俺の許嫁は幼女!?

白狼

119話 好きになんかならなかったら

 どこで選択を間違えたのだろうか。
 優奈に許嫁のことを言ったこと?
 優奈の好意をキッパリと断らなかったこと?
 優奈に好きって言ってしまったこと?





 …………………優奈のことを好きって思っていたこと?


 こんなに苦しむならいっそ好きになんかならなかったらよかった。
 そう思った瞬間、凍えるような感覚を覚えた。
 真っ暗な空間で俺の体があった。
 そして、その体が足元からどんどん凍っていく。
 動こうとしても動けない。
 俺は何もすることが出来ず、そのまま全身が凍るのをただ待つだけだった。
 何故だろうか。
 下半身は全て氷ってしまったのに上半身だけ、どれだけ時間が経とうと凍ることはなかった。それどころかどんどん体全身が暖かくなっていった。
 今の俺にこんな熱を放出するなんて不可能だ。
 なら、何故こんなにも暖かくなるのだろうか。


「………よ………やく…………さい………」


 声が聞こえる?何を言っているのかは分からないけど声だけは聞こえる。
 遠くから?それともすぐ近く?
 分からない。
 分からない……けどなんだか、暖かい。
 気が付けば下半身の氷が全て無くなっていた。
 それに動かなかった体も動く。
 でも、動けるからってこれからどうすればいいのかなんて俺には分からない。
 まず、ここがどこなのかも分からない。
 分からない……けど、俺は何回かここに来たことがある。
 この場所に来る時、俺はいつもなにかに苦しんでいた時だ。
 前までは過去の俺から逃げるようにここに来ていたと思う。
 でも、今は違う。違うが……辛い、苦しいと思っている今の気持ちは全く一緒だ。
 だからここはきっと……弱い俺が逃げる場所なんだ。
 俺は分かっていた。
 静香の時も美優の時も許嫁の件を結局有耶無耶にして変な関係を持ち続けているってことを。
 その結果、また俺はここに逃げてしまったのだ。
 そろそろちゃんと向き合うべきなんだろう。
 そう思った瞬間、暗闇の中に光が灯り俺の意識は霧のようにモヤモヤになって最終的に消えていった。


「………ん………んん………」
「っ!陽一!」


 うっすらと目を開けると瞳に涙を溜めている女の子が俺に抱き着いてきた。
 抱き着かれた際、女の子特有の甘い香りが俺の鼻を突き抜ける。


「………静香?」


 俺は、俺に抱きついてきた女の子の名前を言った。
 でも、静香は俺の声に反応せずに俺がちゃんと生きていることを確認するかのようにギューッと抱き着く力を強める。
 俺は、一旦静香の気の済むまでやらせてあげようと思いその後は何も言わずにいた。
 静香が落ち着くのを待つ間に俺は、今どこにいるのかを確認する。
 8畳ある畳部屋。その真ん中にシーツが敷かれてありそれに俺は横になっている。
 俺の知らない部屋だ。
 周りに飾られている置物とかをみてもまず家ではないと検討はつく。
 恐らく静香の家だろう。
 きっと俺は、麗華が出掛けた後、玄関で倒れてしまったのだろう。それからなんの理由かは分からないが俺の家にやって来た静香が倒れてる俺をここまで運んでくれたってことか。
 そこで、ずっと抱きついてきていた静香の力が少し緩む。


「ずずっ………よ…陽一………ちゃんと起きてる……わよね?」
「ああ、起きてるよ。だから、安心してくれ。」
「………もうっ!本当に心配したんだから!今度私の学校で発表会があるからそれに来てもらおうと思って朝のランニングの途中に、あんたの家に行ってベル押したけど誰も出なかったからドアを少し開けたら玄関であんたが倒れてるのをみて本当心臓に悪かったわよ!」


 静香は、顔を真っ赤にして早口でそう言った。
 ああ、俺ってまだこんなに心配してもらえるんだって思ってしまった。
 優奈に対して酷いことをしてしまった俺に世の中は優しくしてくれるのだろうかとずっと思っていた。
 まぁ、そんな事情を知らない静香だけどこんなに心配してもらえるのは素直に嬉しかった。


「ごめんな、静香。心配掛けて。」
「ほんとよ……ばかぁ……」


 静香は、また俺の体にギュッと抱きついてきた。
 俺の服は既に静香の涙で濡れているがそれが気にならないほど俺は、こんなに心配させて申し訳ないと思い、少しだけ嬉しいとも思った。


「そういえば俺ってどれくらい寝てたんだ?」


 俺は、あれからどれくらいの時間が経ったのか分からず静香に尋ねてみた。


「2日もずっと眠りっぱなしだったわよ。」


 静香は、少し頬を膨らませて教えてくれた。


「2日………2日!?お、俺、そんなに眠ってたのか!?」
「ええ、そうよ。」


 俺は、あまりの事実に大きく取り乱してしまった。


「あ、でも、安心して。家の人にはちゃんとあんたがここにいるって知ってるから。」
「そ、そっか。あ、ありがとう。」
「あんたの学校にもあんたが熱を出したから休みますって連絡を入れておいたから。」
「あ、ありがとう……」


 ああ、俺の出席日数が……


「って、静香は小学校に行かなくていいのか?」
「もう行ってきたわよ。もう夕方の5時よ。」
「あ、ああ、そっか。ってか俺、2日間もずっとここでお世話になりっぱなしだったのか。」
「いいわよ、そんなこと気にしなくて。それよりも私はお父様に連絡してくるから。」
「ああ……静香。」
「ん?」
「本当にありがとう。」
「………ふんっ、どういたしまして。……………ふふっ」

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