僕は過ちを正すため、過去に飛んだ。
EP24 希望という呪い
私は孤児院出身だった。
生まれてすぐ物心もつかない幼き私をおいて、親はどこかに消えた。
かすかに見える光の中、私は必死に泣き続けたのだ。戻ってくるわけもない親のことを。
「寂しかったでしょう?でも大丈夫よ。これからはおばちゃんたちが心を込めて貴方を立派な子に育ててみせるからね」
誰だよお前。
見たこともないおばさんが私にそんな偽善の言葉を投げかける。
しかし、私はそんなことを求めているわけなんかじゃないんだ。
私はただ、親の元へ返してほしくて泣いているんだ。お母さんに、お父さんに会わせて欲しい。本当にそれだけなんだ。
恐らく、道に捨てられている私を見た誰かが警察にでも通報してそのまま孤児院に連れて行かれたのだと思う。
そんな私の心のわがままは当然叶うはずもなく、1年、2年と時は残酷なまでに長々と過ぎていった。
ある日、私がふと、暇だから構ってほしくて【マザー】(職員)に話しかける。
「お母さん」
「ごめんね。今、みゆきのおむつを取り替えていて忙しいの。もうちょっと、後でもいい?」
「あ…うん」
「ありがとう。恵」
【マザー】はそう、微笑むだけだった。
この孤児院は建物の規模の割には職員の人が少ない。それは私達のことを本気で愛してくれる人だけを採用しようとしているからだ。だから給料が低いというシステムでお金よりも子供のことを重要視してくれる人を選別して職員を採用する。そのため、給料のためだけに就職している人は少なく、この場所には【偽の愛】はないはずなのだ。
しかし、【マザー】達は私達孤児を平等に愛してくれているのは分かっているのだが、物心の付き始めた私にとって平等の愛とは【偽の愛】にしか思えなくなった。
私だけを愛して欲しい。そんな貪欲な思いがあったのだ。
「遅れてゴメンね。それでどうしたの?」
【マザー】は数分後に自分の仕事を片付けてから私に話しかけてくれる。
「え、えっとね…」
構ってもらえることに嬉しくなった私は少し興奮気味に何かを話そうとした。だが、
「お母さん。怪我しちゃった」
違う子が私の話の最中に【マザー】に話しかけた。
「え、えっと、まき。少し待ってほしいな。すぐ行くからね」
マザーは【まき】という子に言った。私がなにか重要な話があると踏んだのか。そうでもなければ怪我をした子より私を優先するはずがないはずだから。
「それで、恵?どうしたの」
「…ごめんね。お母さん。そこまで重要な話じゃないの。まきちゃんの怪我を見てあげて」
私は【まきちゃん】の事を優先することにした。
「あ、そうなの。分かったわ」
【マザー】はそう言うと私に背を向け【まきちゃん】を保健室へと運ぶ。
その際に【マザー】の腕には赤い何本かの線が見えた。私達を相手にするのは疲れるのだろうか?そんな思いからも私はどんどん声をかけにくくなった。
ああ。いいなぁ。まきちゃんは構ってもらえて。
自分が選んだ選択肢なのに相手をうらやましがるのは理不尽だろう。でも仕方がないのだ。このときの私にはそこまでの心の余裕がなかったのだから。
【マザー】たちも人数が少ない分一人一人にかかる負担は計り知れない。辛さを理由に過労で自殺やストレス死などの理由でどんどんいなくなっていった。
「私も、息をするように死ねたらいいのにな」
そんなふうに思った時期もあった。そんなある日だった。
「恵ちゃん?」
【マザー】が私を呼んだ。彼女は笑っていた。しかし、その笑みにはいつもと違う“何か”があったことがわかったのだ。
私に初めて見せる笑顔。私はすぐに察した。きっと、里親が見つかったのだと。
そのいつもと違う“何か”とは、“喜び”であること。
「やぁ、君が恵ちゃんだね」
知らない男が私に話しかける。普段の私なら初対面の人間に対しては警戒を怠らない。だが、この男は違った。
「ほーら。恵も挨拶しなさい」
【マザー】が私に挨拶するようにと諭す。しかし、私の口は決して動かなかった。というより、動けなかった。
「緊張しているのかな?」
そう問いかけるこの男の瞳は私を逃さない。物理的には理解の出来ない何かをこの男から感じたのだ。無限の輝きを彼の目から感じる。それが私を射抜く。
私はなぜか、この男と会うのは初めてではないような気がしたのだ。
直感だった。この人なら、私のこのクソみたいで意味のない人生を変えてくれるのではないかと期待したのだ。
初めて、私に本当の居場所が出来たのだと。そんなふうに感じた。
「これからよろしくね。恵ちゃん」
こうして、私は風魔 浩二の里子となったのだ。
~公園にて~
しかし、あの時、近くに見知らぬ女の人がいるのにも気がついていなかった。
いや、気が付きたくなかっただけかもしれない。浩二が現れたのは私の新たな希望だったと期待したかったからだろうか。真意は私にも分からない。
あと、私を取り巻いたあの不思議な感覚は今になったらわかる。それは、あのときの謎の女、そして今私と対峙するこの女が出したものだと。
私はすっかり騙されたのだ。
本当になんでお父さん(風魔 浩二)を裏切ったのか。
それでも思ってしまうこの感情。自分の信念に従ったはずなのに。この男は私を裏切った。本当は私のことなんて愛していなかったのに。
なんでいつもこう、中途半端なのか。自分で自分が嫌になる。
ああ。私は、私はなんて無価値なのだろう。
そして、私はお父さんではなく西峰 隼人を信じた。また、彼にも希望という私の呪いをかけたのだろうか。でも、どうか彼には私の行動が正しかったのだと証明してもらいたい。
彼がこんな無価値な私を救ってくれる。
私にはもう、それしかもう縋るものがないのだ。
生まれてすぐ物心もつかない幼き私をおいて、親はどこかに消えた。
かすかに見える光の中、私は必死に泣き続けたのだ。戻ってくるわけもない親のことを。
「寂しかったでしょう?でも大丈夫よ。これからはおばちゃんたちが心を込めて貴方を立派な子に育ててみせるからね」
誰だよお前。
見たこともないおばさんが私にそんな偽善の言葉を投げかける。
しかし、私はそんなことを求めているわけなんかじゃないんだ。
私はただ、親の元へ返してほしくて泣いているんだ。お母さんに、お父さんに会わせて欲しい。本当にそれだけなんだ。
恐らく、道に捨てられている私を見た誰かが警察にでも通報してそのまま孤児院に連れて行かれたのだと思う。
そんな私の心のわがままは当然叶うはずもなく、1年、2年と時は残酷なまでに長々と過ぎていった。
ある日、私がふと、暇だから構ってほしくて【マザー】(職員)に話しかける。
「お母さん」
「ごめんね。今、みゆきのおむつを取り替えていて忙しいの。もうちょっと、後でもいい?」
「あ…うん」
「ありがとう。恵」
【マザー】はそう、微笑むだけだった。
この孤児院は建物の規模の割には職員の人が少ない。それは私達のことを本気で愛してくれる人だけを採用しようとしているからだ。だから給料が低いというシステムでお金よりも子供のことを重要視してくれる人を選別して職員を採用する。そのため、給料のためだけに就職している人は少なく、この場所には【偽の愛】はないはずなのだ。
しかし、【マザー】達は私達孤児を平等に愛してくれているのは分かっているのだが、物心の付き始めた私にとって平等の愛とは【偽の愛】にしか思えなくなった。
私だけを愛して欲しい。そんな貪欲な思いがあったのだ。
「遅れてゴメンね。それでどうしたの?」
【マザー】は数分後に自分の仕事を片付けてから私に話しかけてくれる。
「え、えっとね…」
構ってもらえることに嬉しくなった私は少し興奮気味に何かを話そうとした。だが、
「お母さん。怪我しちゃった」
違う子が私の話の最中に【マザー】に話しかけた。
「え、えっと、まき。少し待ってほしいな。すぐ行くからね」
マザーは【まき】という子に言った。私がなにか重要な話があると踏んだのか。そうでもなければ怪我をした子より私を優先するはずがないはずだから。
「それで、恵?どうしたの」
「…ごめんね。お母さん。そこまで重要な話じゃないの。まきちゃんの怪我を見てあげて」
私は【まきちゃん】の事を優先することにした。
「あ、そうなの。分かったわ」
【マザー】はそう言うと私に背を向け【まきちゃん】を保健室へと運ぶ。
その際に【マザー】の腕には赤い何本かの線が見えた。私達を相手にするのは疲れるのだろうか?そんな思いからも私はどんどん声をかけにくくなった。
ああ。いいなぁ。まきちゃんは構ってもらえて。
自分が選んだ選択肢なのに相手をうらやましがるのは理不尽だろう。でも仕方がないのだ。このときの私にはそこまでの心の余裕がなかったのだから。
【マザー】たちも人数が少ない分一人一人にかかる負担は計り知れない。辛さを理由に過労で自殺やストレス死などの理由でどんどんいなくなっていった。
「私も、息をするように死ねたらいいのにな」
そんなふうに思った時期もあった。そんなある日だった。
「恵ちゃん?」
【マザー】が私を呼んだ。彼女は笑っていた。しかし、その笑みにはいつもと違う“何か”があったことがわかったのだ。
私に初めて見せる笑顔。私はすぐに察した。きっと、里親が見つかったのだと。
そのいつもと違う“何か”とは、“喜び”であること。
「やぁ、君が恵ちゃんだね」
知らない男が私に話しかける。普段の私なら初対面の人間に対しては警戒を怠らない。だが、この男は違った。
「ほーら。恵も挨拶しなさい」
【マザー】が私に挨拶するようにと諭す。しかし、私の口は決して動かなかった。というより、動けなかった。
「緊張しているのかな?」
そう問いかけるこの男の瞳は私を逃さない。物理的には理解の出来ない何かをこの男から感じたのだ。無限の輝きを彼の目から感じる。それが私を射抜く。
私はなぜか、この男と会うのは初めてではないような気がしたのだ。
直感だった。この人なら、私のこのクソみたいで意味のない人生を変えてくれるのではないかと期待したのだ。
初めて、私に本当の居場所が出来たのだと。そんなふうに感じた。
「これからよろしくね。恵ちゃん」
こうして、私は風魔 浩二の里子となったのだ。
~公園にて~
しかし、あの時、近くに見知らぬ女の人がいるのにも気がついていなかった。
いや、気が付きたくなかっただけかもしれない。浩二が現れたのは私の新たな希望だったと期待したかったからだろうか。真意は私にも分からない。
あと、私を取り巻いたあの不思議な感覚は今になったらわかる。それは、あのときの謎の女、そして今私と対峙するこの女が出したものだと。
私はすっかり騙されたのだ。
本当になんでお父さん(風魔 浩二)を裏切ったのか。
それでも思ってしまうこの感情。自分の信念に従ったはずなのに。この男は私を裏切った。本当は私のことなんて愛していなかったのに。
なんでいつもこう、中途半端なのか。自分で自分が嫌になる。
ああ。私は、私はなんて無価値なのだろう。
そして、私はお父さんではなく西峰 隼人を信じた。また、彼にも希望という私の呪いをかけたのだろうか。でも、どうか彼には私の行動が正しかったのだと証明してもらいたい。
彼がこんな無価値な私を救ってくれる。
私にはもう、それしかもう縋るものがないのだ。
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