話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

模擬戦

 朝9時を少し過ぎた頃、蒼真、直夜、澪の3人の姿が地下室(昨夜蒼真がいた部屋とは別)にあった。

「ありがとよ、蒼真。模擬戦許してくれて」

「別に模擬戦くらいいつでもやってやる。実戦形式の訓練は大切だしな」

 蒼真は直夜たちに背を向け、距離を取りながら答えた。
 彼らは昨日蒼真が作った新しい補助装置を装着している。
 服装も普段着のようなもの(魔法による周辺状況の変化にある程度は対応できるように作られている)だし、何も変わっているようには見えない。
 まあ、制服よりは動きやすいだろうが。

「話すことが終わったなら始めるわよ」

「ん? 今日はなんだかやる気ある?」

 直夜は少し違和感を感じた。
 もともと澪は好戦的ではない。
 その事を知っていたからこそ、直夜には澪が少し積極的なように感じたのだ。

「そう? いつも通りよ」

 いつも通りと答えたものの、澪は自分自身に焦りを感じているのがわかった。
 如月と本気で戦えば、澪にだって勝機はある。
 しかし、それは状況が整えばの話だ。
 だから如月に重傷を負わせた敵に勝てる保証はない。
 少なくとも、直夜と一緒に戦って蒼真といい勝負をするくらいのことはしなければならないと考えていた。
 そこで、この模擬戦だ。
 いやでも気合は入る。

「……蒼真」

「どうした?」

「今回こそは勝たせてもらうわ」

「そうか。全力でこい」

 答えた蒼真がかすかに笑顔を見せた。

「で、2人共。今日のフィールドはどうするんだ?」

「より実戦に近づけるなら、草原とかじゃなくて市街地がいいんじゃない?」

「ああ。それでいこう」

 この地下室はとても広い。
 そのため、いつも訓練の場として使われている。
 その際に魔法を使い、市街地や野原を再現することでより実戦に近い環境で訓練を行うことができるのだ。

「魔法陣展開」

 澪は、入り口の横にあるスイッチのように壁にくっついている補助装置に触れて、魔法を発動させた。
 すると、殺風景だった地下室に市街地の景色が広がり、直夜たちから蒼真の位置が死角に入る。

「じゃあ、始めるぞ!」

 直夜は魔法で出現した建物の向こう側にいる蒼真へと叫び、走り出した。
 すぐに建物の向こう側に回り込み、蒼真との間合いを驚くほどのスピードで詰めて掌底打ちを繰り出した。
 彼はこの動作に全く魔法を使っていない。
 自らの身体能力で人の倍以上のスピードを出しているのだ。
 蒼真は直夜の攻撃を避け、一度距離をとった。

「くっそー。避けられたかよ」

「正直、お前のスピードに魔法で加速されたら避けきれなかった」

「それって褒めてんの? 避けなくてもダメージなく受けることくらい簡単にできるくせに」

「試してみるか? 本気で戦ったらどうなるか」

 そこまで話すと、2人はじりじりと間合いを詰め始めた。

 直後、蒼真の後ろから炎属性の魔法が放たれた。
 もちろんこれを放っているのは、蒼真が直夜に気を取られている間に逆側から回り込んだ澪である。
 澪によって連続的に放たれた火球が、避け続ける蒼真の逃げ道を奪っていく。

「オォッ!」

 いつのまにか接近してきていた直夜が、今度は強化魔法を使って蹴りを放った。
 しかし、その蹴りも蒼真には当たらなかった。
 直夜と同じ強化魔法を腕に作用させ、澪の魔法を弾いて直夜に当てたのだ。
 強化魔法には、たくさんの種類がある。
 直夜が使ったのは物理強化、蒼真が使ったのは魔法強化の魔法で、その他には自己加速などがあり、それらを総じて強化魔法と呼んでいるのだ。

「まだ避けるかよ。この化け物」

「今のはいいコンビネーションだったぞ。でも、今度はこっちの番だ」

 蒼真は地面に右手をつき、魔法陣を展開させた。
 すると地面から出てきたのは火と氷をまとった2体の巨人だった。

「平行展開か。さすが蒼真だな」

 一度に複数の魔法陣を展開するのは、魔力の消耗も激しく個人の技術も試される。
 それを簡単に成功させることのできる魔法使いこそ、一流と呼ばれるにふさわしい。

「『炎巨人ファイア・ゴーレム』と『氷巨人アイス・ゴーレム』ね」

 この2つの魔法は、どちらも2種類の属性が組み合わさっている。
 火と土、水と土だ。
 2体の巨人はそれぞれ火と氷をまとっているが、核となっているのは土属性の魔法である。
 要するに、その核さえ先に破壊すればいいのだ。

「直夜! 私が炎の方を始末するから氷の方をお願い!」

「わかった!」

 直夜は先程と同じ強化魔法を腕にかけ、そして自己加速の効果によって凄まじいスピードで「氷巨人」に向かって突っ込んでいった。
 直夜が弾丸のようなパンチを打ち込むと、「氷巨人」の核が砕かれるというより、「氷巨人」そのものが消し飛んだ。

 同時に澪の魔法は「炎巨人」の動きを封じていた。
 澪の魔法は、「岩石監獄ロック・プリズン」。
 地面から抉り取るように取り出した岩石で、対象の四方八方を塞ぎ、閉じ込める魔法だ。
 しかし、その用途は閉じ込めることだけではない。
 澪は、開いていた手のひらをぎゅっと握った。
 すると、それに対応するかのように岩石が「炎巨人」を押しつぶした。

 直夜と澪がそれぞれの相手を破壊するまでにかかった時間は、わずが10秒ほどだった。
 だが、蒼真から目を背けたこの10秒はかなり大きなものだった。
 2体の巨人が倒された瞬間、空中で光が発し、直夜と澪は雷にうたれたかのような衝撃を受け、倒れた。
 その倒れた2人の前に立つ蒼真の姿からは、何者も圧倒する、そんな存在感があった。

「ぐっ……!これは……」

「術……13番『武甕槌タケミカヅチ』……」

「正解だ。俺が使ったのは、術だ」

 結城家に関わらず、全ての術には数字がついている。
 この数字にはあまり意味はなく、力の強い術の順というわけではない。

「俺は魔法使いでもあるし、術師でもあるからな」

「そりゃそうか」

 いち早く直夜は立ち上がった。

「さすがの防御力だな。こんな短時間で立ち上がれるとはな」

「体に魔法陣があるのはお前だけじゃないぞ」

 そうは言いつつも、まだダメージは残っているのか少しふらついている。

「まだやるか?」

「当たり前でしょ」

 まだ座り込んだままの澪が即座に反応した。

「悪いが、お前たちのやり方は俺には通じない。長い付き合いだからな、何を考えてるかだいたいわかる。」

「なら、あなたに見せたことのないものを出してあげるわ」

 蒼真、そして直夜を見て言い、不敵な笑みを浮かべた。

「勝っても負けても、あと一撃で全て決める」

 そう言った直夜は、蒼真に向かって構えた。

「鬼の魔法使いは秘密主義」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く