったし、クロの連れて来た女性に少し分けてやるか)
蜂蜜酒は新婚の夫婦が飲むお酒だ。
クロのような青年の恋がうまくいくようにと、ペネロアは心の中で祈るのだった。
◆
あなたの騎士になれません。
そう言われた時、レーナは少しショックだった。
だが、暗黒騎士が言うとおり簡単に裏切るような者なら騎士とはいえないと思って、立ち直る。
そういう者だからこそ、レーナはこの男が欲しいのだ。
それに、暗黒騎士の意志は問題ではない。
(ふふっ、嫌でも私の物になってもらうわよ暗黒騎士)
レーナは懐にある小瓶を触る。
チユキではなく、この薬をこの男に使うつもりだ。
レーナはこの国で暗黒騎士に出会った時は本当に驚いた。
しかし、暗黒騎士は最初に出会った時のように殺す気はないようだったので安心する。
(敵意を感じないし。私の美貌をもってすれば当然よね。私を殺すなんて世界の損失だもの)
レーナは少し笑う。
レーナの美貌に目が眩む、それだけならそこらの男と変わらない。
だが、暗黒騎士は今やこの世界でも最強の剣士かもしれない男だ。
そんな男が奴隷になるのは最高に楽しい事だと思う。
それに、実を言えば暗黒騎士の容姿はレイジよりもレーナの好みだった。
レーナは奴隷になったら、首輪をつけてあげようと決心する。
(首輪をつけられた暗黒騎士がひれ伏す。すごく良い光景じゃない。その時は、足に口づけまでは許しても良いかしら)
暗黒騎士になぜここにいるのか聞かれた時、レーナは咄嗟に嘘をついてしまった。
もちろん、暗黒騎士は信じていないようだったが。
(ここで暗黒騎士を排除する事ができれば私の勝ちだわ。レイジ達に頼らなくても暗黒騎士にモデスを倒させれば良いのだもの)
その機会を窺うためにもレーナは暗黒騎士に同行を許したのだ。
そして、彼が拠点にしている人間の住処に来た。
人間の住処はみすぼらしかったがレーナは我慢をする。
暗黒騎士が寝泊まりしているであろう部屋は大変小さく、ベッドとテーブルが1つあるだけだった。
暗黒騎士が椅子を持って来て席を作ってくれる。
(汚い椅子。だけど、今は我慢してあげる。でも今はやる事があるわね)
レーナは目的のために部屋を出ようとする。
「どちらへ、レーナ?」
暗黒騎士が尋ねてくる。
「すぐに戻るわ。それに、女性相手にそういう事を聞くものではないわ」
そういうと暗黒騎士は黙る。
(わかりやすい男。レイジよりも扱いやすそう)
レーナは部屋を出て先ほどの女のいる所を探す。小さな家なのですぐに見つかった。
気配を消し人間の女に近づく。
女は2つの飲み物を用意していた。飲み物はレーナ達に出す物のようだ。
レーナはこっそり近づき杯の中の飲み物を見る。1つはどうやらお酒のようであり、もう1つはお茶のようだった。
(どうして、違うのかしら? でも普通に考えて、男の方が酒好きよね)
レーナは同じエリオスの戦神である力と戦いの神トールズの事を思い出す。
トールズは酒好きで何杯も酒を飲む、それに対して、彼の姉と妹である医と薬草の女神ファナケアと知識と書物の女神トトナは酒を好まない。
これは、彼らだけでなく世界中がそうである。
そう思ったレーナは愛の魔法薬をお酒にたっぷりと入れる。
人間なら一滴で充分だが、相手は暗黒騎士なので量をたっぷりにする。
(この量なら、いくら暗黒騎士でも私の愛の奴隷になるわね。奴隷になったらこき使ってあげるわ。覚悟しなさい)
こうしてレーナは薬を入れると暗黒騎士のいる部屋に戻る。
待っていた暗黒騎士は少し怪しんでいるが問題はないだろうと判断する。
次にレーナは自身の首飾りを触る。
賢者の目を騙す首飾り。
この魔法の装飾品は発動すると一定範囲にいる者の勘を鈍らせ、あらゆる探知能力を阻害する。
この道具を使うのは、魔法の薬が魔力を帯びているため、魔力探知で薬が入っていることに気付かれてしまうかもしれないからだ。
チユキは強力な魔力探知能力を持つので、レーナはあらかじめ持ってきたのだ。
問題は使用者の勘も鈍くなる所にある。そのため簡単には使えない。
しばらくすると女が飲み物を持ってくる。
「ありがとうございますペネロアさん」
暗黒騎士が女に礼を言う。
女は飲み物をそれぞれ席に着いたレーナと暗黒騎士の前にそれぞれ置く。
「それじゃごゆっくり」
女はそのまま出ていく。どことなく楽しそうだ。
だが、そんな事は気にしてられない。レーナはフードを外すと、首飾りを触りこっそり魔法を発動させる。
そして、目の前の杯を取り暗黒騎士に向ける。
「暗黒騎士。貴方とは色々とあったけど、出来れば仲良くしたいわ。ところでカンパイって知っているかしら? 何でも交流を深めるためにする儀式なのだけど……」
レーナはレイジ達から聞いた知識を言う。
このカンパイとはどういう意味でするのかわからない。
しかし、交流を深めるためにする儀式である事は知っている。
やり方は杯を合わせ、持ってる飲み物を飲むだけだ。
これで飲ませる事ができるはずであった。
「カンパイですか? それなら、知ってますよ。一緒に飲み物を飲むやつですね」
レーナはなぜ暗黒騎士がカンパイを知っているのか疑問に思う。
しかし、レイジ達がその風習を広めたのかもしれないと納得する。
「へえ、そうよ。知っているのなら、好都合だわ。私達も仲良くカンパイしましょう」
「まあ、良いですけど……」
暗黒騎士はそう言って自身の杯を差し出す。
レーナも持っている杯を差し出す。
「カンパイ」
杯を合わせ互いの杯に口をつける。
レーナは杯の飲み物を一口飲み暗黒騎士の様子を窺う。
暗黒騎士の喉が小さく鳴り杯の中の飲み物を飲んだ事を教えてくれる。
(勝った! さあ私を見なさい!)
そう思いレーナはもう一口飲む。
エリオスのお酒には劣るが人間のお酒もなかなか美味しく感じられた。勝利の美酒だからだろう。
暗黒騎士がレーナを見る。
(ふふ、これで貴方は私の奴隷。何だか楽しくなって来るわ)
レーナは何かがちょっと引っ掛かったが、暗黒騎士を見ているとどうでも良くなった。
(暗黒騎士……。いや確か本当の名はクロキだったかしら? クロキ、良い名ね……)
レーナは心の中でクロキの名を思うと胸が熱くなる。
「ふふっ」
レーナは思わず笑みがこぼれる。
クロキの目が熱く見つめているのがわかる。
「クロキ」
レーナはその名を呼ぶとクロキの顔を引き寄せた。
◆
(この状況はまずいな。レーナの目的がさっぱりわからない)
クロキはこの状況に頭を悩ませる。
完全に相手のペースである。
夕方になったが何もわからなかった。
しかし、レーナがシロネ達に危害を加えるかもしれないので放ってもおけない。
そもそも、クロキにはなぜレイジやシロネ達に加えてレーナがこんな所にいるのかもよくわからない。
レーナは何か企んでいるのは間違いない。だが、クロキにはそれがわからない。
女性と碌に話した事のないクロキには難易度が高すぎたのである。
(わからないことだらけだ)
クロキはレーナとこのまま別れるのもどうかと思ったので、取りあえずレーナを夕食に誘ってみると意外にも了解してくれた。
しかし、食事を提供する店は混雑していて、とてもレーナを連れてはいけない。
やむなく、クロキはペネロアにお願いする事にしたのだった。
「乾杯」
クロキとレーナはペネロアが持って来た飲み物で乾杯をする。
杯を合わせ互いの杯に口を付ける。
クロキはレーナの喉が小さく鳴るのを聞く。
レーナは今フードをはずしていて、その顔が良く見える。
(本当に綺麗だ、今まで出会った中で一番綺麗なのかもしれない。これほど綺麗な女性とこんな風に2人きりになれるとは思わなかったな)
クロキは嬉しいというよりも居心地の悪さを感じていた。
(経験豊富そうなレイジだったら上手くやれるのかもしれないな)
クロキはそんな事を考えてしまう。
レーナがクロキを見て蠱惑的に微笑んでいる。
(うっ! その顔は反則だ!)
魅了の魔法という物があるが、レーナならそんな魔法を使わなくても相手を魅了する事が出来るだろうとクロキは思う。
レーナが潤んだ瞳でクロキを見る。
「クロキ」
レーナが突然名を呼ぶ。
(えっ!? 何で自分の名前を知っているの!?)
しかし、疑問に思う間もなくクロキはレーナに顔を引き寄せられる。
クロキのすぐ前にレーナの美しい顔がある。
(何だろう、頭がくらくらしてくる)
そしてレーナの紅い唇がクロキの口に合わされる。
クロキは酒気が中へと入ってくるのを感じる。
(ああ、駄目だ。何も考えられない)
クロキの頭の中で何かが外れる音がした。
ペネロアがガリオスと結婚したのは5年前だ。
その時、ペネロアは22歳、3回目の結婚で会った。
前の2人の夫は魔物に殺されたので、再婚相手に強い男性を求めた結果、ガリオスに白羽の矢がたったのである。
ガリオスはペネロアよりも10以上年齢が上であったが、夫婦仲は良く、2人で一緒に出掛けたりもしている。
しかし、今日のガリオスはペネロアの弟のレンバーを手伝いをしているらしく、帰りが遅い。
そのため、1人で留守番をしているのだ。
そして、夜もふけようとしている時だった。
玄関で誰かが入ってくる気配がする。
「ただいま帰りました、ペネロアさん」
入って来たのはクロであった。
クロは夫であるガリオスの恩人だ。
あの時、ペネロアは再び夫を失うのでないと気が気でなかった。
夫を助けてくれたクロにペネロアも感謝して、彼を客人として迎えたのである。
ペネロアはクロが夫を運んできた時の事を思い出す。
あの細い体で倍近い体格の旦那を背負って現れたときは本当に驚いた。
弟であるレンバーが言うにはクロと言う青年は魔術師かもしれないとの事だった。
魔術師と言えばニムリ先生しか知らないが、クロはそのニムリ先生よりも不思議な感じがした。
しかし、不思議な感じがするだけでクロという青年は悪い人間ではないようだった。
むしろ、側にいるとほっとした気分にさせてくれるようにペネロアは感じていた。
「あの、知り合いに会ったので招待したいのですが、良いですか?」
出迎えるとクロはそう言って後ろに顔を向ける。
ペネロアは最初、人がいる事に気付かなかったがフードを被った女性がいた。
その事に驚く。
「ガリオスからクロが女性を連れてくるかもと言ったけど本当だったとはね……」
クロはあまりそういう事をしそうには見えなかったのである。
そのクロが女性を連れて来た事にも驚く。
「ちっ! 違いますよ! ペネロアさん! 前に会った事のある人です! たまたま今日再会しただけです!!」
クロは顔を赤くしながら否定する。照れているようだ。
ペネロアは後ろの女性を見る。フードを被っていて顔が良く見えないが。口元からかなりの美人のようである。
女性は照れているクロに対して平然としている。
クロが一方的に想いを寄せているのかもしれない。
そう思うとペネロアはクロを応援する事に決める。
「冗談よ。クロ。ようこそロクス王国へ。クロの知り合いなら歓迎するよ」
2人に入るように促すと、2人は部屋を通り、離れへといく。
クロはロクスに滞在している間、ペネロアの家の離れの部屋を使っている。
2人が離れに行こうとしたときだった。
ペネロアは何かを思いつきクロを呼び止める。
「なんでしょう?」
「後で飲み物を持って行ってあげるよ、何が良い?」
「ありがとうございます、ペネロアさん。それでは自分はいつものでお願いします」
「ああミセネンだからかい」
「はい未成年だからです」
「お連れは? ミセネンかい?」
ペネロアが聞くとクロは少し考えて言う。
「お任せします……。おそらく未成年じゃないと思います」
「そうかい、良い物が手に入ったからそれをあげるよ」
「ありがとうございますペネロアさん」
クロが頭を下げる。礼儀正しい子だとペネロアは思う。
ますます応援したくなる。
クロ達は今度こそ離れに行く。
(よし! 今日はお隣から上等な蜂蜜酒をもらったし、クロの連れて来た女性に少し分けてやるか)
蜂蜜酒は新婚の夫婦が飲むお酒だ。
クロのような青年の恋がうまくいくようにと、ペネロアは心の中で祈るのだった。
◆
あなたの騎士になれません。
そう言われた時、レーナは少しショックだった。
だが、暗黒騎士が言うとおり簡単に裏切るような者なら騎士とはいえないと思って、立ち直る。
そういう者だからこそ、レーナはこの男が欲しいのだ。
それに、暗黒騎士の意志は問題ではない。
(ふふっ、嫌でも私の物になってもらうわよ暗黒騎士)
レーナは懐にある小瓶を触る。
チユキではなく、この薬をこの男に使うつもりだ。
レーナはこの国で暗黒騎士に出会った時は本当に驚いた。
しかし、暗黒騎士は最初に出会った時のように殺す気はないようだったので安心する。
(敵意を感じないし。私の美貌をもってすれば当然よね。私を殺すなんて世界の損失だもの)
レーナは少し笑う。
レーナの美貌に目が眩む、それだけならそこらの男と変わらない。
だが、暗黒騎士は今やこの世界でも最強の剣士かもしれない男だ。
そんな男が奴隷になるのは最高に楽しい事だと思う。
それに、実を言えば暗黒騎士の容姿はレイジよりもレーナの好みだった。
レーナは奴隷になったら、首輪をつけてあげようと決心する。
(首輪をつけられた暗黒騎士がひれ伏す。すごく良い光景じゃない。その時は、足に口づけまでは許しても良いかしら)
暗黒騎士になぜここにいるのか聞かれた時、レーナは咄嗟に嘘をついてしまった。
もちろん、暗黒騎士は信じていないようだったが。
(ここで暗黒騎士を排除する事ができれば私の勝ちだわ。レイジ達に頼らなくても暗黒騎士にモデスを倒させれば良いのだもの)
その機会を窺うためにもレーナは暗黒騎士に同行を許したのだ。
そして、彼が拠点にしている人間の住処に来た。
人間の住処はみすぼらしかったがレーナは我慢をする。
暗黒騎士が寝泊まりしているであろう部屋は大変小さく、ベッドとテーブルが1つあるだけだった。
暗黒騎士が椅子を持って来て席を作ってくれる。
(汚い椅子。だけど、今は我慢してあげる。でも今はやる事があるわね)
レーナは目的のために部屋を出ようとする。
「どちらへ、レーナ?」
暗黒騎士が尋ねてくる。
「すぐに戻るわ。それに、女性相手にそういう事を聞くものではないわ」
そういうと暗黒騎士は黙る。
(わかりやすい男。レイジよりも扱いやすそう)
レーナは部屋を出て先ほどの女のいる所を探す。小さな家なのですぐに見つかった。
気配を消し人間の女に近づく。
女は2つの飲み物を用意していた。飲み物はレーナ達に出す物のようだ。
レーナはこっそり近づき杯の中の飲み物を見る。1つはどうやらお酒のようであり、もう1つはお茶のようだった。
(どうして、違うのかしら? でも普通に考えて、男の方が酒好きよね)
レーナは同じエリオスの戦神である力と戦いの神トールズの事を思い出す。
トールズは酒好きで何杯も酒を飲む、それに対して、彼の姉と妹である医と薬草の女神ファナケアと知識と書物の女神トトナは酒を好まない。
これは、彼らだけでなく世界中がそうである。
そう思ったレーナは愛の魔法薬をお酒にたっぷりと入れる。
人間なら一滴で充分だが、相手は暗黒騎士なので量をたっぷりにする。
(この量なら、いくら暗黒騎士でも私の愛の奴隷になるわね。奴隷になったらこき使ってあげるわ。覚悟しなさい)
こうしてレーナは薬を入れると暗黒騎士のいる部屋に戻る。
待っていた暗黒騎士は少し怪しんでいるが問題はないだろうと判断する。
次にレーナは自身の首飾りを触る。
賢者の目を騙す首飾り。
この魔法の装飾品は発動すると一定範囲にいる者の勘を鈍らせ、あらゆる探知能力を阻害する。
この道具を使うのは、魔法の薬が魔力を帯びているため、魔力探知で薬が入っていることに気付かれてしまうかもしれないからだ。
チユキは強力な魔力探知能力を持つので、レーナはあらかじめ持ってきたのだ。
問題は使用者の勘も鈍くなる所にある。そのため簡単には使えない。
しばらくすると女が飲み物を持ってくる。
「ありがとうございますペネロアさん」
暗黒騎士が女に礼を言う。
女は飲み物をそれぞれ席に着いたレーナと暗黒騎士の前にそれぞれ置く。
「それじゃごゆっくり」
女はそのまま出ていく。どことなく楽しそうだ。
だが、そんな事は気にしてられない。レーナはフードを外すと、首飾りを触りこっそり魔法を発動させる。
そして、目の前の杯を取り暗黒騎士に向ける。
「暗黒騎士。貴方とは色々とあったけど、出来れば仲良くしたいわ。ところでカンパイって知っているかしら? 何でも交流を深めるためにする儀式なのだけど……」
レーナはレイジ達から聞いた知識を言う。
このカンパイとはどういう意味でするのかわからない。
しかし、交流を深めるためにする儀式である事は知っている。
やり方は杯を合わせ、持ってる飲み物を飲むだけだ。
これで飲ませる事ができるはずであった。
「カンパイですか? それなら、知ってますよ。一緒に飲み物を飲むやつですね」
レーナはなぜ暗黒騎士がカンパイを知っているのか疑問に思う。
しかし、レイジ達がその風習を広めたのかもしれないと納得する。
「へえ、そうよ。知っているのなら、好都合だわ。私達も仲良くカンパイしましょう」
「まあ、良いですけど……」
暗黒騎士はそう言って自身の杯を差し出す。
レーナも持っている杯を差し出す。
「カンパイ」
杯を合わせ互いの杯に口をつける。
レーナは杯の飲み物を一口飲み暗黒騎士の様子を窺う。
暗黒騎士の喉が小さく鳴り杯の中の飲み物を飲んだ事を教えてくれる。
(勝った! さあ私を見なさい!)
そう思いレーナはもう一口飲む。
エリオスのお酒には劣るが人間のお酒もなかなか美味しく感じられた。勝利の美酒だからだろう。
暗黒騎士がレーナを見る。
(ふふ、これで貴方は私の奴隷。何だか楽しくなって来るわ)
レーナは何かがちょっと引っ掛かったが、暗黒騎士を見ているとどうでも良くなった。
(暗黒騎士……。いや確か本当の名はクロキだったかしら? クロキ、良い名ね……)
レーナは心の中でクロキの名を思うと胸が熱くなる。
「ふふっ」
レーナは思わず笑みがこぼれる。
クロキの目が熱く見つめているのがわかる。
「クロキ」
レーナはその名を呼ぶとクロキの顔を引き寄せた。
◆
(この状況はまずいな。レーナの目的がさっぱりわからない)
クロキはこの状況に頭を悩ませる。
完全に相手のペースである。
夕方になったが何もわからなかった。
しかし、レーナがシロネ達に危害を加えるかもしれないので放ってもおけない。
そもそも、クロキにはなぜレイジやシロネ達に加えてレーナがこんな所にいるのかもよくわからない。
レーナは何か企んでいるのは間違いない。だが、クロキにはそれがわからない。
女性と碌に話した事のないクロキには難易度が高すぎたのである。
(わからないことだらけだ)
クロキはレーナとこのまま別れるのもどうかと思ったので、取りあえずレーナを夕食に誘ってみると意外にも了解してくれた。
しかし、食事を提供する店は混雑していて、とてもレーナを連れてはいけない。
やむなく、クロキはペネロアにお願いする事にしたのだった。
「乾杯」
クロキとレーナはペネロアが持って来た飲み物で乾杯をする。
杯を合わせ互いの杯に口を付ける。
クロキはレーナの喉が小さく鳴るのを聞く。
レーナは今フードをはずしていて、その顔が良く見える。
(本当に綺麗だ、今まで出会った中で一番綺麗なのかもしれない。これほど綺麗な女性とこんな風に2人きりになれるとは思わなかったな)
クロキは嬉しいというよりも居心地の悪さを感じていた。
(経験豊富そうなレイジだったら上手くやれるのかもしれないな)
クロキはそんな事を考えてしまう。
レーナがクロキを見て蠱惑的に微笑んでいる。
(うっ! その顔は反則だ!)
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しかし、疑問に思う間もなくクロキはレーナに顔を引き寄せられる。
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コメント
眠気覚ましが足りない
愛の魔法薬より修正報告を。
ガリオスの妻、ペネロアは家で夫の帰宅を待つ。
↓
ガリオスの妻、ペネロアは家で夫の帰宅を待っていた。
こっちの方が長い時間経っていると思えるかと。
今日は隣の人から上等な蜂蜜酒をもらったのでクロの連れて来た女性に少しあげよう
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今日はお隣から上等な蜂蜜酒をもらったし、クロの連れて来た女性に少し分けてやるか
いくつかあるペネロアのセリフに揃えるとこんな感じだと思います。