『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

最初の勇者候補一次面接結果発表

 「判断基準がむずかしい」とベルトは倒れたイサミを肩に担ぎながら言った。

 実力――――と言うよりも将来性はある。 

 規格外の土属性魔法の威力。完全にコントロールできるようになれば、面白い。

 性格はどうだろうか? ある程度の実力を持ちながら、生まれた時には全てが終わっていた。

 魔王も破れ、ダンジョンも激減していく中、満たされぬ思いは理解できる。

 単独で魔物と戦い、その感情を発散していたのだろう。 

 強くなりたい。勇者のようになりたい。英雄になりたい。冒険がしたい。

 自分は、それができるはずだ。 

 証明できない実力。 それが精神の均衡を崩していく。

 「だが、良いのか?」と誰に聞かせるわけでもなく呟く。

 言ってしまえ、憧れ。 狂おしいほどに憧れを持つだけの少年に勇者という称号は、あまりにも重すぎるのではないだろうか?

 勇者は正しい事を行い続けなければならない。

 しかし、正しいとわかっていても割り切れない出来事もある。

 冷酷で残酷な判断。 他人には理解されない苦しみ。

 それをこの少年の――――憧れが砕け散った時に、この少年に何が芽生えるのか?

 それは邪悪な意思なのかもしれない。

 「それを面白いと思っている俺もいる」

 暴虐悪逆。 人が放つ全ての悪意を一心に浴びる勇者。
 
 そんな怪物が生まれてしまうかもしれない。けれども――――
 
 歴代勇者の誰もが持つジレンマ。 

 超越者ゆえに――――善人であるがゆえに――――

 覚えなき人々の悪意。

 そして、それを最初から良しとする悪意持つ勇者。

 「……あぁ、だめだ。俺はカムイを知っているから、それを許容してしまう」

 身近に人々から悪意を受けて、なおも挑み続ける勇者像をもっているからこそ――――

 ベルトは足早に町へ戻る。 イサミを抱えたままに。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 邪魔にならないよう、人に話を聞かれぬように、選択したのは町の広場。

 「それで俺はどうでしたか?」と目覚めたイサミは訪ねてくる。

 「何を?」とは聞き返さない。

 勇者候補として有無。 勇者として相応しいと思うか、どうか?

 「俺は……ありだと思う」

 そう答えた瞬間にイサミは感情を爆発させるように歓喜を表現した。

 まだ1人目だ。 イサミは勇者になるか? それとも――――

 夢破れ時に彼は何者になるか?

 「この地で待ち、備えろ。全ての勇者候補を見終えたら、連絡する」

 そう言うとベルトは帰ろうとした。すると――――

 「ねぇ、話は終わったのかしら? そろそろ帰る時間なのだけど?」とマリアが顔を出した。

 行きと同じドレスを――――いや、バージョンアップしてないか? 

 とにかく、ドレス姿で現れたマリア。

 「ふ~ん、貴方が勇者候補なのね」と観察するようにイサミを見る。

 「私はマリア・フランチャイズ。もし、よかったら連絡先を教えてね」

 女性への免疫がないのか、近づくマリアに顔を赤くして目を背けているイサミ。

 「気をつけろ、値踏みされているぞ」とイサミへ忠告しようと思ったが、ベルトは言わない事に決めた。

 「何も夢と浪漫を壊す必要もないだろう」

 そう呟いた真意がイサミに伝わる事はないだろう。

 馬車に乗り込むと、行きと同様に正装していた女性陣。

 要望通りにベルトの正装もキッチリと用意されていた。

「そういえば、今回の私たち……何も活躍できませんでしたね」とメイル。

「あら? いいのよ。 たまには日帰り旅行の気分でも」とカレン。

「いや、そういうわけには……いや、良いのか!」とシンラは何かを悟ってしまっている。

「さて一度、戻り……次の勇者候補は」と地図を広げるベルト。

「なに、話を変えようとしているのよ」とマリア。

「せっかく正装を用意したのだが、早く着替えて見せなさいよ。みんな、それを期待してたのよ。……あっ大丈夫。スタイリストはこちらで用意しているから」

・・・

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それから、予想外に整えられたベルト。普段とは違う姿に黄色い声が上がったが、それはまた別の話である。

  

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