『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

幕間①ベルトの師匠

 
 ベルトの師匠。

  腰まで伸びた黒髪。
  おっとりとした口調。にこやかな 表情。
 店の制服なのだろうか? エプロンドレススを身に着けている。
 そんな彼女に対して、メイルたちの印象はと言 うと…… 

(お、 大人 の 女性 だ!)  

  自分たちは持っていない大人の余裕。それは一見 すると隙だらけ…… 
 しかし、そこを突けば食虫植物のように美しい花で包まれて溶 かされるような予感。 
 そんな不思議なエロスを身に纏っている女性だった。 

  しかし―――― しかしだ。

 …… おそらくは暗殺者としてベルトを鍛えた人物。 という事は2人の出会いは20年前となる。

(もしかして40代?) 

 そう考えてメイルは頭を振るう。 実力と年齢は関係ない。 メイルは聖職者としても、冒険者としても、その実例を何度も見てきた。 まだ1桁の年齢で10代のベルトを指導した可能性も十分あり得ると考えた。   何 より―――― 

「あ、 あの……」
「何 かしら メイル ちゃん?」 
「そ、その……そんなに見つめられると困ってしまうですが……」
「あらあら、怖がらせてしまったかしら。 私、メイルちゃんが何を考 えてるのか知りたくて…… つい…… ね?」 

(わ、私の考えが読まれているの? そんな…… まさか……)

  ゴクリと喉を鳴らすメイル。
  ベルトの師匠はニコリと笑っているが、その背後には不穏なオーラのような幻影が揺らめいていた。 

「師匠、あまり若い子を怖がらせないでください」
 「あらやだ。それじゃ私が若くないみたいじゃない」
 「……師匠」
 「それに他者に紹介するのに師匠って呼ぶのは止めなさい」

 「はいはい」とベルトは空返事。 彼には珍しくぞんざいな態度。 それが両者の距離感を表すものであり…… チクッとメイルは胸に不思議な痛みを覚 えた。

 「師匠の名前はエルマだ。今は、この店を経営 している」

  端的な紹介だったが、エルマは納得した様子だ。  
 それからスカートの両端を摘み優雅な動作で頭を下げた。

 「エルマです。今後ともよろしくお 願 いします」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

「なんだか、 うやむやになりましたね」とマリア。
  結局、ベルトとシルフィドのデートはうやむやとなり、今は5人で帰宅の途についている。   1人、シルフィドだけがマリアの言葉が分からない様子。
 
「そう言えば、どうして皆が一緒にいたんだい?」 
「……えっと、それはですね。いろいろと理由がありまして……」  
 
 しどろもどろになるノエルとメイル。
  しかし、マリアははっきりと告 げた。

 「そうね。私たち……と言うかノエルがね。貴方がベルトの事を好きなんじゃないかって言い出したのよ」 
 
 あまりにも、あけすけに言うマリアに慌てたのはノエルだ。
 「ちょ、ちょっとマリアさん!」と抗議の声を上げる。
 「はっはっはっ! マリアさまもご存知でしょう?  私は男性などに……」  

 そこまで言ってシルフィドは言葉を止めた。
「う~ん」と、何かを吟味するかのように考えているようにも見える。 
 やがて、何かを言 おうと口を開きかけた時だった。  

 誰かが助けを呼ぶ声が聞こえた。


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