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鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

援軍

 外に出た直夜は、視線の主に気づかれないように出来るだけ素早近づいた。

「おい、あんた。今、自分達の事見てただろ」

 ビクッと肩を震わせながら男——例の眼鏡の男は、振り向いた。

「な、何のことかな?」

「惚けるなよ。どれだけ御託を並べても、バレてるんだから潔く認めてくれない?」

「そうですか、バレていましたか……。すみません。見てましたよ、あなた方のことを」

 直夜の圧力に押され、知らないふりをし続けるのは不可能だと感じたのか、男はすぐに認める姿勢を示した。

「何でこんなことをしていたんだ? あんたと自分達は何の関係もないだろ?」

「何故と聞かれれば答えるしかありませんね。別に私はあなた方だから見ていたわけではないんです。私は東京魔法高校のOBでしてね。その制服を着ている生徒を見て、懐かしいなと思っていたんですよ」

「OBって事は、あんたも魔法使いなのか」

「いえ、私はただの魔法を少し扱えるだけの人間ですよ」

 魔法使いではなく、魔法の扱える人間。
 これは魔法高校や大学で学んだものの、実力が足らず魔法庁に魔法使いとして登録しなかった人々がよく使う言葉だ。
 彼らの中には自分の実力を自覚しているが故に、魔法使いへの劣等感を持っている者も少なくない。

「すみません、時間をとらせてしまって。あなたも友人の元に戻りたいでしょう。私はこれで失礼させてもらいますが、よろしいですか?」

「あっ、こちらこそすみません。敵意むき出しで……」

「誰だって知らない人に見られていたら、警戒するのは当たり前ですので、悪いのは私の方ですよ。では、失礼します」

 それだけ言うと、男は直夜に背を向けて立ち去った。
 残った直夜は蒼真達の元に戻る前に、男について考えることにした。

(あの男……。言ってる事は変じゃないけど、何か引っかかるんだよな……。それにあの時の視線は懐かしがるというより、観察に近かったんだよな)

 そこまで考え、あとは蒼真に報告しようと決めたところで直夜はある事に気がついた。

「あっ! 名前聞くの忘れてた!」


  ︎  ︎  ︎


「長かったね。何を話してたの?」

 戻ってきた直夜に興味津々といった様子で修悟は尋ねた。

「んー……。秘密だな」

 直夜は笑いながらそう返した。
 修悟はそれ以上尋ねる事はなく、コップに残っていたカフェオレを飲み干す。

「そろそろ帰る?」

 外はすっかり暗くなり、時間は7時を回っている。

「そうね! 今日もいっぱい話せて楽しかったわ!」

「マスター、ごちそうさまでした」

 弾けんばかりの笑顔で店を飛び出していくリサを傍目で見ながら、志乃はコーヒー豆を挽く店主にお礼を述べた。
 なぜこんなにも性格の違う2人が、幼馴染としてうまくやっていけているのか、不思議がって顔を合わせる修悟と直夜を置いて、残る3人は店を出た。
 店の外は街灯の光に照らされて、日中のようとはいかないが、かなり明るい。
 この街灯に限らず、様々なものが魔法と共に進化してきた。動力源は電気だが、その電気は魔法によって供給されている。魔法は科学技術の進歩に必要だし、科学技術の進歩にも魔法は必要という関係は、人々が思っている以上に深い。

「またね」

 小さく手を振り、志乃、リサ、修悟は帰っていく。彼らが視界から消えた後、残った3人は街の至る所にある防犯カメラの死角まで歩いたところで姿を消した。


  ︎  ︎  ︎


「もう出てきていいぞ」

 路地裏まで移動し、蒼真は誰もいない暗闇に向かって声をかけた。
 すると、闇から浮き上がるようにして現れたのは2人の男女。しかし、その顔は仮面で隠されている。

「流石は若。我々もまだまだですね」

 女の方が仮面を取り、横の男を見る。

「……」

 男は無言のまま袖をまくると、手首につけた時計型の携帯端末を操作しだした。

「どう? ハッキングできる?」

「……余裕」

 この男、「月の忍び」でもNo. 1のハッカーなのである。蒼真や澪も彼から技術を学んだ。
 彼が行ったのは、周囲の監視カメラ映像の改ざんだ。
 蒼真達はカメラに映らないように移動しているが、彼らにもミスがないとは限らない。そのわずかな痕跡を消すのが彼の仕事だ。

「それで、我々は何をすれば?」

「まずは霜月。敵に動きがないか監視してくれ。人員はどれだけ使ってもいい。頼んだ」

「御意」

 霜月と呼ばれた男は蒼真の指示を受け、すぐに去っていった。

「次に葉月。お前はあいつら——修悟達を守ってやってほしい。俺達の近くにいる以上、危害が及ばないとは限らないからな」

「お優しいんですね。まだ、知り合って間もないのに」

 彼女は穏やかな笑みを浮かべて言った。蒼真が友人を大切にしようとしていることに安心したのだ。

「あいつらは、本音で向かってきてくれる良い奴らだ。そんなあいつらをこっち側の世界に巻き込ませたくはない」

「わかりました。任せてください」

 葉月も仮面をつけ直し、自らに与えられた役割を果たすためにこの場を立ち去った。

「で、これからどうする? 仕事はいろいろ任せちゃってるけど」

 直夜は頭を掻きながら蒼真に尋ねる。情報収集をするなら『月の忍び」に任せる方が効率が良いし、自分達に出来ることが少ない、とでも言いたいのであろう。

「俺達は高校生だ。高校生は学校に行っていればいいんだ」

「は?」

 これには直夜だけでなく、聞いていた澪も疑問を感じざるを得なかった。この言葉だけを取れば、蒼真は全てを放棄しようとしているとしか思えない。

「1つ質問をしよう。なぜ『異例者』は如月が結城家で生きていることを知っている?」

「そりゃあ……。ん? なんでだ? 自分で見ていたなら、結城の親父さんじゃなくて、その『異例者』が如月さんを助けてたはずだよな……」

 必死で考え込む直夜を傍目に、先に澪が答えへと達した。

「——私達の事、闇斎家の事を全て知る人間がいるって事?」

「恐らくな。裏の社会の情報屋ののような存在がいるのかもしれない。そうすると……案外踊らされているのは俺達の方かもしれないな」

 蒼真は、悔しそうに歯を食いしばってそう言った。

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