現代妖怪怪奇譚ー化け猫ジュブナイルー

八兵衛

ー牛頭GOZUー

 俺はさっさと買い物をすませて、急ぎ足で田貫荘へと歩みを進めていた。
 もちろん、黒猫へのお土産のおでんも忘れてはいない。約束したのだから、買っていってやるべきだろう。
 昨日と同じ量を買うのは厳しかったが、それは勘弁してほしい。学生の小遣い等たかが知れているのだ。

 急いで家へと向かう途中、道路を跨いだ向こう側に、虚ろな表情でふらふらと歩く男を見つけて立ち止まる。
 それは先程のニュースのインタビューの途中、奇怪な笑い声を上げて何処かへと走り去った男だった。

 遠くにいるため聞き取ることは出来ないが、男は何処か虚空を見つめながら、一人で何かをぶつぶつと呟いているようだ。

 男の周りを歩く人々も、その異様さに気付き、距離を取って歩いている。

 しばらく男の様子を見ていると、男は不意に立ち止まり、首をグルリと180度回転させて、血走った目でギョロりと此方を睨み付けた。沢山の人が居るはずなのに、男は明らかに俺を睨み付け、その視線は真っ直ぐに動くこともない。
 突然の事に戸惑ってしまい固まっていると、男は俺を指差して、恐ろしい形相を浮かべながら大口を開き、叫び声をあげた。

 「お前もだぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
 余りの恐怖に一歩後ろへたじろぐと、男は奇声を発したまま此方に向かって駆け出し、道路へと飛び出した。

 その瞬間、男は道路を走っていた車に引かれて何メートルも吹き飛び、ゴロゴロと転がってピクリとも動かなくなる。

 通りには、その光景を見ていた人達の悲鳴が響き渡り、沢山の人々が男のもとへと駆け寄る。

 車にはねられた男の、その直前に俺へと向けられていた表情を思い出し、今起きたことの全てが恐ろしくなって、慌ててその場から駆け出した。

 何故、自分は睨まれていたのだろうか。
 何故、あの男は自分へと駆け寄ろうとしていたのだろうか。

 考えても解らない疑問が頭の中を巡り、恐怖にかられて懸命に家へと向かって駆け続ける。

 息を切らし、足も上がらなくなる程に走り続けて、やっとの思いで田貫荘の近くへと辿り着くと、鳥居の側の草むらに隠れていた黒猫が、俺の前へと飛び出した。

 俺は黒猫を踏んづけそうになりながらも、躓きながら無理矢理に足を止め、黒猫を飛び越えて転げる。

 長い距離を走り、足もガクガクと震えていたために、黒猫を飛び越えたは良いものの、上手く着地出来ずに無様にも転んでしまった。その際に両方の腕と肘を大きく擦りむいてしまい、傷口がズキズキと痛む。

 転んだ拍子にぐちゃぐちゃに溢れてしまったおでんを見て、黒猫は抗議の声をあげるように「ふみゃあ」と鳴いた。

 誰のせいで溢れてしまったと思うのか、黒猫の不遜な態度に呆れて溜め息を吐いた。

 そんなことは構わぬとばかりに、黒猫は溢れずに残っていた容器の中のおでんを食べ始めた。

 誰がおでんを持ってきたのか、少しは考えて欲しいものだ。
 俺は走り疲れて乱れてしまった息を整えながら、胡座を組んで黒猫がおでんを食べるのを見ていた。

 肩が大きく揺れる程に乱れてしまった呼吸のせいで、胸は苦しく、恐ろしい形相をした牛舎の男の表情が、頭の中にこびりついて離れず、動悸も治まらないが、黒猫を見ていると少しだけ心が落ち着くような気がした。

 そのまま黒猫を見ていると、いつの間にか日が沈みかけ、空はオレンジ色に染まり始めていた。事件の事で金ちゃんに早く帰るよう釘を刺されていたのですぐに帰るべきかとも思ったが、既に家の前にいるような物なので、もう大丈夫だろう。と、黒猫を見つめ続けた。

 黒猫は溢れてしまったおでんには目もくれず、容器に入ったおでんを上品に食べ終えると、まだ食べ足りぬとばかりに、おでんの容器を器用に腕で押し、俺の目の前に付きだした。
 
 溢れてしまったまま放置されているおでんの具を指差すと、黒猫は尻尾を左右に降りながら此方を睨み付け、フンと鼻で息をはいた。

 猫の癖に地べたに落ちたものを気にするのか、黒猫は落ちてしまった具には見向きもしない。
 俺は仕方なしに、溢れてしまったおでんを片付ける。

 おでんの片付けをしていると、黒猫が突然「ゴロゴロ」と鳴きはじめた。

 振り替えって見てみると、黒猫は尻尾を小さく振りながら、目を細くして通りの角を見つめていた。
 
 釣られてそちらに目をやると、角の奥から誰かが走ってくるような大きな音が聞こえ、金髪を短く刈り揃えた男が躓きながら飛び出してきた。
 盛大に転んだ男の事を良く見ると、その男は昨夜俺に暴力をふるった男の一人だった。
 男は転んだまま顔を上げて俺の姿を確認すると、すがるような表情を浮かべて此方に手を伸ばした。

 「た、頼む!助けてくれ!俺はまだ死にたくないんだ!」
 男が足を縺れさせながらも懸命に立ち上がろうともがいているのを見ていると、角の奥から牛の頭がぬっと現れた。
 
 牛が来たのかと思ったが、その牛が角の奥から体の全てを現したのを見て、その姿の異様さに驚愕して目を見開く。

 牛頭の化け物。
 体は人間で頭は牛。パタパタと揺れる耳と、呼吸と共にブルブルと震える鼻、口元から覗くテラテラと光る歯に、そこから滴り落ちる涎。

 初めて桜町に来た日の事を思い出す。田貫荘の庭を、のそのそと歩いていた牛頭の男。
 あの時は遠目で見ただけで解らなかったが、今ならばハッキリと解る。あの頭はただの被り物ではない。

 俺が驚愕していると、隣から、低く落ち着いていて、何処か涼しげな男の声が聞こえた。
 「ほぉう…面白い。あの様な物は始めてみた。牛頭崩れか。」

 声の聞こえた方に目を向けると、そこには黒猫しかいなかった。しかしその声は続く。

 「ふむ。この世に怨みを持った牛の頭を、死んだ人間の体に重ねたか。本来であればそれだけで斯様な化け物は生まれぬが…この町に溢れる妖力に充てられたのだな。」

 目の前の黒猫が、口をパクパクと動かしながら喋っていた。
 
 驚きの連続に、俺も口をパクパクと動かしながら黒猫を見ていると、黒猫が振り替えって俺を見つめた。

 「阿呆の様に呆けてどうしたと言うのだ。今日お前の前で私が話すのは二度目ではないか。全く…注意したそばからあの様な#妖__あやかし__#を連れて参るとは、この木偶の坊め。」
 黒猫のそしりを受けていると、通りの角からもう一体の牛頭の化け物が現れた。

 2頭の牛頭の化け物は、腰を抜かしたまま動けなくなっている金髪の男を見下ろして、ブルブルと鼻を震わせている。
 するとその後ろから、一人の男が姿を現した。
 男は二頭の牛頭の化け物達を見ても驚きはせず、愛しそうな声音で呟いた。

 「ここにいたのか。」

 その男の姿を見て、俺は再び驚愕して目を見開く。
 なんとその男は、先程車にはねられたはずの男だったのだ。

 男は全身血塗れになりながらも、平然と立っていた。車にはねられた後に、ここまで歩いてきたのだろうか。

 男は牛頭の化け物達の足元にいる金髪の男の姿を見つけると、ニヤニヤした笑みを浮かべながら、指差して呟いた。

 「殺してしまえ。」
 男のその言葉を合図にして、今まで黙ったまま突っ立っていた2頭の牛頭の化け物が、金髪の男へと歩み寄る。

 「や…やめろ。嫌だ。助けてくれ!死にたくない!思い出せ!俺達友達だっただろぉ!なぁ?やめてくれよぉ!」
 金髪の男が泣き喚き、牛頭の化け物にすがり付いて叫び声を上げると、手にした斧を振り上げた2頭の牛頭の化け物達が、口を開いて身の毛もよだつような声で喋り始めた。

 「オレタチ…ミステテ…オマエ…ニゲタ。」
 「オマエ…ナカマ…イラナイ。シネ。」

 その言葉を聞いて、黒猫が感嘆の声を上げた。

 「ほぉう。実に面白い事だらけだ。頭を失ったと言うのに、人としての記憶が残っているのか。」

 二頭の牛頭の化け物は、ニタァと不気味に笑うと、金髪の男に向かって斧を振り下ろした。

 「ぎゃあああああああああ!!」
 通りに叫び声が響き渡り、金髪の男の両方の腕が吹き飛んで、辺りには鮮血が飛び散る。

 痛みに喘ぐ男が、両方の肩から血を撒き散らしながら転げ回る。

 「いてええええ!いてええよおおお!」
 金髪の男はその顔をぐちゃぐちゃに歪ませながら泣き叫び、牛頭の化け物から逃げようと、此方に向かって芋虫のように這いずりよる。

 「たずげて…。たずげでっ!」

 「クルシメ。」
 「モォット…クルシメ。」
 その姿を見て、牛頭の化け物達は愉しそうに笑った。

 「嫌だ…だずげて…」
 金髪の男が俺を見つめて呟くと、牛頭の化け物達は再び斧を振り下ろす。

 ゴチャリ。ゴチャリ。と肉を断つ音がなり、今度は男の両足が吹き飛んだ。
 金髪の男は更に大きな悲鳴を上げ、手足を失った姿でのたうち回る。

 「タノシィィィィ。」
 「モォット…モォット。」
 悲鳴を上げる男に向かって、二頭の牛頭は奇妙な笑い声をあげながら、その後も何度も斧を振り下ろした。

 動かなくなった金髪の男の体から、グチャリグチャリと音がなり、男の血や肉片が辺りに飛び散る。
 
 牛頭の化け物たちは、それでも斧を振り下ろすのを止めはしなかった。

 俺が恐怖によってその場から動けずにいると、牛頭の化け物達の後ろでその光景を楽しそうに見ていた男が、俺を見つけて不気味な笑顔を作った。
 
 「そいつはもういい。やめるんだ。」
 男は俺を見つめたまま、冷たい声音で牛頭の化け物達に声をかけた。

 しかし、牛頭達はそれでも止まらず、痺れを切らした男は叫び声を上げた。

 「止めろって言ってるだろ!俺の言うことを聞けっ!」
 男の叫び声を聞いて、牛頭達は斧を振り下ろすのを止める。金髪の男が居たはずの場所には、肉片と血だまり意外、何も残ってはいなかった。

 牛頭達は不満気な表情を浮かべて、ブルルと鼻をならしながら男を睨み付けた。

 「全く…。」
 男も一度だけ不満そうな表情を牛頭の化け物達に向けたが、直ぐに機嫌を治し、笑顔で牛頭の化け物達の間を抜けて、その前に歩み出た。

 「今の男がなんで死んだか気になるかぁ?気になるだろぉ?」
 黙ったままの俺の返事を待たず、男は嬉しそうに笑いながら喋り続ける。
 
 「この男はなぁ、町で俺を見つける度に俺を罵り、馬鹿にして、殴り、蹴り、金を取ったんだ。何回も何回も何回もなぁ!」
 
 男の言葉を聞いて、自分も金髪の男にやられたことを思い出す。
 きっと、同じことを色々な人に対して行っていたのだろう。
 確かに酷い事をされたが、あんなに惨い殺され方をして良かったのだろうか。
 俺が思案するのを待たずして、男は尚も語り続ける。

 「後ろの二人の牛たちもなぁ。元は人間だったんだ。実はさっきの男の仲間だったんだよ。だが今では俺に忠実な牛の一人なのさ!」
 男は両手を大きく広げて、後ろに控えたままの牛頭の化け物達を見た後、ゆっくりと貴方を指差した。

 「そしてお前。お前が死ぬ理由を知りたいかぁ?知りたいだろぉ?俺はお前をハッキリと覚えているぞ。お前は偽善的な心で俺の牛を哀れみ、手を合わせていたな。」

 男の指摘に、俺は首を振って応える。
 あの時は本当にあの牛に対して憐れみの心を持っていたのだ。
 誰かに良く思われようとか、自分を上手く見せたいとか、そう言った考えは微塵もなかった。

 しかし、男は怒りを露にして怒鳴る。

 「嘘をつけっ!じゃあ何故あの時、俺の牛を助けてやらなかった!助けてやるようにお願いしてやらなかった!本当に牛のためを思うなら、そうしていたはずだっ!」
 男は肩で呼吸をしながら喚き散らした後、少しだけ落ち着きを取り戻して俺を見つめた。

 「まぁ。それももう、どうでもいい。どのみちお前はここで殺さなければならない。牛舎にはまだあと50頭もの牛達がいるんだ。そいつらのために、あと50人分の体を集めなければならないんだぁ。お前の体を使って、次の新しい牛を生み出すんだ。」
 男はその口許からダラダラと涎を垂らし、ニタァと笑って此方を見た。

 男のその表情を見て、俺は全身に鳥肌がたち、ブルブルと体を震わせた。

 「ほぉう。お前にそんな事が出来るのか?何故お前にそんな事が出来たのだ?」
 今まで黙ったまま様子を伺っていた黒猫が男に尋ねる。

 質問された男は戸惑いを見せたが、それも一瞬だけで、すぐに嬉しそうに笑って黒猫を指差した。

 「しゃべる黒猫か。お前も誰かの力で生まれたんだな?ならば解るだろう?この牛達は、俺の力で生まれたんだ!牛舎で働く俺は、愛情を持って育てた牛達が殺されるのが面白くなかった!目の前で牛達が殺されるのを見るのも我慢の限界だった。だが俺の同僚は違った!あいつはどうせ殺される命だからと牛達をなぶり、痛め付けて玩んだ。日頃から牛達を虐待していたんだ。」

 男はその時の事を思い出しているのか、肩をワナワナと震わせて、苛立ったような表情で唾をはき、そのまま話を続ける。

 「そしてあいつは一線を越えた。痛みに驚いた牛が体を捻った拍子に、あいつにぶつかって転ばせてしまったんだ。それで頭に血が上ったあいつは、斧を手にとって牛の首を切り落としたんだ。俺はそれが許せなかった!だから奴の首も同じ様にはねたんだ!」
 男は血走った目で、唾を飛ばしながら怒鳴り声をあげて、髪をかきむしる。
 暫くした後、男は涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべ始めた。
 
 「その時、倒れたあいつの体が牛の頭と重なって、俺の力で新しい命が生まれたんだぁ。それがこいつらなんだよぉ。」
 男は息を荒くして、不気味な笑顔を浮かべながら、牛頭の化け物達の頭を愛しそうに撫でた。

 黙ったまま話を聞いていた黒猫が、鼻で笑うのが聞こえた。

 「どの様な経緯で牛頭崩れが生まれたのかと思えば、成る程…単なる偶然か。」

 「な!話を聞いていなかったのか!こいつらが生まれたのは俺の力だ!俺の愛がコイツらを生んだんだ!」
 黒猫の言葉に逆上して、男は唾を飛ばしながら喚き散らした。

 「全く、哀れな男だ…救いようのない馬鹿であるお前の為に、私が優しく説いてやろう。」
 黒猫は首を降って大きく溜め息を吐くと、一歩前に出て話し始めた。

 「ハッキリ言ってお前にはお前が思っているような力はない。お前は牛の糞を片付ける意外に能のないただの阿呆なのだ。最近この桜町には行き場を無くした妖達の思念と妖力が渦巻いていて、その牛頭崩れ達が生まれたのはただの偶然に他ならない。牛と人の体が重なったその時に、その場に停留していた妖達の思念が、牛や殺された人間の無念や怨念を拠り所として生まれたに過ぎぬのだ。」

 黒猫はそこまで話すと、男の顔をチラリと見て、自分の話を聞いているのを確認してから、男と俺の前を何度も往復し横切りながらテクテクと歩く。
 そうして大きくゆっくりと尻尾を振りながら、顎を上げて雄弁に語る。

「お前は知っているか?首を切り落とされた生物の頭には、些かの時間が残っていることを。その数瞬の内に彼らは何を考えると思う?私は昔からそういった者達を何度も見てきたが、面白いことに、首を切り落とされた殆どの者が抱くのは、この世の中や、自らの首を切り落とした者達への怨み辛みだ。妖達の思念はそう言った物に強く影響される。お前の同胞が牛の首をはねなければ、お前が同胞の首を切り落とさなければ…。」

 黒猫はそこで立ち止まって、真っ直ぐと男を見つめると力強く言い放った。

 「断言しよう。その牛頭崩れ達は生まれてはいない…と。」

 黒猫が自らの考えを語り終えると、男はワナワナと肩を震わせて、大声を上げてぎゃあぎゃあと怒鳴り始めた。

 「そんなわけがあるかぁ!コイツらは俺の命令を聞いてここまで来たんだぞぉ!俺の命令を聞いて男を殺したのを、お前も見ただろう!」

 「其奴らはお前の声など聞いてはいない。死ぬ前に怨みを抱いた男を殺しただけだ。次はお前の番だと思うぞ。」

 「汚い野良猫風情が!言葉を話すのが面白いと思って聞いてやれば、適当な事をベラベラと…この牛達は間違いなく俺の力だっ!もういい!お前達!その糞猫もあのガキもろともいたぶり、ぶち殺してやれ!他の牛達の体は別に探してやる!」
 男が俺と黒猫を指差して命令を下しても、牛頭の化け物達は、互いの顔を見つめあってその場から動こうとはしなかった。

 男はその事に怒り、地団駄を踏んで牛頭の化け物達の腕を叩く。

 その姿を見て、黒猫は「やれやれ。」と首を左右に降って、大きく息を吐いた。

 「阿呆が、まだ解らないのか…抜け作の相手はこれだから嫌になる。私の高説をきちんと聞いていたのか?其奴らは崩れとは言えども牛頭は牛頭。牛頭は本来地獄の獄卒。その者らに下知を下せるのはあの世とこの世を合わせてもただ一人。閻魔だけだ。」

 「違うっ!そんな訳はない!コイツらは俺の命令を聞くはずだぁっ!俺の力で生まれたんだぁっ!だってコイツらの体は俺が用意して…俺が牛の首を落として…俺が体を重ねて生み出して…」
 それでも、自分の考えを並べて食い下がる男に向かって、黒猫はもう一度だけ質問を投げ掛ける。

 「ならば今一度問おう。お前が最初に生み出したという牛頭崩れはどこにいる?お前の下知の元、ここにはいないと言うのか?」

 「はぁ…!はぁぁぁぁ。そんな訳はない。そんな訳はない。」
 黒猫の指摘に思うところがあったのか、男は長く気の抜けるような息を吐きながらゆっくりと振り返ると、膝から崩れ落ちて牛頭の化け物達を見上げた。

 「俺はお前達の親だろう?なぁ、そうだと言ってくれ。俺達は家族だよなぁ?」

 男の言葉を聞いて、何かを考えるようにお互いの顔を見つめあっていた牛頭の化け物達が、ブルルと鼻を震わせて男を見下ろした。

 「オレタチ…タノシイ…ジャマスル。オマエ…ジャマ。」

 「オレタチ…コロシタ…オマエ…キライ。」

 「ソモソモ…オマエ…オレタチ…イジメテタ。」

 「ジブン…カワイサニ…イジメ…テヲカシタ。」

 「オレタチ…ナカマ…ツクリカタ…キイタ。」

 「オレタチ…オマエ…モオォウ…イラナイ。」

 「オレサマ…オマエ…マルカジリ。」

 「イヤダ…コイツ…マズソウ…タノシク…コロス。」

 二頭の牛頭の化け物はそこまで言うと、手にした斧を高々と振り上げた。

 「何を言っているんだ!俺はお前達の親だぞ!一度殺したのはお前達を強くするため!お前達を守るためだ!や、やめろっ!やめろぉぉぉぉぉ!」

 男の叫び声のあと、通りには、グチャリグチャリと肉を断つ音が響いた。

「現代妖怪怪奇譚ー化け猫ジュブナイルー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く