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鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

賢者の石

「舐メタマネヲシテクレマスネ、『七元素』……」

 腹を押さえた稲沢が、苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる。
 賢者の石で作り替えられた体とはいえ、ダメージは確かに感じているようだ。

「次ハ、コチラカラ——ッッ!? ヴッ!! ナ、何ガ起コッテイルンダ!?」

 失った牧の左目、稲沢の右腕があった場所から突然根の様な謎の模様が彼らの体を侵食していく。
 それと同時に彼らの魔力がどんどんと高まり、変質する。既に今の魔力には、彼ら自身の魔力の面影はない。

「先輩! 下がって!」

 敵の異変による隙を見逃さず、蒼真はここで準備していた魔法を発動させた。
 すると現れたのは薄い光の壁。その壁は侵入者2人の間に割り込み、空間を断絶させる。

「奴らを分断している間に早く終わらせましょう」

 蒼真は魔法を維持しながら、牧の方に歩き出す。

「結城!? お前戦えるのか?」

 蒼真が「異例者」を倒した事を知らない一彦が、心配そうに尋ねる。彼からすれば、ついこの間入学してきたばかりの一年を心配するのは当然なのだ。

「大丈夫ですよ。小さい頃から武術を習ってきてますから」

 結城家の次期当主として、大きな期待を背負ってきた蒼真は様々な訓練を受けてきた。魔法や体術はもちろんのこと、話術や人心掌握術など普通の家では絶対に必要のないことまでしていたなどと正直に言えるはずもなく、「武術」と言う事で無難に乗り切った。
 魔法使いは実戦的な人ほど空手や剣道などの武道に通じている事が多い。なぜなら魔法でどれほどスピードを上げ、腕力を強化しても体の動かし方を知らなければ、ちぐはぐな動きにしかならず脅威にはなり得ないからだ。
 そんな背景もあり、蒼真は一彦に疑問を持たれることはなかった。

「そうか、なら良い。こっちは俺達でけりをつけよう」

 蒼真の「光膜ライトフィルム」により、分断された牧と対峙するのは蒼真と一彦の2人。立花も近くにはいたが、今は倒れている「異例者」の所で怯える生徒を集めている。彼らは立花が一瞬で人質になったのを見て、普通ではない相手との力の差を感じて戦えなくなってしまったのだ。魔法使いとはいえ、まだ高校生。まさか自分がテロに巻き込まれるなんて思っていなかっただろう。

「牧、とかいったか……お前は俺達生徒会が拘束する」

「フザケルナ!! 貴様ラモ……貴様ラモ『無元素』ジャネェカ! 何デワカラナイ! 俺達ノ様ナ、報ワレナイ奴ラガイル事ガ……。——ッグァッ、ハッ!」

 訴えかけながらも先程の模様の浸食はまだ続き、牧の顔には苦しみの色が見える。

「そうだな、俺達『無元素』の才能では『七元素』の力には届かないかもしれない……」

 硬い表情を変えないまま、一彦は続ける。

「だが、可能性は0じゃない。それに限界が見えたとしても、俺は努力を続けるさ。力を身につけるには、正しい努力を続けないといけないからな」

 一彦は魔法使いとして恵まれていたわけではない。志乃のように近くに「副元素」がいたわけでもなく、自分の努力で力を積み上げてきたのだ。

「『無元素』である事を理由に努力を怠るのは、自分が一番『無元素』を差別しているんしゃないか」

「ウ、ウルサイ……黙レ——ッ!!」

 牧は目を見開き、叫んだと思えば、途端に力なくうなだれた。見ると、牧の体に走る模様の浸食は全身に及んでいる。
 急な敵の変化に驚きながらも、その機を逃す2人ではない。すぐさま体を魔法で強化し、敵を確保するために飛び出した。
 しかし、2人は牧の元へたどり着くことは出来なかった。彼を中心にして思いがけないエネルギーが外へと放たれたからだ。

「な、何!? 結城! 大丈夫か!」

 予想外の攻撃に驚く一彦だが、後輩の事を心配するあたり冷静さは欠いていないようだ。もちろん蒼真も回避し、傷一つ負っていない。

『ンフフフフ……』

「何がおかしい!」

 先程までの頭に血が上り興奮状態にあった牧とは打って変わって、突如笑いだすその姿に蒼真は不自然さを感じた。そう、まるで別人に変わってしまったかのように。

「赤木先輩、ちょっと待ってください。おい、お前。お前は一体誰だ?」

『ンフ、ンフフフフ……《誰》、ト言ウノハ正シクナイ。尋ネルナラ、《何》ト言ウベキダ。我等ハ《賢者の石》。古キ王二作ラレシ存在ダ』

「能力強化の『魔法遺物アーティファクト』じゃなく、体を操る『魔法遺物』だったか……」

 太古に作られた物や自然に生まれた物の中には、「魔法遺物」と呼ばれる魔法に関係する物がある。魔法を発動させる際に触媒のように使い補助装置の代替される遺物や、それ自体が武器となる遺物などその種類は様々だ。

「お前の目的も奴らと同じなのか?」

『奴ラ? ……アア、コノ宿主ノ事カ。我等ノ目的ガコノヨウナ下等ナ人間ト同ジ訳ガナイダロウ。《賢者の石》ノ目的ハ、タダヒトツ。再ビ王ノ元へ行ク事ダ!』

 そう言うと、牧の体を乗っ取った「賢者の石」はゆっくりと、だが着実に蒼真達の方へ歩いてくる。その体の周りには衝撃波が彼を取り囲むように流れており、近づくこともままならない。

「クソ! 一旦下がるぞ! あれに巻き込まれたら、ただじゃすまない」

 敵から距離を取りながら、一彦は魔法を発動させて火球を放つが、取り囲む衝撃波に遮られる。

「ダメか……先にあの盾を何とかしないと……」

「盾……」

 蒼真は考え続けていた。鬼人化を使わず、学校側の犠牲もないまま敵を無効化する手段を。
 彼の目に映る敵の衝撃波の盾は、彼の魔素を操る能力で無効化できるものではない。「賢者の石」に乗っ取られているため、魔法使いとしての体の構造が変わっているのか衝撃波を生み出す魔法陣が体内にある。
 外にあれば魔素をぶつけて破壊するか、魔素で構築される魔法陣の書き換えをすれば良いのだが、今はそれができない。
 そうなると、衝撃波の力を超える威力の魔法を放つか直接その盾を掻い潜るしかない。
 だがそんな威力を出せるのは魔法の強さからして「七元素」くらいのもので、「副元素」はおろか無名の「無元素」がそんな魔法を発動させたりすればしばらく質問責め、もしくは魔法庁に身元を調べられるだろう。
 ならば、どうにかしてくぐり抜けるだけだ。だが、いくら蒼真とはいえ「七元素」レベルの魔法の中突き抜けるのは鬼人化無しでは難しい。そこで素の蒼真よりも防御力に長けた人物が必要だが、彼は1人よく知っている。

「立花先生!」

 蒼真はいつのまにか生徒を全員避難させ、残る「異例者」を背負って移動していた立花に叫んだ。

「急いで講堂に行って、百瀬直夜をここに連れてきて下さい! 俺達が堪えている間に!」

「百瀬君を!? わ、わかったわ!」

 蒼真の指示を受け、立花は走り出した。普通ならこんな危険な現場に生徒を連れてくるなどという行為はするはずがない。しかし敵の正体が昔退学処分を受けた元クラスメイトであり、自らが人質となった今では冷静な判断ができないほど気が動転していたのだ。

「結城! こんな所に生徒を呼ぶとは何を考えているんだ!」

 当然の疑問である。立花が向かう方向とは逆に「賢者の石」を誘導しながら、一彦は問いかけた。

「奴の防御を突破するのに必要なんです。足手まといになったりはしませんよ。俺が保証します」

 一年生が言う保証なんてあったもんじゃないが、一彦はそれ以上言及しなかった。まだ来ていない援軍の事を考えるよりも、目の前の敵を対処する方が先決だ。
 炎でダメなら土壁、水流などを試してみるものの、一向に「賢者の石」の足が止まる気配はない。
 唯一変化があったのは蒼真の魔力弾だったが、それも衝撃波と共に流れる魔素の壁で威力が弱められ、一瞬歩くスピードを緩めるくらいにしかならなかった。

「くっ! 俺達では止められないのか……」

 思いつく限りの手段を講じても敵は止まらず、いつのまにか2人は蒼真の張った「光膜」を背に追い詰められてしまっていた。
 左右に逃げ道があるようだが、そうではない。本気の「賢者の石」が動けるスピードを考えると、逃げる隙など無いに等しい。

「お前は逃げろ。それだけの時間は稼いでみせる」

 遠距離の攻撃も通用しないため、一彦は危険を覚悟の上で拳を強く握りしめた。彼の表情からは、後輩を守るという意志が心を覗く魔法などなくとも読み取れる。
 そんな彼を見て、蒼真も鬼人化を発動させる事もやむを得ないと決心した。それほどの強い意志だった。
 そんな2人の互いに異なる決意が固まった時だった。

「一彦君、蒼真君避けて!!」

 大声とそれをかき消さんばかりの轟音を響かせながら流れ込んでくる大量の土砂を、蒼真は飛行魔法で指示通り回避した目の端に捉えた。
 その土砂は「光膜」を突き破り、瞬く間に「賢者の石」を飲み込んで行った。

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