暗黒騎士物語

根崎タケル

夜警

 クロキ達は森の中に入る。
 夜の森は暗く、クロキを除くメンバーにとってランタンの灯りと魔法による灯りが無ければ自分を除くメンバーはまったく一寸先も見る事はできないだろう。
 夜に城壁の外に出ることは危険である。だが城壁のすぐ近くであり、何かあったらすぐ撤退することになっている。
 メンバーはクロキとガリオスとレンバーの他に4名が来ている。
 ガリオスがすぐに動けそうな自由戦士に声を掛けたのだ。

「さすがに夜だとおっかないな……」

 メンバーの1人である自由戦士ステロスが言う。彼はロクス王国の人間ではなくどこかの他都市の人間だ。少々傲慢な所があるが腕は立つとクロキは聞いている。

「まったくだランタンやこんな小さな魔法の光じゃ、まったく見えないぜ」

 もう一人の自由戦士ポックスが言う。彼もステロスと同じように他都市の人間だ
 ステロスはまだ20代前半に対してポックスはガリオスよりも年上のベテラン戦士であった。

「すみません私の魔法ではこれが限界なんです……」

 ニムリが謝る。
 ニムリはロクス王国に住む魔術師である。
 昨日のガリオスの怪我を治癒したのも彼だ。
 ニムリはもともとロクス王国の城壁の門の所に捨てられた子供で、いわゆるエルフの落とし子という奴だ。
 エルフ族は女性しかいない、エルフは他種族と交わり子供を作る。女の子であればエルフとして生まれ、男の子なら父親の種族として生まれる。
 そして種族が違うと様々な理由から一緒に暮らしにくく。男の子は父親の種族の近くの集落に捨てられる。もっともエルフからすれば捨てたつもりはないのだろうが。
 魔法の能力が高いエルフから生まれた子供は本来なら魔法が得意ではない種族でも魔力が高く魔法が使えるようになる。
 人間の中で魔力を持つ者は貴重であり、またその国の利益になるかもしれないから大切に育てられる。そんな子供の多くは将来魔術師になる事が多い。
 そのため人間の魔術師に男が多い。
 ニムリはこの国で育ち、10年前に死んだこの国の宮廷魔術師に魔法を学んだ。
 今ではニムリがこの国の宮廷魔術師のようなものである。

「すまない。そんなつもりで言ったんじゃないんだ……」

 ポックスがニムリに謝る。
 ポックスは基本良い人みたいだが気がきかないようだとクロキは思う。
 ニムリは別に気にした様子もなく別に良いと言って笑う。
 昨日も会って話をしたがニムリという人物は中々好感が持てる人物のようだ。

「ストル。何かわからないか?」

 ガリオスが野伏レンジャーであるストルに聞く。

「すまねえ、夜の森は俺でも管轄外だ。そこの兄ちゃんに聞いた方が良いんじゃねえの?」

 そこの兄ちゃんというのは当然クロキの事である。
 この中で暗視を使えるのはクロキだけだ。魔術師のニムリも使う事ができない。
 これはニムリが魔術師の能力が低いからではなく相性の問題だろう。なぜならクロキは暗視はできるがニムリのように魔法による照明をつくる事ができないのだから。
 そのクロキは暗視が使える事から最前線に立たされている。

「クロ殿、様子はどうですか?」

 レンバーがクロキに尋ねる。

「取り囲まれていますね」
「なっ!!?」

 クロキは正直に言うと周りから驚く声がする。
 夜の闇の中をクロキ達から少し離れた所から複数の影が取り囲むように近づいて来ていた。

「なんだと! 相手は何だゴブリンかオークか?」

 ガリオスの慌てた声。
 皆が武器を各々取り出す。

「ゴブリンでもオークでもあるんですが……」

 クロキの曖昧な答えに皆が首をかしげる。

「ゴブリンでもオークでもある? そりゃどういう事だ?」

 ガリオスが疑問に思う。

「ゴブリンやオークなんですが……、あれはゾンビですね」

 他の人達には見ることができないだろうがクロキの目にははっきりと見る事ができた。
 少し離れた所から近づいて来ているゴブリンやオークからは生気を感じられない。
 また彼らの全員が体に傷を負っており、中には槍や矢が刺さった者もいる。
 クロキはルーガスから教わった事があるが、あれは動死体(ゾンビ)で間違いないだろう。
 ゾンビを始めとしたアンデッドは生者を憎み、生者の気配を感じると襲い掛かってくる魔物だ。
 彼らはこちらに気付いたのか近づいて来る。
 クロキの言葉を聞き、自分を除くメンバーが騒ぎ出す。各々相談し合っている。

「結構な数が近づいて来てます。おそらく昼間自分達と遭遇した奴らがゾンビ化したのだと思います」

 クロキがそう思ったのは取り囲む影に昼間出会ったオークを見つけたからだ。
 今日の昼、クロキはガリオスに誘われて森の魔物退治に付き合った。
 あのオークはその時に見かけた奴に間違いなかった。
 ぼろぼろの剣にぼろぼろの鎧、生前と同じ恰好だ。おそらく人間が使用していた物を使っているのだろう。
 クロキは昼間も思ったがナルゴルのオーク達と全然違う。
 姿形はそっくりだがナルゴルのオークの兵士達は統一された立派な武装をしていて、それなりに礼儀も心得ていた。
 それに対して昼間に出会ったオーク達は蛮族である。粗野で粗暴、とても話しが通じる相手ではなかった。
 本来なら魔王に呼ばれたクロキはどちらかと言えば魔物側の味方であるはずなのだが、姿形から心情的には人間の味方をしたくなる。
 それに昼間に会ったオーク達はクロキを見るなり敵意をむき出しした。
 彼らはクロキ達をおいしそうな食糧と見ており、そんなオーク達に味方する事は不可能だった。
 そして、ナルゴルの外の魔物はモデスの配下では無いからモデスを裏切る事にはならないだろうとクロキは判断する。
 影は非常に遅い速度で近づいて来る。
 ゾンビ化した事で生前なら何でもない森の木でも彼らにとってはとてつもない障害物なのだろう、なかなかこっちにたどりつけないようだ。
 その中で1つの影がクロキ達に何とかたどりつこうとしていた。

「はっ!」

 クロキはショートソードを抜き近づいて来た影の1つを斬り裂く。
 クロキがショートソードを使ったのは魔剣を他の人たちに見せたくないからだ。
 ショートソードはナルゴルから持ってきた物だ。
 魔剣と違いこの世界ではありふれた物である。ちょっとした事にいちいち魔剣を使うのは大変なので別に1本持ってきたのだ。
 影は後ろに倒れそのままじたばたと動く
 皆が倒れた影に集まる。
 それは首と足のないオークである。だが首を落とされたにも関わらず手足をジタバタと動かしている。

「確かにゾンビだな……」

 ガリオスは周りを警戒しながら確認する。

「そんな……何故またゾンビが……まさかまたストリゲスが……」

 レンバーが茫然として呟く。

「ゾンビがいるならそれを作りだした者がいるはずですよ」

 ニムリの言葉に何人かが頷く。
 ゾンビ等アンデッドは基本的に自然には発生しないとクロキはルーガスから習った。死霊魔術(ネクロマンシー)によって生まれるのが一般的だ。つまり何者かがゾンビを作りだした可能性が高い。

「どうします? 他にも近づいてきてますよ?」

 クロキが言うと皆が騒ぎ出す。
 ゾンビの動きは遅い。しかし、囲まれると危険だろう。今なら逃げる事もできる。

「どうする、レンバー?」

 ガリオスがレンバーに聞く。
 レンバーはこの団体の指揮官だ。彼の判断を待つ。

「もちろん撤退しますよ。アンデッドが相手ではまともに戦うよりも城壁の中で朝を待った方が無難です」

 レンバーの言葉に全員が頷く。
 ゾンビは動きが遅く弱い。
 しかし、既に死んでいるために剣や槍などの攻撃はあまり効果がないのだ。
 ここにいるメンバーの装備では戦っても体力が奪われるだけだろう。
 もちろんクロキなら殲滅できるが、一応正体を隠している身であり、あまり力を見せるのはやめた方が良いだろう。
 それに全てのアンデッドは太陽の光に弱い、太陽の光を浴びるとアンデッドは溶けて消えてしまうはずだ。そのため、いちいち倒すよりも朝を待った方が速い。
 高位の神官の中には魔法で陽光を作る事ができるらしいが、ここにはその魔法を使える者はいなかった。
 そのため無理に戦わずに城壁に戻って守りに徹した方が良いとレンバーは判断したのである。
 レンバーの判断に皆が急いで撤退を開始する。

「こんなにアンデッドが発生するなんて、まるで1か月前、以前に勇者達が来た時と同じじゃねえか!!」

 ガリオスが叫ぶ、その言葉にレンバーとニムリとストルが頷く。全員ロクス王国の人間だ。
 過去に何かあったのだろうか? とクロキは疑問に思う。

「はい。もしかすると勇者様達と何か関係があるのかもしれません」

 ニムリの返答。

「じゃあやっぱりストリゲスに生き残りがいたのか」
「ストリゲスかどうかはわかりません……。ですが何者かがアンデッドを作りだしたのは事実です。警戒をした方が良いでしょう」

 彼らは喋りながら帰途につく。昨日、ロクス王国に来たばかりのクロキにはわからない話しだ。完全に蚊帳の外である。
 ただ話から勇者達に何か関係する話しのようだとも思う。

(そんなタイミングでレイジ達が来る)

 クロキは何か事件がおこりそうな予感がした。

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