『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

ワイバーンの孵化準備

『薬局カレン』にて―――― 

「これで大丈夫かしら?」

 そう言うのは、ベルトの妻であり、メイルの姉であるカレンだった。

 彼女の前には、鳥の巣――――に見える物体。

 曲線のような小枝を組み合わせている。その後、湿気を含んだ土を乾燥させて接着剤に。

 中には、使わなくなった枕の中身が詰められ、中央には卵が置かれている。

 もちろん、メイルが手に入れたワイバーンの卵だ。

「とりあえずは、これで大丈夫だろう」とベルト。

「これ以上……詳しくは魔物使いテイマーに飼育方法を買わないといけないだろうなぁ」

 ワイバーンを卵から孵化させた経験のある人間は稀だろう。

 それらの専門知識を得るためには、本職である魔物使いから情報を買わないといけない。 その方法も若干、面倒だ。 

「冒険者ギルドに依頼として、情報提供を呼び掛ける……相場はいくらだろうか?」

「えっと……すいません。卵をいただいた時に私が飼育方法を聞いておけばよかったのですが……」

「いや、そもそもメイルが卵を手に入れてくれなければ、俺たちは文字通りにスタート地点すら立てなかったさ。感謝してるよ」

「……義兄さん」と赤面するメイル。

 見つめ合う2人。そんな現場にいるベルトの妻であるはずのカレンは――――

「あらあら」となぜか嬉しそうだった。

 そんな時だった。ゴゴゴゴゴ……と異音が外から聞こえて来たのは。

「何が来たんだ?」とベルトは外に出る。 すると――――

「あら? ベルトがお出迎えなんて珍しい事があるのね」とマリアがいた。

 マリアがいた……と言うよりもワイバーンに乗っていた。

 先ほどの異音の正体は、ワイバーンが着地した音だったらしい。

 ワイバーンから飛び降りたマリアは、普段の貴族ぽいドレスとは違っていた。

 まるでジャングル探検に出かけるお嬢様みたいなサファリスタイルだ。

「……所有していたのか? この規模のワイバーンを」とベルトは驚いた。

 彼の目から見ても、上等な部類。もしも、ワイバーン品評会でもあろうものなら、金賞に輝いてもおかしくはない。

 その美しさすらあるワイバーンだった。

「所有していたのか……あっ! そういえば言ってなかったわね」

「一体、何を言い忘れていたんだ?」

「私はワイバーンレースの主催者でもあるけど、レース参加者でもあるのよね。シルフィドが参加する事は最初から決まっていたのよね。だから、私たちは『マリア&シルフィド組』ってわけよ」

「なる……ほど……?」とベルト。

 よく見れば、ワイバーンを操っていたのはシルフィドだった。

 風で目が乾くのを防ぐためだろう。ゴーグルをかけていたので、誰だかわからなかったのだ。

「それでは、マリアさまをお願いします」と言い残すとワイバーンを器用に操り、帰って行った。

「見事な騎乗スキルだな」

ベルトからシルフィドを誉められたマリアは「そうでしょ!」と胸を張った。

「普段から馬に乗って生活してるだけあるわ。とても初めてワイバーンを操ったとは思えないでしょ?」

「初めてで、あの腕前なのか……それは置いといて」

「え? 何かしら?」

「その荷物はなんだ?」

「あぁ、これ? 見ての通り、私たちもワイバーンの育成をしているから資料は大量に取り寄せていたのよ。ほら、あなた達にも必要な物でしょ?」

「こんなにも多くの資料を、本当に借りてもいいのか?」

「もちろんよ。 むしろ、孵化させるなんて、これでも足りないくらいだわ。それに……」

「それに?」

「……」と無言で視線を逸らすマリア。一瞬、悪い顔に変わっていたのを見逃すベルトではなかった。

「いや、待て。 良からぬ事をたくらんでいないか?」

「そ、そんな事ないわよ。こ、この競技は国に絡んでいる国営競技なのよ? そんな……」

「国営……つまり、ギャンブルもアリって事だな?」

「ドキッ!」と分かりやすい答えを示すマリアだった。

「い、良いじゃない! ギャンブルなんて胴元が儲かって然りでしょ? むしろ、儲けにならないならギャンブルとか成立しないから!」

「それは、良いが。俺たちが参加する事で賭け率とか、払戻金とか、コントロールしようとしているだろ?」

「悪い事なの? ねぇ! それって本当に悪い事なのかしら!」

「むっ……いや、悪い事ではない……のか?」

「そうでしょ! だからね! ベルト、勝ちなさい。そうすれば私にとって、いろいろと都合が良いのよね」

「お前なぁ、勢いで誤魔化そうとしているだろ? ……まぁ、出るからには善処するよ」

「やった! やっぱり好きよ、そう言ってくれるところ!」

 満面の笑みを浮かべたマリアはベルトに抱きついた。

「ちょ! えぇい、引っ付いてくるな!!」

 そんなベルトとマリアのやり取り。 

 しかし、場所が彼の家だから気が緩んでいたのか? 彼にとっては非常に珍しい事だ。

 家の奥、覗き込むようにメイルから放たれる殺意に等しい負の感情にベルトが気づかなかったのは……

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