僕は過ちを正すため、過去に飛んだ。

黒山羊

EP26 頼もしい仲間

「元気?隼人」

 そう、隼人に言ってきたのは意外な人物だった。

「…吹雪?」

 そう、隼人の目の前にいるのは紛れもなく数日前に仲違いした東山吹雪だ。

正直、頭の理解が追いついていない。どうにか現状を把握しようともうすでに疲れ切った頭をフル稼働させた。
 恐らく、浩二の言っていた【吹雪からの命令】っていうのが嘘だったってところだろうか。

「驚いたって顔だな」

吹雪は冷静に隼人に言ってくる。

「そりゃあ」

 隼人がそう答えると「ん」と吹雪が自分のスマホを見せる。
 画面にはアルバムの録音データが配置してあった。隼人は恐る恐る再生ボタンを押す。

 そこから聞こえた声に隼人は耳を疑った。

~~~

「多分、逃げられたわね。ごめんなさい私の力不足で。」

「嘘が下手なのですね。風魔恵さん?」

「どういう事なんだ。恵」

「わ、私は嘘なんか…」

「いや、貴方は嘘を言っている。証拠に貴方の示した場所に西峰隼人はいなかった」

「だ、だからそれはあのひとに逃げられたせいで…」

「そして、貴方が示した場所の真反対の方の茂みがゴソゴソと動いていましたよ?あれは何でしょうかね?」    

~~~

 というものだった。

「こ、これは?」

 理解しがたいこと続きで隼人を混乱させた。これも例外ではない。

「数時間前だけど、匿名で電話がかかってきたんだ。それに出たところ、風魔恵って名乗る女から詳しいことは言われず、【西峰隼人を助けてあげて】とだけ言われたんだ。そして、その後すぐにこんな会話が聞こえてきたって感じだ。恐らく恵ってやつの声と知らない女に、風魔(浩二)の声。計2人がお前を探して、恵ってやつがそれを裏切ったって感じなんだろうと予想できたよ」

 そして、吹雪はもう一つの録音を流す。

~~~

「で、でももし私が嘘言っているのが分かっていて隠れている場所まで分かっていたのならなぜ放置したのですか?」

「私は、まだあのひとにバレてしまうわけにはいかないんですよ。理由はただこれだけです。」

「バレてはいけない?それってどういう…そもそも貴方は何者…ッ!」

「そこまでです。それ以上の詮索は許しません。」

「悪い子には罰を与えないと、ですね?」


「恵。西山財閥が如何に悪いことばかりをしてきたのか俺はたくさん教えたつもりだったのだが、あいつを庇うなんて。お前は恥でしかない。しっかりと制裁を受けてきなさい。」

~~~

「これって…」

 先程の吹雪の説明もあってか、やっと隼人にも理解することが出来た。

 吹雪は隼人の言葉を無視して言った。

「俺はこの一連の話を聞いたんだが、正直、この会話の内容は分からないことだらけだった。だけど、恵ってやつの会話が途中で止まるわ、仲間っぽい立ち位置の女は自分のことを詮索するなとか言うわ、明らかに普通な会話じゃなかった。」

 吹雪はそのまま持論を言う。

「ってことで、直接真実を確認しに来た。場所はうち(東山財閥)の所有している宇宙赤外線感知システムを使って秋田からの反応を察知したから分かったって感じだな。恵ってやつのスマホがうちのやつで良かったよ。」

 吹雪は嫌味を言うように言った。
東山財閥の売り出すスマホの長所はGPS代わりになる赤外線感知システムがついていることだ。だが、事実東山財閥の人間はその情報を管理して見ることができるためプライベート的な観点から批判も多く、持っている人は決して多くはない。
でもまあ、恵は浩二の娘だ。東山財閥副社長の娘が自社のものを持っていなかったらおかしいからの嫌味だろう。

「んで、いざ来てみたらこんな状況って感じだ。実際ここに来た時はどっちに味方するか決めてなかったけど、風魔(浩二)が嘘ついていたし、正直、味方をしてやる気にはならなかった。だから、隼人側につくことにした。とりあえず、今の所は、な」

 吹雪は持論を終えると一呼吸つく。その後隼人にしか聞こえないような小さい声で言った。

「もうすぐここにうちのヘリがつく。それまでここで待機なんだが体は動かせそうか?さっきみたいに」

 どうやら、吹雪の仲間が乗っているヘリが来るみたいだ。ここから察するに、さっき見えたヘリコプターこそ吹雪が乗っていたもので、いまここに向かっているということで間違いないだろう。

「ま、出来るけど。」

 そう言って吹雪の横に立つ。

「お前のこと、完全に信用したわけじゃないけど、俺も思うところがある。あと聴きたいこともある。だから今回は味方してやる。この場所を抜け出せたら聞きまくるから覚悟しとけ。」

 吹雪はそんなふうに言ってくる。

「おう。なんでも答えるさ。」

 そして、隼人はそのまま浩二とSP二人を一瞬見る。どうやらSP二人も拳銃を所持しているようだった。
 しかし、こっちも吹雪が浩二から奪ったものがある。
 だから、銃撃戦にならないようにお互いに牽制し合うという感じで時間を稼ぐといった作戦を立てる。
 しかし、この作戦はすぐに破棄となる。理由は

「フンッ!」

 そう、気合の声とともにベキッと鈍い音が聞こえたからだ。それを見た時、隼人に衝撃が起こった。そしてその衝撃は声となって現れた。

「なんで、拳銃壊しているんだよぉ!」

 そう、吹雪は浩二から奪った拳銃を自身の握力のみで壊したのだ。思わず叫ばずにはいられなかった。ちなみに、正確には拳銃の先の方の“銃口”だ。そこを思いっきり曲げたのだ。これでもう撃つことは出来ない。

 あまりの衝撃に脱力する隼人。それを見た吹雪は余裕そうな笑みを見せながら言った。

「弾、無かったからよ。」

「え…?」

 一瞬、吹雪が何言ったのか分からなかった。

「わかんねえのか隼人?ただの脅しのための銃さ」

 ああ、そういうことか

 そして、吹雪の言葉を信じるなら壊した理由を隼人は理解した。
 確かに元から弾の入っていない拳銃であるという事を知っている相手に威嚇するなら自身の力を銃口を曲げることでアピールするのも手だ。
 ちなみに、隼人にはそんな力はない。

「安心しろよ隼人。きっと相手も弾なs…へ?」

 バンッ!という音ともに吹雪の顔の横を何かが通り過ぎた。隼人と吹雪は音のした方を向くとそこには先程のSPが拳銃を構えていた。そして、その銃口からシュウウウっと煙が出ていた。

「あ、これ死んだわ。」

 吹雪の言葉に猛烈に不安になった隼人だった。



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