『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

魔王、最後の切り札


  (速い……速すぎる!)

 ギリッと魔王は歯を噛み鳴らした。

 ベルトとメイルの速度。

 魔王の動体視力を持っても、線が走っているようにしか見えない。


 「けれども、やらせはしませんよ」


 迫ってくるベルトの攻撃を魔法壁で防御する。

 ベルトの一撃は弾かれる。だが、それと同時に防御壁も砕け散った。


 「くっ、並の魔道師の全魔力分を一撃で持っていくか!」


 魔王の魔力は無尽蔵に等しい。 だが、死線の攻防による体力の消費は膨大だ。

 攻撃の一瞬、動きを止めたベルトの顔に疲労はない。


 「……ベルトはともかく、聖女にまで疲労がないのは、何か・・しているのか?」


 しかし、その思考はベルトの次弾で掻き消される。 

 ギリギリで防御壁が間に合った。

 「だが、ここだ!」

 魔王のカウンター。 濃厚な魔力が刃となり、動きを止めたベルトに襲い掛かる。

 ――――いや、狙いはベルトではなかった。 ベルトの腕に抱かれている聖女……メイルの方だ。

 その攻撃は直撃したかのように見えた。 しかし、それは残像。 

 次の瞬間には消え去り、ベルトの高速移動が再び魔王を狙う。

 気がつけば魔王の頬から血が流れ落ちている――――否。 頬だけではない。

 僅かながら、複数箇所にかすり傷と言えるダメージ。 

 だが、それがまずい。

 呪詛喰いと呼ぶだけあって、ベルトは魔族が使う『呪詛』に身に着けている。

 ベルトがつけた傷から力が抜け落ちていく感覚が魔王を襲う。

 勇者の肉体を操るための呪詛の力。 それがダメージを受けるたびに減少しているのだ。


(このままだと……ジリ貧ですね。ならば……今、ここで最後の切り札をきらせてもらいます)


魔王の目に線が走る。ベルトが最後の攻撃と向ってきたのだ。

そのタイミングで「来い!」と魔王が叫ぶ。

その声はベルトに向って行った言葉ではない。


「来い! 魔獣将軍ラインハルトぉぉぉぉぉ!!」


そして、ソイツは魔王の声よりも早く行動を開始していた。 


ソイツは獅子の頭を持つ半獣半人の戦士 魔獣将軍ラインハルト


ベルトの攻撃に曝された魔王を庇うよう前に立ち――――


仁王立ちで攻撃を浴びた。 


呪詛喰い状態のベルトは、その一撃一撃が必殺と言ってもいいほどの威力を秘めている。

それを正面で受けたラインハルト。 まるで剣による袈裟斬りをうけたように肩から反対側の腰へ線が走りぬけ、血が吹き出る。

だが――――


「ご無事で何よりです魔王さま」とライハルトは笑っていた。


「すまぬ。 お前の忠義を信じ、お前を蔑ろにしていた」

「私には主の考えは分かりませぬ。それゆえ信じる事しかできぬもどかしさ……しかし、今となってはわかります」

そういうと、様子を窺っていたベルトに歩を進める。

そして――――


「聞け! そして見るが良い暗殺者! 我が肉体を贄にした魔王さまの勝利を!」


その言葉に反応したのからラインハルトの肉体を黒い靄が覆い隠す。

『呪詛』を利用した禁忌の魔法。
 
その禁忌の魔法は―――― 死者蘇生

この瞬間、ラインハルトの生命は事切れていた。

しかし、それが引き金となり、死者蘇生が完成する。


黒い靄は消滅した頃、ベルトも動きを止めてソレを見た。

ラインハルトの生命を贄にして生み出された生命は――――


カレン・アイシュ


ベルトの弟子あり、妻だった女性だ。


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