『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

ノリスの過去

 不死騎手は低速走行で先行していき、時々振り返ってはケタケタを笑っている。

 おそらく、何かを知らせているのだろうが、それを理解できるのはベルトだけであるため、メイルとノリスは信じてついていく事だけしかできない。

 メイルとノリスは、アンデッドを滅ぼす存在として捉えていた。

 ……と言うよりも「アンデッド、滅ぼすべし」とメイルが所属している教会では、徹底して教えられていた。

 神の定めに逆らう者……不死者。 

 実を言えば、メイルはアンデッドを仲間に入れるというのは抵抗がある。
 
 しかし、それ以上に義兄であるベルトを信頼している。

 それは、教会の教義よりも強い信仰心を抱いているという事であるのだが……

 まだ、本人は、そのことに気がついていない。

 一方のノリスはと言うと……

「あんた、《聖女》なのにアンデッドを信じて良いのか?」

 やや不満げな顔と口調なのは、現状に納得はしていないからだろう。

 メイルは、少しだけ返答に困ったが――――

「確かに、アンデッドが仲間になるなんて、想像もしていませんでした」

「だったら……」

「でも、義兄さんが予想外の行いをするのはいつもの事なので……もう慣れてきちゃいました」

 その言葉にノリスは目を見開いた。

「そうか、ベルトさんの事を信頼してるんだな」

「はい、なんせSSSランクの冒険者さまですから」と少しおどけたように言った。

 しかし、ノリスは――――

 「俺はそこまで割り切って考えれないな」

 無表情の彼には珍しく、その表情には憂いのようなものが秘められていた。

 「……何かあったのですか?」
 
 帰ってきたの「……」と無言だけだった。

 メイルは、改めてノリスという人物を考えてみた。

 (アンデッドの専門家……特定のモンスター退治の専門家は決して珍しいものではありません。でも、それでSSランク冒険者まで登り詰めた人間は稀のはずです。そもそも、今までパーティは組んでいたのでしょうか?)

 「……珍しくも無い話だ」

 考え事に熱中していたためか、ノリスの呟きを危うく聞き逃すところだった。
   
 「国々と魔王軍の戦争があった。たまたま、滅ぼされた俺の村を襲ったのはアンデッドの軍隊だった。……それだけの話さ」

 感情の起伏もなく話すノリス。
 だからこそわかってしまう。 心を殺さなければ、話せないほどに……絶望を目にしたのだろうと。

 「……なんでアンタが泣いてるのさ?」

 「え?」とメイルは言われてから気づく。自分の瞳から涙が零れ落ちている事を。

 「どうしてでしょうか?」とメイルは慌てて涙を拭く。

 本人が感情を面に出さず、事実だけを端然と語ってくれた事に対して、泣いてしまった自分が恥かしく感じた。誤魔化すように何かと言おうとしたが「あの……その……」と言葉が出てこず、うまく行かない。

「気にするな。自分のために泣いてくれるっても……案外、悪い気はしない」

言い終えるとノリスは少しだけ足を速めた。
 
  
 

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