鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

初仕事

 蒼真、香織、いろはの3人は生徒会室を出て、風紀委員会議室へ向けて歩いていた。


「それにしても、あの子残念ですねぇ」


「そうだな」


「何がですか?」


 蒼真は2人の会話に疑問を抱いた。


「いや、あの明智さんが会長に捕まってたじゃん。あそこでの仕事って大変なんだよ」


「そうなんですか。先輩方は去年経験されたんですか?」


「私はしてないですけど、香織さんがしてましたねぇ」


「ほんとあれはきつかった…。まさに地獄だ」


 香織は1年前の事を思い出しているようだ。


「香織さんが倒れそうになるくらいでしたもんねぇ。あの時だけは、弱気な香織さんが見れたのでラッキーでしたぁ」


「あまり思い出したくないな」


 そう彼女は本当に嫌な顔をしながら言った。


「そういえば副会長。風紀委員長ってどんな方なんですか?」


 まだ面識のない蒼真は、知っているだろう香織に尋ねた。


「そんなに堅苦しくしないでいい。そんな役職で呼ばなくても。君も副会長だしな」


「わかりました。以後そうします。」


「えっと、風紀委員長の事だったな。あの人は強いぞ。会長や赤木先輩とも実力はいい勝負だと思う」


「そうなんですか。それは驚きです」


「でも、今年の1年生も実力者が揃ってると聞きますよぉ。えっと…何でしたっけ? この学年って何か呼ばれていたと思いますがぁ…」


「『黄金世代ゴールデン・ジェネレーション』だろ。『七元素』の跡取りが多いっていう」


 他校を含む、蒼真達の学年には「七元素」の跡取り7人のうち、3人が揃っている。
 また、「副元素」の家系の優秀な子供も多くいるため「黄金世代」と呼ばれているのだ。


「そろそろ着くな。蒼真君はここの会議室に来るのは初めてか?」


 いつのまにか呼び名が変わっている事に蒼真は気づいたが、あえて指摘する事もなく質問に答える事にした。


「はい。前を通ったりはしてましたが、実際に入るのは初めてです」


「生徒会室以外の場所は緊張しますねぇ」


「アタシより太い神経してるくせに何言ってんだよ。ほら、いくぞ」


 香織を先頭に3人は会議室へ入っていった。


「失礼します。生徒会です」


 中には10人ほどの生徒が座っていた。そして、部屋の一番奥に風紀委員長と思われる女子生徒が座っていた。


「生徒会の皆さん、今年もよろしくお願いします。今日は3人ですか?」


「そうですぅ。よろしくお願いしますぅ」


 相手が風紀委員長にも関わらず、いつも通りの様子のいろはである。


「ではさっそく見回りの方を始めましょうか。副会長の雨宮さんは残ってもらえますか? 何かあった際はここで処理しますので」


「わかりました」


「あとの2人は他の風紀委員と見回りをお願いします」


 こうして彼らの仕事が決まった。








 魔法高校には、大きく分けて2種類の部活団体がある。
 魔法系団体と非魔法系団体である。
 蒼真は、魔法系団体の部室が集まっている場所を仕事場所に割り振られた。


「あっ。蒼真!」


 不意に後ろから彼に声が掛けられた。


「修悟か」


 蒼真は振り返った。
 そこには修悟、直夜、リサが立っていた。


「仕事頑張ってるみたいね!」


「ああ。お前達は部活見学に来たんだな」


「部活は入っておいた方が良いと思ってね」


「楽しそうだしね!」


 蒼真は彼らを見送り、見回りへと戻った。








 それから何の問題も起こらないまま、勧誘終了時刻10分前となった。
 場所を変えずに見回りをしていた蒼真の元へと香織から連絡が入った。


『蒼真君。ちょっと射的場まで行ってくれないか?』


「わかりました。何があったんですか?」


『君が向かっている間に話す』


 そう言うと、香織の説明が続いた。
 彼女の説明によると、射的場で勧誘している部活団体同士でのトラブルが起き、近くで魔法射撃の体験をしていたので、銃が暴発してしまったそうだ。
 蒼真が射的場に着くと、トラブルを見に来た生徒で溢れかえっていた。


「すみません。生徒会です。少し離れてもらえますか?」


 なんとか彼が騒ぎの中心へと行くことができた。


「永地先輩も来てたんですか」


「香織さんに呼ばれちゃいましてねぇ」


 いろはの他にも風紀委員も数人いた。その中には澪の姿もあった。


「起こったことを詳しく聞いてもいいですか?だいたい何が起こったかくらいしか聞いていないので」


「そうですかぁ。香織さん説明するの下手ですからねぇ。私がここの責任者任されちゃいましたし」


「そうなんですか」


 蒼真は以外そうに答えた。


「あっ、説明でしたねぇ。いろんな部がいろんなところで勧誘をしてるじゃないですかぁ。だからトラブルがあったとは言ってもここで活動している部活以外の団体も巻き込んでしまったみたいですよぉ」


「体験中に事故が起こった事とは関係はあるんですか?」


「今調べているんですけど、まだわかってないんですぅ」


「そうですか…。怪我人は出たんですか?」


「幸いにも出ませんでしたよぉ」


 いろははいつも通りの表情をしているため、安心しているのかどうかはわからない。


「暴発した銃を見せて頂いてもいいですか?」


「いいですが、どうしてですかぁ?」


 疑問を持った彼女はそう尋ねた。


「魔法器具をよく見てみると、直前に使われた魔法の事がぼんやりでもわかる事があるんですよ」


「そうなんですかぁ。初めて知りましたよぉ。誰か手助けが必要だったりしますかぁ?」


「はい。手の空いている人がいればですが…」


 いろはは周りを見渡して、人を探した。


「そこの1年生。手伝ってもらってもいいですがぁ?」


 彼女は近くにいた澪に声をかけた。


「君も同学年の方がやりやすいですよねぇ」


 さすが2年生といった気の配りようである。


「そうですね。ありがたいです」


 蒼真は意図せずに澪と行動する事となった。


「銃は生徒会室で預かっているそうなのでよろしくお願いしますぅ」


「わかりました。何かわかり次第連絡を入れます」


「よろしくお願いしますねぇ」


 蒼真は澪と共に生徒会室へと向かって行った。

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