僕は過ちを正すため、過去に飛んだ。
EP29偽の感情
美味しい、美味しいと、誰もいない空間にこだまする小さな声。
悪感情や憎悪の塊を食しながら彼女は怪しげな笑みを浮かべ、カチカチとぎこちなく反対に動く時計の長針を無理やり止める。
そのまま時計は軌道を転換させ本来のあるべき動き方に戻る。
「あなたがもがけばもがくほど、事態は悪い方向へと進んでいきますよ。でも、それでいい。苦しみながら私に殺されて。もがいてもがいて苦しみ私に命乞いをしながら。」
直後、少女の姿は煙のようになくなっていく。時計は以前、通常運転したままだが。
例の件の数日後、秋田警察の職員が東山財閥と西峰財閥に押し寄せた。
その際、警察から聞かれた質問を隼人は前回同様の返答をした。特に新しい質問も無かった。
そして、あれからは学校を休み自身の休養をとった。
しかし、吹雪の方はというと、【知らん】【覚えていない】の一点張りで、どうやら昨日の記憶は完全に飛んでしまっているようだ。当然、風魔浩二も「そんなやり取りは身に覚えがありません」と否定している。
「はぁ。詰んでいるなぁ」
次の日、隼人は久しぶりに制服を着用して登校している最中だった。そして、校門の前まで来て大きなため息が出る。
その“ため息”が隼人の心を一段、また一段と落としていく。
「どうにかして、手を打たないとだよな。小鳥遊のためにも」
先日、隼人の友人である小鳥遊 修斗が亡くなった。原因は恐らく喧嘩による頭部の強打と全身への打撃の数々、包丁等の刃物で襲われた形跡もあった。
もちろん、彼を殺した奴らを許しはしない。
しかし、直接小鳥遊を巻き込んだのは他でもない隼人だ。
「決めたんだから…」
隼人は自分の顔をパンパンと叩く。「よっしゃ!」と気合いを入れる。
そうして、教室まで再び歩き始める。
その時、隼人の後ろの方から「隼人くーん!」と自分を呼ぶ声がして振り向く。少し長めの黒髪を揺らしながら、タタタと全力疾走でこちらに向かってくる少女が目に入った。
「早希…」
隼人は彼女の名を口にする。その数秒後に彼女は隼人に追いつきゼェゼェと肩で息をしていた。
「う、うん。はぁはぁ…疲れたよぉ。」
自分から走ってきたのに勝手に疲れて不機嫌になる早希。その後、深呼吸で呼吸を整えると二人で学校に向かって歩き出した。
「小鳥遊くんの事聞いた?」
不意に早希が聞いてくる。
隼人は「知っているよ」と絞り出すような声で返事をした。
「悲しいよね」
早希は神妙な面持ちでそんな事を言う。
しかし、隼人はそんな事を言った早希を驚きの目で見た。
「お前は小鳥遊が憎くないのか?」
そう。早希は小鳥遊から最もイジメを受けていた人物であった。そのイジメが原因で“リストカット”をしていたほどには酷かったはずだ。
「確かに、小鳥遊くんは好きじゃないよ。でも、どうしてか嫌いでもないの。なんで、だろうね…」
そうして、早希は乾いた笑みを浮かべる。どこか、否定しきれない自分にヤキモキしているような印象を受けた隼人。
彼女もきっと複雑な思いなんだろうな。と隼人は咀嚼する。深追いは禁物だ。
「小鳥遊くんは、ただ、“ごめんなさい”って謝ることが出来ない弱さを抱えていただけなんだよ」
早紀は最後にそう言うとそれ以上は言わなかった。
彼女の言いたいことの真意についてはこの短く濃い言葉の中にあることは確かだろう。しかし、今の隼人には到底理解できない。
「早紀…」
しかし、早紀は一体どんな思いを抱えて今言葉を発しているのだろうかと隼人は思ってしまうのだ。彼が早紀の立場なら小鳥遊を許すことなんて到底出来ないだろうから。
隼人は小鳥遊の過去を知り、長きに渡る因縁を解決したゆえ、小鳥遊の死を悲しむことが出来る。
彼女は恐らく、小鳥遊の内部事情については深くは知らないだろう。きっと、ただのイジメてくる相手でしか無いはずだ。それでも嫌いになりきれないって言えるのは本当に凄いことに違いないのだ。
やっぱり、彼女は強いな。
隼人はそんな事を思いながら、早希と一緒に校舎入りする。
悪感情や憎悪の塊を食しながら彼女は怪しげな笑みを浮かべ、カチカチとぎこちなく反対に動く時計の長針を無理やり止める。
そのまま時計は軌道を転換させ本来のあるべき動き方に戻る。
「あなたがもがけばもがくほど、事態は悪い方向へと進んでいきますよ。でも、それでいい。苦しみながら私に殺されて。もがいてもがいて苦しみ私に命乞いをしながら。」
直後、少女の姿は煙のようになくなっていく。時計は以前、通常運転したままだが。
例の件の数日後、秋田警察の職員が東山財閥と西峰財閥に押し寄せた。
その際、警察から聞かれた質問を隼人は前回同様の返答をした。特に新しい質問も無かった。
そして、あれからは学校を休み自身の休養をとった。
しかし、吹雪の方はというと、【知らん】【覚えていない】の一点張りで、どうやら昨日の記憶は完全に飛んでしまっているようだ。当然、風魔浩二も「そんなやり取りは身に覚えがありません」と否定している。
「はぁ。詰んでいるなぁ」
次の日、隼人は久しぶりに制服を着用して登校している最中だった。そして、校門の前まで来て大きなため息が出る。
その“ため息”が隼人の心を一段、また一段と落としていく。
「どうにかして、手を打たないとだよな。小鳥遊のためにも」
先日、隼人の友人である小鳥遊 修斗が亡くなった。原因は恐らく喧嘩による頭部の強打と全身への打撃の数々、包丁等の刃物で襲われた形跡もあった。
もちろん、彼を殺した奴らを許しはしない。
しかし、直接小鳥遊を巻き込んだのは他でもない隼人だ。
「決めたんだから…」
隼人は自分の顔をパンパンと叩く。「よっしゃ!」と気合いを入れる。
そうして、教室まで再び歩き始める。
その時、隼人の後ろの方から「隼人くーん!」と自分を呼ぶ声がして振り向く。少し長めの黒髪を揺らしながら、タタタと全力疾走でこちらに向かってくる少女が目に入った。
「早希…」
隼人は彼女の名を口にする。その数秒後に彼女は隼人に追いつきゼェゼェと肩で息をしていた。
「う、うん。はぁはぁ…疲れたよぉ。」
自分から走ってきたのに勝手に疲れて不機嫌になる早希。その後、深呼吸で呼吸を整えると二人で学校に向かって歩き出した。
「小鳥遊くんの事聞いた?」
不意に早希が聞いてくる。
隼人は「知っているよ」と絞り出すような声で返事をした。
「悲しいよね」
早希は神妙な面持ちでそんな事を言う。
しかし、隼人はそんな事を言った早希を驚きの目で見た。
「お前は小鳥遊が憎くないのか?」
そう。早希は小鳥遊から最もイジメを受けていた人物であった。そのイジメが原因で“リストカット”をしていたほどには酷かったはずだ。
「確かに、小鳥遊くんは好きじゃないよ。でも、どうしてか嫌いでもないの。なんで、だろうね…」
そうして、早希は乾いた笑みを浮かべる。どこか、否定しきれない自分にヤキモキしているような印象を受けた隼人。
彼女もきっと複雑な思いなんだろうな。と隼人は咀嚼する。深追いは禁物だ。
「小鳥遊くんは、ただ、“ごめんなさい”って謝ることが出来ない弱さを抱えていただけなんだよ」
早紀は最後にそう言うとそれ以上は言わなかった。
彼女の言いたいことの真意についてはこの短く濃い言葉の中にあることは確かだろう。しかし、今の隼人には到底理解できない。
「早紀…」
しかし、早紀は一体どんな思いを抱えて今言葉を発しているのだろうかと隼人は思ってしまうのだ。彼が早紀の立場なら小鳥遊を許すことなんて到底出来ないだろうから。
隼人は小鳥遊の過去を知り、長きに渡る因縁を解決したゆえ、小鳥遊の死を悲しむことが出来る。
彼女は恐らく、小鳥遊の内部事情については深くは知らないだろう。きっと、ただのイジメてくる相手でしか無いはずだ。それでも嫌いになりきれないって言えるのは本当に凄いことに違いないのだ。
やっぱり、彼女は強いな。
隼人はそんな事を思いながら、早希と一緒に校舎入りする。
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