悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

第12話 悪役令嬢の私(妹)ですが、兄に内緒でトキメキたい?




「エリック兄様?
こんな早くからどこかへお出かけですか?」



ベルナルド様との取引の次の日。
朝早くから暗めのローブのフードを深くかぶり宿泊先から出て行こうとする兄を呼び止め、話しかける。



「リリ…………。いや、ちょっとエイタリー国の町並みを見に…………」



「では、私も連れてってくださいな」



「え…………でも、すぐ帰って来るぞ…………」



渋る兄に畳み掛けるようにして言葉を発した。


「私がついて行ったら何か問題ございますか?」



「いや、そんなことはないが…………」



「では。決まりですね!」




私たちは一応貴族なので護衛がつき、外出するときはあまり目立たないように護衛も私たちも変装をする。
マリーにも町並みを見せてあげたかったので、一緒に連れて行くことにした。



エイタリー国の王都の町並みは、見たことのない店が立ち並び、魔法があちこちで使われている為、私にはキラキラしているように見えた。
普通は貴族にしか魔法を使えないのだが、エイタリー国では魔法をこめた石を使って誰でも簡単に使える。
それも、魔法バカの第二王子が色々な魔法を石にこめては寄付という形で町の活性化に貢献している。




「リリィ!!」


聞いたことのある声に振り返る。


「…………ルカ様!? ルカ様がどうしてエイタリー国へ?」


そこには身長が伸び、髪も短髪で、少し大人っぽい顔つきになったルカがいた。
全然会っていなかった為、初めは誰かわからなかった。


ルカは早くから魔法の才能が開花した為、色々忙しいと聞いていたし、私も最近は食品の研究で忙しく彼此二年ぶりの再会だった。


「僕の魔法の先生がエイタリーの人でね、何ヶ月間はこっちで魔法を教えてもらっているんだ。
今日はエリックにエイタリーの街を案内しようと思ったんだけど聞いていない??
こないだリリィに送った手紙にも書いたんだけど…………」



「手紙?手紙なんて届いておりませんわ…………。
まさか…………エリック兄様…………?」



兄はギクッとした表情を一瞬したが、開き直る。



「ほら、リリはお煎餅の研究で忙しかったろ?邪魔してはいけないと思ってなっ!
決して、リリとルカの仲を裂いていた訳ではないぞ!!
ルカも毎月手紙なんて送ってくるなよな!!」



「兄様…………」


——いつもの事だけどさ…………。


ルカは大体予想がついていたのか、兄を咎めなかった。
毎回送ってたのに相手に読まれず、返事もこないでよく心が折れずに出し続けたな…………。



「これからはリリィに直接届くように鳩に手紙をつけて送ることにするよ。
忙しいと思うけど、時々でいいから手紙くれると嬉しいな」


兄とは違う紳士で大人な対応に、以前のルカのような可愛い姿はなかった。


——なんだか、少し見ないうちに大人になって…………。
ゲームの容姿に近づいていているのはわかった。



「…………わかりましたわ。しかし、ルカ様もお勉強など忙しいのでは?」



「リリィからの手紙は勉強のやる気に繋がるからいいんだよ」



「そうですか…………」


ルカがふんわり笑うと以前のような可愛いルカの面影が少しある。



「それより!リリィは街を見に来たんだよね? どんなのが見たい?」



「せっかく魔法の国に来たのですから、魔法にちなんだものが見たいですわね」


そういうと、ルカは私たちを案内するように歩き、綺麗な宝石みたいな石が並ぶお店に連れてきてくれた。



「リリ様、キラキラした石があります!!これは何でしょうか??」


マリーは見たことのない石に気分が高揚していた。
私に緑青色の石を見せお店の主人に話しかける。


「それは魔石だ。
石に魔力を込めることによってでき、魔石を使えば誰でも一度だけ魔法が使える」



「誰でも使えるんですか!? すごいです!!」


マリーはいくつかの石をとり光に翳すように眺めていた。


「マリーはどの色が好き?」



「この色もいいですが、やはりこの色が素敵です!!」


一番初めに手に取った緑青色の石が気に入ったようだった。


「マリーによく似合うわ。これにしましょう。
すみませんが、こちら包んでいただけるかしら?」


私が店の主人に包むようにお願いする。
お店の主人は、少し顔をしかめながら言葉を返す。


「嬢ちゃん…………魔石ってのはとっても高価なんだぞ。 お金はあるのかい?金貨1枚だぞ…………」



「お金ならございますわ」


「リリ様そんな高価なものいただけません!!!!」


ベルナルド様と取引したばかりだから、お金は余るほどある。
買おうと思えば、このお店にある魔石を全て買うことだってできるだろう。



「マリーにはお煎餅作りも手伝ってもらいましたし、二年も私に仕えるくれているのだから、私からの感謝の気持ちよ。受け取って」


店の主人にお金を渡すと、包まれた魔石をマリーに渡す。


「リリ様…………。ありがとうございます!!大事にします!!!」



「でも、魔石なんだから使わないと…………」



「いえ!いざという時にとっておきます!!!!」



「いざという時ねぇ…………私としては使って欲しいのだけれど…………」


あんなに、魔法書を読んで勉強していたのに…………。


この世界では魔法は適性がないと魔法を使うことはできない。
10歳になれば適性があるか調べることができるのだが、魔法を使える者はほとんど貴族の血筋だ。
平民のマリーが魔法を使えるようになる可能性は極めて低い。



——みんなが魔法を使える世界ならいいのに…………。



私がそんなことを思っていると、ルカに手を引かれる。



「リリィ!ちょっとこっちにきて」


ルカはお店から離れ、人気が少ない広場に来ると足を止めた。
ルカが私の方を向き、ポケットの中から綺麗なリボンがついた箱を取り出す。



「リリィ、これ開けて見て」




「これは…………?」




「魔石を使ったネックレスだよ。
僕の魔法を込めたんだ。これをリリに…………」



「え、いいんですか?」



「僕、最近忙しくてなかなかリリに会えないから、これを僕だと思って持っていて。
護身用に魔法を込めてあるから、何かあったら使って欲しい。
今度は傷つける魔法じゃなくて、守る為に僕の魔法を使いたいんだ…………」



「ルカ様…………」


——やっぱりあの事、気にしてるんだ…………。


ゲームのルカもそうだったが、ルカはリリアンヌにとても優しい。
婚約破棄まではリリアンヌのわがままは全部聞き、とても大切に思っていた。
ゲームではアニエスさんも亡くなっていたから、リリアンヌに依存していたのかもしれない。
ヒロインに出会ったらヒロインに惹かれていく。



「つけてあげる」


私はそんなことを思いながら、されるがままにしていた。
ルカは私の背中側に回るとつけてくれた。


「ありがとうございま———


私がお礼を言いながら振り返ると、ルカの顔が近くにある。
綺麗に整った顔がそこにある。



ドキッ


「とても似合うよ。可愛いリリィにぴったりだ」



「可愛いって…………、私がですか…………?」



「もちろんそうに決まってるよ」



カァァ


耳まで熱くなるのが自分でもわかった。



——どうしたんだ私!!落ち着け!!相手はルカだよ?


「リリィ、赤くなって可愛いね…………くすくす」


「ば、バカじゃないですか!?も、もう帰ります!!」


——バカじゃないって何言ってるの私…………。


私はルカを置いて早足でみんなのところに戻る。
私がいなくなっていることに気づいた兄が私の元に急いできた。






「どこに行ってたんだ?
ルカ!!私の可愛いリリに何かしてないだろうな!!」


後から来たルカに兄がそういうと、
私はさっきのことを思い出し体が反応する。



「なんだリリのその反応は…………ルカーーー!!何があった!?」



「ははは、心配しすぎだよエリック」


ルカは焦る兄を笑って見ていた。



「帰るぞ、リリ!マリーもいくぞ!!」




「あっ!!はい!!エリック様!!
今行きま————


ドンッ


「あ、すみません…………」



「君…………」



マリーは誰かとぶつかったみたいで、謝っていた。
何か会話をしているみたいだが、さっきのことで頭がいっぱいな私にまでは届かない。




「どうした?マリー?」



「エリック様…………私急いでますので失礼いたします!!」



「何かあったのか?」



「人違いみたいです!この国は広いですから似てる人の一人や二人いそうですしね…………。
お待たせしましたが、行きましょう!」




「ああ、そうだな…………」



兄とマリーがそんな会話をしているうちに、ルカが私の手を取る。



「リリィ、手紙待ってるからね!! またね!!」


ルカの握る力が強くなる。



「え、えぇ…………」



「ルカアアア!!リリに触るの禁止だああああ!!」


兄がいつものように止めに入るが、今回ばかりは兄に助けられる。


ルカが握った感触が手に残る…………。



ルカの婚約者はリリアンヌであって、私ではない…………。
ルカの恋愛対象はヒロインであって、私ではない…………。



——鳴り止め、私の心臓…………。

          

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