聖女メイル対冥王ハーデス

「じゃ、行こうか？」

　冥王の背景が揺れる。　魔力とは違う未知の力が発生していく。

「まずはお嬢さんの実力調べに手下を召喚させてもらう。来いよ、亡者共」

　未知の力が一か所に集まり、人の形を有していく。　


「――――ゾンビですか？」とメイルの言う通りだった。

　歩く死体が突如として出現したのだ。それも三体……

　しかし、冥王は――――

「……いや」と否定して続けた。

「まだ、この世界に慣れていないだけだ。本当はゾンビよりもスゲェの見せてビビらせようとしたんだが……ぶっちけると失敗しただけだ」

「――――」とメイルは無言。

（どこまで本気なのでしょうか？　でも、このゾンビだって普通のゾンビのはずは――――いえ、まずは基本に忠実に聖属性での攻撃を）

≪真実の弾丸トゥールショット≫

　初弾から聖女の代名詞的な魔法攻撃。　聖属性を帯びた魔弾は、神が定めし摂理に反するゾンビには致命的とも言える効果を発揮する。　――――そのはずだった。

「――――っ！（着弾させたのに効果が薄いです！　怯まずに走ってきます！）」

　聖属性が効かないゾンビ。　予想外の自体に接近を許す。　

　三体のゾンビ相手に接近戦で強要される回復職。　絶望的な状況……もちろん、メイルが通常の回復職ならばの話だ。

「えい！　このっ！」とかけ声と共に杖を振るうメイル。

　少し緩いかけ声とは裏腹に、メイルの動きは鋭かった。

　噛みついてくるゾンビの攻撃を避けると同時にカウンターの突き。

　胴体に受けたゾンビは後方に吹き飛ぶ。　残り二体……だが、ゾンビは怯まない。

　知能が低下して、本能的な動きからの攻撃。　ゾンビに恐怖心なぞ存在しない。

　左右から同時に飛び掛かって――――

「させませんよ？」

　体勢を低くしたメイルが高速で前進する。　飛び込んできたゾンビの下に潜り込み、杖を下から上へ跳ね上げさせた。

　残り1体……だったが、杖の1振りによって瞬殺された。

「へぇ、凄いじゃん。思っていた以上に、本当に強いだ」

　拍手。　メイルを絶賛するような冥王。

「回復職、後衛職。それなのに、俺っちの眷属３体――――なりそこないのゾンビ程度とは言え―――同時攻撃を簡単に叩きのめすなんてな」　

「私の実力は測れましたか？　次は貴方の番ですよ？」

「うん、良いね。俺っちと戦う資格ありだ」

「資格ですか？　傲慢ですね」

「あぁ、俺っちは王だからな。戦うには俺が定めた資格があるんだ」

「――――」とメイルは無言になる。　警戒するのは、冥王が概念系の攻撃を行ってくる可能性だ。
　
　『概念的強化』　

　簡単に言ってしまえば、自身にルール付けを行う事で、自身を強化する事だ。

　例えば『無敵』や『不死身』

　しかし、弱点がある――――いや、正確には弱点を用意しておくことで、自身の『無敵』や『不死身』と言った概念が強くなる。

　弱点があるからこそ強い。そんな矛盾的な能力が『概念的強化』
　
　……と説明をしてみたが

　しかし、倒すために手順が必要な魔物。あるいは特殊な条件でしか倒せない魔物を思い浮かべて貰えれば、簡単に出てくるだろう。

　……ゴーレムとか。

　それほど『概念的強化』とは特別な能力ではないのだ。

（概念的強化のため……発動のためにルールを説明しようとしているのでしょうか？）
　
「――――なんて思ってるでしょ？　残念賞だよね！」

「くっ！？（いきなり間合いを！　フェイントですか？）」

　打撃音。　冥王の攻撃を単純《シンプル》だった。

　高速で間合いを詰て、蹴りを放つ。　不意を突かれながらも防御に成功したメイル。

　防御のため、蹴りを受けた杖が壊れかける。　悲鳴のような軋む音が響く。

　それほどの衝撃。メイルは強い浮遊感に襲われる。

「――――っ！　（単純な膂力で、これほどの威力を！）」

　浮かび上がったメイルは後方の建造物に衝突。

　ダメージは薄い。　衝突の瞬間に体を反転させて、足から壁に着地するようにぶつかったのだ。

　ダメージは薄い……とは言え、０ではない。

　メイルの動きが止まった瞬間に狙いを定めていた冥王が追撃の放つ。

　だが、問題はその攻撃だった。　彼は、こう口にしたのだ。

≪魂喰い（ソウルイーター）≫