『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

世界を1つ滅ぼすところだった


 『これより放つは不可視の刃――――』

 ラインハルトが有する魔剣に暗い煌きが宿る。

 『刃には毒と死を混ぜよう――――』

 詠唱に合わせるように魔剣の刀身は、醜く不気味な色へ染まっていく。

 『贈るのは不吉と嘆き――――生者は死者へ――――残るは灰のみ、全ては地へ戻る――――』

 そして詠唱は終わる。
 満たされた魔力。カタカタと魔剣は揺れて喜びを表していた。
 そして、それを肩に担ぐようにラインハルトは構える。


 放たれるのは決まっている。 それは必殺の一撃。
 ベルトが生き残れるためにできるのは回避運動のみ。
 だが、それもできない。 なぜなら――――ベルトの背後には倒れているレオン・キングがいたから……

 偶然か? それともこの場所に誘導されていたのか?
 もうベルトにはわからない。 彼にできるのは放たれる一撃を真っ向から受けることのみ。
 そして、ラインハルトの口から――――


  ≪魂喰いソウルイーター

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 それは暗殺者最強の魔法攻撃。
 繰り出されるのは魔力によって生み出された斬撃そのもの。

 ベルトの手には人造兵器『サウザウンド・オブ・ダガー』はなし。
 詠唱を綴る時間もなし。

 だが、迎え撃つには同じ魔法しかない。
 ベルトは腕に魔力を込め――――
 そして放った。



 ≪魂喰いソウルイーター


 空中で2つの斬撃がぶつかり合う。
 同種の魔法のぶつかり合い。
 その瞬間、ベルトは激しい体力の消耗に襲われる。 
 手から放たれ、なおも消費を強制する魔の刃。
 『呪詛』は全身を覆い、魔力も体力も奪い去っていく。
 残されたのは鋭敏な痛み。それから脳がぐつぐつと煮だっていくような感覚。

 (容易く死ねるとは思っていなかったが――――)

 だがベルトは死ななかった。

 肉体の死というわかりやすい緊急時に冥王の心臓が反応する。
 ベルトの意思を無視して、冥界から魔力の供給を開始。
 個体の生存を最優先とした緊急事態に心臓は暴走。
 世界の理すら容易く破壊――――


 しなかった。

 2つのスキルのぶつかり合い。



 ≪魂喰いソウルイーター≫と ≪魂喰いソウルイーター≫の削りあい。

 周囲に鳴り響くは破壊音。
 それは破壊の残滓として音が宙を漂っている。
 破壊の爪あとは色濃く残り、地形を大きく変動させている。
 白煙と煙は視界を消し――――


 「危ない危ない……危うく、世界を1つ滅ぼすところだった」

 ベルトの姿が捉えれる様になるまで少しだけ時間が必要だった。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な! そんな馬鹿なことがあるか!」


 混乱。かつてない混乱がラインハルトを襲う。
 負ける要素もなく、必ず首印をあげるはずだった一撃。


 ――――否。

 「首印を奪えずとも、無事とは一体、どういう事だ? 何をした? ベルト・グリムッ!?」


 姿を現したベルトは、『呪詛』の痕跡でこそ、残っているが――――
 五体満足。

 一瞬、外部からベルトへ未知の力が繋がりかけたのは観測したが……
 それも未遂で終わっている。

 つまり、独力でベルトはラインハルトの一撃を無効化したことになる。
 魔剣と詠唱によって強化させた≪魂喰いソウルイーター≫を通常時の≪魂喰いソウルイーター≫で相殺させた? 一体どうやって?


 「それを教える義理はない」

 ラインハルトの目前からベルトは姿を消した。

 ≪暗殺遂行アサシネーション

 影から影へ移動するスキルを発動させ、ベルトはラインハルトの背後を取る。
 そして、その首筋へ拳を当て――――

 「これを受けて、立ち上がれたらお前の勝ちでいいぞ? ラインハルト」


 ≪致命的な一撃クリティカルストライク

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