生と死の勇者

　2人目の勇者候補。　

　少し遠出になるため、今度はベルトとメイルの2人で尋ねる事になった。

　その目的である町に着いたのだが……どうも、様子がおかしい。

　「まるでゴーストタウンですね」とメイル。

　馬車から外の様子を見ている彼女の言葉通りだった。

　人通りは皆無に等しい。

　たまに見かける住民たちはベルトたちの姿を見て「ひぃ！」と小さな悲鳴を上げて隠れてしまう。

　「これじゃ話も聞けませんね」

　「うむ……一度、隣町で情報を集めた方がいいかもしれないな。この町自体に妙な感じがある」

　「妙な感じですか？」

　「そうだな……」と呟いてベルトは黙りこくった。

　「おやおや、お嬢さんには私の紹介はしてくれませんか？」

　それは一体、誰の声だろうか？　馬車の中にはベルトとメイルしかいない。

　「無視ですか……悲しいですね」

　「一応、聞いておくが……」とベルト。

　「はい？」とメイルと同時に謎の声も「はい？」と重なった。

　「メイル、この馬車の中では俺とお前しかいない……よな？」

　メイルはそれをどういう意味で受け取ったのか？　顔を赤くして「はい」と答えた。

しかし、ベルトはそれを無視して「う～ん」と考えこんだ。

では――――

声の正体は誰だろうか？　その声はアッサリと正体は話した。

「ですから、私は死と生の勇者なんですよ」
　
これには流石にベルトも無視できないと話かける。

「そうか、じゃ……どうして、その勇者が死んでいる？」

「さぁ？　それを調べてほしいと思いましてね」

「調べる……少し待ってくれ。虚無に向かって話しかけていると相棒が変な目で見てくる」

そういうと、ベルトは――――

「少しばかり痛いかもしれないが、構わないよな？」

「え？　幽霊の私が痛みなんて……」と新たな勇者候補は最後まで言えなかった。

『殺意開放』

「がっ！　何を！？」

驚愕する勇者候補に対してベルトは淡々と答える。

「俺の殺意は純度が高く質量を有している。鉄の剣や鎧程度なら殺意で破壊できるレベルだが……最大の特徴は有象無象に関係なく効果があるという事だ」

「ですか……どうして、攻撃を」

「攻撃？　いいや、これは攻撃ではないさ」

そのベルトの言葉を肯定するように隣のメイルが慌てながら声を発する。

「あ、貴方、いつの間にここに！」

「……見えてるのですか？　私が？」

「見えてるも何も！」と杖を向けて臨戦態勢に入るメイルだった。

「あぁ、俺の放った殺意のイメージが存在しないはずのお前の体と繋がったからだ」

「えっと？　意味がわからないのですが？」

「俺の近くにいたら、俺のイメージ力が他者に伝播して……」

「あっ、もういいです。　常識から外れた話されても困るので」

「そうか」と寂しそうに呟くベルトだった。それから――――

「それで、お前の名前は？」

「……残念ながら、生前の名前は憶えていません。名前どころか記憶がないのです」

「じゃ、どうして自分が『死と生の勇者』だってわかっているんだ？」

「それは、説明するのは長くなります」とポツポツと話し始めた。