僕は過ちを正すため、過去に飛んだ。
EP30 交差し合う真実
その日、朝のホームルームの際に小鳥遊に向けてクラス一同で黙祷を捧げた。
しかし、憎まれ者であった小鳥遊を本気で弔ってあげたのはクラスの一割にも満たないであろう。目を閉じ、亡くなった者に手を合わせているであろう時間帯にクスクスと無数の笑い声や寝息までが鮮明に隼人には聞こえたのである。
先生も黙って黙祷を続け、それが終わると集中していなかった生徒を怒ることもせずにそそくさと教室から出ていく。
「流石に、他人行儀すぎだな」
と、思わざるを得なかった。仮にも自分の受け持ったクラスの生徒の1人だと言うのに。
そんな惨状を隼人は静かに見た。とてもまともな光景とは言えなかったが仕方がないといえば仕方のない結果である。
天に吐いた唾は自分に帰ってくるとはよく言ったもので、その言葉を実体化したような図だ。
この悪く言って“クソ”な教室の雰囲気の中、隼人の横には未だに黙祷を続ける早希がいた。
しかし、先程の校庭にいた時の彼女とは身にまとっているオーラが違うように感じた。周りの空気のせいなのかは定かではないが普段とは何かが違った。
おそらくだが、そう感じてしまう理由が隼人にはあった。
今の彼女は、目を閉じて両手を合わせ、亡者である小鳥遊に弔いの意を向けている模範的な姿にも見える。口が笑っていることを除けば。
彼女の口はまるで誰かをあざ笑うかのように歪んでいてとても普段の早希からは想像もできないような表情をしていた。
「お、おいお前…」
隼人が声をかけようとした途端、
キーンコーン カーンコーン
と授業開始のチャイムが鳴る。1時限目はクラス移動が必要な科目なので部屋には隼人と早希以外には誰もいない。
チャイムに気づくと早希はハッと目を開けると急いで引き出しを漁りズタズタに引き裂かれた教科書を取り出す。そして隼人を向きながら
「やばい遅刻だよ!急ごう?」
と誘う。
「お、おお。そうだな」
隼人もぎこちなく頷き、二人で移動先の教室へダッシュした。このとき、隼人は早希に対し、底知れぬ恐怖を感じていたことは事実で、彼女に先程のことは話せないままその日を終えた。
そして、特に問題もなく数日が過ぎ学校行事の遠足も終えた。もうこの頃には彼女への恐怖もなくなってしまうくらい充実した毎日であった。
しかし、30日(事件当日)へは着実と近づいていた。
「先日の銃声事件について、関係者である西峰財閥の現社長のご子息でいらっしゃる隼人氏とおなじく東山財閥現社長ご子息でおられる吹雪氏の話が噛み合わない件について世間では様々な憶測が流れています」
「はい。この件に関しては我々政治家としてもとてもホットな話題となっています。財閥間での取引で失敗して拳銃騒ぎになったという説や、西峰財閥が吹雪氏を暗殺しようと考えて実行したところ、失敗したが吹雪氏が記憶をなくしたおかげでなんとか言い逃れている説など様々ですね。」
「たしかに、隼人様のお話によると東山財閥の現取締役副社長である風魔氏が犯人だと供述されていましたし、後者のほうが最近では支持率が上がってきていますね。私もそっち寄りの考えです。」
「しかし、現場には拳銃の弾どころか噴射したであろう火薬のあとも微塵も見つからないとのことですしね。これは本当に謎が残ることですがね。真実はわかるのでしょうか」
テレビではニュースキャスターにこの手の専門家だという人たちが持論を披露している。
「本当に全く記憶にねぇんだよな。」
吹雪はテレビを見ながらそうつぶやく。すると、近くで空になったコップに本社の警備長であり執事でもある桐谷 仁が紅茶を注ぐ。
「無理に思い出さなくてもよろしいですよ。きっといつか思い出すと思います」
「そんなもんかぁ」
吹雪は若干疑いながら聞いた。
「はい。そんなものですよ。」
仁はそう言って「では、間もなく時間なので警備の方に戻りますね」と言って一礼をしてから部屋を出る。
「隼人。色々悪いな。」
吹雪は誰もいなくなった部屋でボソッと呟いた。
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