俺の許嫁は幼女!?

白狼

86話 挨拶って緊張するんですよ?

「種目名は『息を合わせろ親子との絆』ですね。」
「何それ?」


 種目名からして親と子どもが一緒に何かをするみたいだけど……恥ずかしくないものがいいな。


「えっと……保護者と子どもで一緒に手を繋いで走るみたいですね。ただ、普通に走る訳ではなくいくつもの障害物があるらしいです。」
「ってことは障害物かけっこってことか。まぁ、それくらいならいいかな。」
「ふふっ、良かったです。運動会が楽しみに感じたのは初めてです!」


 マジか。運動会くらいは誰でも楽しみにしてるんだと思うんだけど………本当にお義母さんたちは何をしたんだか……


「それじゃ、約束通りちゃんとお義母さんにも言うんだぞ?」
「は、はい……分かってます……」
「なら、いい。」


 まぁ、その場合苦労しそうなのは俺なんだけど。


「それでその運動会はいつあるんだ?」
「来週の日曜日です。」
「結構早いんだな。この頃、入院とか多かったから体力がだいぶ落ちてそうだな。この1週間、少し体力作りでもやっておくか。………それで美優は、何に出るんだ?他にも競技はあるだろ?」
「4年生が出る競技は全部出なくてはいけないので……『かけっこ』『学年対抗大縄飛び』『キラキラダンス』『色別リレー』それとお兄ちゃんとやる保護者参加型競技ですね。」
「5つか。よしっ!頑張って応援しなくちゃな。」
「私もお兄ちゃんが応援してくれるなら精一杯頑張ります!」


 と、そこまで話していると引き戸の方から人が歩く音が聞こえてこの部屋の前で止まり声を掛けられた。


「美優〜、陽一くん〜、もう7時だけど陽一くん、うちで夜ご飯食べてる?」
「え!?も、もう7時!?」
「もうそんな時間だったんですね。お兄ちゃんと話していると時間が経つのがすごく早く感じます。」
「俺もめちゃくちゃ早く感じたよ。」
「それで夜ご飯どうする〜?私としてはそろそろ夫が帰ってくるからぜひ食べていって欲しいんだけど〜。」
「そうです!お父さんにもお兄ちゃんのことを紹介しなくちゃいけません!それに昔、よくお兄ちゃんと私とお父さんとで色々と遊びに行ったのでお父さんを見たらもしかしたら記憶が戻るかもしれません!」
「そ、そうかな………」


 まぁ、記憶がもしかしたら戻るかもしれないし……それにこれからも美優と付き合っていくなら挨拶くらいはしておいた方がいいだろう。


「分かった。なら、一緒に食べようかな。」
「良かった。もう、陽一くんの分作っちゃったからね。」
「最初から食べさせる気満々だったんですね。」
「………ねぇ、お兄ちゃん。もういっそ今日は泊まっていったらどうですか?」
「さすがにそれは無理!」


 食事をするのも気が引けるのに泊まらせてもらうなんてまず無理だ。


「えぇ〜、遠慮なんかしなくていいんですよ〜。」
「いや、これは俺の気持ち的な問題だからな。」
「むぅ〜」
「2人とも、そろそろリビングに来てね。私は、夜ご飯の準備をしてくるから。」


 お義母さんは、そう言って来た道を戻っていった。


「それじゃ、俺たちも行くか。夕飯の準備くらいは手伝わないといけないからな。」
「ふふっ、お母さんのことだから手伝わなくていいって言いそうですけど。」
「ははっ、確かに言いそうだな。」


 俺と美優は、そんなことを話しながら部屋を出てリビングの方へ向かった。
 そして、リビングに着くと今さっき言っていた通りお義母さんは、夕飯の準備をしていた。


「もう盛り付けが終わったからあとは運ぶだけだから座って待っててね〜。」
「いえ、手伝いますよ。」
「別にいいわよ〜。陽一くんは、お客様なんだから座っててちょうだい。」
「ふふっ、予想通りです。」
「ははっ、そうだな。」
「え〜?なになに?」


 俺と美優が顔を見合わせて笑っているとお義母さんが首を傾げた。
 それから俺はお義母さんの言葉を無視して盛りつけが終わっている料理の乗った皿を慎重にテーブルに運んだ。美優も俺と一緒に料理を運んでいる。


「も〜、別にいいのに〜。」
「これくらいはお手伝いさせてください。」


 俺は、お義母さんが止めるのも構わずどんどん料理を運んでいく。お義母さんも途中から諦めたのか少しため息を吐いて料理を運ぶ。
 そして、全ての料理を運び終えた時くらいに玄関の方からドアが開く音がした。


「ただいま〜。」


 その声とともにリビングのドアが開かれる。


「あなた、おかえり〜。」
「お父さん、おかえりなさい。」


 お義母さんと美優は、笑顔で帰ってきた父親にそう言っていた。


「お、おかえりなさい、お義父さん。お邪魔してます。」
「………………」


 俺も少し緊張しながらもちゃんと挨拶をした。
 だが美優のお父さんは、俺を見ると何故か固まってしまった。


「お父さん!こちらがずっと探していた陽一お兄ちゃんです!」
「…………う、うぅ」
「え!?」


 美優が俺のことを説明すると美優のお父さんがいきなり涙を零した。
 だが、美優のお父さんは、そんな涙を拭うこともせず、俺に駆け寄ってきてギュッと抱きしめてきた。
 俺は、いきなり男の人に抱きつかれてさすがにどうすればいいか分からずあたふたする。


「良かった!本当に良かった!元気そうだ!」


 美優のお父さんは、俺の体格を確認するかのように触りながらそう言った。


「あなた、陽一くんが困ってるでしょ。」
「あぅ……」


 お義母さんが美優のお父さんの襟をつかみ俺から離してくれた。


「ごめんね、陽一くん。」
「い、いえ、大丈夫です。」
「す、すまん、私も少し取り乱してしまった。……でも、本当に元気そうで良かったよ。」
「もう、お父さんったら。お兄ちゃんに会えたのが嬉しいのは分かりますけどあまり迷惑をかけないでください。」
「分かってるよ。と言うよりも美優、よく陽一くんの居場所が分かったな。」
「ふふっ、お父さんがいない間に頑張って探しました。」
「さすが私の娘だ!よく探し出したな。」


 美優のお父さんは、そう言うと美優の頭を優しく撫でた。


「さて、そろそろ夜ご飯にしましょう。せっかくのご飯が冷めちゃもったいないでしょ。」


 お義母さんがそう言うとみんな、返事をして席につく。
 そして、そのまま俺は夕食をいただくのだった。

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