『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

競技中断と地獄

 倒れたスライムゴーレム。

 氷の肉体は溶解して、内部に閉じ込められていた人間とワイバーンたちは外に救い出された。

 一体、どのくらい閉じ込められていたのか? 

 蘇生が許されなかった者も少なからずいた。

「氷漬けしたスライムを材料に、ゴーレムを作る。前例も聞いた事がない……」

 この惨事を起こしたのは何者か? 探るように倒したスライムゴーレムの跡を確認する。

「何かわかるか?」と聞いて来たのは大魔王シナトラ――――いや、ゴッドフリードだった。

「ここまで巨大なスライムなら、消化しきれなかった物が残っている。例えば、土や石が残っているはずだが……」   

「残っていないのか? うむ……それは奇妙。食事を与えていなかったわけでもなかろうに」

「あるいは食事に不純物が混じらないように徹底的に管理されていた?」

「あり得ぬわ。スライムなんど、悪食の代表じゃぞ」

「確かに、その通りだ……。これ以上は専門家に任せるしかないか」

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 その後、当然ならばレースは中断された。

 何者かが明確な悪意を持ち、参加者を攻撃した。

 それも人工的に新種の魔物を作る。

 あまりにも大がかりに妨害工作に、背後に組織の存在を臭わせている。

 競技の再開は未定。 

 仮の宿で休息を取っていたベルトたちに告知された。

「再開まで3日以上はかかるみたいですね」とメイルは詳細が書かれた資料を眺める。

「あのゴーレムは競技のコースに事前に隠されていたわけだからな。運営も次のコースを再確認しなければならない……あとは事件の調査が難航しそうだな」

「そうですね……でも、どうしてあんなひどい事を」

 心を痛めている様子のメイル。彼女にとって――――

 しかし、空気に読めない存在がやってきた。

「そんなの私が一番知りたいわよ。このまま競技が中止になったら大損害だわ」

 それはマリアだった。 

 彼女は、まるでここが自分の部屋のように振る舞い、椅子に座り込んだ。
 
 そんな彼女の様子に、ベルトとメイル慣れていた。

「だいぶん、疲れているみたいだなマリア」

「えぇ、ベルト……事件はね、あのゴーレムだけじゃなかったのよ。あとメイルと一緒に見てもらいたい場所があるんだけど」

 マリアの顔には疲労の色が濃く、ゲンナリとした口調だった。

 思わずベルトとメイルは顔を見合わせる。

 マリアに案内されたのは3日目のコース。

 吹雪はおさまり、白い大地に太陽の光が乱反射していて、輝いて見える。

(なるほど。運営が想定していた光景は、こんな感じだったのだろう)

 まるで観光気分。しかし、競技を長時間鑑賞している観客を飽きさせないため、風景でも楽しませる工夫をしているのかもしれない。

 そんな事を考えていると、案内するために先行していたマリアの足が止まった。

「あそこよ」と指した場所には、青い布で覆われていた。

 現場保持の目的。風などの天候から守るための布なのだろう。

 まさか、こんな場所で部外者を気にして――――いや、注目度の高い競技のコースで何が起きたのだ。

 外部に情報を漏らす関係者もいるだろう。その情報が確認するために来る者もいるかもしてない。

(ならば――――この中には?)

「メイルは見ない方がいいかもしれないわ。この中は――――凄惨よ?」

 ベルトの予感が当たっていたのだろう。マリアの言葉に、メイルは躊躇を見せたが、

「いえ、私も中を確認します」

「そう……迷いはないわね。それじゃ見なさい」

 マリアは布をめくり、中へ促した。

 彼女の言う通り、中には地獄が広がっていた。

  

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