『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

幕間② シンラがやってきた



 『東方の方術士』シン・シンラ

 
 勇者パーティの軍師である。

 なんでも東方の国の出身らしい。

 方術士というのはコチラ側でいう魔法使いのようなもの……らしい。


 ……いや、彼女の一番の特徴は男装の麗人という事になるだろう。


 彼女が男装を行う理由。それは彼女の趣味……によるものではない。

 方術士は天性の才能に大きく左右される。

 ゆえに血……遺伝的要因を重視するのだ。

 そのため、彼女の国では貞操概念が厳しい。


 裸を見られた未婚の女性は――――
 

 相手を殺すか、嫁に行くか


 その二択しかない。


 しかし、冒険者といえば、性的に奔放なイメージが着いて回る。

 生死の境を彷徨うような大冒険。

 危険を前に子孫を残そうとする人間の本能……所謂、つり橋効果。

 若い2人に何もないはずもなく……


 ゆえにシン・シンラの男装は護身術。

 簡単に異性へ身も心も奪われぬための処世術。


 断じて、旅の吟遊詩人や講談師たちが、面白おかしく脚色したキャラ設定ではない。

 断じて、安易なキャラ設定などではないのだ。


 今回はそんなシン・シンラの話。

 かの魔王復活と勇者消滅を同時に味わった日から数ヵ月後の話だ。

 教会で『呪詛』の治療を専門的、かつ集中的に受けて彼女はベルトが住む村にやってきた。


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 「私の婚約者が年幅も行かない少女たちと戯れている……だと!?」


 連絡もいれずベルトの村にやって来たのは、彼女らしくない少しのイタズラ心。

 しかし、驚かせようとして驚かされたのは彼女のほうだった。

 ベルトは保有しているスキル≪気配探知≫に対して、気配を消す方術士のスキル≪存在不証明≫を使い観察していた彼女は、思わず言葉を漏らした。
 

 ベルトと一緒にいるのは10代と思われる少女3名。

 それぞれ、メイル、マリア、シルフィドの3名だった。


 いくら何でも30を超えた男が10代の少女たちに囲まれている状況は異常。
 

 シン・シンラに戦慄が走る。


 「――――ッ!? しまった!」


 いくら気配は消すスキルを使用していても大きく心が動揺してはその効果の精度が低下する。

 その証拠にベルトがコチラ側に向ってくる。


 「あぁ、やはりシンラか。久しいな……どうした?」
 

 ベルトの表情に気まずさはない。

 まるで10代の少女たちと過ごしているのはに彼のとってありふれた日常かのように、臆すものでも隠すものでもないように見えた。


 「いや、例の件で礼を……」


 例の件を言われ、すぐに『呪詛』の事だと結びつけたのだろう。ベルトは――――


 「そうか。体は良くなったのか? ……いや、それよりも……」


 「?」とシンラは疑問符を浮かべていると、事もあろうにベルトは少女たちの中から1人と呼んだ。


 「彼女が俺やお前たちの『呪詛』を治療してくれたメイルだ。礼なら俺よりも彼女に言ってくれ」


「あ、あの……メイルです。メイル・アイシュです」と少女は頭をちょこんと下げた。

 彼女からは緊張が伝わってくる。

 それは、勇者パーティの後衛として全冒険者の憧れであるシンラに対しての緊張であったが、シンラは、そう受け取らなかった。
 

 「……泥棒猫」

 「え? 今、なんとおっしゃりました?」

 「別になんでもない」


 シンラがメイルに抱いた感情は敵である。 それも恋敵。

 自身よりも10歳は年下の少女に対して、大人げもなく敵愾心を隠さなかったのだ。
  
 


 

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