『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

吸血鬼はもういない

 竜王ゾンビの内部。それはルークにとって結界に等しい効果を発揮する。

 今、ベルトが戦っているルークは、彼の分身のようなもの。

 そして、ベルトもまた精神と肉体を強制的に剥離され、精神体で戦っている。

 ――――否、戦わせられていると表現した方が正しいだろう。

だから、切り離されたベルトの肉体は無防備。

ルークのその体を見ながらニンマリと笑う。 その赤々しい口元から牙が見え隠れしている。

そう……ルークは吸血鬼だ。

吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼になる。

吸血と言う行為により魂を奪い、その対価として不死を与えられる。


「単純戦闘能力なら勇者より魔王よりも上と言われるベルト・グリム……そして、竜王の死骸。これら手に入れて、私は魔王さまが振るう武器として完成を向える!」

それは歓喜。

歓喜を持ってベルトの首筋に牙を――――

突き立てた。

怨敵であるベルトの血液を吸う。 1000年は生きたであろうルークに取っても、過去を振り返っても勝る事のない甘美の瞬間。

だが――――

ルークが味わったのは激痛だった。


「ぐがぁぁっっあぁぁぁぁ」と声にならない声を轟かせ、ベルトから飛び跳ねるように距離を取るルーク。

その光景は異常だった。

自ら絞めるように喉を押さえ、のたうち回る。

苦しみに耐えながら、思考を回復させていく。


(なぜ――――いや、ベルトはどうなった?)


コントロールの効かない肉体。それでも辛うじて視線だけはベルトに向ける。

すると――――

そこにはベルトが立っていた。


「すまないが、すでに俺の体内に血液は残っていない。血液に見えるのは、毒素を含んだ液体だ」


ベルトのスキル。 ≪毒の付加ポイズンエンチャント

自身の肉体や武器に毒を付加させるスキルではあるが、自身の肉体を猛毒に触れさせてきた後遺症。

ベルトの血液は猛毒に変化していた。


「あがが、い、い、いったい、いつから……」

今も口が回らないルークが発した言葉。 

それは……

一体、いつから、精神体と肉体が分断されていたと気づいていたのか? 

いつから、そしてどうやって精神を肉体に戻したのか?

その答えはベルトは――――


「最初からだ」と答えた。


「自分の分身と俺を戦わせて、その隙に本体を奪おうしたのだろうが……お前の分身が戦っていたのも、俺の分身に過ぎなかったのだよ」


ルークの眼に驚愕が宿る。

人間の身でありながら精神の分裂? それを意図的に起こせる?

それは―――― つまり――――

過去に精神が――――

だが、そこでルークの思考は停止した。


死の付加デス・エンチャント


まるで死神のようなベルトの手刀がルークの頭部を刈り取った。


「俺の体を竜王ゾンビの内部に取り込もうとしなければ……俺の体を自分の物にしようとしなければ、苦戦は必至だった。 結果で言えば、お前の欲が俺に取って幸運だった」


1000年生きた吸血鬼はもういない。

1000年の年月にどれほどの人間を、その魂を同化させたのだろうか?

群体として生き、生物として虚ろになった吸血鬼は――――

塵は塵に―――― 灰は灰に――――

幻のように、悪夢のように消え去った。
 

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