逆襲のソル

　ソル・ザ・ブラッド　彼は裏切り者だった。　

　誰を裏切ったのか？

　全人類を裏切ったのだ。

　人が滅ぶの見てみたい。

　それだけの理由。それだけの動機。しかし、彼にとっては、それだけで十分だった。

　裏で冒険者ギルドを掌握して操り、魔王軍と通じていた。

　そして、それが叶わないと知ると自白して処刑された。

　その最後は、まるで山にピクニックに行くかのように処刑台の登って行ったそうだ。

　だが、なぜ？　なぜソル・ザ・ブラッドが勇者候補として蘇ったのか？

　答え　死者となり、元の勇者候補を殺し……その血肉を体内へ取り込んだ。

　そんな事があり得るのだろうか？　

　答え　わからないが、事実としてあり得た。

　そして、それは些細な事……そう判断され、認められたのだ。

　誰に？　この世界を司る精霊たちによって判断された。

　超常的な彼らは興味ないのだ。　人とその歴史に無関心。

　彼らと意思疎通が可能ならば――――

　「なぜ、ソルをそのまま勇者候補に？」と問うたならば――――

　きっと――――

　「へぇ～　彼、悪い奴なんだね」とニッコリと笑みを見せて終わり。

　勇者候補を殺したソルは、代わりの勇者候補として相応しい能力があると判断された。

　それだけの事。　大いなる意思にちっぽけな人間の主張など、常識など通じないのだ。

　だからソルは認められた。　勇者候補として力を与え、死んでいるなら甦らしてもいい……と。

　・・・

　・・・・・・

　・・・・・・・・・

　「メイル！　防御を頼む！」とベルトは踏み込んだ。

　「はい！」とメイルの魔力がベルトを包み込んだ。

　聖なる力をベルトへエンチャントさせたのだ。

　邪悪なる者や灰へ戻らぬ者へ特別な効果を発揮するメイルの魔法だったが……

　「無駄！　生と死、死と生との幻想の世界にいる私には届かない」

　攻撃の瞬間、ソルの肉体は蜃気楼のようにブレて攻撃をすり抜けた。

　そのうえ――――

　「受けろ！　これが世界が認めた純粋なる力だ」

　ソルはベルトを殴った。　

　ただそれだけの事……ただそれだけの事のはずなのに！

　一撃でベルトは地面に叩きつけられ、衝撃で宙に浮きあがり――――

　「ここだ！」とソルから蹴りを受けて吹き飛ばされる。

　単純な膂力による攻撃。だが、今まで戦ってきた相手でも上位に当てはまる膂力だ。

　「素晴らしい力だ。まさか私が戦闘で貴方を圧倒する日が来るとは……長生きするものですね」

　「……」とベルトは吹き飛ばされ、無言で立ち上がろうと

　「ジョークだよ！　笑え、大いに笑えよベルト！　ベルト・グリムよ！」

　その頭部を叩き潰さんと掌がベルトへ襲い掛かる。

　だが――――

　ソルの攻撃は宙を切った。　それどころが目前にいたはずのベルトは見失っていた。

「あの状態で移動？　馬鹿な、そんな事……」

「面白いジョークだ。笑ってやるよ」

「なッ！」とソルは衝撃に襲われる。

　誰にも触れない幻想の世界。そこへ出入りできる能力。

　それがいきなり、破られたのだ。

　ベルトは背後からソルの後頭部を掴むと、そのまま地面に叩きつけた。

　「ぐはっ―――！？　なぜ、私に触れれる！私の世界へ入り込める！」

　叩きつけられ、それでもベルトの姿を見るソルは驚愕する。

　ベルトはいつの間に変身していた。　

　冥界にて冥王を倒して奪い、食らったのは、その心臓。

　そのため、冥王の力を使えるベルトは――――

　「勇者候補あるいは魔王候補なんているのかもしれない。けれども、勝てるものなのだろうか？　候補が本物の冥王に」

　今のベルトは冥界から無限に等しいエネルギーが送られている。

　「来いよ、ソル・ザ・ブラッド。　今からお前が相手するのは、冥界そのもの……つまり、1つの世界が相手だ」