『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

 冥王の魂喰い

 ……わかる。 体の、どこに魔力を流すのか?

 まるで回路のようにバラバラだった魔力の通り道が繋がっていく。

 そして生まれたエネルギー
 
 精密な競技用機械が、力のロスを極力排除するように作られているように

 冥王の両手に魔力が灯る。 

 もちろん彼は知らない。 暗殺者が仕える唯一の魔法攻撃の使い方なんぞ……

 だが、彼の肉体――――ベルト・グリムの肉体は知っているのだ。

 何千、何万と放たれた1つの技。 1つの攻撃魔法。

 それは、もはや彼の肉体そのものが、その魔法を放つためだけの装置になったかのように放たれる。

 ――――すなわち、その技とは――――

  ≪魂喰いソウルイーター

 黒い魔力。刃物の特色が付加されて行く。

 それが人間の反射神経を――――否。人間だけではない。

 どのような魔物だろうが、魔族だろうが、反射神経を遥かに凌駕し、回避を不可能とする。

 それがメイルに放たれたのだ。

 当然、回避はできない。 ならば――――

 ≪不可侵なる壁ウォール・オブ・アンタッチャブル

 一瞬のみ、僅かな時間であるが、あらゆる攻撃を無効化するメイルの――――いや、防御系魔法の最高峰と言える壁が、冥王の一撃を拒絶した。

「……これは俺っちでも驚く。これほど複雑な魔法術式を反射的に発動させる……これは、お嬢さんの脅威レベルを上げるか」

 いささか上から目線だと言う事は否めないが、彼にとっては称賛の言葉。

 だが、彼女は聞いていない。 彼女――――メイルは怒っていた。

「よくも……よくも、その体で、その顔で、私に向かってその技を!」

 空気が震動する。 ベルトの代名詞、その技は彼女に取っての聖域だった。

 だから、彼女は激高していた。

「私は貴方を許さない……絶対に!」 

真実の弾丸トゥールショット
 
 聖属性の魔力。 それが彼女の手から――――いや、背後に無数の弾丸が浮かび上がっている。

「おぉ! これほどの魔力……さすがの俺っちも無傷とは――――」

「言わせません。貴方にその声を使わせる事自体が不快です」

 無数の弾丸が冥王に襲い掛かる。攻撃魔法が冥王に叩き込まれる。

 それは、彼の肉体が確認できないほどの量だ。

「――――やりましたか?」とメイルは、肩を揺らす。

 大量の魔力消費。 体力もごっそりと削られ、彼女が息を乱れている。

 土煙が舞い上がり、冥王の様子はわからない。 だが、その中で動いている人影が目に捉えれた。

「おいおい、俺っちの体はベルト・グリムだぜ? 体ごと殺すつもりか?」

「――――っ! 義兄さんなら、それで死ぬはずがありません」

「すげぇ、信頼されてるな。コイツはとんでもなく愉快ってやつだぜ。そんじゃ――――

 少しだけ本気でも出すか」

 最後の言葉の直後、冥王の何かが変わった。

 彼から放たれる圧力が増していく。 彼自身は、何かしたわけではない。

 しかし、空気が震え、僅かに地面を揺れている。

「ベルトの肉体に、俺っちの心臓を起動させる。お嬢さん、手加減をミスっちまうかもしれねぇが、生き残れや?」

     
 かつて、ベルト・グリムが見せた姿だ。

 極端に日焼けしたかのように肌が褐色に変わっている。

 衣服も、装備も黒色へ染まっていく。

 その様子にメイルは、ぼんやりと

 (何かに似ている?)

 そんな印象を抱いた。

 何に似ているのか? それは、今――――この町を覆う漆黒の色と同一のものだと、彼女は気づかなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品