『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

 ワイバーンのたまご

「……と言う事で」と外に出たマリアは説明を開始する。

「私が考えた『ワイバーンレース』……最初にやるべき事はなんでしょ?」

「そりゃ……」とベルトは考えた。

「ワイバーンを操作する練習――――あっ、2人乗りなんだから、ワイバーンに乗って攻撃する練習も――――それを言ったら俺は誰を組んで――――」

「そうレースで使用するワイバーンを捕獲するのです!」

「あっ、そこから?」 

「レース本番は3か月後を計画しています。ワイバーンの成長速度を考えれば、卵から育ててもギリギリ間に合う時間。しかし、素人が育成して速いワイバーンを育てられるわけないでしょ?」

「それもそうだな。じゃ、ワイバーンの巣を――――いや、だめだ。あれを見ろ」

「え? あれは……ワイバーンが乱獲されています!」

 マリアはベルトが指す方向を見て愕然とした。

 まるで行列のようにワイバーンが木にロープで絞めつけられて運ばれていく。

 その戦闘にいる人物は――――

「おっと、そちらはワイバーンレースの主催者どの。それと……ベルト・グリム」

 その男は聖騎士団 団長 フォルス。 

 そして、団長の背後を守るように少年が――――アレク隊長が控えていた。

「もう、ここら辺のワイバーンを狩り尽くしたのか? 聖騎士団の力を使って?」

「おうよ。我らだけじゃない。 教会のプリエ殿も上等なワイバーンをご所望であられてな」  

「そうか、どうやら出遅れたみたいだな」と肩をすくめるベルト。

 そんなベルトに厳しい視線を向ける少年が1人――――アレクだった。

「今度は催し物とは言え、あなたと再び戦えることを楽しみにしていました。初速で出遅れるとは――――望んだ戦いにならないかもしれませんね」

 挑発だった。 

 少年からの厳しい言葉――――しかし、正論にベルトは、

「ソイツはすまなかったな。けど、がっかりさせないくらいには健闘してみせるさ」

 そう言い返した。

 アレクの代わりだろうか? フォルス団長はヒラヒラと手を振りながら、

「そうかい。ソイツは楽しみにしておくぜ」と言い、聖騎士団を出発させた。

 それを見送ったマリアは「この~~~ッ!」と怒り心頭のご様子。

「買占めよ! こうなったら、市場に流れているワイバーンを全て買い占めてやるわ」

「待て、それだと催し物を開始できなくなるだろ。主催者自らが……」

 そんな時、ベルトとマリアの2人は呼び止められた。

「あの……義兄さん? マリアさん?」

「メイル? どうしたんだ、今日はノエルと買い物に行ったはずでは?」

「それが、プリエさまからの手紙が届いて、聖騎士団が到着すると聞きまして」

「なるほど、それで聖騎士団に同行していたと?」

「はい、そうです」

「ふ~ん……いや、ちょっと待ちなさいよ、あなた」とマリアは興奮気味に言う。

「ど、どうされました、マリアさん?」

「あなた、その……持っているのは?」

「はい、ワイバーン討伐を手伝いした御礼だと、フォルス団長からいただきました」

 メイルが抱くように持っていた物は卵だった。

「今晩の食事に使えると思いまして――――どうなされました、マリアさん? そんな怖い顔を」

「ワイバーンのたまごよね? それ、ワイバーンのたまごでしょ! まだ運の女神は私たちを見捨ててないわ!」

「マ、マリアさん。お、落ち着いてください。そんなに揺さぶられると卵が割れてしまいます!」  

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 煌びやかな近代都市。

 深夜でありながら、人々は眠らない。

 夜の恐怖……魔物に襲われる危険を本能の如く刻みつけられた人類。

 だから、だろうか?

 その恐怖の本能を克服したと宣言するかのように夜こそ、彼等は叫び、歌を歌い、酒を飲む。

 ここは、そんな都市――――人工娯楽都市 オリガス

 だが、そんな都市にも闇はある。 例えば――――冒険者ギルド。

 かつて、この町には冒険者ギルドは存在していなかった。 

 あるのは仮設の建物と、冒険者ギルド建設予定の立て札――――それは過去の事だ。

 今では人工娯楽都市に馴染むように派手な建物に『冒険者ギルド』の文字がネオンとして光っている。

 だから、誰も想像しない。

 人類の敵 ソル・ザ・ブラッド――――彼が生前、最後に施した悪戯。

 誰も知らないはずの部屋。 オリガスの冒険者ギルドには隠された地下室があった。

 誰も想像できないだろう。

 まさか、昼も夜もなく騒ぐ人間の都市――――その地下に彼等が潜んでいるなんて事は――――
 
 彼等――――それは2人の王だ。

 1人は大魔王シナトラ

 そして、もう1人は――――まだ少年のように見える。

 だが、彼の真なる名前は――――『竜王』 

 

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