『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

 乗っ取られたレース

フランチャイズ邸を出ていくリュウ・アイヤー一行。

 見送りは――――誰もいない。

 リュウは自身の馬車を前に「爺ッ!」と短く呼ぶ。

「はい、こちらに」と老人。 確かにリュウが声を発するまで気配すらなかったはずなのに……

「首尾はいかがでしたか――――」と老人は言いかけるが途中で

「待て、ここで真名を呼ぶな」とリュウは遮った。

「ここは敵地。どこに間者が潜んでいるのかわからぬ。まして、我ら一族の敵は、間者に等しい者……」

「はい、何でも世界最強の暗殺者 単純戦闘ならば勇者より、魔王よりも強いといわれているとか、なんとか」と老人は笑う。

 馬車に乗り込む2人。 外部へ声を遮断する魔法が仕掛けられている。

 今の馬車は、密談には相応しい場所。

「もしも、爺と戦えばどちらが勝つ?」

「さて、噂に聞こえる実力が本当だとして―――――現役時代なら五分五分ですかな」

「ならば、今なら?」

「ほっほっほ……意地悪をおっしゃる。そうですな、今ならば――――ワシの圧勝ですかのう」

「ふっ、頼もしいな。事に及ぶときは頼んだぞ。なんせ――――

 ベルト・グリムは我らが姫の仇。あの屈辱を必ずにもそそがせてもらう」

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

「やられたわ。まさか、こんな手を――――私に気づかせずに行うなんてね」

 応接室に残ったマリア。 

 従者たちも不穏な空気に近づけずにいた。しかし、いつまでも当主代理を1人にしておくわけにはいかない。 

 二の足を踏む従者たちから「仕方ありませんね」と1人が足を踏み入れた。
 
「どうされましたか?」とマリアに話しかけるのはシルフィドだった。

「あら? どうもしないわよ」とマリア。

 笑みを浮かべている。 しかし、シルフィドは気づいている。

 上がっている口角は端が震えている。 額には、青筋が薄っすらと浮かび上がっている
   
 要するに激怒していた。 感情を制御して外に出さないマリアの自制心を誉めるべきだろうか?

「ところで、これを見てほしいだけど」とマリアはリュウから受け取った資料――――特に競技の進路を書いた地図をシルフィドに見せた。

「参加者の1人として感想を聞きたいのよ。忌憚のない意見をね?」

「失礼します」とシルフィド。

(これがマリアさまを激怒させている原因ですね。さて――――)  

 受け取った地図を目に落として

「――――」と絶句した。

「早速だけど、ファストインプレッション。最初に見た感想はどういう感じなのかしら?」

「いえ、これは……混乱しています。言語化するのに少々の時間をいただきます」

 シルフィドは深呼吸を1度。 無理矢理、自身を落ち着かせる。

 それから、再び地図を見た。

「これは――――国境を越えてますね。国の縦断レースですね」

 地図に書かれているコース全長。

 分かりやすく様々な言葉に直して表示するとしたならば1400キロ。あるいは900マイル。

「これを秘密裏に許可を得るのに、どれくらいの金を配ったのかしら?」

「これじゃ、主催の乗っ取りよ」とマリアは笑おうとして失敗した

「主催の乗っ取り……ですか?」とシルフィドは聞き返した。

 スポンサーが主催の想定を遥かに超えた金銭を用意してきた。

 それに問題があるのか? 彼女にはよくわかっていなかったからだ。

「推測するだけで投資額は我がフランチャイズ家が出す金額10倍以上――――私たちの発言力は地に落ちたわ」

 頭を抱えるマリア。 なんとなく、マリアからレースの権限が奪われたことを理解する。

 それから、しばらく――――

「やっぱり、エンタメ競技に手を出す経験値が少なかったわ。今後、こうならないように、外貨の投資は分散させて同時多角的に複数の競技を――――」

 ぶつぶつと1人反省会を披露し始めたマリア。

 テーブルに並べられている紅茶を片付けながら、シルフィドは素朴な疑問を口にした。

「でも、この競技を乗っ取ってリュウ・アイヤー側にそんなに大きなメリットがあるのですか?」 
 

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