対レオン戦　決着（ひとまずは……）

「馬鹿な……いや、ここは《《馬鹿め》》と言うべきだな」

　落下中、レオンに組み付かれたベルトは口にする。

「競技中の落下には安全対策がされている。自動的に重力魔法が発動する」

　ベルトの言う事は正しい。落下事故防止の魔法が参加者には義務付けられている。

　魔法攻撃用の杖にも仕込まれていれば、事前に渡されている魔石には緊急時に浮遊魔法が発動する仕掛けだ。

　だが――――

「そんなことは百も承知だ」とレオンは不敵に笑った。

「何も俺はお前と心中するつもりはない。狙いはただ１つ――――完全な勝利だ」

　その分厚い腕はベルトの腰から、上に。首へ巻き付いて行く。

　これが打撃系の格闘技ならば、首相撲と言われる体勢だ。

「いくぞ、これが俺の考えたベルト殺しだ」

　レオンは、大きな体を丸める。そして両足をベルトの腹部に押し付けると――――

『地獄車《ホイール・イン・ヘル》』　　

　回転。　ベルトを巻き込むように自ら体を回転させる。

　それは古流な格闘技マーシャルアーツで言う巴投げオーバーヘッドスローに非常によく似ていた。

　高所からの落下を利用しながらも、高速回転により生み出された力をそのままに――――

　レオンは、ベルトと共に――――真横の崖に自らを叩きつけた。

　地獄車。　それは、回転しながらも、連続して投げ技を一方的に放ち続ける技だ。

「勝った！」とレオンは勝利を確信した。

　崖に向かってベルトを一方的に叩きつける。　

（一度、発動すればベルトが意識を失うまでは止めない！　この状態に持ってくれば――――この技は無敵の永続攻撃となる！）

　そのはずだった。しかし、彼は――――キング・レオンは見た。

　高速で回転し合う両者。だが、その回転の中でベルトの目を――――はっきりと反撃のために狙いすました鋭い眼光を――――レオンは確かに見たのだ。

（なッ……あり得ない。他でもない……この俺の投げ技だぞ？　その視線は、その表情は――――まるでダメージを受けていないソレだぞ！）

　ならば？　ベルトが本当にダメージを受けていないとしたら？

　崖に叩きつけられているはずの衝撃は、どこに行っている？

　その疑問に答えるように声がした。

　誰の？　

　もちろん――――

「……レオン」
　　　
　ベルトの声だ。

「あ、あり得ない。　この落下の衝撃を利用して……もしも、浮遊魔法や重力魔法が発動したところで……」

「わかるさ。お前がこの技を身に付けるために、どれほどの鍛錬を、修練を繰り返したか……この技の練度で伝わる。しかし、俺だってそうだ」

「なにを……なにを言っている！　ベルト・グリムッ！」

「俺だって進化している。新しい冒険――――新しく身に付けた技術。　体内に撃ち込まれた衝撃をコントロールする技術だ」

　それは、魔王シナトラなどの戦いでベルトが見せた技。

　≪致命的な一撃返しリバースクリティカルストライク≫

　それを通常の技として、調整、改良したのが――――

≪衝撃返しアブソーバーインパクト≫　

　ベルトの体内に蓄積されていた投げ続けられていた膨大なエネルギー。

　それが一撃の――――密着された状態からの打撃であるにも関わらず――――ベルトの拳によって、レオンの肉体へと叩き返された。

　打撃。それをシンプルに説明すれば、肉が肉を叩くという行為。

　しかし、とても人の肉が奏でる音とは思えない轟音。

　崖に囲まれた地形に鳴り響く。やがて――――

　ベルトとレオン。

　絡み合っていた両者の体が離れる。　

　すると思い出したかのように落下防止の浮遊魔法が発動した。

　どうやら、ベルトが連続して崖に向かい、投げ続けられた事で地面に接触していると誤認識されていたようだ。

　ベルトとレオンはゆっくりと崖の下。　流れている川に落下した。