『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』
ワイバーンの誕生
――――夜――――
ベルトは帳簿とにらめっこをしていた。
普段なら妹のノエルが、手伝ってくれる。
だが、学生である妹に頼ってばかりではいられない。
「う~ん、こうやってみると赤字が続いているなぁ」
かつて、初心者冒険者に無料で薬を渡したり、常識外れの安価で販売を繰り返し、付近の同業者から疎まれていたベルトの薬局だった。
現在は、オーナーであるマリアのご指導ご鞭撻の効果もあって、それなりに同業者と友好関係を結ぶくらいにはなっている。
しかし――――
「2、3日でも、山に籠れば食料は手に入る。余りを業者に売れば1か月分の生活費になるからなぁ」
と本人は、相変わらず商売に無頓着も良いところだ。
確かに……
気配を消してながら、山を駆け続ける無尽蔵の体力。 野生動物を狩猟できる殺傷能力の高い技々。
ベルトが身に付けている暗殺者として技術は世界最高位。
狩猟に使えば、本職の猟師すら勝る利益を叩き出すだろうが……
「いけない、いけない」とベルトは首を振って雑念を振り払う。
「マリアが聞いたら、何を言われるかわからないぞ」
貴族のはずなのに、油断をしていると朝からベルト家で食事をしているマリア。
最近は、朝だけではなく深夜でもベルト家内をうろついているのを目撃している。
再び、帳簿に視線を戻した時だった。
ゴトゴトゴトッ――――
物音がある。
「なんだ?」とベルトは椅子から立ち上がった。
「まさか、強盗じゃないよな」と笑う。 もちろん、冗談だ。
邪な人間が、ベルトの生活範囲内に入り込む。 それは、誰にだって不可能だ。
ある場所から灯りが漏れている。 そこは居間だ。
「……本当にマリアのやつがいるって事はないよな」
そんな事を呟きながら扉を開けた。
机の上には小さなランタン。 それに手作りの巣――――ワイバーンの巣だ。
それを前にメイルが座っていた。
ただ、座っているだけではない。
普段の彼女とは違う……どこか神秘的な印象を持つ。
彼女、メイル・アイシュは――――
紛れもなく『聖女』である。
教会が認めた正真正銘の『聖女』……それと同時に、この世の精霊たちが認めた『正義の勇者』
そんな彼女は慈しみを持ち、また卵のワイバーンに触れていた。
ただ、触れているだけではない。彼女の両手から安堵と癒しの波長――――
ベルトは彼女に見蕩《みと》れていた自分に驚く。
(俺が隙だらけになる……いつ以来だろうか?)
そんな事を思いながら、彼女に、
「治癒魔法と浄化か?」と声をかけた。
「えっ? ……あっ! すいません、起こしてしまいましたか?」
「いや、俺も夜更かしをしていたのさ」
「そうなですか? 珍しいですね」と意外そうな顔でメイルはベルトを見た。それから、
「治癒と浄化……卵にかけて、効果があるのかわかりませんが、願掛けなのかもしれません」
「願掛け?」
「はい、少しでも元気に生まれてくだされば……あと、少しだけ飛ぶのが速ければいいなぁ……なんて思いまして」
「……そうだな」とベルトは言い淀んだ。
「生物が生まれる。それだけでありがたい事だ」
暗殺者としての自分。 それは自己否定なのかもしれない。
あらゆるものも――――それこそ、神に近しい存在すら殺してきたベルト・グリム。
そんな自分が誕生を祝福する矛盾。 それでも今は、今だけは……
そんな時だった。
「あっ!」とメイルが短い悲鳴のような声を出した。
「なんだ、どうした?」
「これ、これを見てください」と彼女は見せて来た場所には――――
「ひび? これは、ひびが入っている?」
「だ、大丈夫でしょうか? もしかして、私が変に治癒や浄化を――――」
「いや、これからだ」
「はい?」
「これから、生まれるぞ……メイル! 準備を」
「はい! ……えっと、義兄さんはどこへ?」
「これから、町まで走って行く。 誰でもいいから本職の魔物使いをベットから叩き起こして連れて来るのさ」
そう言うと、まるで飛ぶような身のこなしで夜を駆けていった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
徐々に大きくなる卵のひび。 小さく割れた欠片が広がり――――
やがて、卵の中からワイバーンの赤ちゃんが顔を出した。
しかし、様子はおかしい。 重力にすら負けて、倒れ込むように動きを止めた。
「これは、まずいなぁ」とベルトによって叩き起こされた魔物使いが険しい顔を見せた。
「生まれたばかりで弱っている。元々、体力がない個体だっ――――」
彼は、説明をしようとするもそれを遮るようなベルトの声。
「メイル! 治癒を!」
「はい、もちろんです」
癒しの魔法が衰弱しているワイバーンを包み込む。
すると、閉じていた瞳が開いた。 初めて見るこの世界を確かめるように見渡し――――
体を起こし、小さな足で立ち上がる。
その体勢は、まるで自分は強く生物だと証明するかのように――――
威嚇しているかのように見えた。
「信じられない」と魔物使い。
「俺とて、人の手でワイバーンを孵化させるのに立ち会ったのは初めてだ。それにコイツはワイバーンでも希少種の部類に入る……赤いワイバーン。レッドワイバーンだ」
確かに彼が言うように、卵から生まれたワイバーンは赤い鱗に包まれていた。
文字通りに――――目が覚めるような鮮やかさ。
深紅のワイバーンだっ。。
ベルトは帳簿とにらめっこをしていた。
普段なら妹のノエルが、手伝ってくれる。
だが、学生である妹に頼ってばかりではいられない。
「う~ん、こうやってみると赤字が続いているなぁ」
かつて、初心者冒険者に無料で薬を渡したり、常識外れの安価で販売を繰り返し、付近の同業者から疎まれていたベルトの薬局だった。
現在は、オーナーであるマリアのご指導ご鞭撻の効果もあって、それなりに同業者と友好関係を結ぶくらいにはなっている。
しかし――――
「2、3日でも、山に籠れば食料は手に入る。余りを業者に売れば1か月分の生活費になるからなぁ」
と本人は、相変わらず商売に無頓着も良いところだ。
確かに……
気配を消してながら、山を駆け続ける無尽蔵の体力。 野生動物を狩猟できる殺傷能力の高い技々。
ベルトが身に付けている暗殺者として技術は世界最高位。
狩猟に使えば、本職の猟師すら勝る利益を叩き出すだろうが……
「いけない、いけない」とベルトは首を振って雑念を振り払う。
「マリアが聞いたら、何を言われるかわからないぞ」
貴族のはずなのに、油断をしていると朝からベルト家で食事をしているマリア。
最近は、朝だけではなく深夜でもベルト家内をうろついているのを目撃している。
再び、帳簿に視線を戻した時だった。
ゴトゴトゴトッ――――
物音がある。
「なんだ?」とベルトは椅子から立ち上がった。
「まさか、強盗じゃないよな」と笑う。 もちろん、冗談だ。
邪な人間が、ベルトの生活範囲内に入り込む。 それは、誰にだって不可能だ。
ある場所から灯りが漏れている。 そこは居間だ。
「……本当にマリアのやつがいるって事はないよな」
そんな事を呟きながら扉を開けた。
机の上には小さなランタン。 それに手作りの巣――――ワイバーンの巣だ。
それを前にメイルが座っていた。
ただ、座っているだけではない。
普段の彼女とは違う……どこか神秘的な印象を持つ。
彼女、メイル・アイシュは――――
紛れもなく『聖女』である。
教会が認めた正真正銘の『聖女』……それと同時に、この世の精霊たちが認めた『正義の勇者』
そんな彼女は慈しみを持ち、また卵のワイバーンに触れていた。
ただ、触れているだけではない。彼女の両手から安堵と癒しの波長――――
ベルトは彼女に見蕩《みと》れていた自分に驚く。
(俺が隙だらけになる……いつ以来だろうか?)
そんな事を思いながら、彼女に、
「治癒魔法と浄化か?」と声をかけた。
「えっ? ……あっ! すいません、起こしてしまいましたか?」
「いや、俺も夜更かしをしていたのさ」
「そうなですか? 珍しいですね」と意外そうな顔でメイルはベルトを見た。それから、
「治癒と浄化……卵にかけて、効果があるのかわかりませんが、願掛けなのかもしれません」
「願掛け?」
「はい、少しでも元気に生まれてくだされば……あと、少しだけ飛ぶのが速ければいいなぁ……なんて思いまして」
「……そうだな」とベルトは言い淀んだ。
「生物が生まれる。それだけでありがたい事だ」
暗殺者としての自分。 それは自己否定なのかもしれない。
あらゆるものも――――それこそ、神に近しい存在すら殺してきたベルト・グリム。
そんな自分が誕生を祝福する矛盾。 それでも今は、今だけは……
そんな時だった。
「あっ!」とメイルが短い悲鳴のような声を出した。
「なんだ、どうした?」
「これ、これを見てください」と彼女は見せて来た場所には――――
「ひび? これは、ひびが入っている?」
「だ、大丈夫でしょうか? もしかして、私が変に治癒や浄化を――――」
「いや、これからだ」
「はい?」
「これから、生まれるぞ……メイル! 準備を」
「はい! ……えっと、義兄さんはどこへ?」
「これから、町まで走って行く。 誰でもいいから本職の魔物使いをベットから叩き起こして連れて来るのさ」
そう言うと、まるで飛ぶような身のこなしで夜を駆けていった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
徐々に大きくなる卵のひび。 小さく割れた欠片が広がり――――
やがて、卵の中からワイバーンの赤ちゃんが顔を出した。
しかし、様子はおかしい。 重力にすら負けて、倒れ込むように動きを止めた。
「これは、まずいなぁ」とベルトによって叩き起こされた魔物使いが険しい顔を見せた。
「生まれたばかりで弱っている。元々、体力がない個体だっ――――」
彼は、説明をしようとするもそれを遮るようなベルトの声。
「メイル! 治癒を!」
「はい、もちろんです」
癒しの魔法が衰弱しているワイバーンを包み込む。
すると、閉じていた瞳が開いた。 初めて見るこの世界を確かめるように見渡し――――
体を起こし、小さな足で立ち上がる。
その体勢は、まるで自分は強く生物だと証明するかのように――――
威嚇しているかのように見えた。
「信じられない」と魔物使い。
「俺とて、人の手でワイバーンを孵化させるのに立ち会ったのは初めてだ。それにコイツはワイバーンでも希少種の部類に入る……赤いワイバーン。レッドワイバーンだ」
確かに彼が言うように、卵から生まれたワイバーンは赤い鱗に包まれていた。
文字通りに――――目が覚めるような鮮やかさ。
深紅のワイバーンだっ。。
コメント