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鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

信頼

 いつのまにか寝てしまっていたようだ。
 珍しく早く起きた直夜は、着替えてリビングに向かった。


「もう起きてんのかよ」


「直夜か。今日は早いんだな」


 いつものように彼より早く起きていた蒼真と澪が、1人の青年と話していた。


「あっ、如月さん」


「おはよう、直夜君。久しぶりだね」


 この優しそうな青年こそが、謙一郎の「百鬼夜行」の1人にして、蒼真達の元世話係である如月である。


「何話してたんだ?」


「昨日父上からああ言われたからな。情報の共有だ」


「若。直夜君も揃った事ですし、もう1つ伝えておきたいことが」


「何ですか?」


「僕達『月の忍び』は、若の元で『百鬼夜行』の一員として働きたいと考えております」


 如月のように、個性溢れる「百鬼夜行」の構成員のうち、特に諜報員、工作員として働く12人の魔法使いが、「月の忍び」と呼ばれている。


「ですが、『月の忍び』は—」


「ええ。僕達はご当主様の『百鬼夜行』の一員です。しかし、ご当主様は僕達の望みを快く聞いてくださいました」


「……」


 蒼真達は黙って聞いていた。


「小さかった若がこんなに立派になられて、そんな若に仕えることができるというのは、この上ない幸せなんですよ」


「如月さん…」


 小さい頃の彼らの近くには、いつも如月がいた。
 もう兄のような存在になっていた。


「ですから、僕の事は部下の1人として扱ってください」


「…わかりました—」


「その喋り方も禁止です! 僕は若の『百鬼夜行』なんですから」


 如月の目が鋭く光ったが、すぐに優しいいつもの顔に戻った。


「じゃあ、改めて。これからもよろしく。如月」


「はっ、誠心誠意お仕えさせていただきます」


 こうして、蒼真の「百鬼夜行」に「月の忍び」が加わった。








 8時になり、更なる情報を集めるために如月は外へと出て行った。
 玄関からではなく、2階の窓からである。
 彼はとある理由により無戸籍であり、なおかつ結城家の裏側である「百鬼夜行」の1人なので、表立って行動できないのである。
 もちろん、外に出る際には魔法で姿が見えないようにしている。


 彼が出て行った後。残された蒼真達3人も外へ出ることにした。
 この日は土曜日。昔から変わらず、土日は休みなのである。


「さて、どこから手をつけてみるか」


 蒼真は空を見上げた。


「学校に式が出たんだろ? そこから調べないのか?」


 直夜も式の話は事前に聞いていた。


「遠かったからよく見えなかった。近かったとしても、赤木先輩がいたからちゃんと見る事は出来なかっただろう」


「仕方ないわね。怪しまれてもいけないし」


 手がかりがなく、蒼真と澪は深くため息をついた。


「しょうがないから.自分と如月さんで情報収集するからゆっくりしておいたら?」


 不意に直夜が軽い口調でそう言った。


「…あなた大丈夫なの? 変な事考えてない?」


 普段の彼を見ている澪はとても心配なようだ。


「別に何にも思ってないって。蒼真までそんな顔するなよ」


「お前1人だと心配にもなるだろう。別に無理する事はないんだ」


 直夜に対する不安が止まらない2人である。


「蒼真。お前が動くのは最小限でいいんだよ」


「そんな訳にはいかない——」


「自分達はお前の『百鬼夜行』だ。安心して任せろよ」


 直夜は真剣な表情で言った。
 いつもは見せないその表情に、蒼真は直夜の決意を感じ取った。


「そうだな。任せるぞ、直夜」


「ああ、任せろ」


 直夜は残る2人に背中を向けて歩きだそうとした。
 その時、


「だがな直夜。やはり1人では行かせられない」


「なんだよ! 行ってもいいような空気だっただろ!」


 彼は驚き、いつもの倍ほども目を見開いて蒼真を見た。


「俺は1人では、と言った」


「そういう事か」


 直夜はすぐに蒼真の意図を読み取った。
 そして、澪も。


「頼めるか澪」


「ええ。直夜のおもりでしょ」


「おいおい。おもりってどんな冗談だよ」


 いつもなら言い争いになるような言葉だったが、今は3人ともが笑っていた。


「じゃあ、改めて。…任せとけ」


「頼む、2人とも」


「行くわよ、直夜」


 世の中には様々な主従関係があるだろう。
 しかし、この関係は主従を越えた信頼、絆が生んだものである。
 だからこそ、蒼真は直夜、澪を。直夜、澪は蒼真を信じ抜く事ができるのであろう。
 たとえ目に見えない場所にいても、その信頼は揺るがない。








 一方その頃、如月は路地裏にて佇んでいた。


「ここなら誰にも見られないかな」


 彼は、首のチョーカー型補助装置に手を触れた。


「頼むよ君達」


 そう呟くと、前には十数羽のスズメが出現した。
 無論如月の式である。
 情報収集を行う「月の忍び」は鳥型の式をよく使用する。


 式が飛び立った後、再び魔法によって如月は姿を消した。
 なぜ姿を消しながら式を出さなかったのかと思うかもしれないが、複数の魔法を同時に発動するのは困難なのだ。


 もちろん簡単にやってのける魔法使いもたくさんいるが、如月はあまり才能に恵まれている方ではなかった。
 しかし、彼は人一倍の努力で結城家随一の「月の忍び」として名を連ねるほどまでに成長したのだ。
 謙一郎への恩を返すために。








 辺りがすっかり暗くなった頃、ある1つの式に動きがあった。
 何者かによって消されたのだ。


(消された?でも一体どこから?)


 そう、式を通して見ていた如月の目には何も映っていなかった。
 式を通して見えるのは、その式を中心に360度全体が見える。
 なので、何も見えないまま式が消えるというのは通常ではありえないのだ。


(見えなかった…。そうか!相手も魔法を!)


 この場合導き出される答えはたった1つ、相手も如月と同じく魔法で姿を消して近づいたのだ。
 如月は式が消された場所へと向かった。


(まだ遠くには行けないだろう。急がないと)


 常人なら数分はかかる道のりを、彼はほんの数十秒間で到着した。


(どこだ?)


 周りを見渡すが、敵の姿はおろか人の姿さえない。


(おかしい。なぜ人が通らない?)


 暗くなったとはいえ、家へ帰る人々が通る時間帯である。
 そんな時に人の姿が見えないというのは、少し奇妙だ。


「お前があの式の使用者か」


 如月の正面の暗闇から、その声はした。


「お前は誰だ!」


 彼の声に答えるようにして出て来たのは、あのフードの男である。


「……」


「……どうやって僕の式を消したんだ?」


 喋らない男に向かって彼は質問を投げかける。


「答える気は無いようですね。ならば、実力行使といきましょうか」


「……」


 やはり男は黙っている。
 如月は手をチョーカーに当て、いつでも魔法を発動できるように準備をした。


「フハハハハハ! まだまだだな!」


 突如、男は笑いながらそう言った。


「なんだ! なにがおかしい!」


「悪いが、お前にこの俺は倒せんぞ」


 そう言うと、深く被っていたフードを脱いだ。


「あ、あなたは! あなたはあの時死んだはずじゃ…」


「20年ぶりだな、『最終実験体ラストナンバー』」

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